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慶應普通部の平成20年度の理科で、「カレーライスの作り方」が出題されたことはご存じでしょうか。後に詳しく説明しますが、問題ではカレーライスを作る調理の手順が出題されるなど、理科の要素を用いて解くものではない問題が出されたことで、話題になりました。特殊な問題ではありますが、この問題には慶應普通部からの「普段の生活の中での観察力、洞察力を問う」というメッセージが込められています。こうした問題に対応するには、どうすればよいのでしょうか。ただテキストを使って勉強するだけで解ける問題ではありません。
対策のポイントは「手伝い」をすることです。家の手伝いをすることでしか習得できないことが、中学受験で出題される内容には含まれています。そこで今回は中学受験対策を進めるうえでの、「手伝いのススメ」をテーマとします。
先に触れた慶應普通部の問題は「下の材料を使って、カレーライスを作りました」の一文から始まります。問1では、(ア)水を入れて煮る、(イ)カレールーを入れて煮込む、(ウ)野菜と肉を食べやすい大きさに切る、(エ)バターでいためる、の過程を調理する順番に並び替えることが指示されます。また問2は、煮込みに適した火の強さを、種火・弱火・中火・強火から選ぶものでした。問3は、野菜を切った包丁をそのままにしておくと、白いものが一番多く出てくるのはどの野菜か、という問題で、一見家庭科でありながら、白い物質がデンプンであることに気づく理科の視点が求められるレベルの高いものでした。これらの問題は理科の知識だけで対応できるものではなく、家庭でカレーライスを作る場面を見ていなければ手も足もでないでしょう。
また平成21年度の巣鴨中学のⅠ期理科では、野菜の食べ方として、実の部分を食べるもの、花の部分、茎の部分を食べるものを選ばせる問題が出されました。植物を区別する際に、花のつくりや種子の散らばり方を基準とすることは理科であっても、食べ方まではなかなか触れられません。
こうした問題に対応するためには、お子さんに家の手伝いを習慣づけることが大きな効果をうみます。できれば低学年のうちから始めさせたいところです。
例えば野菜を洗う、でも食器を運ぶでも構いません。とにかくお子さんが台所に足を運ぶ機会を多くして、親御さんが調理をしているところを自然に見せることです。そこで、お子さんから「何を作っているの?」との問いかけがあれば何よりですが、そうでない場合には、さりげなく「いまカレーを作っているんだけど、これから煮込むところだよ」などと、過程を知らせてあげて下さい。これから食べられる大好きなカレーライスができる過程となると、お子さんの目の色も変わってきます。
また、野菜の食べ方でも、例えばお子さんにサラダを食卓まで運ばせる際に、ミョウガとキュウリがあれば、「それぞれどの部分だと思う?」と聞いてみてもよいでしょう(ミョウガは花、キュウリは実です)。
あくまでも、強制しすぎること、受験勉強の一環であることを伝えるのは避けましょう。手伝いは労働ですから、お子さんの多くは負担に感じます。それに加えて、これも受験勉強と言われると、モチベーションがさらに下がってしまう危険性があります。あくまでもさりげなく習慣づけることがベストです。
手伝いが有効になるのは理科だけに限りません。他の科目でも大きな効果を生み出すことがあります。
例えば新聞の朝刊をポストから持ってくるという手伝いをする際、ひとこと「一面の見出しには何て書いてある?」と問いかけて見て下さい。そこでわからない漢字があれば国語の勉強になり、また見出しを見て「接続水域って何?」とお子さんから質問が出れば、それだけで社会の時事問題対策になります。
買い物の手伝いをする際も、例えばスーパーで「茄子」という表示があれば漢字テストができます(正解はナス)。実際に平成18年度の攻玉社中学の第二回国語で胡瓜(キュウリ)、西瓜(スイカ)、胡桃(クルミ)南瓜(カボチャ)の読み方が出題されました。
その他にもスーパーは題材の宝庫です。タイムサービスの時間を狙って行けば、商品には「30%引き」などのシールが並びます。そこで、「200円の30%引きだといくらになる?」と問いかけて、「170円!」と答えないかどうかの確認(正解は200円×0.7=140円)をすれば、算数の売買損益の練習になります。
算数の演習という点では、親御さんがしっかり見守ることを前提に、豆腐を切る手伝いをさせて下さい。言うまでもなく算数の立体図形「図形の切断」の演習につながります。多くのお子さんが苦戦する単元ですが、イメージができないことが大きな理由です。塾でも発泡スチロールの立体を使って解説をすることがありますが、自分の目と手で確かめることが一番です。 同じことはゴミの日に雑誌を出す時に、ヒモで雑誌の束を括る際にも、立体のまわりを線で結ぶ問題のイメージにつながります。家庭には様々な立体が隠れていますので、親御さんもアイデアを出されて、お子さんの興味を喚起してはいかがでしょうか。
手伝いは、親御さんが普段されることを、お子さんがするということで、そこに立場を思いやるという気持ちが生まれます。野菜を洗う時の水の冷たさ、雪かきをする時の手のかじかみ、ゴミを出す時の暑さ・寒さ…これらを普段は当たり前のように親御さんが家事をされる中で感じていたことに、お子さんが気づくこと、これは大きな価値があります。もちろんお子さんの成長を促すものでありますが、実際の入試問題の対策になるのです。
開成中で平成20年度に出題された、人の人生や経験を知って、頭を下げたいと気持ちになったときのことを記述させる問題(第2問・問2)、立教新座中・平成20年度第2回の登場人物の立場に立って手紙を書く、という問題(第2問・問9)、光塩女子中・平成22年度第1回の、正しいことがひとつではないことについて経験をもとに記述する問題など、中学受験の国語では、受験生がどれだけ相手の立場に立ってきたかを問う記述問題が非常に多く出されます。こうした記述問題を前にした時、付け焼刃的な対策だけでは何も書けません。普段から、相手の立場に立つことをどれだけ意識するか。それには日々の手伝いが大きな効果があります。
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