慶應義塾普通部の傾向と対策

  • 併設大学あり
  • 高校外部募集なし
  • 男子校

志望にあたって知っておきたいこと

慶應付属校の3校の中で唯一の男子校です。入試では男子校では珍しく面接(本人のみ)と体育実技があります。高校進学の際には、慶應義塾高校・慶應義塾志木高校・慶應義塾湘南藤沢高校・ニューヨーク学院の中から進学先を自由に選ぶことができます。文化祭にあたる「労作展」では、生徒それぞれが芸術分野あるいは論文などの学術分野の作品を、自由にテーマを決めて作り上げます。入試問題はどの科目も奇抜な設定や独自性の強い問題はなく、慶應付属校3校の中でも、最もスタンダードと言えるでしょう。ただし、例えば理科や社会の問題で求められる知識は机上の勉強だけでは得られないものが含まれ、2022年度の社会では、往復はがきのかき方などが出題対象になりました。国語でも言葉の知識を豊富に持っていることが求められます。普段の生活で目にする常識にアンテナを張って吸収する習慣がいかに身についているかを、テストを通じて確かめようというスタンスが見受けられます。また、どの科目も制限時間に対して問題数が多く、スピーディーに問題を処理する力も求められます。幅広く知識を培う意識と、その知識を丁寧に、かつ迅速に処理する努力を地道に築き上げることが同校を受験するうえでは大前提となります。

出題傾向と適した有利なタイプ

科目別学習対策

算数

2022年度は大問9題で小問が全13題の構成です。大問1は計算問題が2題、大問2が数の性質から分数の問題、大問3が比の性質の問題、大問4が面積比の問題、大問5が点の移動の問題、大問6が旅人算の問題、大問7が水深変化の問題、大問8が条件整理の問題、そして最終の大問9が角度の問題でした。全ての問題が途中の計算式などを書かされる問題です。慶應普通部の算数は、一見すると複雑に見えなくても、解答の方針を立てるには、十分な知識と問題を解きやすくするための加工が必要です。特に数の性質や比の性質、条件整理、また平面図形の問題は難度が高く、解答のポイントを見つけ出さなければ解答に行き着けなくなります。ただ、ひらめきを求めるようなタイプの問題ではなく、普段の演習で培った解法をしっかり覚えて、それを活用する意識で問題を注視すれば活路は見出せます。普通部の算数はスタンダードという固定観念で、普段の演習で標準レベルの問題ばかりを解くような対策ではなく、ひとひねりされた応用問題も数多く解いておくようにしましょう。

算数が苦手な受験生

全体的に標準レベル以上の問題が多いですが、その中でも速さの問題と平面図形の問題の一部は取り組みやすい問題が多いです。合格ラインを突破するポイントは、速さの問題、平面図形の問題の解法を多く備えておくことです。速さであればグラフや比を活用する、平面図形であれば面積比の重要項目をおさえておく必要があります。もちろん計算問題は確実に満点が取れるように、普段から練習を重ねておく必要があります。そして全ての問題で途中の計算式などを書かなくてはなりませんので、まずは式を丁寧にかく練習を重ねておくこと。特に数字を見やすくかくことは必須としてください。そして時間配分に注意が必要です。慶應普通部の問題は小問数が1題の大問が多い特徴があります。大問ごとに自分にとっての難度を確かめて、難しいと感じる問題はすぐに抜かす判断をしましょう。計算式をかくために想定以上に時間がかかることがあります。速く丁寧に式をかく練習をしたうえで、捨て問題を早めに判断して、解ける問題で確実に丁寧に得点を重ねるようにしましょう。

算数が得意な受験生

まず速さの問題、平面図形の問題の一部は難度が高くないため、受験生の多くが得点するものと考えて、確実にかつスピーディーに正解を手にするように、これらの単元でのもれがないようにしておきましょう。そのうえで、合格ラインを突破するポイントは、数の性質や条件整理で見られる難問で正解を得ることにあります。数の性質も条件整理も、一部の男子校で見られるような複雑極まりないパターンではありません。ただし、問題のどの要素を活用すればよいのかが見つけづらい特徴があります。同単元の難度の高い問題を多く解くことはもちろんですが、考え方をしっかり整理してから解く習慣を身につけておく必要があります。単なるひらめきではなく、既習の要素を活用する訓練を積んでいれば解ける難問をそろえているところに、弛まぬ努力をしてきた生徒に入学して欲しいという普通部のメッセージが感じられます。計算式をかく必要がありますので、算数が得意だからといって頭の中だけで処理する癖がついていないかチェックをして、丁寧に見やすい式をかく意識を固めておいてください。解答欄の使い方に慣れるためにも、市販の解答用紙を原寸大にコピーしておくことも有効な対策です。

国語

2022年度は大問3題で、小問数が全30題の構成です。大問1が物語文読解、大問2が随想的な論説文読解、そして大問3が漢字の書き取り10題でした。大問3ですが、年度によって漢字と知識問題が混在することがあります。問題の種類では選択肢問題の割合が高く、その他、書き抜き問題や空欄補充問題、そして記述問題と幅広い出題形式となります。記述問題には制限字数が付きますが多くて35字以内と、多くの字数を書かせるものではありません。文章量は大問1、大問2ともに標準レベルと言えます。
同校の問題は、慶應3校の中で最もスタンダードな出題形式と言えます。文章量も標準レベルで記述問題も数が多くないことから、解きやすい印象を受けますが、問題のレベル自体は決して低くありません。まず、選択肢問題の対象となる内容が、抽象的な表現の理解を求めるものが多いのですが、選択肢の違いが非常に紛らわしく、短い時間で選別するには相当な訓練が必要となります。そして知識面でも高いレベルが求められます。独立した知識問題という趣旨ではなく、例えば「固唾を呑んで」の意味がわからなければ解答できない問題など、高いレベルの知識が備わっていないと対応できない問題が多く、2022年度であれば大問2の論説文も求める語彙レベルが高いものでした。合格ラインを突破するポイントは、語彙レベルが高く抽象的な表現の多い文章を正確に読み解くことにあります。抽象的といっても中学受験生にとって理解できない内容が出されることはありません。日常生活から言葉や知識に対して貪欲に吸収する姿勢、言葉の理解を曖昧にしない、といった国語に対する姿勢そのものを問う、という慶應普通部らしさが国語でもうかがえます。普段の演習から知識の理解、暗記は徹底的に固めたうえで、どんな文章でも毛嫌いせずに素直に読み込むこと、理解を曖昧にせずに自分の考えをしっかり打ち立てて答えたうえで、間違えた際には真摯に解答に向き合う、といった至極当然ではありますが、謙虚な姿勢で学習に臨むことが必須となります。
書き抜き問題が含まれますが、そこでの解答時間の使い方が重要となります。文章を速く正確に読む練習が整っていれば慶應普通部の文章は読みづらさはないですが、ちょっとした抽象表現の理解や書き抜き問題で時間をかけ過ぎてしまう危険性があります。特に書き抜き問題は難しければ抜かすといった意識を高く持ちましょう。

[2022年度の出典]
相沢沙呼『教室に並んだ背表紙』
菅啓次郎『本は読めないものだから心配するな』

理科

2022年度は大問が4題で、小問数が全26題の構成でした。選択肢問題、語句を答える問題、計算問題、記述問題と問題の種類は多岐に渡り、さらには作図問題も出されます。記述問題は5題で、具体的ア制限字数は指定されませんが、解答欄がマス目で提供されますので、おおよその字数の範囲が決まってきます。記述問題でも選択肢問題でも、題材となる現象について、なぜそうなるのかという理由の説明など、高度な論理的思考が求められる点が特徴的です。問題数も多いため、制限時間の30分は全く余裕がないものと考えておく方がよいでしょう。
大問1はろうそくの燃焼に関する化学分野の問題、大問2は気温や湿度を題材とした地学分野の問題、大問3は鏡を通る光の進み方についての物理分野の問題、そして大問4はスミレに関する生物分野の問題でした。
同校の理科では基本的な知識を備えておくことはもちろんですが、その知識を問題に合わせて応用するために必要な対応力のレベルが高いです。化学分野や物理分野の実験やデータは、成り立ちこそスタンダードですが、そこから一歩踏み込んだ内容にまで触れており、データの使い方などは、普段から難度の高い問題に数多く触れていなければ、解答方針が立たないものばかりです。そして記述問題を中心として、なぜそのような現象が起こるのかといった理由を深く理解することが求められる点が同校ならではの難しさです。合格ラインを突破するポイントは、そうした論理的思考を求める問題で正解を確実に得ることにあります。テキストを使った知識の集積だけではそうした問題に対応できませんので、可能な限り早めの段階から他校の入試問題などの実戦的な問題に取り組む必要があります。それらの問題を解いた後に、ただ正解したかどうかを確かめるだけでなく、なぜその正解に至ったのかというプロセスを、解説をしっかり読み込んで吸収しておくことが必須です。また、作図問題の難度も高いので、作図を苦手としないように演習量を多めに確保しておきましょう。
記述問題、作図問題と時間のかかる問題が多いため、制限時間の使い方をマスターするためにも、過去問演習に早めに着手する必要があります。

社会

同校の社会は、制限時間30分に対する問題数の多さが大きな特徴となっています。2022年度は大問6題で、小問数は29題ですが、小問の中で解答すべき問題数が多く、合計解答数は56題にまで及びます。大問1は同校の特徴的な出題の常識問題で2022年度は「はがきの書き方」でした。大問2が貿易や船の航路に関する問題、大問3が日本の半島をテーマとした問題、大問4が国会の仕組みや役割の問題、大問5が武士の政治についての問題、最後の大問6が学校教育の歴史についての問題でした。問題の種類は選択肢問題と語句を答えさせる問題が大半を占め、記述問題は空欄を埋める短い字数のものが3題出されるのみでした。また、地図に書き入れをする問題が1題出されています。
同校の社会で合格ラインを突破するポイントは、スピーディーに問題を処理することです。圧倒的な問題数に対応できるように、普段の演習ではまず基本知識を徹底的に固めたうえで、一問一答式に即答する練習を重ねる必要があります。それでも時間内に全問解答することは難しいので、捨て問とすべき問題を早期に判断することです。同校の社会は100点満点ですが、問題数から推察するに1問あたりの配点が極端に高い問題はありませんので、捨て問を作って取るべき問題を確実に取る方が高得点を取るチャンスが広がります。求められる知識は基本から標準のものが多いですが、2022年度のはがきの書き方のように、同校の特徴である一般常識の問題でも得点をするためには、普段の生活で目にする常識にアンテナを張って吸収する習慣が必要です。これらの問題に、ただ机に座って勉強するだけでなく、日々の生活で触れる常識も重視するという同校のスタンスがはっきりと反映されています。時間のある限り、家の手伝いをしておくことも同校の対策としては有効でしょう。
また2022年度であれば、地球の温暖化と船の航路の関係をもとに地図に書き入れをする問題のような、時事的な話題と関連させた問題が出されるのも同校の特徴で、特に世界地図に関する内容には注意が必要です。気候変動や各地での内戦といった世界的なニュースはその基本内容と、それが及ぼす影響までチェックするように注意することが必須です。

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