瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』(文藝春秋)は来年度中学入試で出題が予想される、家族を描いた傑作です!

amazon 瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』(文藝春秋)

 中学受験国語の題材としても、もちろん鑑賞する作品としても、極めて魅力的な物語です。
 中学受験国語の頻出作家の一人、瀬尾まいこによるこの家族の物語は、17歳の主人公・優子に父親が3人、母親が2人いるという異色の設定ではありますが、優子と親たちの交わす言葉、優子が成長していく姿を見守っているうちに、稀有の幸福感を抱くことができます。
 物語の構成は、17歳の優子の高校生活をメインに描く第1部と、大人になった優子の姿を描く第2部から成りますが、随所に、優子の少女時代が挿入されていきます。親が変わる節目での優子の姿が回想場面として描かれているのです。この構成がまるで短編集のようであり、問題が作成しやすいという点で入試に出題される可能性が高いと考えられることはあります。ただ、それより何より、切なく胸に迫ってくる優子の心情表現をしっかり受け止めることを中学校の先生方がお子様方に求めると強く思われるがゆえに、ぜひおすすめしたい作品なのです。

 中学受験の視点からぜひ注目して頂きたいのが、いくつかある回想場面の中のひとつ、123ページから129ページの小学5年生時代の優子を描いた場面です。2人目の母親・梨花と住むアパートの大家さんと優子が何気なく会話を交わすくだりから始まり、優子が大家さんの飼う犬を連れて川沿いの道を散歩するまでの、ほんの短いエピソードですが、そこには父親を失ったことの悲しみを受け入れきれず、それでも前を向いて歩こうとする優子の姿が美しい心象風景と相まって描かれています。等身大の人物が悲しみに向かう姿を見られる貴重な機会となりますので、ぜひ多くのお子様に触れて頂きたいです。
 また、物語のメインとなる優子の高校生活も魅力的な場面が満載です。例えば優子が一時、ある出来事がきっかけで友人関係が破たんし、学校で孤立してしまう時期があります。そんな状況に置かれた優子の立ち振る舞いは、他の作品で描かれる、同様のシチュエーションに置かれた少女たちの姿と比べても、異彩を放っています。何ともたくましく強く日々を送る優子に心から拍手を送らないではいられなくなるのです。
 それ以外にも、様々に際立ったキャラクターの大人たちと優子との掛け合いなど、思い出すだけで笑顔になり、また切なくもなる名場面に満ち満ちた、まさに傑作です。今年の注目の一冊となることは間違いないでしょう。まずはぜひ本屋でご覧になってみてください!

入試対策室 室長 筑駒 貝塚正輝

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