椰月美智子『つながりの蔵』(角川書店)は来年度中学入試で出題が予想される、淡麗な表現を通して深いテーマを伝えてくれる傑作です!

amazon 椰月美智子『つながりの蔵』(角川書店)

 『しずかな日々』『14歳の水平線』などにも通じるところですが、椰月美智子の作品は人物たちの抱える様々な想いがシンプルにかつ強く伝わってくる魅力にあふれています。本作品でも、小学5年生の少女3人が主な登場人物ですが、彼女たちそれぞれが抱える悩みや夢が、淡々としながらも輝きをたたえた文章を通して、強く伝わってきます。
 この作品の大きな特徴は、根本的なテーマとして「死」が感じられるところです。主人公・遼子の友人である美音は幼い弟を亡くしており、またストーリー上のキーパーソンである四葉も父が幼い頃に亡くなっています。遼子自身も祖母が次第に記憶を失っていく姿に直面し、死について想いをはせる場面がいくつか出てきます。
 重いテーマが根底にはありますが、文章自体は椰月美智子らしく、リアリティのある会話文と心情表現を随所に含む地の文のバランスが絶妙で、決して暗い気持ちになることはなく、物語の世界に誘われていきます。
 遼子の目を通して描かれる心象風景も美しく、「空がきれい。青い空に、太陽光線の半透明のベール。五月の三時の空。こんな空の絵が描けたらどんなにいいだろう。」など、瑞々しい表現に幾度も触れることができます。

 中学受験の視点からぜひ注目して頂きたいのが、111ページから124ページ1行目までの、遼子が死について考え、友人たちと会話を交わす場面です。美音の弟の葬儀での自分の姿を回想した遼子の「うそっぱちの演技で泣いているみたいで、はずかしくて申し訳なかったけれど、でも涙は止まらなかった。(P.119)」という言葉から涙の意味を考えること、また四葉の親族の言葉から様々な死生観に触れることは、読解力の養成にいずれも大きな効果を持ちます。
 物語自体のクライマックスは、150ページから196ページの、作品のタイトルにも出てくる「蔵」を舞台とした場面です。怒涛の展開で、気がつけば切なさと幸福感で涙が出て来てしまう名場面ですので、ぜひじっくりと味わって頂きたいです。

 最近の中学受験の国語では、死をテーマとした文章も多く出題されます。小学生のお子様にはなかなかリアリティをもって体感できるテーマではないかと思いますので、この作品のような良質な物語を通してテーマ学習をすることは貴重な機会となります。楽しく読み進めながら深く考えることのできる傑作です。まずはぜひ本屋でご覧になってみてください!

入試対策室 室長 筑駒 貝塚正輝

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