No.1185 難関校での出題可能性大!リアリティあふれる友情物語『パパイヤ・ママイヤ』乗代雄介 予想問題付き!

amazon『パパイヤ・ママイヤ』乗代雄介(小学館)

 今年度の早稲田実業で出題された『旅する練習』の著者、乗代雄介氏による17歳の女子二人の友情を描いた物語です。登場人物がとても少なく、物語のほとんどが二人の女子による会話で構成されています。自分を振り回す芸術家の母親に反感を抱いているママイヤと、飲酒に溺れて家族を顧みない父親に強く反発するパパイヤ。そんな二人が発する言葉は圧倒的なリアリティに満ちていて、二人が互いに心を許し合って行く心情の流れが臨場感をもって表されています。繊細な表現が多い作品ですので、上位難関校での出題が予想されますが、特に市川中渋谷教育渋谷中学習院女子中といった抽象的で細やかな表現を含む物語文を出題することの多い学校や、男子校でありながら女子の繊細な心情描写を多く出題する海城中などでは、より出題される可能性が高いと考えられます。

【あらすじ】

≪主な登場人物≫
ママイヤ(写真を撮ることが好きな女子。芸術家の母親に振り回されることに反発している。)
パパイヤ(高校ではバレーボール部に所属している。飲酒に依存している父親に強い嫌悪感を抱いている。)
所ジョン(ところじょん・路上生活をしながら「黄色い物」を収集している男性。)

≪あらすじ≫
 SNSを通じて知り合ったママイヤとパパイヤは河口にある干潟で出会い、二人だけで過ごす時間を重ねるようになります。それぞれに誰にも言わずに抱えていた秘密を分かち合うことで、二人の心の距離は縮まって行きます。偶然出会った少年が描いた「黄色い空の絵」を、一度は空きビンに入れて海に投げ捨てた二人でしたが、黄色い物を収集している路上生活者の所ジョンにその絵を渡そうと、空きビンを探し求めるという行動に出るのでした。

【中学受験的テーマ】

 この作品全体の中学受験的テーマは「友情」です。先にも触れたように、二人の言葉はリアリティにあふれてます。あまりに自然なやりとりなので、何気ない言葉に込められた意味をつい見逃してしまいがちですので、人物達が見せる表情のちょっとした変化、強い想いが込められた言葉は読み逃さないように注意してください。また、言葉の使われ方についての理解が表面的にならないように、その言葉が使われている状況、そこに至るまでの心情の変化をしっかり踏まえることも、心情を正しく読み取るためのポイントになります。高レベルの読み取りになりますが、頻出テーマを理解するための貴重な練習になりますので、じっくり取り組んでみてください。

【出題が予想される箇所】
P.63の16行目からP.78の11行目

 ママイヤとパパイヤは二人で会って他愛もない話をするだけの時間を重ねていましたが、ある時、海に投げ捨てた「黄色い空の絵」の入ったビンを所ジョンに渡す、という行動を共にするようになります。その過程で、それぞれに自分の家族に対する想いを明かすことで、二人が心の距離感をさらに近づけて行くきっかけをつかむ様子が描かれた一連の場面です。

≪予想問題1≫

 

P.75の6行目から7行目に「さらに愉快だったのは、パパイヤがそれだけで済ませたことだ。」とありますが、ママイヤが「愉快」と感じた理由を説明したものとして、最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。

ア.自分の言葉に対してパパイヤが驚くとは思っていたが、想像を超えるような反応をパパイヤが見せたことがおかしかったから。
イ.これまでずっと伝えずにいた自分の状況を伝えても、パパイヤがしつこく追及せずにいてくれたことが嬉しかったから。
ウ.パパイヤがしつこく聞くことをためらう程に、自分が置かれた状況が深刻であると気づき、諦めの心境になったから。
エ.自分の状況を急に告白することでパパイヤがどのように反応するか試したところ、思った通りの結果だったので楽しくなったから。

 

≪解答のポイント≫

 この場面は、ママイヤが学校に行っていないことを初めてパパイヤに明かすという物語上でも重要な部分です。自分の状況を他の誰にでもなくパパイヤであれば話しても構わないとママイヤが心に決めていたことが、以下の部分からも読み取れます。

こんなことは初めて人に言ったけど、なんだか愉快な気分だった。でも、それは相手がパパイヤだからかもしれない。(P.75の5行目から6行目)

 ママイヤがなぜパパイヤには話して構わないという心境になったのか。ただ二人の仲が良くなったから、という単純な理由にとどめず、その心境をもう一歩深く探ってみましょう。
 ママイヤが自分の秘密を話せる程にパパイヤのことを信頼し、自分にとって大事な存在と感じていることは、パパイヤがママイヤと一緒にいるところを学校の人に見られたくない、といった趣旨の発言をした際に、ママイヤが発した以下の言葉からも読み取れます。

「ここじゃないどこかにいるパパイヤの姿なんか見たくない」(P.69の14行目から15行目)

 自分にとってかけがえのない存在であるパパイヤだから、自分の境遇についても話して構わないと思った、でも十分な理由になりますが、さらに読み進めると、もうひとつのポイントが見えてきます。
 問題該当部に至る前に、ママイヤがパパイヤと連絡が取れなくなってしまう場面があります。不安に思うママイヤに対しパパイヤが明かした理由は、お酒におぼれた父親が家の金を勝手に使い込んでしまったことで、携帯電話の料金が払えなくなってしまったという事実でした。この場面を踏まえると、パパイヤが家族との関係に悩んでいる状況を明かしてくれたことで、ママイヤも自分の秘密を話してもよい気持ちになったと解釈することができます。このような、苦しみや悩みを共有する(お互いに受け止める)ことが人物間の心の距離を縮めるといったケースは物語文ではよく見られますので、注意しておきましょう。
 ママイヤがパパイヤになら自分が学校に行っていない事実を打ち明けても構わないと感じた理由を踏まえたうえで、さらに注意して頂きたい言葉があります。「愉快」という言葉ですが、辞書では「楽しく気持ちのよいこと。面白く、心が浮きたつこと。(goo辞書より)」とあります。この辞書上の意味に引っ張られ過ぎると、選択肢を誤って選んでしまう事態に陥ってしまいかねないのです。
 これまで誰にも話さなかった事実を、心を許せる相手にだからこそ話したというママイヤにとって大事な場面では、「面白く、心が浮き立つ」という意味での愉快は軽すぎて、一見ふさわしくないように思えます。ここで愉快の辞書的な意味のみで考えてしまうと、選択肢のアやエを誤って選んでしまう危険性があります。
 選択肢のアもエも、ママイヤとパパイヤの関係をしっかり理解していれば、スムーズに消去できるのですが、愉快という言葉があるからママイヤは面白いと思った、と短絡的に判断してしまうと、選択肢を選ぶ際に間違った方向に進んでしまうのです。
 ここで愉快という言葉が選ばれているのは、いざ話してみれば思いのほか気持ちが軽くなったという解放感と、話せる相手が見つかったことの喜びが相まって、心を軽くしているママイヤの状況を、ママイヤ自身が客観的な見地に立って見てみると面白いものであった、という意味合いを表すためと考えられます。そこで選ぶべき選択肢はイになるのです。
 入試問題では、辞書的な意味だけに理解をとどめてしまうと見当違いな方向に解釈してしまいがちな言葉をあえて選択肢に含めて解答者を悩ませるような問題が出されるケースがあります。そうした選択肢を間違いなく消去するためには、言葉の短絡的な解釈に頼らずに、そこに至るまでの人物の心情の流れや、相対する人物との関係についてもしっかり考えることが必須です。
 なお、選択肢のウについて、今回は内容として不適切になりますが、諦めの心境に至った自分を引いた目で見て、皮肉(難しく言うと自嘲)の意を込めて「愉快」という言葉で表すケースが、まれにですが出題されることがあります。かなり難度の高い内容になりますので、参考程度で構いませんが、愉快だからいつでも楽しいこと、と思い込まないように気をつけておきましょう。あくまで物語の中での人物の心情の流れに着目するようにしてください。

≪予想問題1の解答≫

≪予想問題2≫
P.78の9行目に「その声のいつもみたいに軽い響きは、わたしを勢いよく振り返らせた。」とありますが、ここでのママイヤの心情について、100字以内で説明しなさい。句読点も一字として数えます。
≪解答のポイント≫

 「勢いよく」振り返っていることから、ここでのママイヤの気持ちは軽やかで明るいもので、その原因がパパイヤの言葉にある、という構図までは容易に読み取れるでしょう。では、パパイヤの言葉がママイヤの心を軽くした理由は何なのか。それを考える上でのポイントになるのが、パパイヤの声についての「いつもみたいに軽い響き」という表現です。
 この問題に該当する部分に至るまでに、ママイヤは自分を振り回す母親に反発する感情を、次のような言葉でパパイヤに打ち明けます。

「いないくせにスマホだけ預けて、自分の連絡には心配だから応えなさいって、そんなのおかしいじゃん」(P.75の15行目から16行目)

 母親への反抗として、ママイヤはスマホを母親の私物が入った引き出しにしまい、鍵をかけ、その鍵を捨てるという行動に出ます。そしてうまく鍵を投げられないママイヤに代わって、パパイヤが鍵を投げ捨てます。問題該当部は、その直後のパパイヤが発した「ていうかウチ、物を捨てすぎじゃない?」(P.78の8行目)という言葉を受けてのものです。この言葉に対してママイヤが「いつもみたいに軽い響き」としているのです。
 こうした流れを踏まえたうえで、おさえておきたいポイントは2つ。1つは自分が抱いている母親に反発する感情を、パパイヤが鍵を投げるという行動を通して共有してくれたこと、もう1つは母親に対して抱いている感情を知っても、パパイヤが変わらず自然に接してくれたこと、この2つに対してママイヤは喜びを感じているのです。
 1つ目のポイントについて、ママイヤがスマホを引き出しにしまい込んだのが、パパイヤの家庭の事情を知った後であることに着目しましょう。ママイヤはスマホを手放し、パパイヤはそのスマホが入った引き出しの鍵をママイヤの代わりに投げ捨てる。こうした行動に、二人が互いの家族に対して反発する感情を受け止め、分かち合い、そのうえでこれまで通りの関係を続けて行こうと心に決める。という心の寄り添いが表現されているのです。
 以上のポイントを踏まえて解答を作りますが、「共有」という言葉はなかなか思い浮かばないと思われますので、「受け止める」といった表現を使ってもよいでしょう。

≪予想問題2の解答例≫

母親に反発する気持ちを受け止めた証しを、パパイヤが鍵を捨てるという行動で示してくれたことが嬉しく、互いに相手の家庭の事情を知ってもこれまでと変わらない関係を続けて行けると感じたことに喜びを感じている。(100字)

【最後に】

 登場人物が少なく、何か大きな事件が起こることもなく、ただただ17歳の女子二人が交わす会話で物語が進行するという独特の味わいを持っていながら、読み始めると一気に最後まで読み進められてしまう、圧倒的な吸引力を持った作品です。読み手を強く引き付ける要因はママイヤとパパイヤが交わす言葉のリアリティにあります。時に笑いを誘うような軽快さが、また場面によっては胸に突き刺さってくるような痛みが感じられるような二人のやりとりに、グイグイと引き寄せられるのです。また随所に美しい風景描写が散りばめられているのですが、その風景はただ美しいものではなく、水の音や風の香りなど五感に訴えてくるものが多く、まるでその場にいるような感覚にとらわれます。物語の最後に二人が写真を見合う場面は、このような表現方法があったのかと驚きを持って感じ入ることができます。中学受験の頻出テーマ「友情」を学ぶ教材としても、読書経験の幅を大きく広げてくれる作品としても、極めて価値の高い一冊です。

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