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中学入試では国語の物語文に苦手意識を持つお子さんが多いです。語彙の難しい説明文ならまだしも、心情の流れを追えば内容を理解できるはずの物語文が、なぜわからないのかと疑問に思うかもしれません。しかし、圧倒的に人生経験が少ない小学生にとって「心情の流れ」を理解するのは至難の業なのです。
でも安心してください。効果的な解き方をご説明します。実は中学受験で出題される物語文は、ほぼ7つのテーマ(本原稿では小テーマと呼びます)に限られ、テーマごとの「定型の物語進行パターン」にそって読み進めれば、登場人物の心情の流れを類推することができ、問題を正解するためのポイントまで一気に把握できるようになるのです。
上の図をご覧ください。中学受験の物語文のテーマを分析すると、そのすべてがあるひとつのテーマ(大テーマとします)に集約されることがわかります。その大テーマが「心の成長」です。
物語文の設定は様々で、扱われる人間関係も「友人関係」や親子、兄弟、祖父母などの「家族関係」など多岐に渡ります。それらの設定や人間関係によって物語文の内容も変わってきますが、そこでテーマを突き詰めて行くと、すべて「心の成長」に集約されるのです。
その大テーマ「心の成長」がどのようなパターンでなされるのかを分類すると、「他者理解」「自己理解」そして「自他理解」という3つ(中テーマとします)になります。これらの中テーマを、さらに内容別に分けると、7つのテーマ(小テーマとします)が挙げられます。中学受験の物語文はこの7つの小テーマのどれかに属することになるのです。
ここからは、この表の右端に並ぶ7つの小テーマについて説明を進めて行きますが、まずは「心の成長」を構成する3つの中テーマからご説明しましょう。
《他者理解》
「他者理解」とは、他者の考え方や置かれた境遇、自分に対する相手の考え方を知ることで心が成長する、といったパターンを表します。この「他者理解」がどのような設定・人間関係で表現されているかを分類すると、「友人関係」「家族関係」「多様性」となります。
《自己理解》
「自己理解」とは、自分に向き合うことでそれまで気づかずにいた自分の弱さや未熟な部分を認めることで、新たな自分の在り方を見つけ出すことで心が成長する、といったパターンを表します。この「自己理解」は、「挫折からの再生」「環境の変化」「苦境に向き合う」の3つの小テーマに分類されます。
《自他理解》
「自他理解」とは、他者を理解しようとする過程で、自分の中に生まれた心情に戸惑いながら向き合って行くという、他者理解と自己理解が同時に進行する、といったパターンを表します。この「自他理解」に当てはまる小テーマが、「恋心」です。
ここからは、3つの「理解」に含まれる全7つの小テーマについて、どのようなパターンで物語が進行するのか、どのような流れで心の成長が表現されるのか、そして出題されやすいポイントについて掘り下げてみます。
例えば、転校先の学校で知り合った同級生と初めのうちは互いに好感が持てずぶつかり合っていたのが、ある出来事がきっかけで相手の優しさや置かれた境遇を知って、心の距離を縮めて行く、といった展開がこのテーマに当てはまります。以下のようにまとめることができます。
中学受験の物語文の中でも特に出題頻度が高いテーマです。受験生の皆さんにとっても共感しやすく、それだけに中学校側が出題の対象として選ぶケースが多いと考えられます。このテーマに分類される物語文では以下のような流れで他者理解を深めて行く様子が描かれます。
このタイプの物語文では、主人公が友人に対して抱く違和感や反発、ぎこちなさを表す言動や表情の読み取りが出題対象となることが多くあります。そして、そうしたマイナスの心情が変化した後にどのような言動や表情を出すようになったのかを表す部分の読み取りが多く問われます。内容としてはわかりやすいだけに、細かな変化についての問題が多くなりますので、人物の表情や発言について、その理由を見つけ出す目を養っておきましょう。
例えば、父親の再婚相手を素直に母親と認めることができなかった主人公が、友人や第三者の言葉によって再婚相手への考え方、家族についての認識を変化させることによって、母親として認めることができるようになる、といった展開がこのテーマに当てはまります。以下のようにまとめることができます。
最近の中学受験で特に出題頻度が高いテーマです。単に反抗期の子供と親の関係の変化、といったシンプルなパターンにとどまらず、両親が離婚したことで会えなくなった母親と子供の関係、子供に対して愛するが故に攻撃的な言葉を発してしまう親の姿、さらには近年社会問題となっているヤングケアラーなど、そのパターンは多様化し、深化しています。このテーマに分類される物語文は以下のような流れで他者理解を深めて行く様子が描かれます。
このタイプの物語文では、家族間で交わされる言葉に込められた心情の読み取りが多く出題対象となります。親子だからこそ、他人に対しては使わないような攻撃的な言葉を発してしまうという場面が多いのがこのテーマの特徴です。その言葉の強さに惑わされずに、攻撃的な言葉が相手への敵意ではなく、相手を深く愛する心や甘えられる相手だからこその本心の吐露であることの理解が必要になります。そのためにも、問題該当部だけで判断せずに、物語の流れをしっかり理解して、人物の本心を表す言動や表情に着目するようにしましょう。
例えば、女らしさを否定するような生き方をする少女と出会って、初めはその行動に戸惑いながらも、次第にその考え方に理解を示すようになる、といった展開がこのテーマに当てはまります。以下のようにまとめることができます。
このテーマも最近の中学受験で出題されることが増えてきており要注意です。ジェンダーやマイノリティといった社会的テーマが背景にあるだけに、広い視野で世界を見る姿勢を求める中学受験では重要なテーマとして扱われます。このテーマに分類される物語文は以下のような流れで他者理解を深めて行く様子が描かれます。
このタイプの物語文では、基本的には友人関係を扱う文章と同じようなポイントからの出題が多くなります。ただ、人物の置かれた環境を考える上では、ジェンダー、マイノリティについての理解をおさえておいた方がよいでしょう。重要な社会的テーマを扱うので、学校によっては、自分の考え方を記述させる問題が出る可能性もあります。テーマについての理解も固めておくとよいでしょう。
例えば、部活でリーダーとして部員を引っ張って行こうとする主人公が強い想いばかりで行動してしまい、部員達の心の内まで考えずにいたことで孤立してしまうといった展開が当てはまります。そこから他者の言葉などを受けて自信を取り戻し、考え方を変え、新たな自分のあるべき姿を見つけ出して行く、といった内容になります。以下のようにまとめることができます。
自己理解の中で特に出題頻度が高いテーマです。挫折を経験した人物が新たな自分を見出して行く過程には、失敗やつまずきがあってもそこから何かを学び取るような生き方をして欲しいという、中学校から受験生へのメッセージが込められていると考えられ、だからこそ多くの学校がこのテーマを出題対象としていると言えるでしょう。このテーマに分類される物語文は以下のような流れで自己理解を深めて行く様子が描かれます。
このタイプの物語文では、まず主人公が自分の失敗に向き合うまでの心の葛藤を描いた場面からの出題が多くなります。それを踏まえたうえで、何がきっかけで再生へと気持ちが向かって行ったのか、そして新たに自分があるべき姿を主人公がどのように考えているかを表した箇所からも多く出題されます。こうした問題に対応するために、主人公の心情がマイナスからプラスへと移り行く過程で、その発言、行動にどのような変化が見られたのかを正確にとらえるようにしましょう。
例えば、ある出来事がきっかけで不登校になってしまった主人公が、親の実家のある地に転居をし、そこで出会う地元の人々との出会いを通して、自分の本心と向き合い、心を開放して行く、といった展開がこのテーマに当てはまります。以下のようにまとめることができます。
自己理解の中でも他者の存在が大きく影響するテーマです。自分の意志で環境を変えたり、やむを得ない事情によって慣れない環境に移った主人公が新たな環境で出会った人々との触れ合いを通して自己理解を進めて行きます。このテーマに分類される物語文は以下のような流れで自己理解を深めて行く様子が描かれます。
このタイプの物語文では、環境が変わる前後の主人公の行動や表情の違いが出題対象となることが多くあります。例えば環境が変わる前にはできなかったことが、環境が変わったことでできるようになったという変化があった際は、変化の前にある主人公の弱気な表情やためらいの部分、そして変化の後の自信を取り戻した表情や達成感を表す部分を比較するような出題が多く見られますので、同じような状況での発言や行動の違いが出ている箇所には十分に注意しておきましょう。
例えば、両親のうちのどちらかが外国人であることで、言葉の使い方や肌の色の違いを冷やかされた主人公が自分の生い立ちを恨めしく思っているという設定から、親の優しさや自分を受け入れてくれる他者の想いを受けて、自分の生い立ちを受け入れ、強く生きて行く気持ちになる、といった展開がこのテーマに当てはまります。以下のようにまとめることができます。
自己理解の中でも最近特に出題頻度が高くなり、重要性を増しているテーマです。自分の意志ではどうしても防ぐことのできない出来事により深く傷ついた主人公が、そうした状況の中でも他者の言葉などにより自分の生き方を見つけ出す過程を描いたものです。親族の死やいじめなどはこれまでも多くの問題で見られましたが、東日本大震災発生以降は、災害によって住む場所をなくすといった苦境に立たされる人物の姿が描かれることが多くなっています。また近年ではマイノリティや国籍などによって不当な差別を受ける人物が題材となることが多い点でも注意が必要です。このテーマに分類される物語文は以下のような流れで自己理解を深めて行く様子が描かれます。
このタイプの物語文では、主人公が苦境にあってどのような葛藤を抱えているのか、それを乗り越えたことでどのような行動や表情の変化が見られたのかといった点が多く出題対象になります。特に注意すべきは、文章を読んでの自分の考えや気持ちをはさまないようすることです。いじめや差別といった内容を扱うだけに、読んでいて許せない人物の言葉や行動が出てきますが、その印象を持って文章を読み進めてしまうと、問題を解くための大事な部分を見逃してしまいます。あくまで登場人物の心情がどのように変化しているのかを第一に考え、特に主人公が抱く不満や怒り、そしてそれらを克服して得られた希望や喜びを表す部分にしっかりマークをして、解答につなげるようにしましょう。
例えば、クラスの中でどうしても気になる存在がいて、その相手の前では自分でも思ってもいないような行動や発言をしてしまう主人公が、相手の考え方を理解し、自分の考えを整理して行くうちに、相手を恋しているという自分の気持ちに目覚める、といった展開がこのテーマに当てはまります。また、特に男子を主人公とした場合には、恋心を抱いていることを周りに気づかれたくないという気持ちや、恥ずかしさから恋心をあえて否定するような行動をとってしまう姿が多く描かれます。以下のようにまとめることができます。
中学受験の物語文では大人向けの恋愛が題材になることはなく、ほのかな恋心を描いた作品が題材になります。注意すべきは、このテーマの物語文が芝中や駒場東邦中といった男子校で出されるケースが少なくない点です。小学生の男子にとっては理解しづらい恋心をあえて出題することで、自分の領域を超えた心情についても理解する姿勢でいて欲しいという中学校側の意向が感じられます。このテーマに分類される物語文は以下のような流れで自他理解を深めて行く様子が描かれます。
このタイプの物語文では、主人公がどのような過程を経て自分の本心に向き合うか、その心の動きについての出題が多いです。特に、本心とは裏腹な行動や発言をした場面が出題の対象になることが多くありますので、そうした場面があった際には、主人公の言葉をストレートに受け止めるのではなく、前後の表現に十分に注意して、本心が見えるような部分をしっかり把握するように意識しましょう。行動や発言が本心とは裏腹であることがつかめれば、心情の動きがスムーズに理解できるようになります。また、自分の気持ちが理解できないいらだちや、自己嫌悪に陥るケースが多くなりますので、注意が必要です。
ここまで物語文すべてのテーマが「心の成長」に集約されるとお話してきましたが、入試問題の中には主人公が心の成長を果たす前に文章が終わっているケースも見られます。特に上位難関校では、主人公が心の葛藤の最中にいるところで文章が終わることがあります。でも焦らないでください。文章にはなくても物語の進む道筋のゴールには、すべて心の成長があるので、物語文の7つの小テーマに注目してどの読解パターンなのかを見極めてください。
私共鉄人会では、これまで入試での出題が予想される物語をメルマガのかたちで多数ご紹介してきました。メルマガでは各物語のテーマを提示していますので、ぜひそちらをご覧頂いて、テーマを意識した読書の参考にされてください。6年生のお子様方は書籍を読む時間はないかと思いますが、メルマガにあります予想問題の解答解説を読めばテーマについての理解を深められます。
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