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自閉症スペクトラムと知的障害のある双子の姉を持つ「きょうだい児」である主人公・葉澄(はすみ)の小学6年生から中学3年生にわたる成長の日々を描いた作品です。第72青少年読書感想文全国コンクール課題図書(中学校の部)に選出されました。
著者の落合由佳氏の作品は、これまでも『流星と稲妻』が専修大松戸中(2020年度第1回)などで、『天の台所』が普連土学園中(2024年度2月2日午後)、星野学園中(2024年度理数選抜第2回)などで、『要の台所』が田園調布学園中(2025年度第1回)、跡見学園中(2025年度特待入試第4回)、大妻多摩中(2026年度第1回)などで出題されてきました。
障害に対する理解のなさから生まれる、他者の偏見や心ない言葉に苦しんでいた葉澄が、同じく障害のある弟を持つ恵太と出会うことで自分の居場所を見つけ出し、親友・倫との関係を再構築させる過程を通して、「他者理解」、「苦境に向き合う」といった重要テーマを描き切った傑作です。来年度入試では、男子校・女子校問わず、中堅校から難関校まで幅広く多くの学校での出題が予想されます。
障害を持つ双子の姉・菜々実の存在により、学校で孤独や葛藤を抱えざるを得ない状況に置かれる葉澄の姿、その後に、きょうだい児の集まりである『つなぎび』での恵太との会話を通して葉澄が救われて行く様子、そして倫の祖母と偶然出会ったことで葉澄がこれまで知ることのなかった倫の境遇を知る過程が描かれています。
学校でのクラスメイトたちの言動に葉澄がどのような心情を抱いたのか、葉澄のつらい心を恵太のどのような言葉が救ったのか、そして、本作品のタイトルに含まれる「火」という言葉が持つ意味を、しっかりと読み取って行きましょう。
本作品は、障害のある双子の姉を持つきょうだい児の葉澄が、その境遇ゆえ抱える孤独と葛藤の中で、同じくきょうだい児である恵太と出会い、心の距離を縮める中で成長を果たして行く姿を描き切っています。
特に強く印象づけられるのが、葉澄、恵太、そして葉澄の友人である倫それぞれが抱えざるを得ないでいる心の痛みが丁寧に真摯に描かれている点です。
今回、出題が予想される箇所とした中でも、葉澄の抱く孤独と葛藤が、読み手の心に刺さるようなリアルな表現でつづられています。
例えば、葉澄がクラスメイトたちから外出の誘いを受けず、「葉澄ちゃんはいろいろ都合があるだろうし、無理しないでね」(P.61の2行目)、「いっしょに遊べなくても、葉澄ちゃんはうちらの仲間だから」(P.61の4行目)といった言葉をかけられた際に示す葉澄の反応が以下のように表されています。
さらにこうした状況について葉澄が抱く想いが以下のようにもつづられています。
いじめやあからさまに差別的な行動といった、「悪意」のみによる言動ではなく、そこに「善意」や「思いやり」が含まれていることで、誰にも怒りをぶつけることもできず、むしろ葉澄も「感謝の笑顔」でそれに応えるしかない。そんな「透明で厚い壁」の持つ圧力の前に葉澄が抱いてしまう如何ともしがたい孤独感が、鋭い痛みをもって、心に刺さってきます。
そんな葉澄にとって、きょうだい児の集まりである『つなぎび』に参加し、そこで恵太と話をすることが大きな心の支えとなっていました。障害を抱える弟を持つ恵太には、葉澄も誰にも話すことのできない想いを打ち明けることができていたのです。
この場面でも、学校で起きたことを葉澄から聞いた恵太は、以下のような言葉を返します。
一見軽やかでストレートな言葉ですが、同じ境遇にいる恵太から発せられた言葉だからこそ、葉澄の心の奥底にまで響き、葉澄の心が一気に解放されたと感じられます。悪意ある言動ではないことはもちろん、過度な同情や気配りでもなく、ただ「一人の人間として普通に接してほしい」という至極当たり前の願いを葉澄も恵太も抱いている状況に胸がしめつけられます。
この恵太の飾りけのない言葉が、途方に暮れていた葉澄にとっては一筋の光明となり、自分の存在価値を認められるきっかけになったと読み取ることができるのです。
その後、倫の祖母と偶然出会ったことで葉澄は倫が抱える家庭の事情を知り、それを機として倫との友人関係に新たな展開が生まれます。
そして『つなぎび』の会長である倉木から以下のような言葉を告げられます。
この良心を表す「火」を自分たちの中に認め、そして他者の中にもその火があると信じることで、葉澄は新たな一歩を踏み出すことができたのです。
物語の終盤、恵太の身に起きたある危機に対し、葉澄は必死になって恵太を助け出そうとします。これまで自分を支え、守ってきてくれた恵太の危機に対して、葉澄が自分から一歩を踏み出し行動を起こす重要な局面ですが、ここには、同じ境遇を生き、同じ痛みを分け合ってきた者どうしだからこその絆の深さが見られ、自分に救いの手を差し伸べてくれた、かけがえのない同志の心の中の「火」が消えかけている、その瞬間に、必死でそれを守ろうとする葉澄の真摯な想いと心の成長を読み取ることができるのです。
本作品で葉澄の成長の過程を追うことは、間違いなく「他者理解」、「苦境に向き合う」といった重要テーマを学ぶ絶好の機会となります。ただ、本作品については、中学受験物語文の重要テーマが題材となっているから、中学校の課題図書になっているから、といった理由に縛られることなく、まずはぜひとも手に取って、この煌めくような物語の世界に没入して頂きたいと強く願います。葉澄や恵太が苦難を乗り越えて行く過程をじっくりと読み取って頂ければ、それが自ずとテーマ学習にもつながります。読みやすい文体でボリュームも抑えめですので、5年生はもちろん、読書好きな4年生にも読んで頂きたい、今年度を代表する傑作です。
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