No.1063 中学入試最頻出テーマ「心の成長」が描かれた注目作!『みつばちと少年』村上しいこ(講談社)予想問題付き!

amazon『みつばちと少年』村上しいこ(講談社)

 夏の北海道を舞台に、他者との接し方を苦手とする少年が、様々な境遇にありながらも、強く生きようとする子供たちと出会い、気持ちをぶつけ合いながら成長して行く過程がじっくりと描かれています。
 著者・村上しいこ氏の作品では、これまで『ダッシュ!』が学習院中等科の2015年度入試などで、『うたうとは小さないのちひろいあげ』が日本女子大学附属中の2016年度入試などで出題されてきました。「心の成長」という頻出テーマが扱われている本作も、来年度中学入試で出題される可能性の高い名作です。

【あらすじ】

≪主な登場人物≫
松井雅也(まついまさや・中学一年生の男子)
海鳴・杏奈・瑛介・ゆず・麻央(かいなる・あんな・えいすけ・ゆず・まお:施設「北の太陽」で暮らす子供たち)
谷村志保子(たにむらしほこ・「北の太陽」の運営者)
栄(さかえ・志保子の娘)

≪あらすじ≫
 中学一年生の雅也は、他人とのコミュニケーションを苦手としていることで、学校のクラスで孤立していました。雅也は夏休みの期間に、養蜂場を営むおじさんが住む北海道に行ったことがきっかけで、「北の太陽」という施設で寝泊まりすることになります。そこでは、5人の子供たちが様々な事情で家族と離れて暮らしていました。子供たちとの触れ合いや養蜂場の仕事の手伝いを通して、雅也の心のあり方に次第に変化が生まれてきます。

【中学受験的テーマ】

 本作品の中学受験的テーマは、「心の成長」です。
 雅也が「北の太陽」での生活を通して、相手の置かれた環境に思いを寄せたり、自分の言葉が他者に受け止めてもらえることの喜びを感じるといった経験を重ねることで、自分を見つめ直し、他者への接し方に変化を生じさせて行く過程をしっかりつかむことが読解のポイントになります。

【出題が予想される箇所】
P.162の1行目からP.173の8行目(第15章「太陽会議」)
麻央の母親が麻央に会いたがっていることについて、「北の太陽」のメンバーが集まって話し合う場面

 他者を思いやることができるようになった雅也ですが、それだからこそこれまでにない葛藤を抱えるようになります。そのことが顕著に表された場面です。

 この場面に、雅也の心の変化、成長がうかがえる次のような雅也の言葉があります。

「みんなといて、だれかを守るって、けっきょくふれあうことなんだって、思えるようになってきた。」(P.164の1行目から2行目)

 「北の太陽」で暮らす子供たちに対して抱く雅也の感情の核となるこの部分をしっかり踏まえておくと、この場面での雅也の心情をより一層深く理解することができます。

【予想問題1】
P.169の5行目から6行目「重すぎるからこそ、感情をコントロールしているのかもしれない」とありますが、ここで感情をコントロールする理由について80字以内で説明しなさい。
≪解答のポイント≫

 まず、感情をコントロールするとは、具体的にはどのような行動を指すのかを考えます。
話し合いをする前に海鳴が雅也に伝えた言葉にある、会議のルールを見直すと、そこに行動の内容が示されていることがわかります。

人の意見を攻撃しない。どならない。きまったことにはしたがう。(P.166の12行目から13行目)

 実際に問題該当部の直前にあるゆずと志保子さんのやりとりを見てみましょう。志保子さんから、「いまの『バカ』は、攻撃的な発言よ」と注意されたのに対し、ゆずはすぐに謝っています。海鳴の言うルールが子供たちの中に浸透していることがわかります。
 なぜ、このように感情をコントロールしなければならないのかについて、問題該当部の前にある、ゆず、杏奈の言葉に注目してみましょう。
 麻央の母親の行動に対して、ゆずも杏奈もその身勝手さを非難します。その背景として、彼女たちがそれぞれの理由で、家族と離れた生活を送らざるを得ない状況にあることが、彼女たちの言葉からわかります。話の内容が重いからこそ、彼女たちが麻央の置かれた立場を自分に置き換えた際に、自分のことのように思えて感情がおさえられず、相手に対し攻撃的な心情になってしまい、互いに傷つけあってしまうかもしれない。それを避けるために、海鳴が言ったルールがあると考えられます。

≪予想問題1の解答≫

 麻央の置かれた境遇と自分たちの過去を重ね合わせてしまい、感情のままに行動してしまうと、互いに攻撃的になってしまい、傷つけあってしまうと考えられるから。(75字) 

≪予想問題2≫
P.170の2行目から3行目「ああ、ここにいると、わからないことばかりでつらくなる。それでいて、ここにいると、なぜかあたたかみを感じる。」とありますが、「あたたかみ」を感じながら、「つらくなる」という雅也の様子について、60字以内で説明しなさい。
≪解答のポイント≫

 問題となる箇所は「ここにいると」という表現が繰り返し出てくる、対句のかたちになっています。それぞれに続く言葉が前者は「つらくなる」、後者が「あたたかみを感じる」と、対照的な内容になっています。このような、対句のかたちで異なる内容を並べた表現は、説明を求められることが多くありますので、注意しておきましょう。

 前半の「わからないことばかりでつらくなる」は雅也が、麻央がこのまま「北の太陽」にいるべきか、母親の元に帰るかの答えが出ないことへの答えが出せないでいる様子を指していることは、すぐに把握できるでしょう。

 ポイントは後半の「あたたかみ」がどのような気持ちを表すかですが、P.172の7行目から8行目の以下の部分に注目します。

「ぼくはいま、みんなの命がいとおしくて、胸がドキドキして。だからなおさら、どうしていいのかなんてわからないんです。」

 この部分と、先にご紹介したP.164の1行目から2行目の「だれかを守るって、けっきょくふれあうことなんだ」とを結びつけて、解答を構成して行きます。

 麻央が自分にとって大事な存在であるから、その命がいとおしく、守ってあげたいと思う。心がふれあう程に近くに感じる子供たちと過ごす時間が、自分の心の居場所になっていることに気づいた雅也の喜びが、「あたたかみ」という言葉に込められていると読み取れます。

 以上の内容を字数に注意してまとめてみましょう。

≪予想問題2の解答例≫

 麻央がいとおしく、守りたいと思うからこそ、麻央がどうすべきかについて簡単に答えを出すことができないでいる。(53字)

【最後に】

 主人公・雅也が「北の太陽」の子供たちとの心の交流を重ねていく様子が、とても読みやすい文章でつづられている、読み物としても傑出した作品です。随所に織り込まれている北海道の美しい情景の数々も、雅也の心が次第に開かれていく過程をより鮮明にイメージするための大きな要素になっています。
 人物たちの言葉がどれもストレートに表現されていることから、言葉の背景にそれぞれの人物が置かれた環境にまで考えて解答を作り出す練習として恰好の作品と言えます。

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