No.1738 短歌を通じて戦時中の人物の足跡をたどる女子高校生の成長物語!『彼(か)の空のユンカース』柊サナカ

amazon『彼の空のユンカース』柊サナカ(双葉社)

 2026年度麻布中の入試で出典となった連作短編集『天国からの宅配便 あの人からの贈り物』(収録作の中から「七十八年目の手紙」が麻布中の出典になりました)の著者・柊サナカ氏による本作品には、表題作と『ベッドひとつぶんの私たち』の2編が収録されています。

 今回ご紹介する表題作『彼の空のユンカース』は、高校2年生の雅美が、亡くなった曽祖母の遺品の中に隠されていた手紙と、作者不明の歌集を見つけ、友人の凜と共にその手紙・歌集の秘密を探って行く姿が描かれた物語です。

 主人公の雅美が歌集をつづった人物の足跡をたどる中で、戦争の渦中に巻き込まれて行く過酷な状況を知り、また友人・凛のそれまで知ることのなかった一面を知ることによって心の成長を果たして行く過程には、「戦争の恐ろしさ」、「差別の愚かさ」そして「友人関係」、「恋心」という中学入試で頻出の重要テーマが深く描き込まれています。

 そして本作品の大きな魅力として、中学受験性の皆さんにぜひ触れて頂きたいような、鮮やかで臨場感にあふれる美しい心情表現、風景描写に満ち溢れている点が挙げられます。

 いくつもの重要テーマが題材となり、入試で出題対象となりそうな美しい表現の数々が散りばめられた本作品は、来年度入試で女子校・男子校を問わず、上位校から最難関校まで幅広く多くの学校での出題されることが予想されます

【出題が予想される箇所】
P.97の1行目からP.115の5行目 

 表題作『彼の空のユンカース』第五首「ふるさとの方へと思へる秋空をユンカース一機風切りてゆく」(本作品では各章が「第○首」とされ、冒頭に短歌が掲載されています)の全文にあたります。

 雅美が友人・凛のそれまで知ることのなかった境遇を知って心を痛め、ネット上で差別的発言を拡散する見えない敵と戦う様子、そして曽祖母の知人と思われる吉本正三という人物が残した和歌を通して、正三が戦争の過酷な環境に巻き込まれて行く様子を雅美と凛が徐々に知って行く様子が描かれた場面です。

 雅美が凛の境遇を知った上で、どのような想いから行動を起こしたのか、そして雅美と凛が正三の和歌からどのように当時の状況を知って行ったのかを、丁寧に読み取って行きましょう。

【ここがポイント】

 主人公の雅美は、亡くなった曽祖母の遺品の中に隠されていた歌集を見つけた当初は和歌に対して強い関心を抱くことはありませんでしたが、歌集に掲載された和歌のひとつひとつと接して行く中で、和歌の魅力に惹かれ、従妹の紹介で知り合った歌人の女性に導かれて「オンライン歌会」に参加して自ら和歌を作るようになってからさらに、和歌の世界に魅了されて行きます。

 まだ和歌への理解を深める前に、従妹が雅美に以下のような言葉を伝えましたが、雅美の中では実感を抱くまでには至っていませんでした。

「歌ってすごいでしょう?時を超えて人と人がわかりあえるんだから。」(P.31の11行目)

 そんな雅美でしたが、吉本正三が和歌の舞台とした深沢峡という場所に実際に立つことで、以下のような想いを抱くようになります。

正三が歌を作った、まさにその場に立っているからか、かつての正三の視線と自分の視線が重なって、歌の世界が立体的に迫ってくるようだった。(P.72の3行目から4行目)

 従妹の言う「時を超えて人と人がわかりあえる」という感覚を得ることによって、雅美は短歌の魅力に惹きこまれて行くのです。

 そして、今回出題が予想されるとした第五首を含む物語の中盤以降、雅美と友人の凛は和歌以外にも正三が残した和歌を通じて戦時中の状況を知るに連れて、「戦争の恐ろしさ」に衝撃を受け続けて行きます。

 戦地の凄惨な描写はありませんが、和歌のひとつひとつから当時の状況、正三の心の奥底にある想いが伝わってくることで、戦争によって人々の生活がいかに壊されて行く状況が、物語の読み手である私たちの胸にも深く届いてきます。

 知らず知らずのうちに戦争が人々の生活の身近に迫ってくる様子、そして望む望まざるにかかわらず、多くの若者たちが戦地に行かざるを得なかった状況が、以下のような表現を通してつづられています。

日が少しずつ翳るみたいに、徐々に日常が変わっていったのかもしれない。(P.80の8行目から9行目)
戦地に向かう彼らは、戦争に自ら行きたいと志願した軍人だけじゃなかった。ただ、短歌が好きな、普通の人たちも含まれていた。(P.112の13行目から14行目)

 正三が巻き込まれて行く過酷極まりない状況を知った雅美が以下のような想いを抱く過程に、和歌に込められた想いの深さ、そしてそれを読み取るようになった雅美の心の成長を読み取ることができるのです。

太平洋戦争とは、歴史の時間に、すっと通り過ぎていく知識としてだけの戦争だったが、いつしか完全に自分事になっていた。(P.94の13行目から14行目)

 五・七・五・七・七の三十一文字の言葉で人の心の奥底にある想い、その和歌が作られた当時の状況を鮮明に表す和歌の持つ力、そして雅美の従妹が言う「時を超えて人と人がわかりあえる」という和歌の魅力を、本作品を通して深く理解することができます。

 そして今回、出題が予想されるとした第五首では、「差別の愚かさ」をテーマとした場面も見ることができます。

 SNS上で拡散される外国人に対する差別的なコメントに対して雅美が返した以下のコメントは、愚かな差別に対する警鐘と読み取ることができます。

あなたたちは、外国人というぼんやりとした概念みたいなものを攻撃していることで、ストレスを解消している。そんな安い連帯感でしか、生きることにやりがいをみつけられない人生は本当にお気の毒だ。(P.105の12行目から14行目)

 短歌を通じて戦時下を生きた正三という人物の想いを知り、そして友人・凛の境遇を知ることで強い衝撃を受けながらも、自分のとるべき行動を心に決めて行く雅美の姿には「他社理解を通じて心の成長を果たす」という中学入試物語文の最重要パターンが色濃く反映されています。

 雅美が抱える切ない恋心を読み取ることも、他社理解というテーマを学習するうえでの貴重な機会となります。

 そして、美しく洗練された言葉の数々で心情が書き込まれている本作品を読み通すことで、言葉に対する感覚も研ぎ澄ますことができます。

 6年生はもちろん、5年生にもぜひ読んで頂きたい稀有の傑作です。

 われわれ中学受験鉄人会のプロ家庭教師は、常に100%合格を胸に日々研鑽しております。ぜひ、大切なお子さんの合格の為にプロ家庭教師をご指名ください。

 

メールマガジン登録は無料です!

頑張っている中学受験生のみなさんが、志望中学に合格することだけを考えて、一通一通、魂を込めて書いています。ぜひご登録ください!メールアドレスの入力のみで無料でご登録頂けます!

ぜひクラスアップを実現してください。応援しています!

ページのトップへ