No.1577 2025年度入試で最も出題された物語文はこの6冊だ!

 2025年度入試で最も多くの学校で出題された作品とは?2025年度はどんな作品が出題される傾向にあったのか?
 頻出作品、最難関校で出題された作品を通して見える「2025年度入試の出典傾向」について探って行きます。
 今回の内容は以下の通りです。

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1.最も出題された6冊
2.今年度の物語文出典の傾向について
【頻出作品はいずれも「他者理解」+「自己理解」をテーマに】
【麻布中、豊島岡女子中も「他者理解」+「自己理解」から出題】
【「他者理解」+「自己理解」が頻出となる背景とは】
【一般文芸書の長編作品からの出題が増加傾向に】
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1. 最も出題された6冊

 今年度入試で最も多くの学校で出題されたのは、以下の6作品となりました。

『透明なルール』(佐藤いつ子) 10校
出題校:早稲田実業、立教女学院中、吉祥女子中(第1回)、大妻中(第2回)、城北中(第1回)、栄東中(B日程)、西武文理中(特待)、神奈川学園中(A午後)、昭和女子大昭和中(本科AA)、鶴見大附属中(難関進学3次)

『あの空の色がほしい』(蟹江杏) 9校
出題校:慶応義塾湘南藤沢、海城中(②)、サレジオ学院中(B試験)、学習院女子(B入試)、横浜共立中(A方式)、大妻中(第1回)、明大中野中(第2回)、国学院久我山中(第1回)、三輪田学園(第2回)

『八秒で跳べ』(坪田侑也) 7校
出題校:城北(第2回)、成城中(第2回)、聖光学院中(帰国)、栄東(東大Ⅱ)、山脇学園中(一般C)、共立女子中(第1回)、開智中(第2回)

『ぼくの色、見つけた!』(志津栄子) 6校
出題校:横浜雙葉中(1期)、暁星中(第1回)、鎌倉女学院中(1次)、大妻中(第3回)、跡見学園中(一般第1回)、日本大学中(A-1)

『アルプス席の母』(早見和真) 5校
出題校:立教池袋中(第1回)、城北中(第3回)、本郷中(第3回)、山脇学園中(国語1科)、佼成学園中(第1回)
首都圏以外の学校では、海陽学園中(入試Ⅰ)、愛光中、ラ・サール中といった東海地方以西の最難関校でも出題されていました。

『カラフル』(阿部暁子) 5校
出題校:芝中(第1回)、明大八王子中(第1回A)、神奈川学園中(A午前)、森村学園中(第2回)、日本大学第三中(第1回)

2.今年度の物語文出典の傾向について

【頻出作品はいずれも「他者理解」+「自己理解」をテーマに】

※テーマについては、メルマガ「中学受験の国語物語文が劇的にわかる7つのテーマ別読解のコツで詳しく説明していますので、ぜひご覧になりながら読み進めてください。

 2025年度入試の物語文出典の傾向として、2大最重要テーマ「他者理解」「自己理解」を扱った作品が昨年度に引き続き多くの学校で見られたことが挙げられます。

 友人関係や親子関係の中で「他者の気持ちを理解すること」、「人と人とのつながり」を考え直すといった「他者理解」を通じて「自分が本当に表現したいことは何なのか」「本当の自分とは何なのか」といった「自己理解」を深めるという構図が、とても多くの作品で見られました。

 今年度最も多く出題された6作品はいずれも「他者理解」「自己理解」の2テーマが共存する内容でした。

 『透明なルール』『ぼくの色、見つけた!』『カラフル』については、昨日配信のメルマガ「2025年度入試で出題される確率が高い物語ベストテン!の答え合わせ」で詳しく説明していますので、それ以外の3作品について、その内容、主要校の入試問題でどのように出題されたのかを振り返ってみましょう。

『あの空の色がほしい』(蟹江杏)

 絵を描くのが大好きで、画家になることを夢見ている小学生女子のマコが、自分とクラスメイト達との価値観の違い、浮いた存在として見られることに違和感を抱きながら、我が道を行く芸術家の「オッサン」との交流を重ね、両親に励まされながら、自分にとっての表現の価値を見出して行く物語でした。

 テーマとしては「自己理解」を進める主人公マコの姿を描いており、海城中では、クラスメイトとの衝突とその後の母親との会話を通しての「他者理解」をきっかけとして、マコがどのような想いで表現と向き合うかを記述させる問題が出ました。そして本作品の大きな特徴は、中学受験で多く問われるような心情表現が満載であることです。海城中、学習院女子、横浜共立中では、いずれも「本心とは裏腹な行動、表情を見せる人物の様子」が出題対象となっていました。

『アルプス席の母』(早見和真)

 野球で甲子園を目指す航太郎の母親・菜々子の視点で語られる母と息子の物語で、350ページにも及ぶ長編小説ですが、息子の航太郎だけでなく、母である菜々子の成長も描く、二重の成長物語という構成が秀逸で、2025年の本屋大賞にもノミネートされています。

 中学受験的テーマとしては「他者理解」の中でも頻出の「家族関係」が、母・菜々子、息子・航太郎、そして亡き父親の関係性を通して描かれ、そうした他者との心の交流を通して「自己理解」を深め、成長して行く母と息子の姿が表されています。ラ・サール中、城北中、山脇学園中ではいずれも出題箇所は異なりましたが、もがきながらも成長する息子への菜々子の想いが出題対象となっていました。

『八秒で跳べ』(坪田侑也)

 慶応義塾大学医学部に在籍する2002年生まれの坪田侑也氏による、高校バレーボール部を舞台にした物語でした。足の怪我がきっかけで調子を崩し、バレーボールとの向き合い方に悩む主人公・景が成長を果たす過程が描かれた、全編335ページの長編成長物語です。

 「他者理解」の中でも頻出の「友人関係」「自己理解」の中でも重要な「挫折からの再生」というテーマを真正面から描き切った作品でした。栄東中、城北中では同じ箇所(栄東で中略がありましたが)からの出題で、主人公の景が部内のライバルと対峙することで深く挫折を味わう場面が出題対象となり、山脇学園中ではライバル校の選手、友人の女子校生・真島綾との会話を通して景が再生のきっかけをつかむ場面からの出題となりました。

 こうして今年度入試で出題校数が多かった作品を見ると、「他者理解」と「自己理解」というテーマの重要性をあらためて認識することができます。

 『透明なルール』はクラスメイトの考え方に触発(他者理解)され、「同調圧力」という社会的にも重要な現象に自分がどのように向き合うかに気づく(自己理解)といった構成でした。

 『あの空の色がほしい』『ぼくの色、見つけた!』では家族や友人への他者理解をきっかけに、絵を通した自己表現を追究する主人公が「自己理解」を深める様子が描かれています。

 そして『アルプス席の母』『八秒で跳べ』はいずれもスポーツに打ち込む中で挫折を味わい、そこから再生する「自己理解」の過程がじっくりと描かれ、そこに『アルプス席の母』では「親子関係」『八秒で跳べ』では「友人関係」といった「他者理解」の要素が色濃く反映されていました。

【麻布中、豊島岡女子中も「他者理解」+「自己理解」から出題】

 麻布中第172回直木賞(2024年下半期)を受賞した『藍を継ぐ海』(伊与原新)からの出題でしたが、ウミガメの産卵地として知られる徳島県姫ケ浦で祖父と二人で暮らす13歳の沙月が、ウミガメ監視員である佐和の言葉を受けて、故郷から離れられないとしていた自分の心を解放させて行く様子が描かれていました。この麻布中の問題もまた、佐和という人物との心の交流(他者理解)を通して、自分らしい生き方を見出して行く(自己理解)、主人公・沙月の心情の変化を出題対象としています。

 また、豊島岡女子中では『息のかたち』(いしいしんじ)を出典として、後頭部に衝撃を受けた影響で、人が吐く息の色かたちが目に見えるようになった女子高生・夏実が自分の進路について気持ちを固める場面を中心に出題されていました。その中で、夏実が父親との会話を通して自分の進むべき道を決めて行く過程の描写には、「親子関係」とそこから自己理解が深められて行く様子が表されていました。

【「他者理解」+「自己理解」が頻出となる背景とは】

  こうした「他者理解を通して自己理解を深める」といったテーマが多く扱われる背景には、まさに『透明なルール』で描かれたような「同調圧力が強まる事態」への危機感から、「本当の自分」を強く持つために、「自己理解」を進めて欲しい、そのためにはSNSを通してばかりではなく、友人や家族と真正面から向き合って、相手の心を受け止める「他者理解」の機会を多く持って欲しいという中学校の先生方の強い想いがあると考えられます。

【一般文芸書の長編作品からの出題が増加傾向に】

 今年度最も多く出題された6作品のうち、『あの空の色がほしい』『アルプス席の母』『八秒で跳べ』『カラフル』の4作品は、児童書ではなく大人を読者対象とする一般文芸書にジャンル分けされます。また『アルプス席の母』が全351ページ、『八秒で跳べ』が全335ページと、大人が読むにもボリュームを感じる長編作品を多くの学校が出典とする特徴が見られました。

 さらに、こうした長編の一般文芸書を出典とする学校が偏差値上位の難関校に限定されることなく、幅広い偏差値層の学校に行き渡っている点が注目に値します。

 それでも、「中学受験の物語文読解が著しく難化した」とまでは言えないと考えます。『アルプス席の母』『八秒で跳べ』『カラフル』では、高校生(『アルプス席の母』はその母親も)の心情読み取りが出題対象となっており、中学受験生にとって等身大とまでは言えなくとも、想像もつかない状況での心情が問われているのではないのです。

 また、どの作品も難解な語句は多くは見られず、登場人物と同じような実体験がなくとも、文章の流れをじっくりと追って行けば十分に読み取れる心情が出題対象となっている点では、「著しく難化」とは言えないでしょう。

 ただ、児童書と比べると、一般文芸書で描かれる心情の動きはどうしても複雑になります。そうした内容を、偏差値に関わらず幅広く多くの学校が出題するという状況を鑑みると、心情読み取りで求められる読解力のレベルは全体的に底上げされていると考えられます。

 そうした状況に対応するために、読み取りづらい心情表現に数多く触れることは必須となります。ただ、6年生は読書の時間を捻出することは難しく、300ページ以上にもなる長編の一般文芸書を何冊も読むことは難しいでしょう。まずは普段の演習や模試で触れた難度の高い心情表現については、問題に正解したか否かに関わらず、どこまで理解できていたか、じっくり見直しをするようにしてください。 

 その上で、春休みや夏休みの時間を使って、長編にこだわる必要はありませんので、一般文芸書に触れる機会をぜひ持ってみてください。それが大きな効果となって入試問題を攻略するための読解力アップにつながります!

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