No.1736 大人に理解されない苦しみの中で支え合う2人の5年生の成長物語!『夏の迷子』村上しいこ

amazon『夏の迷子』村上しいこ(フレーベル館)  

 それぞれに家庭の問題を抱える2人の小学5年生、純成(じゅんせい)と、みことが、互いに支え合いながら心の成長を遂げて行く姿が描かれた物語です。著者・村上しいこ氏は、著作品がこれまで、『ダッシュ!』学習院中等科(2015年度)などで、『うたうとは小さないのちひろいあげ』日本女子大学附属中(2016年度)などで、『みつばちと少年』成蹊中(2022年度)などで、そして『海は忘れない』ラ・サール中(2026年度)などで出題されており、近年の中学入試物語文で多くの注目を集めている重要作家のひとりです。

 自分たちの真の想いを理解しようとしない大人たちの言動に戸惑い、抗う純成とみことが、同級生たちの支えを受けながら心の成長を遂げて行く過程が、2人それぞれの視点で語られる章が交互に連なる構成でつづられています。

 読みやすい文体でありながら、身の周りの障壁を乗り越えて行く2人の姿を通して「友人関係」「家族関係」といった重要テーマが深く描き込まれた本作品は、来年度入試で女子校・共学校を中心に、中堅校から難関校まで幅広く多くの学校での出題されることが予想されます

【出題が予想される箇所】
P.146の1行目からP.158の1行目

 みことが、精神的に不安定な状況に陥ってしまう母親に代わって生活のサポートをしてくれている伯母から、転校するため「学童にも行かなくてよい」と告げられたことで心を乱す様子が描かれた場面です。

 みことの生活の安定のために提案をしてくれている伯母の気持ちは理解しながらも不安にかられるみことの様子から、みことが何を不安に思っているのか、伯母の言葉がみことにはどのように響いているのか、そして『こどもの権利条約』を目にしたみことの心の中にどのような変化が生まれたのかを、丁寧に読み取って行きましょう。

【ここがポイント】

 主人公のひとりである純成は、幼い頃に両親が離婚してしまったため、父親の記憶についての記憶がなく、父親に会いたいという気持ちを日々抑えられなくなっています。そんな気持ちを母親に打ち明けることができず、強い想いが解消されないままに心の奥底でうごめいているため、純成は将来のことも思い浮かべられずにいるのです。そんな自分のことを純成は「心が迷子になってしまうのだ。」(P.46の12行目)と表しています。

 もうひとりの主人公であるみことも、父親がいないという共通の境遇にいる純成が心に負荷を抱えたままでいる様子が気にかかり、伯母の勧めのままに転校することで純成と会えなくなってしまう事態を避けたいと思っていながらも、やはりその想いを伯母に伝えられずにいます。

 この物語では子どもたちの心の奥底にある想いをくみ取れないでいる大人たちの姿が描かれていますが、純成の母親も、みことの伯母も子どもたちにとってより良い環境を作り出そうとする意向に強く支配されているがために、彼らの想いに気づけずにいるのであって、そこに悪意は全くありません。

 一方の子どもたちも、純成が母親に対して「お母さんの視界から、ぼくが消えている。」(P.73の8行目)と憤り、みことが転校の手続きを進める伯母の姿に、「おばさんにとっては、手帳の予定欄に書いてあることで、それ以上の意味はないだろう。」(P.152の5行目から6行目)と嘆く場面はあるものの、大人たちの立場を思い、想いを吐露するという一歩が踏み出せずにいます。

 その状況を、みことが以下のように表しています。

こまらせてはいけない世界で、みんな生きている。(P.149の3行目)

 そして純成もまた、父親に会いたいという気持ちを七夕の短冊に書かなかった理由について、以下のようにみことに話しているのです。

お母さんや、お母さんの恋人に遠慮して書けなかった。(P.102の4行目から5行目)

 純成と母親、みことと伯母の心のすれ違いは、互いを思いやる気持ちがあるからこそ生まれているもので、ここから「他者理解の難しさ」を読み取ることができます。

 そうした事態を解決するには、想いを言葉にして相手にぶつけるより他ないのですが、純成もみことも、それによって大人たちを困らせることを恐れ、躊躇してしまっています。

 そんな純成とみことにとって貴重な機会となったのが、同級生の三宅穂乃花(この物語におけるキーパーソンのひとりです)に導かれて訪れた市役所で受け取った『こどもの権利条約』のパンフレットでした。そこに記載された条約を目にした二人は、それぞれに大事な一歩を踏み出して行きます。

 ここから2人が大人たちに働きかける行動からは、「言葉で伝えることの重要性」が強く伝わってきます。

 こうして2人が新たな一歩を踏み出すことで物語は新たな展開を見せ、そして最後には、思いも寄らない結末が用意されています。この結末まで読み通すことで、爽快で心が温かになる読後感を味わうことができます。

 「家族関係」、「友人関係」といった重要テーマを軸に、「他者理解の難しさ」、「伝えることの重要性」といったテーマも盛り込まれ、さらには読書の楽しみを提供してくれる本作品を、多くの受験生の皆さんが手にされることを切望しています。読みやすい文体で、登場人物たちの心情が丁寧に描き込まれていますので、5年生はもちろん、読書好きな4年生にもぜひ読んで頂きたい一冊です。

 われわれ中学受験鉄人会のプロ家庭教師は、常に100%合格を胸に日々研鑽しております。ぜひ、大切なお子さんの合格の為にプロ家庭教師をご指名ください。

 

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