芝中学校の傾向と対策

  • 併設大学なし
  • 高校外部募集なし
  • 男子校

志望にあたって知っておきたいこと

 浄土宗・増上寺の教育機関を源とする中高一貫の男子校です。詰襟の制服に白バッグという固いイメージがありますが、生徒の自主性を重んじる自由な校風で、高い人気を集める伝統校です。増上寺を全校生徒が参拝する「御忌参拝(ぎょきさんぱい)」、増上寺の道場で、静坐と講話の修養を実践する「宗祖日(しゅうそび)」といった宗教行事が行われます。

 大学進学では、2024年度卒業生で、東京大学に18名(現役16名)、東京工業大学に11名(現役10名)、京都大学に4名(現役3名)といった国公立大学での高い実績の他、医学部にも国公立大学、私立大学合わせて64名(現役37名)の実績を挙げています。

 入試問題はどの科目も制限字数に対して問題数が多く、スピーディーで正確な対応力が求められます。算数は標準から応用レベルの問題が多数揃い、日頃の演習の成果が出やすい問題が多いテストと言えます。国語は2015年度から漢字・知識問題以外はすべて記述問題となりました。表現力はもちろん、難解な文章を正確に読み解く語彙力も求められます。社会は長いリード文と語句指定付きの記述問題が特徴的です。

 どの科目にも奇抜な問題はありませんが、標準から応用レベルの問題が多く、簡単な問題が少ないことからも、数多くの問題演習を通して対応力を鍛え上げた生徒を求める学校側の意向がうかがえます。

 時間配分の意識を高く持つためにも過去問演習には早めに取り組みたいところです。特に全問記述の国語、そして難度の高い典型問題を並べる算数は、夏休み中に1度は問題を見ておくと、後期の本格的な過去問演習を進めるうえで有利となります。

出題傾向と適した有利なタイプ

科目別学習対策

算数

 2024年第1回は大問8題で小問数が全19題の構成です。大問1は計算問題、大問2が消去算と集合の複合問題、大問3が平面図形から相似・面積比の問題、大問4が不定方程式の問題、大問5が場合の数の問題、大問6が旅人算と比で3人が動くタイプの問題、大問7が場合の数と条件整理の問題、大問8が点の移動とグラフの問題でした。

 解答はすべて答えのみを書かせる形式で、式や考え方を書く問題はありません。広範囲からの出題となりますが、その中でも平面図形の頻出度が高いです。

 どの問題も難度としては標準以上ですが、典型的な内容が大半を占めます。2024年度も大問3の2つの相似を使って線分比を求める問題、大問4の不定方程式の問題、大問6の2人対1人の旅人算の問題は、計算こそ複雑にはなりますが、見た瞬間に解答方針が立てられる内容でした。

 最終問題のグラフを使う問題では、同校では定番ですが、後半の小問は難度が大きく上がる傾向にあります。2024年度の点の移動とグラフの問題も、(2)(3)は解答要素を見つけ出す視点、手数のかかる作業をスピーディーに進める力が求められるものでした。

 小問数は少ないですが、大問数8題と、問題がすぐに切り替わりますので、速いペースで解き進めなければ、制限時間がとても短く感じられてしまいます。

算数が苦手な受験生

 同校の算数には設定が独特で理解しづらいものや、思考力を問う難問はありませんが、一方で基本的な易しい問題もなく、標準から応用の問題が並ぶという構成です。問題内容も「どこかで見たことのある」典型的なものがほとんどですが、どの問題も、典型的な解き方の中でもやや応用に近い出題となっています。

 普段の演習では、特化した対策までは必要ありませんが、テキストの応用問題まで必ず手を付けておくようにしましょう。また大問1で複雑な計算問題が出される特徴もありますので、日々の計算練習を欠かさないようにしましょう。幅広い単元の中でも平面図形が頻出ですので、

 合格ラインを突破するポイントは平面図形で苦手分野をつくらないことにあります。特に2024年度第1回の大問3の相似・面積比の問題は、典型的な応用問題ですが、テスト全体を通すと必答問題であり、算数が得意不得意に関わらず、パターンとして解ける力が求められます。最難関校で出されるレベルの問題まで解く必要はありませんが、平面図形の対策は重点的に行っておきましょう。

 男子校の中で安定して人気の高い学校ですので、細かな失点は何としても防ぐ必要があります。特に制限時間50分に対して大問数が多いので、スピーディーに解き進めながらも正確に計算を進めることが大前提となります。過去問演習を通して50分の使い方を習得しましょう。

算数が得意な受験生

 思考力を問う難問や特異な問題はなく、日頃の演習の成果が出やすい良問の多いテストですので、算数が得意な受験生にとっては、他科目をリードするような得点を何としても出したいところです。

 合格ラインを突破するポイントは制限時間50分の使い方にあります。他校と比べて難問も少ない一方で簡単な問題も少ない特徴があります。標準以上のレベルの問題で、単元を問わず高得点が出せるように、まずは日頃の演習で応用問題を徹底的に解き重ね、また模試や塾のテストでは、テスト後半で最終問題以外の問題で確実に得点できているかをチェックし、正誤に関わらず解答を見直して、抜けてしまっている解法がないか、細かく確かめておきましょう。

 2024年度第1回であれば、最終の大問8の難度がそれまでの大問と一線を画すレベルでした。算数が得意でなければ解かずに抜かして、他の問題の見青しに時間をかけるところですが、4科目の中で算数を得点源にするためには、何とか(2)(3)のうち1問でも得点しておきたいところです。

 頻出の平面図形、グラフを使って解く問題、場合の数は、単元を限定せずに応用問題まで取り組み、苦手分野を一切つくらないように対策を重ねましょう。独特な問題はありませんので、塾のカリキュラムが一通り終わったところで、一度過去問を解いて、同校の問題の難易度レベルを確かめて、理解が足りない単元はないかをチェックしておきましょう。

 同校の算数を解くための50分という時間の長さを体感し、問題を解く順番を変えることも試しながら、過去問演習を重ねましょう。本格的な演習は9月以降にするとしても、少なくとも夏の間に問題を見て制限時間を体感しておくことが有効な対策となります。

国語

 2024年度第1回は大問4題で、小問数が全18題の構成です。大問1が熟語の知識問題5題、大問2が漢字の書き取り5題、大問3が論説文読解で4題、大問4が物語文読解で4題、読解の合計8題はすべて記述問題です。この読解問題が全て記述という形式が2015年度からとられています。記述問題の制限字数は最も短くて35字以内、最大字数で100字以内です。

 2024年度第1回の論説文は、自主的に考え行動する人間になるためには、幼い頃から家族から過度の要求を受けることなく自由に行動すること、学校生活において他者との同質性を重要視しないことが必要であると説いた内容でした。

 物語文は、中学入試を迎えた主人公の女子が、本命校の前に受けた学校で結果を出すことができず、志望校の変更を持ちかける母親に強く反発していたところ、中学受験に失敗して不登校になった姉の言葉を聞いて、自分が胸の内に抱えていた思いに気づくといった内容でした。

 文章量はどちらも標準的ですが、論説文の語彙レベルが高く、内容を理解するうえで必須の語句のほとんどに注釈がついていました。注釈がない語句でも、「自己不全感」、「過度の自意識」といった小学生にとっては難度の高い言葉が頻繁に出てきました。

 物語文は男子、女子の違いはありますが、まさに等身大の物語で、内容としては読みづらいものではありませんでした。同校の物語文は等身大の人物が主人公となる内容が圧倒的に多いですが、年度によっては難解な内容となることがありますので、幅広い文章に触れておく必要があります。
 
 同校の国語の最大の特徴はすべて記述問題という点ですが、その問題内容は自分の考えを述べさせるといったタイプではなく、あくまで文章内容の理解を前提としたものです。字数が100字以内と多くなる問題もありますが、そうした問題は記述すべき内容が多くなるもので、むしろ短い字数にまとめるよりも負担は感じられない内容となっています。

 合格ラインを突破するポイントは問題内容を正確に理解する読解力にあります。もちろん全問記述というスタイルですので、制限字数以内に内容をまとめる表現力は必須となりますが、論説文であれば文章中のポイントを正確につなげ合わせること、物語文であれば心情や発言の内容を登場人物の置かれた環境を踏まえることで正解となる解答に近づくことができますので、文章のポイントさえおさえられれば、記述解答をつくる作業自体は難しくないのが、同校記述問題の特徴です。

 例えば2024年度第1回でも、大問3問2で「誰が誰に対して、どうすることかの三つを明らかにして」といった具体的な指示が出され、その指示にそうように文章を読めば、解答要素をスムーズに見つけられる、といった出題がありました。

 普段の演習から、文章を読んで重要な箇所には線を引くなどのマークを付け、解答の際に重要なポイントを抽出しやすくする、といった読解の基本的な取り組みを重ね、特に論説文対策として、不明な語句は都度調べる、といった語彙を増やす対策も実践するようにしましょう。

 問題数は多くありませんが、読解の全問が記述という形式ですので、時間の使い方を習得するためにも、過去問演習は早期に着手するようにしましょう。

[2024年度第1回の出典]
山竹伸二『ひとはなぜ「認められたい」のか―承認不安を生きる知恵』
尾崎英子『きみの鐘が鳴る』

理科

 2024年度第1回は大問が5題で、小問数が全34題の構成でした。大問1が物理・生物・生物・地学4分野の総合問題、大問2以降が各分野からの出題という例年通りの問題構成でした。問題の種類は、選択肢問題の割合が圧倒的に高く、その他に計算問題、記述問題、語句を答える問題と多岐に渡りました。記述問題は短い文章で答えをまとめる内容となっています。

 2024年度第1回の大問1はアメリカにメジャーリーグの試合を観に行った親子の会話をリード文とした4分野総合問題、大問2が気象、天体、岩石に関する地学分野の総合問題、大問3は心臓のつくりとはたらきについての生物分野の問題、大問4は電熱線の発熱に関する物理分野の問題、大問5はものの溶け方についての化学分野の問題でした。

 同校の理科で出される問題の知識レベルは標準的なものがほとんどで、選択肢問題で5、6個の選択肢から「2つ選ぶ」や「すべて選ぶ」といったタイプの出題がありますが、選択肢の内容は区別しやすいものです。ただし、長いリード文や独特なグラフなどから解答に必要な情報を的確に得る力が求められる問題が出されることがあります。

 2024年度第1回では、大問3の心臓のはたらきについての問題で、「心臓の1回の拍動の間の左心室の容積の変化と、内部の圧力の変化を示すグラフが出されました。普段の演習から資料を使った問題やリード文から解答のヒントを得ることが必要な問題については、正誤に関わらず、資料やリード文を正しく読み取れていたのかを確かめる習慣を身につけておきましょう。

 注意すべきは計算問題で、思考力を求める難問が出されることがあります。2024年度第1回の大問4での電気抵抗を大きさも考慮しながら計算する問題、大問5でのエタノールの濃度に関する計算問題は難度が高くなっていました。これらの計算問題の難度の高さが大きく影響して、2024年度第1回の合格者平均点は2023年度第1回から10点近く下がりました。

 合格ラインを突破するポイントは計算問題で高い正答率を獲得することにあります。2024年度第1回のような難問まででなくても、もともと同校の計算問題は実験内容やグラフで提示される内容を細かく正確にとらえることを大前提としています。普段の演習では単元を問わず計算問題についてはテキストの応用問題レベルまで演習を重ねる対策を積んでおきましょう。

 記述問題は字数も少なく、簡潔に内容をまとめれば正解できるものが多いです。グラフを作成する問題も合わせて、何が問われているのかを速く正確にまとめる練習をしておく必要がありますが、特化した練習までを求めるものではありません。

 また、制限時間に対して問題数が多いため、時間配分には十分な注意が必要です。独特な資料問題や長いリード文の問題、そして難度の高い計算問題で慎重な取り組みが必要な点を踏まえると、捨て問題をつくることを含め、時間配分の意識を、過去問演習を通して早期に身につけておくようにしましょう。

社会

 2024年度第1回は大問4題で、小問数は全34題という構成でした。問題の種類は選択肢問題、語句を答える問題、記述問題で構成されています。記述問題は最終問題の1題のみですが、使用する語句が指定されるという社会では珍しいスタイルとなっています。

 2024年度の大問1は九州・四国地方に関する問題を中心とした地理分野の問題、大問2は日本の歴史における争いと人々の生活をテーマとした歴史分野の問題、大問3は介護保険制度についての公民分野の問題、大問4は箱根駅伝を題材とした総合問題という構成でした。

 同校の社会にはいくつかの特徴が見られますが、特に際立つのが最後に出される記述問題です。リード文が扱うテーマについて、ポイントとなる内容を3つの指定語句を使って100字以内で答える問題です。

 2024年度第1回は、箱根駅伝を題材としたリード文をもとに、「駅伝を走る選手がタスキを受け継いでいくように」という表現に込められた、リード文の筆者が伝えようとした内容について、「過去・状況・原動力」の3つのことばを使って説明させる出題でした。

 この問題のように、社会の知識を駆使して解くというよりも、リード文の内容を正確に読み取り、指定語句を正しく使って字数内にまとめる「国語の力」が求められる点が、同校社会の記述問題の際立った特徴なのです。その題材となるリード文は読みづらくはありませんが、字数が多くボリューム感があります。

 合格ラインを突破するポイントは、この最終の記述問題で高得点をとることにあります。75点満点に対して問題数が多く、1題の配点が1点か2点と推測される問題が大半を占める中、最終の記述問題は高配点になると考えられます。それだけに、この記述問題での得点がテスト全体の点数に大きく影響することは明らかです。

 まずはリード文をスピーディー、かつ正確に読み通し、問題のポイントを的確に抽出する力が必要となります。テスト全体の時間配分にも関わりますので、普段の演習からリード文を使った問題は重点的に練習を重ね、長いリード文を使った問題を出す海城中、資料から考えられることを整理して時事的内容を含む知識と組み合わせて説明させる問題を出す鷗友学園女子といった、難度の高い記述問題を出す学校の過去問を類題演習として活用しましょう。

 同校の社会のもう1つ大きな特徴は、選択肢問題の構成です。ただ正解にあたる選択肢を答えさせるのではなく、正解の選択肢を正しく組み合わせたものを選ぶ形式で、解答に時間を要します。内容は標準レベルのものが多いですが、2024年度第1回であれば、大問1問7の国立公園についての正誤問題や、大問2問2の「環濠(かんごう)集落」を答えさせる問題といった細かい知識を求める問題が含まれます。

 また、歴史分野については、時代の並べ替えを含め、細かい知識が必要となります。知識を正確に増やすことはもちろんですが、関連する内容や背景まで確認する習慣を身につけておきましょう。

 問題数が多く、最終の記述問題、独特な選択肢問題、そして長いリード文と時間のかかる要素が多いテストです。1題の配点が低い問題が多いと考えられますので、解かずに抜かす問題の選別、問題を解く順番を強く意識して、過去問演習を通して時間の使い方を徹底的に練習しておきましょう。

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