📣塾講師・プロ家庭教師の皆様、あなたの時給を翌営業日までに一発診断!
【営業時間:11:00~19:00 土日祝休業】 TEL:0120-265481
本作品は著者・坂城良樹氏のデビュー作で、2023年第12回ポプラ社小説新人賞の奨励賞を受賞しました。
未知のウィルスに感染してゾンビになってしまった「おじさん」と小学3年生の少女の心の交流といった設定こそ特異ではありますが、中学受験最重要テーマの「他者理解」をメインテーマとした傑作です。
境遇こそ違っても共に「孤独」と向き合っているあんずとおじさんの関係の深化を軸に、様々なかたちの「他者理解」が描かれ、さらには「差別やいじめ」といった社会的テーマや「言葉の力」といった重要テーマが盛り込まれています。
おじさんや周りの人物たちとの交流を経て、他者理解の難しさに直面しながらも成長して行くあんずの姿を、読み手を物語の世界にグイグイと引き込む力強い筆致で描き切った本作品は、中学校の入試問題担当の先生方の注目を集めることが必至で、来年度入試では上位から最難関の男子校・共学校を中心に多くの学校で出題されることが予想されます。
≪主な登場人物≫
早坂あんず(はやさかあんず:小学3年生の女子。両親の離婚によりタワーマンションから川向うのアパートへと母と共に引っ越し、仕事で忙しい母を手伝いながら2人での生活を送っている。ある日を境に、同級生たちからのいじめの標的となってしまう。)
カブラギコウキ(あんずと同じアパートに住む男性。あんずは「おじさん」と呼んでいる。ゾンビ・ウィルスに感染したが、感染前と同じ意識を保つ「コンシャス」であり、凶暴性はなく、言葉も通じる。部屋には多量の本の所蔵があり、アパートで禁止されているが、猫を飼っている。)
※おじさんは途切れ途切れに話すため、おじさんの言葉には不規則に読点「、」が入ります。
里中さん(さとなかさん:あんずのひとつ下の階に暮らす老人女性。あんずは「おばあさん」と呼んでいる。車椅子で生活する夫との二人暮らしで、息子は若い頃に亡くなっている。)
≪あらすじ≫
早坂あんずは両親が離婚したため、それまで住んでいたタワーマンションを離れ、母親と一緒に川をはさんだ向かいの町のアパートで暮らしています。母親が仕事で忙しいため、あんずは買い物や洗濯など、家事の手伝いをしています。
ある時、あんずは同じアパートにゾンビの男性が住んでいることを知ります。あんずが生まれる前にゾンビのパンデミックが世界中に広まり、大混乱を引き起こしました。未知のウィルスに感染してしまうと言葉が通じなくなり、乱暴になり、人に襲いかかるゾンビとなってしまうため、その制圧に警察や自衛隊が出動するまでの事態になっていました。
その後、ゾンビには凶暴性を持つものと、感染前の意識を保って言葉が通じ、乱暴な行動を起こさない「コンシャス」の2種類がいることが判明しました。凶暴なゾンビは姿を消し、「コンシャス」は隔離施設に監禁されていましたが、差別的な待遇に反対する声があがったことで、あんずが小学校に入学した頃に、人間たちにまじって街なかで暮らせるようになりました。
あんずの学校生活はある日を境に一変します。あんず自身その理由が全くわからないままに学校でいじめにあうようになってしまったのです。いじめは学校内におさまらず、ある時あんずはスーパーで万引きの濡れ衣を着せられてしまいます。そんなあんずを救ってくれたのは、その場に居合わせたおじさんでした。
そしてまた別の日、あんずは帰り道で不意に後ろから誰かに突き飛ばされ、顔を負傷してしまいます。鍵をなくし、アパートで途方に暮れていたあんずを、おじさんは自分の部屋へと導き、手当てをしてくれたのでした。
※テーマについては、メルマガ「中学受験の国語物語文が劇的にわかる7つのテーマ別読解のコツ」で詳しく説明していますので、ぜひご覧になりながら読み進めてください。
この作品の中学受験的テーマは「他者理解」です。主人公のあんずが様々な人々との出会いの中で、相手を理解することの難しさに直面しながら、それでも希望を捨てずに難局に向き合い、必死に他者理解を進めて成長して行く過程が描かれています。
ゾンビのおじさんに対してあんずは、初めこそ強い警戒心を持っていましたが、おじさんの無骨ながらも深い優しさに触れることで、次第に年上の友人であるかのように、時におじさんに甘え、時にはおじさんの支えとなって心の距離感を縮めて行きます。
あんずがおじさんの言葉を受け止め、そしておじさんが過去に向き合う行動に同行するといったかたちでおじさんへの理解を深めて行く様子が描かれる一方で、ただゾンビだからという理由だけでおじさんに差別的な言葉を投げつけ、さらには暴力までふるう心無い人々の行動が対照的につづられることで、「他者理解の欠落」が「差別やいじめ」を生み出す要因となる、といった社会的テーマをも本作品を通して学ぶことができます。
その他にもあんずは、ゾンビの被害者の家族であるおばあさんの悲しみ、憤りを目にして心に深い痛みを負い、母親の家族に対する想いに直面し、友人であったきららが急に自分へのいじめに加担した理由を知る、といった様々なかたちで、他者理解をもがきながらも深めて行きます。
そしてもうひとつ重要なテーマとして「言葉の大切さ」が本作品の重要なテーマとなっています。言葉が他者理解を進めるうえで重要な道具となることはもちろんですが、時に言葉は相手を傷つけるナイフのような危険な性質を持ってしまうことを本作品は強く訴えています。
あんず自身も自分の言葉が無意識のうちに他者の心を傷つけてしまう危うさを持っていることに、物語の後半で気づきます。
そうした言葉の持つ重要性が、物語終盤のあんずのスピーチの言葉に集約されています。このあんずのスピーチは「他者理解」という重要テーマ、言葉の持つ力を学ぶうえで極めて貴重な教材となります。
あんずが他者理解を進める過程を丁寧に読み解きながら、あんずのスピーチが発するメッセージをしっかりと受け取ってください。それがテーマ学習を深める大事な機会となります。
あんずがおじさんにケガの治療をしてもらったことをきっかけに、おじさんの部屋に通うようになる様子、そしてあんずがおばあさんの抱えるつらい過去を知る様子が描かれた場面です。
あんず、おじさん、おばあさんそれぞれの孤独な境遇を踏まえ、あんずのおじさんに対する考え方がどのように変化して行くのか、おばあさんの過去を知ったあんずがどのような心境に至ったのかを、正確に読み取るように強く意識しましょう。
あんずとおじさんの関係が変化する様子を表す表現からの出題です。「タバコのにおい」が示す内容に注視しながら、あんずの心が移ろい行く過程を確かめましょう。
誰からともわからないいじめによって顔にケガを負ってしまったあんずを、おじさんは自室へと招き、手当てをしてくれます。藁をもすがるような心境でいたあんずにとって、このときのおじさんは救世主であるとも言えますが、それでもコンシャスとはいえゾンビであるおじさんへの警戒心は拭えずにいました。
あんずが抱える以下の心情からも、その警戒心を見てとることができます。
それでも、治療のため顔を近づけたおじさんを間近で見たあんずは、以下のような印象を持ちます。
「思ったよりもずっときれいな顔」と感じたことから、あんずのおじさんに対する印象が、恐怖心を与える一体のゾンビとは異なるものに変容していることがわかります。そしてさらに、「まるで遠くの景色でもながめているよう」とするおじさんの目に、漠然とながらも、おじさんの内面に棲む深い孤独感をあんずがかいま見ている様子がうかがえます。
そして続く以下の表現に、今回の問題につながる「タバコのにおい」が表されています。
物語文において、においや味といった五感に関する表現が人物の心情や、他者との関係を如実に表すことがありますが、ここでのおじさんの「におい」を感じ取る様子から、あんずがおじさんへの警戒心を徐々になくしていることが読み取れます。
その後、おじさんに手当てをしてもらっている間、あんずはおじさんにいくつかの質問を投げかけ、おじさんが読書好きであること、夜間警備員としてショッピングモールで働いていることを知ります。そして手当てが終わった後のあんずの様子が以下のように表されています。
おじさんがつけてくれた、大きめにカットされたガーゼの感触は、学校でのいじめで孤立するあんずにとって救いの手となっており、おじさんのぶっきらぼうながら心のこもった優しさをあんすがはっきりと認識することはなくとも、あんずの心に安心感が生まれていることが読み取れます。
その後あんずはおじさんと本について、そしておじさんが飼っている猫について会話を交わします。会話というにはおじさんの言葉があまりにぶっきらぼうではありますが、読書が好きという共通の趣味を持っていること、そしてアパートで禁止されている猫のシュレディンガーを飼っているという秘密を共有することを通して、あんずとおじさんの心の距離が一気に縮まっている様子が表されています。
おじさんにケガの手当てをしてもらってから後、あんずはおじさんの部屋に通うようになります。おじさんの部屋にある数々の本は小学3年生のあんずにとっては難しいものばかりでしたが、それらの本を通してあんずが世界を広げる様子が以下のように表されています。
両親の離婚という自分ではどうにもしようのない理由で生活が一変し、さらに訳のわからないままに学校でいじめにあうといった不条理な苦境に追い込まれ、「正しい呼び名のわからないいろんな感情」を抱かざるを得ない状況が多かったあんずにとって、おじさんの部屋で読む本の世界は「ひっそりとしたよろこび」を体感させてくれるものとなっていったのです。
あんずのおじさんへの接し方が変化している様子が、高い場所にある本をとって欲しいとおじさんに伝える以下のあんずの言葉からもうかがえます。
まるで実の親や兄弟に投げかけるような甘えた言い方をしているところに、あんずがおじさんに心を開いていることが読み取れます。母との2人暮らしで、仕事で忙しい母親の手伝いもしているあんずにとっては、心から甘えられる場所はおじさんの部屋だけであったと考えることもできます。
そしてこの甘えた言葉の直後に、あんずが学校で受ける数々のいじめの描写が対照的に配置されることで、おじさんの部屋がいかにあんずにとって大事であったかが強く伝わってきます。以下の表現にもそのことが表されています。
そしてこの後に続く以下の部分に問題該当部が含まれます。
おじさんはあんずが部屋に来ると、タバコを吸いに外に出てしまい、あんずが帰るまでもどってきません。物語の中盤で、おじさんが幼いあんずの体に良くないため、離れてタバコを吸うことが明らかになります。読み手にはおじさんのこの行為にあんずへの優しさが込められていることがこの時点で十分に推測できますが、小学生のあんずにはそこまでは理解が及ばず、不思議に思いながらもおじさんとは窓ごしに会話をしていました。
問題該当部で、おじさんとあんずの距離が近づき、あんずは「タバコのほんのりとしたにおい」を感じます。このことから、あんずにとってタバコのにおいはおじさんの存在を近くに感じさせてくれるものであると考えることができます。
あんずが初めておじさんの部屋を訪れ、ケガの手当てをしてもらった際にも、あんずはおじさんからタバコのにおいを感じ、そこで「いいにおいとまでは言わないが、それほどいやなにおいでもなかった。」(P.39の6行目から7行目)との想いを抱きました。
そして問題該当部でも、あんずはタバコのにおいを「ほんのり」と感じています。「ほんのり」とは、「色・香・姿などが、かすかなさま」(weblio辞書より)という意味になりますが、ここで「かすかに」ではなく「ほんのり」と柔らかな表現としたところに、あんずがおじさんの残したタバコのにおいに安心感を抱いていることが示唆されていると考えられます。
以上のように、おじさんの存在の象徴であるタバコのにおいを肯定的に受け止めていることからも、あんずにとっておじさんの存在そのものとおじさんが住む部屋が、日々のつらさを忘れさせ、安心感を抱かせてくれるものになっていると読み取ることができます。
おじさんの部屋で2人で過ごす時間の中で、他の場所では得られない安心感を抱き、日々のつらさを忘れることができている状態。(59字)
≪予想問題1≫を通して、ともに孤独と向き合うあんずとおじさんが心を通わす過程を確認しましたが、ここでまた1人、孤独の中で日々を過ごす人物が登場します。里中さんという老人女性と出会ったあんずは、里中さんが同じアパートの1つ下の階に、夫婦で暮らしていることを知ります。
あんずが里中さん(あんずは「おばあさん」と呼んでいますので、以下おばあさんとします)に出会う直前に、神社にお参りに行く場面があります。そこであんずが神様にお願いしたのは「家族が早く元通りになりますように」(P.48の12行目)でした。学校でいじめにあい孤立した生活を送っていても、そうした状況を変えることよりも、まずは家族と過ごす時間を戻すことを神様にお願いする姿から、あんずがいかに家族の温かさを求めているかが強く伝わってきます。
そんなあんずにとって、常に穏やかに接してくれるおばあさんとの出会いが喜びをもたらすものであったことが、以下の表現からも理解できます。
あんずはおばあさん夫婦とよく顔を合わせるようになり、部屋にもまねかれるようになります。ある日、日が暮れるまでおばあさんの部屋にいたあんずは、電灯が切れてしまっていることを知ります。自分の身長では蛍光灯の交換ができないことを知ったあんずは、急ぎおじさんを呼びに行くのでした。
突然訪れたあんずに対するおじさんの反応が以下のように表されていますが、そこから2人の関係が深まっていることがうかがえます。
意気揚々とおじさんを連れておばあさんの部屋に戻ったあんずでしたが、おばあさんの反応は意外なものでした。
どうしてよいのかわからず動揺したあんずは、おばあさんに理由も聞くことができないままに部屋を後にするしかありませんでした。
別の日に、おじさんの部屋であんずは小川未明の童話『赤いろうそくと人魚』の中で、人魚の娘を大事に育てた老夫婦が人魚を売り飛ばしてしまうという変ぼうを理解できず、その理由をおじさんにたずねます。
あんずの問いに対して、老夫婦をいい人とする前提が間違っているとしたうえで、おじさんは2つの答えを告げます。
ゾンビとなってしまい、迫害される日々の中で孤独を選んで生きてきたおじさんだからこそ発せられる言葉ですが、小学生のあんずにはその意味するところを理解し切ることができません。それでも「いろんな顔」という言葉を、おじさんを見て豹変してしまったおばあさんの姿と重ね合わせるのでした。
そして、人間と人間以外の者はわかりあえず、「たがい、に、かかわる、べきでは、ない」(P.55の13行目)というおじさんの言葉を聞いた時、あんずの心に悲しみが押し寄せ、以下のような言葉が発せられます。
家族が崩壊し、学校でも孤立してしまっているあんずにとって、互いに理解し合えないことがあっても、それで関係が断絶し、孤独になってしまう事態は受け容れられるものではなかったことが読み取れます。
その後、いつもの優しい笑顔で接してくれるおばあさんの様子に安心したあんずは、部屋にまねかれ、そこで中高生くらいの男子の写真を目にし、その人物がおばあさんの亡くなってしまった息子であることを知らされます。
そこであんずはつらい事実をおばあさんから聞くことになるのです。
おばあさんの息子を襲ったゾンビとおじさんとは違うことを伝えたく、あんずはおじさんがコンシャスであり、コンシャスを差別してはいけないと学校で教わったことをおばあさんに強く訴えますが、おばあさんが返した言葉とそれに対するあんずの反応が以下のように表されています。
そしてこの後に、問題該当部を含む以下の部分が表されます。
おじさんの部屋で聞かされた言葉が再びあんずの中で響きましが、その言葉が、「この間よりもいっそう悲しいリズムで響いた」のは、おばあさんの置かれた過酷な状況を知ったからに他ありません。
おじさんの部屋でこの言葉を聞いた際には、まだあんずの中には現実感はなく、むしろそれが示唆する「孤独に生きる」という事態を受け容れたくないという気持ちが先立っていました。
それが、おばあさんの息子がゾンビによって命を落としてしまったこと、それによっておばあさん夫婦が深い悲しみと孤独感の中で生きていることを知ったために、「人間と人間以外の者がわかりあえない」という言葉がより現実味を増してあんずの心に衝撃を与えてしまったと考えられます。
同じ言葉が場面の違いによって全く異なる意味をもって登場人物に受け止められるという状況は、物語文読解では頻出パターンのひとつです。それぞれの場面での人物の置かれた環境、心情をしっかり踏まえたうえで、違いを読み取るように強く意識しましょう。
おじさんの部屋で聞いた時は現実のものとして理解されず、孤独に生きることを示唆することから受け入れたくない気持ちをあんずに抱かせた言葉が、おばあさんのつらく孤独な状況を知らされたことで、より現実的な意味をもってあんずに衝撃を与えている。(117字)
今回は作品の中から序盤の場面をご紹介しましたが、この後、おじさんの部屋にある来訪者が現れてから物語は新たな動きを見せ始めます。
そしてハロウィンの日に起きた大事件をきっかけに、あんずとおじさんに新たな苦難が降りかかります。おじさんへの暴力的な排斥行動がエスカレートする中でもあんずはおじさんから離れることなく、支えとなり、そんなあんずを見守る母親をはじめ、アパートの住民たちの中にもおじさんへの接し方に変化が生まれます。
このハロウィンの大事件からラストへ向けて怒涛の勢いで突き進むストーリー展開は、息をもつかせない臨場感にあふれ、まさにページをめくる手が止まらなくなります。
そして先にも触れました通り、物語の最終盤にあんずがスピーチをするのですが、スピーチ会場までに至る道程の描写からは強い高揚感が得られ、そしてスピーチの内容は読者である私たちの心にも強く響く説得力があります。このスピーチを踏まえて、それまでの物語の展開を振り返ると、そこには「他者理解」そして「言葉の力を信じること」がいかに重要であるかという、作品からのメッセージが胸の奥底深くにまで伝わってきます。
SF的なストーリーに見えますが、中学受験物語文の最重要テーマであり、また「差別やいじめ」を抑止するうえで不可欠となる「他者理解」について深く考える機会を与えてくれる一冊です。ぜひ手に取って読み進めてみてください。
われわれ中学受験鉄人会のプロ家庭教師は、常に100%合格を胸に日々研鑽しております。ぜひ、大切なお子さんの合格の為にプロ家庭教師をご指名ください。
頑張っている中学受験生のみなさんが、志望中学に合格することだけを考えて、一通一通、魂を込めて書いています。ぜひご登録ください!メールアドレスの入力のみで無料でご登録頂けます!