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このメルマガでは、近年における中学受験の国語において「象徴的存在の読み取り」の重要性について何度かお伝えしてきました。その例の中で、身近なテレビドラマや映画などを例にして参りましたが、今回は「絵画」という切り口から考えていきたいと思います。
著者は、今夏、東京都美術館で開催されておりました「マウリッツハイス美術館展」に行って参りました。一般的にもよく知られている17世紀のオランダの画家、ヨハネス・フェルメールの代表作品である「真珠の耳飾りの少女」が’来日’したということで話題になり、足を向けられた保護者の方もいらっしゃるかもしれません。
今回の展覧会では、夏休みということでお子様向けのプログラムが用意されていました。一つは「お絵かきボード」の貸出サービス。絵をよく見て描いてみると、作品をじっくりと感じることができるからなのだそうです。これは、お子様が作品を理解することはできなくても、本物を見て感受性を高められるいい経験なのではないかと思いました。
二つ目はお子様向けの説明文。大人向けの解説文のほかに、親子で一緒に作品を楽しむためのアプローチとなる文章が書かれており、この中で作品中に暗示されているテーマや、象徴的存在についてのヒントが示されていました。ただし、その答えは大人向けの解説文にもはっきりとは説明されていなかったので、親子で対話をしながら一枚の絵画について考えが深められるような作りになっていたと感じました。
さて、その展示会では風景画・歴史画(宗教的な物語絵)・肖像画などの様々なカテゴリーの絵画・彫刻が展示されていましたが、その中でも特に静物画をとりあげて、国語の読み取りと重ねて考えていきたいと思います。
今回著者が見た展覧会での静物画は、7点ありましたが、その中の4点に共通して描かれていたのが「時計」です。なぜこんなに時計が描かれているでしょうか。絵画の中で時計とは「時間の経過」とともに「空虚・虚栄・はかなさ」の象徴だということです。
「時間の経過」に注目をして一つの絵画を例にあげましょう。ピーテル・クラースゾーンという画家が描いた「燃えるろうそくのある静物」という静物画には燃え尽きる寸前のろうそく・ろうそく消し・数冊の本・眼鏡が並んでいます。暗闇に揺れるろうそくの炎がほのかにワイングラスに映し出され、そのグラスから伸びた影がテーブルと本に投げ出されており、華やかではありませんが光の効果の美しい作品です。
この絵は肯定的なものから否定的な意図まで様々な解釈がされているようですが、これらのモチーフは「人生のはかなさ」を感じさせます。まず、燃え尽きる寸前のろうそく。いつかは消えてしまうもの。また、数冊の本は年鑑です。年が変われば何の役にも立たなくなってしまうもの。つまり、ろうそくの火がいつかは消えてしまうように、知識も永遠は望めず消え失せてしまう、ということが伝わってくる作品です。
「本を読む」という行為に比べて、絵画鑑賞で象徴的存在に触れることの利点として静物画に描かれているものは限られたモチーフですので、文章中に隠れている象徴的存在に比べて、はるかに注目しやすいという点があげられます。絵画鑑賞をしながら、様々なモチーフが象徴しているものに触れることは文章中に表現されている情景・静物・人物の表情・会話など、さまざまな部分に筆者の意図があることに気づく練習になっていくでしょう。
また、静物画と並んでお勧めしたいのが風俗画の観賞です。1枚の絵画に描かれた人物・背景から、複数の人物がいる場合はその関係・季節・起こった出来事・描かれた心情などを想像します。こちらは、文章よりも情報が少ない場合もありますが、やはり限られた範囲に描かれて手がかりから情報を集め、物語を組み立てていきます。もちろん、絵画の場合は物語と比べて自由な解釈ができます。そこを活用して、一枚の絵画を通して親子の会話をしながらお子様の常識力を高めるという活用法もできるでしょう。
さて、今回のメルマガでご紹介したマウリッツハイス美術展は、東京での開催は終了してしまいましたが、場所を西日本に移しまして神戸市立博物館で9月29日から2013年1月6日まで開催されています。東京で見逃してしまったけれど、貴重な絵画が来日している間にぜひ観てみたい、という方は神戸へのご旅行ついでに美術館に行かれるというのもよろしいかもしれませんね。
もちろん、受験生のご家族には遠出は難しいでしょう。しかし、都内にある美術館の常設展でも素晴らしい展示はたくさんあります。模試の帰り、お近くの美術館に1時間寄り道して親子で美術作品を楽しむ。お子様の息抜きも兼ねて国語の読解に新たな見方を加える時間を過ごしてみてはていかがでしょうか。
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