中脇初枝『神に守られた島』(講談社)は来年度中学入試で出題が予想される、戦時下の心の交流を描いた稀有の傑作です!

amazon『神に守られた島』中脇初枝(講談社)

 第二次大戦末期の沖永良部島を舞台にした物語です。戦争の恐ろしさ、愛する者を失う悲しみ、そんな中でも育まれる心の交流が、子供たちの視点で語られていきます。
戦争に対して強い思想を持つことのない子供たちが発する言葉は、声高に反戦を訴えるものではありません。空襲を日々の当たり前のことと感じ、日々を精一杯生き延びようとする子供たちの姿が極めて淡々とつづられているこの物語を受け止めることは、反戦を強く訴えるメッセージを聞くことと同じくらい、あるいはそれ以上に強く、戦争の恐ろしさを感じられる機会になると言えます。
 戦争時の極限の状態にありながらも、子供たちはお互いに相手を思いやり、恋心を抱いたりもします。この物語の魅力は、そうした子供たちの心の触れ合いが美しく切なく描かれているところにもあります。
 中学受験の視点からぜひ注目して頂きたいのが、109ページから113ページで主人公のマチジョーが幼馴染の少女カミに、なぜ旅立つ者に手を振ろうとしないのか、と尋ねる場面です。マチジョーの問いかけに、カミが返す言葉は読む者の心に深く突き刺さります。そのカミの言葉が布石となる物語のラストシーンには、思わず涙が止まらなくなってしまうほどに感情を揺り動かされます。
 会話の中で何気なく出てきた言葉が、その後の場面の重要な布石となるという構成は、中学受験の物語文でも多く使われるパターンでもあります。そうした構成に気づく力を養成するためには、良質な物語に触れることがどうしても必要となるのです。
 また、神戸から避難してきた少年ユキと島の子供たちとの触れ合いには、中学受験の物語文で多く扱われる「関係の変化」を見ることができます。アメリカ軍から配給された靴をめぐってのエピソードで、ユキがマチジョーにかける言葉(P.205)に込められた優しさにもぜひ注目して頂きたいです。
 刺激の強い言葉や過激な表現はありませんが、戦争を題材としていますので多くの人々が亡くなる場面はあります。終始淡々とした描写で展開しますので心配はないかと思われますが、まずは親御様がお読みになってからお子様におすすめされてはいかがでしょうか。子供たちが必死に生きて、厳しい状況でもお互いを思いやる心を持ち続ける姿が美しく描かれている傑作です。ぜひ本屋でご覧になってみてください!

入試対策室 室長 筑駒 貝塚正輝

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