『栄冠への道』を制する者が『育成テスト』を制する

ミニバスケットボールのチーム「末広サンライズ」に所属する小学6年生の男子3人が、それぞれに抱える葛藤や嫉妬、家族関係の悩みの中で、もがきながら自分の居るべき場所(ポジション)を見出していく姿を描いた爽快感あふれる成長物語です。
著者・高田由紀子氏の作品ではこれまで、『スイマー』が筑波大附属中(2021年度)などで、『青いスタートライン』が普連土学園(2024年度 2/4午前入試)、埼玉栄中(2020年度 第1回午後)などで出題されてきました。
中学受験生にとって等身大の人物たちならではの、挫折や友人・家族とのぶつかり合いといった状況、さらには強がりや照れ隠しといった本心と裏腹な言動など、入試問題の出題対象となり得る要素がふんだんに盛り込まれた作品です。
各章それぞれに主人公が異なるという連作短編集のような構成で、「友人関係」、「家族関係」といった物語文頻出の重要テーマを学び取ることのできる本作品は、来年度入試では男子校、共学校の中堅校から難関校を中心に、数多くの学校で出題される可能性の高い一冊です。
≪主な登場人物≫
朝丘芽吹(あさおかめぶき:小学6年生の男子。長身であることから、クラスメイトの百田晴に誘われ、ミニバスケットボール(以下ミニバスケ)チーム「末広サンライズ」に入るが、運動神経がないためにチームの中で機能することができず、自信を持てないままでいる。)
百田晴(ももたはる:芽吹のクラスメイトで「末広サンライズ」のキャプテン。お調子者ではあるが優しい性格の持ち主で芽吹を励まし続けている。両親の期待の重さに悩み、またお菓子を食べ過ぎて太っていることを気にしている。)
一条結人(いちじょうゆうと:強豪のミニバスケチームに所属していたが、両親の離婚が原因で転校、「末広サンライズ」に加入する。バスケの上手さではチーム一だが、自分の力が発揮できないことにいら立ち、チームメイトにも厳しい態度で接してしまう。)
貴島ルイ(きじまるい:芽吹の4歳上で、幼い頃から兄のように芽吹と接している。病気のため車いす生活を送らざるを得なくなったが、車いすバスケと出会い、大人のチームの練習に参加できるまでに技術を向上させてきた。)
鉄じい(てつじい:「末広サンライズ」の監督で本名は大山鉄二だが、芽吹たちからは「鉄じい」と呼ばれている。練習や礼儀には厳しいが、芽吹たちは敬意をもって接している。)
今回は、一条結人を主人公とした第三章の『一条結人』を取り上げます。
≪あらすじ≫
一条結人は東京の強豪ミニバスケチームに所属していましたが、両親の離婚により、父親とは離れ、千葉の母親の実家に移り住むことになり、ミニバスケチームも辞めざるを得なくなりました。転居先で結人が入ったのが「末広サンライズ」でした。強豪チームで活動していたこともあり、末広サンライズでは群を抜いた実力を発揮していますが、チームメイトへの不満を露わにしてしまうことが多く、チーム内でも打ち解けられないでいます。
ある日、結人は父親の誘いで、車いすバスケットボールの試合に初めて観戦に行くことになりました。試合のレベルの高さに惹きつけられた結人でしたが、父親が仕事を変えたことなど、これまで聞かされていなかった事実に直面し、また父親が自分以外の人物とコミュニケーションを深めていることを知り、いら立ちを隠せなくなってしまうのでした。
※テーマについては、メルマガ「中学受験の国語物語文が劇的にわかる7つのテーマ別読解のコツ」で詳しく説明していますので、ぜひご覧になりながら読み進めてください。
この作品では、「友人関係」「家族関係」といった重要テーマが様々なかたちで描かれていますが、今回取り上げる『一条結人』の章では、「家族関係」がメインテーマとなっています。
この「家族関係」というテーマでは、家族への反発、わだかまりが解消され、その過程で家族の想いを理解するというプロセスが描かれるケースが多いですが、この章でも、両親の離婚により父親と離れて暮らしていた結人が父親の変化に戸惑い、不満や憤りを強く感じるようになるものの、父親の自分に対する真の想いを知って、父親との関係を変化していく様子が描かれています。
本作品では人物たちの悩みや他者とのわだかまりが読みやすい表現で描かれている場面が多く見られますが、照れ隠しや強がりといった本心とは裏腹な言動も多く、表面的な言葉や態度に惑わされずに、人物が心の奥底で抱える想いを読み解く姿勢が必須となります。
特に結人というキャラクタ―は、心の中にひそむさみしさや嫉妬心を、周りに悟られまいとして強がった言動に出ることが多くあります。
結人が父親に対して常に抱き続けている感情とはどのようなものであるのか、結人がさみしさや嫉妬心にかられた状態から何をきっかけとして、自分の真なる想いに向き合うようになったのか、結人の表面的な言動にとらわれずに前後の流れを大事に、心情の変化を丁寧に読み取っていきましょう。
そうした取り組みが、重要テーマ「家族関係」を読み解くポイントを習得するための絶好の機会となります。
父親と車いすバスケットの試合を観た結人が、父親の以前までとは違った姿に戸惑う場面から始まり、試合には感動を覚えながらも、その後、これまでため込んでいた不満を父親にぶつけてしまう結人の様子が描かれた場面へとつながります。
結人が父親に対してどのような想いを抱いていたのか、不満や憤りを強く感じていた父親の真の想いに対して、結人がどのように向き合ったのか、結人の言動を注意深く読み取って、理解を進めて行きましょう。
『川合京選手の応援タオル』とは、結人の父親が車いすバスケットの試合を観る際に首にかけてきた、応援する選手の名前が入ったタオルを指します。
問題該当部の直前、父親にそれまでため込んできた不満を一気にぶつけて、気持ちのコントロールができずに涙を流してしまった結人に、父親が涙をふくために渡したのが、『川合京選手の応援タオル』だったのです。
このタオルが結人にとってどのようなものであったのかを読み解くために、問題該当部に至るまでに結人がどのような心情を抱いてきたのか、その流れを確認します。
結人が最初にタオルを目にしたのは、試合会場にやってきた父親の姿を見た時でした。それまでの結人の中での父親のイメージとは、「おしゃれとかファッションには全然興味がない」(P.189の3行目)、「仕事大好き人間」(P.191の6行目)だっただけに、応援するチームのマークの入ったTシャツにジーンズという服装に加えて、応援タオルを首にかけた父親の見慣れない姿に以下のような違和感を抱きます。
そして、その後の会話を通して、父親が前職を辞めて競技用の車いすを作る会社に転職をしたことを知ります。そこで結人は以下のような想いを抱きます。
母親と離婚して離れて暮らすようになったために、転職について聞かされていなかったことも仕方ないことと考えようとはしているものの、黙っていた父親に対して結人が不満を抱いている様子を読み取ることができます。
その後、応援席での他の観客との会話から、応援タオルは父親が自分で作ったものであること、それに加えて川合京選手のアクリルキーホルダーも自作したことを知った結人の中に生まれた想いが以下のように表されています。
結人自身もその原因がわからないものの、父親の言動や姿から感じるものが違和感ではなく、いら立ちに変わっていることがわかります。
そんな結人を驚かせる出来事が起こります。試合会場に「末広サンライズ」のチームメイトである芽吹が、車いす姿の貴島ルイと一緒に姿を見せたのです。芽吹が車椅子バスケットボールの試合を見に来たことに驚き、ルイとの関係性がわからずに動揺する結人でしたが、父親はルイに気軽に声をかけます。結人の父親はルイの競技用の車いすを作っていたのです。
試合が終わった後に父親とルイが車いすの製作について話し合う様子を見た結人は、熱心にルイに話しかける父親の姿に、以下のような想いを抱きます。
ルイが父親の仕事上の客であるから、と自分に言い聞かせてはいるものの、ルイの身体の特徴や嗜好まで把握している父親の姿に、少なからずショックを受けている結人の様子が見られます。
そして父親の運転する車の中で、結人のいら立ち、不満はさらに強まっていきます。
引きがねとなったのは父親がルイについて発した以下の言葉でした。
この言葉を聞いた結人の反応は以下のようなものでした。
そしてここから、結人の中で父親への不満、憤りが一気に増していきます。その想いの高まりが以下のように表されています。
この部分に、結人の父親に対する不満、憤りが集約されています。自分の世界だけを大事にして、お客である貴島ルイのことは詳しく知っているものの、息子である自分のことはわかってくれていない。首からさげている川合選手のタオルは、そんな父親の様子を端的に表したもので、結人にとっては不満、憤りをより強くさせているものであると考えることができます。
この後に結人は、憤りを言葉に出して父親にぶつけます。その様子が以下です。
想いがあふれて涙がこらえ切れなくなった結人に、父親が川合選手の応援タオルを差し出したところで問題該当部につながります。
そして問題該当部にある、タオルを受け取った結人の以下の反応も、結人にとってタオルがどのようなものであったのかを読み取るポイントとなります。
「ますます力が抜けて」というところに、結人にとっては応援タオルそのものが父親への不満や憤りをより増すものであるのに、そのことにも気づかない父親にあきれる結人の心情が込められていると考えられます。
ここで気をつけておきたいのが、その後に続く以下の部分に、応援タオルの持つ別の意味が示されていることです。
両親が離婚する前の、父親と暮らしていたころ、父親への愛情を迷うことなく示すことのできた時の思い出を思い起こさせたのも、タオルであったことがわかります。
以上より、字数に合わせて解答を作っていきますが、タオルが父親への不満、憤りを「助長するもの」という言い方もできますが、難しい言葉ですので、「より強めるもの」としておくとよいでしょう。
自分の世界だけを大事にして、家族をかえりみず、息子のことを見てこなかった父親への不満、憤りをより強めるものとして、さらに戻ることのない父親との幸せであった時間を思い出させるものとして表されている。(98字)
P.217の14行目に「顔からタオルをとると、ぎゅっと握りしめた。」とありますが、このときの結人の様子を説明したものとして、最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。
ア.家族のことをほったらかして、息子を大事に見てこなかった父親をまだ許すことができず、何とか怒りをおさえようとしている。
イ.自分の世界だけを大事にしてしまう父親なだけに、自分が発する言葉の意味を理解してもらえないのではないかと緊張している。
ウ.父親に対して「父さんなんだから」という言葉を、照れくささを感じながらも、伝えなければいけないという決意を抱いている。
エ.自分のことを父親が大事に思っていてくれたことがわかり、また試合を見に来たいと言ってくれたことの喜びをかみしめている。
≪予想問題1≫で取り上げた後、結人は父親の自分に対する真の想いがどのようなものであったのかを知ることになります。
父親は結人のミニバスケの応援に行きたかったものの、それが結人にとって迷惑になると考え、応援の気持ちを込めて結人の名前入りの応援タオルと、結人の顔写真が入ったアクリルキーホルダーを「最初に」作ったことを明かします。
その事実を知った結人は以下のような反応を示します。
あまりに意外な事実に直面した結人は、それまでに感情を激しく吐露していたこともあり、ただ力が抜けてしまうような反応しか示せなかったと考えられます。
さらに父親は、一回だけミニバスケの大会を見に来たことがあったこと、そこで結人の勇姿を見たことがきっかけとなり、車椅子バスケに夢中になったことを結人に伝えます。
その言葉を聞いた結人と父親のやりとりが以下のように表されています。
父親が自分を見ていなかったことへの不満、憤りに支配されていた結人でしたが、その認識が誤っていて、父親がしっかりと自分を気にかけてくれたことを知り、心境を大きく変えようとしていることが表されています。
そして、自分の気持ちに素直に向き合えるようになった結人は、自分の心の中に広がっていたものが「イライラ」ではないことに気づきます。その変化の様子が以下のように表されています。
このやりとりから、結人の心の中に、父親と離れて暮らすことによる深いさみしさがあったことが明らかとなります。
さらに結人は以下のように自らの想いを振り返ります。
結人が抱いていたものはただのさみしさではなく、父親と離れ離れになってから、前に進むことができず、そんな自分に向き合う覚悟を持てずにいた悔しさも混じり合った感情であったことが読み取れます。
そして父親が発した以下の言葉に、結人の頑なであった心がゆるやかに解放されていくのです。
仕事でも、もちろん貴島ルイでもなく、自分が父親にとって「一番の希望」であることを、はっきりとした言葉で受け止めた結人は、自分も言葉で想いを伝えようという心境に至ります。
その一歩踏み出した結人の様子が、問題該当部の直前の以下の部分に表されています。
結人にとって、父親が試合に観に来るのを許すことが、自分を一番の希望と言ってくれた父親の愛情を受け止めた証しだったのです。「とっさにタオルで顔をおおう」や「顔が赤くなった」といった表現から、これまで父親に反抗的な態度をとってきただけに、父親の愛情を受け止めることに、結人が照れくささを感じていることがわかります。
そして問題該当部の直後。結人が父親に発したのは、以下の言葉でした。
結人にとっては「おれの父さん」という言葉は、何としても父親に伝えたいものでしたが、どうしても照れくささがある。それでも気持ちを強く持って言葉にしよう、という結人の決意が「ぎゅっと握りしめた」という表現に込められています。
以上より、正しい選択肢は「ウ」となります。
ここでの結人のように、親に対して反抗的な態度をとっていたものの、ストレートに親から愛情を伝えられた時に、照れくささを隠せないでいるような表現が、「家族関係」をテーマとした物語文では大変多く見られます。
表面上の人物の言動に惑わされずに、心情の変化をしっかり追って、その人物が抱える真の想いを読み取るようにしましょう。
ウ
今回は一条結人が主人公となる第三章をご紹介しましたが、背が高いという理由だけで誘われるままに「末広サンライズ」に入ったものの、ミニバスケの実力が上がらずに自信を失ってしまう朝丘芽吹が主人公となる第一章、チームのキャプテンとしてムードメーカーの役割も果たしていたものの、両親の過度の期待に苦しみ、実力を上げてくる芽吹に心ならずも嫉妬してしまう百田晴が主人公となる第二章と、第三章までのどの章でも、悩み、もがきながら自分の居場所を見つけていく男子たちの姿に触れ、それぞれの心の成長を見届けることができます。
とても読みやすい文体で描かれていますので、読書が苦手なお子様にこそぜひ読んで頂きたい作品です。ミニバスケの試合の描写は、自然と手に汗にぎってしまうような臨場感に満ち満ちており、スポーツ好きなお子様は特に楽しむことができるでしょう。秀逸なのが最終第四章で、芽吹、晴、結人を中心とした「末広サンライズ」のメンバーたちが挑む試合の場面には、物語を締めくくるにふさわしい感涙必至のクライマックスが用意されていて、時間を忘れてしまうほどの高揚感を存分に味わうことができます。
「友人関係」「家族関係」といった重要テーマを学習する機会を与えてくれるだけでなく、スポーツを題材としているからこその爽快感、達成感をじっくりと味わわせてくれる本作品は、6年生はもちろん、5年生のお子様にもおすすめしたい傑作です。
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