雙葉中学校の傾向と対策

  • 併設大学あり
  • 高校外部募集なし
  • 女子校

志望にあたって知っておきたいこと

 東京女子御三家の1校で、カトリック系の学校のため週1回、宗教の時間があります。学校創立の元がフランスの修道会であることから、中学3年生では週に1.5時間フランス語の授業があり、高校では英語の代わりにフランス語を第一外国語とすることができます。クラブ活動は活動日によって、部・班・会に分かれ、ダンス部、演劇部、料理班、天文班や合唱同好会、数学研究会など多岐にわたっています。

 2024年度の大学合格実績では卒業生数178名のうち東京大学に8名(現役7名)、京都大学に3名(現役2名)、東京工業大学に2名(現役2名)、東京藝術大学に2名(現役1名)、早稲田大学に89名(現役77名)慶応義塾大学に54名(現役47名)と高い実績を挙げています。また、医学部医学科にも千葉大学、筑波大学、東京医科歯科大学、東京慈恵会医科大学など合計70名(既卒生を含みます)が合格しています。

 入試問題では、どの科目も知識と記述力をバランスよく見る傾向があります。その中でも算数と国語の問題が特徴的で、算数ではすべての問題で式と計算を書かせる他、コンパスを使った作図問題が出される年度もあります。国語は求める語彙レベル、知識レベルが高く、大人であれば普段の生活で使うような言葉が文章中に多数出てきます。記述問題が中心となる読解問題では、文章中に書かれている表現だけでなく、そこから類推される内容を詳しく説明する力が求められる点で、中学受験の国語において最高難度の学校のひとつと言えます。

 どの科目も問題を見た印象では制限時間に余裕がありそうに感じられますが、実際に解いてみると解答に時間を要する問題が多く、制限時間の使い方が重要となります。過去問演習には時間配分の確認、そして解答欄にどれだけの字数を埋められるかといった解答の作り方を確認する意識を持って早めに取り組みましょう。

出題傾向と適した有利なタイプ

科目別学習対策

算数

 2024年度は大問5題で小問数が全13題の構成です。計算問題を含むすべての問題で「式と計算と答え」を書かせる点が特徴的で、解答用紙の与えられたスペースの使い方も要注意ポイントになります。

 2024年度の大問1は計算と小問が3題、大問2がブロックの積み上げ方を題材とした数の性質の問題、大問3が流水算の問題、大問4が食塩水の濃度の問題、そして最終の大問5が規則性の問題でした。全体的な傾向は例年通りでしたが、大問4の操作の手順を求める問題は高い思考力を求める、例年以上に難度の高い問題でした。雙葉中では年度によって作図問題が出されますが、2024年度は出されませんでした。

 同校の算数の特徴として、計算の複雑さと、問題文を正しく読解して条件を整理する問題が出される点が挙げられます。大問1の小問集合は難度こそ基本から標準レベルですが、計算が細かく、特に小数計算は工夫が使えないだけにミスをしないような高い計算力が必須となります。条件整理について、2024年度は最終の大問5でパンを棚に並べる作業と袋に入れる作業を定期的に繰り返す問題が該当しました。

算数が苦手な受験生

 テストの後半(2024年度であれば大問4、大問5)は難度が大きくアップしますので、まずは大問3までを確実に得点するといった方針が必須となります。その中で合格ラインを突破するポイントは、複雑な計算にも安定して力を発揮できるような対応力を身につけておくことにあります。

 例えば2024年度であれば、大問3の流水算で、逆比を使う計算、向かい合いの旅人算で2回目に出会う時間を求めるといった出題パターンはテキストの標準的難度の問題として掲載されるレベルの問題ですが、数値が細かく、正確に最後まで計算をやり遂げる算数的体力が求められました。同校の受験生であれば計算力を高く鍛え上げて入試に臨んできますので、計算力については最後の最後までレベルアップさせるための練習を重ねてください。

 また、計算が複雑で、2024年度の大問5のように正しく問題文を読解する作業が必要な分、制限時間の使い方が極めて重要になります。時間に全く余裕のないテストであると認識して、早めに過去問を使って「雙葉の時間感覚」を養っておきましょう。

算数が得意な受験生

 テスト前半(2024年度であれば大問1から大問3)までは全問正解を前提として、合格ラインを突破するポイントは、問題文を正しく読解して条件を整理するといった雙葉ならではの思考力を求める問題で確実に得点することです。

 2024年度であれば上記でも触れました最終の大問5が該当します。同問であれば(1)までをスピーディーに正解し、不定方程式の解法を含む(2)にどれだけの時間を使えるかがポイントになります。雙葉らしい問題設定であるため、この大問5は何としても得点しておきたいところです。過去問で問題設定を整理するタイプの問題には重点的に時間を使って、解答のプロセスをどのように組み立てるかを正しくイメージできるようにしておきましょう。

 2024年度であれば大問4のように、最終問題の前に難度の高い問題が出される可能性がありますので、どの問題に時間を費やすかといった戦略を立てる意識が必要です。そのうえで、思考力を求める問題に対しては、問題内容を整理→式の書き出し→計算といった流れをスムーズに進められるように、最難関の学校にまで手を広げる必要はありませんが、男子難関校を中心に条件整理を求める問題の演習量を多く重ねておきましょう。

 また、終盤の問題に多くの時間をかけられるように、作図問題を含めた前半の問題でどれだけ時間を短縮できるかが重要になります。過去問演習には時間の使い方と式を丁寧に見やすく書く意識を高めて臨みましょう。

国語

 2024年度は大問3題で、小問数が全33題の構成です。大問1が随筆的物語文読解、大問2が随筆文読解、大問3が漢字の読み取りでした。漢字の書き取りが大問1の中に含まれます。同校の文章読解は年度によって、物語文+説明文、随筆文2題など、文章の種類が異なります。その中でも随筆文の出題頻度が高く、説明文も随筆文に近い内容となることが多いです。かつては雙葉と言えば詩の読解でしたが、近年は詩が独立して出題されることはなくなりました。ただし、年度によっては説明文の中に詩が使われるケースも見られます。

 問題の種類は記述問題が圧倒的に多く、そのほとんどは字数制限がありません(2024年度はすべて制限なし)が、年度によっては100字以内といった長い字数の制限がつくことがあります。そして2023年度に続き2024年度でも最終問題で、「あなたが経験した~について述べなさい」といった形式の自由記述問題が出されています。今後も引き続き出される可能性が高くありますので対策が必要です。

 雙葉の国語は難しいと言われることが多いですが、その要因のひとつが文章の難度です。長さは標準より短めで、物語文での複雑な設定や、論説文での大人向けの価値観などが扱われることはありません。難度を上げているのが、言葉の難しさです。2024年度でも、「揶揄する」の意味を答えさせる問題や、「やみくもに」、「ふんだんに」、「あらたか」をわかりやすく言い換える問題が出されました。一般的には難度の高い問題ですが、雙葉中の問題レベルではいたって標準的な難度となります。これらの言葉に対応するには、難語テキストを活用するだけでなく、とにかく多くの本を読んでおくことが不可欠となります。

 同校の問題で合格ラインを突破するポイントは、記述問題で得点を重ねることにあります。同校の選択肢問題は難度が高くなく、同校の受験生レベルであれば、ほぼ全問正解してくるレベルですので、記述問題での得点が勝負の分かれ目になります。ただ、その記述問題の中に、テキストを使った記述演習に数多く取り組むだけでは対応できないものが含まれるのです。

 2024年度であれば、大問2問8で「誰もが何者でもなく、それゆえ何者でもありえた」という表現が「どういうことを言っているのか」を説明させる問題では、「自我の目覚め」や「どのような人間にもなり得る可能性」といった解答要素にあたる表現が文章中に明記されていません。大人の感覚であれば、文章全体を読み通すことで、筆者の趣旨を踏まえて解答することが難しくありませんが、小学生にとっては難度の高い問題となります。

 解答する側が問題文の趣旨から外れない範囲で推測を働かし、的確な言葉選び、読み手にわかりやすく内容を伝える表現力が高いレベルで求められます。こうした問題で得点を確保するには、テキストを使った記述演習は大前提で、そのうえで読書を通して語彙を増やし、推察力を培うといった対策までが必須となります。

 記述問題全般の対策であれば、学習院女子や栄光学園といった学校、また自由記述問題の対策であれば、フェリス女学院や鷗友学園女子、暁星の過去問演習が有効ですが、雙葉ならではの文章・記述問題に多く触れるために、過去問演習は早めから、数多くの年度に取り組んでおきましょう。

[2024年度の出典]
東直子『ゆずゆずり―仮の家の四人』
長田弘『子どもたちの日本』

理科

 2024年度は大問が4題で、小問数が全23題の構成でした。選択肢問題、語句を答える問題、計算問題、記述問題、作図問題と万遍なく出題されます。記述問題はすべての大問で出され、いずれも字数制限がありません。2024年度の作図問題は大問3で実験の設定方法と結果についての出題で、2題出されています。求められる知識レベルこそ高難度ではありませんが、同校の理科の難しさは、記述問題を中心に、現象とその基本となる原理を結びつける論理的思考力を高いレベルで求める点にあります。

 2024年度の大問1はだ液の消化に関する生物分野の問題、大問2は地震と「海岸段丘」についての地学分野の問題、大問3は溶解度についての化学分野の問題、大問4は3種の温度計を題材とした物理分野の問題でした。

 先に触れました通り、同校の理科の知識レベルは決して高いものではなく、基本的なものも含まれます。計算問題は複雑な計算になることはあっても、問題に書かれた内容の誘導に従えば正解に行き着くことは難しくはありません。

 同校の理科の特徴は思考力を求める問題、そして記述問題にあり、合格ラインを突破するポイントもそれらの問題での得点となります。記述問題は長い字数を書かせるものではありませんが、題材とした現象について、その根本にある原理についてまで触れることを求めており、その原理が抜けてしまうと、大きく減点、もしくは得点にならないことも想定されます。

 2024年度も各大問で記述問題が出されましたが、得点しやすい問題が多かった中で、大問2の地学分野の問題は、海面の低下と地球の温度の低下の因果関係まで踏み込まなければ得点できない難問でした。常に事象の根本にある原理にまで目を向ける姿勢が必要で、問題に制限字数が与えられていれば、何か不十分な部分があることに気づきますが、すべての記述問題に制限字数がありませんので、自分で書くべき内容をすべて包括できているかを判断する習慣も必要となります。

 2024年度の思考力を求める出題としては、大問2問3の海岸段丘が形成される過程を答えさせる問題、大問4問4以降の「ガリレオ温度計」に関する問題が該当します。これらの問題に対応するには、知識だけでなく実験内容、問題文での説明を的確に読み取り、そこから思考する力が必要になります。

 同校の受験生レベルを考えると、選択肢問題や計算問題の全体正答率は高いと想定されますので、記述問題、思考力を求める問題での減点を何としても防がなくてはなりません。対策として、普段の演習で男子最難関校の問題などに出てくる高レベルの問題にまで手を広げる必要はありませんので、記述問題の見直しで、見逃しているポイントはないか、思考力を求める問題で考え方のプロセスで抜けている点はないかを厳しくチェックしましょう。

社会

 2024年度は大問3題で、公民・歴史・地理分野それぞれをメインとした構成でした。小問数は全26題で、各大問に1題ずつ記述問題が含まれるため、制限時間30分は短く感じられます。

 大問1は「環境破壊」をテーマにした公民分野をメインに地理分野を含めた問題、大問2は日本と朝鮮半島、中国の関係をテーマとした歴史分野の問題、大問3は日本の発電について、資料をもとにした地理分野をメインとする総合問題でした。

 同校の社会では、幅広く正確な知識を必要とする選択肢問題と思考力を求める記述問題のどちらもが高いレベルで出されます。特に合格ラインを突破するポイントは選択肢問題で確実に正解数を増やすことにあります。選択肢問題の中には「正しいものを選ぶ」スタンダードなパターンだけでなく、複数の選択肢を選ばせる問題や、正しい選択肢の数を答えさせる問題と、様々なパターンが見られます。

 そうした問題で間違いなく得点するためには、普段の演習から正しい根拠で正解に行き着けたかをチェックする必要があります。曖昧に正解するよりも、間違えた問題でどのポイントを見逃してしまったのかを細かくチェックする習慣を身につける方が、同校の選択肢問題を攻略するためには有効です。

 細かい知識が求められる例として、2024年度では歴史分野で、国際連盟脱退(1933年)、第一回帝国議会の開催(1890年)、小笠原諸島の日本復帰(1968年)など1900年代前後に起きた9つの出来事について、「日本が大韓帝国を併合し、朝鮮半島を植民地とする(1910年)から、日本と大韓民国が国交を開く(1965年)の間の時期で、起きた時期の早い順に並べた時に、3番目と5番目になるもの」を答えさせる問題が出されました。期間を限定したうえで歴史的出来事を並べ替える中で、9つの出来事が起きた年を正確に覚えていなければ正解に行き着けない難問で、年そのものを答えさせる問題こそ出されないものの、順番を答えられる範囲では細かく歴史的出来事の発生時期を把握しておく必要があります。
 
 また雙葉中対策において記述問題対策は不可欠で、2024年度には温室効果ガスについて、「各国は、現在のそれぞれの排出量に合わせた削減目標を設定するべきだ」という先進国側の意見に対して、発展途上国の立場から反対意見を考えて記述するという、時事問題を踏まえて思考する問題が出されました。こうした思考力を求める記述問題については、鷗友女子などの同様の問題を出す難関校の問題を演習することも対策に含めるとよいでしょう。さらに最終問題では、1960年と2020年の「日本の発電量とその内訳」のグラフを比較して、その変化について説明させる問題も出されています。

 細かい知識を求める選択肢問題に加えて、思考力、文章構成力を求める記述問題まで出される構成に制限時間30分で対応するには、取るべき問題をスピーディーに解き、場合によっては解かずに先へ進める問題を選択する、といった戦略が不可欠です。時間配分をしっかり意識して過去問演習に取り組みましょう。

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