No.1748 田園調布学園、東京女学館、専修大松戸は要注意!短編集『10分後にココロに効く アオハル ショート ストーリーズ 可能性を信じて』

amazon『10分後にココロに効く アオハル ショート ストーリーズ 可能性を信じて』日本文芸協会編(フレーベル館) 

 9人の作家が、中学生ならではの心の葛藤を描いた短編集シリーズの1冊です。9人の作家の中には、蒼沼洋人氏『光の粒が舞いあがる』など)、天川栄人氏『わたしは食べるのが下手』など)、村上しいこ氏『みつばちと少年』など)が含まれ、まさに錚々たるメンバーが描く、様々な等身大の青春物語が掲載されています。

 タイトルの通り、どの短編も小学生でも10分くらいで読み通せるほどのボリュームでありながら、その中には、受験生の皆さんにとって等身大の人物たちだからこそ抱える悩み、心の葛藤、もどかしさが丁寧に描き込まれています。

 今回ご紹介する1編目の『金曜日のやきそばフォカッチャ』もまた、友人関係の中で揺れ動く中学1年生女子の心の葛藤が読みやすい文体で描かれています。著者の戸森しるこ氏は、これまで「サヴァランの思い出」(『飛ぶ教室』49号所収』)ラ・サール中(2018年度)などで、「夏と百花とカルピスと」(短編集『ねがいごと』所収)駒場東邦中(2019年度)などで、『ゆかいな床井くん』浦和実業中(2020年度第2回午前)などで、『ココロノナカノノノ』洗足学園中(2023年度第1回)などで、『理科準備室のヴィーナス』春日部共栄中(2024年度第1回午前)などで出題されており、中学受験物語文で毎年注目を集める頻出作家のひとりです。

 中学受験物語文の最重要テーマ「友人関係」を題材に、主人公の明華(めいか)が友人関係の中で揺れ動き、葛藤する様子を通して「他者理解を通して心の成長を果たす」という黄金パターンを表し、人物の心の動きが鮮やかに浮かび上がってくるような筆致で描き込まれた本短編は、来年度入試で女子校・共学校を中心に、中堅校から難関校まで幅広く出題されることが予想されます。

【出題が予想される箇所】
P.7の1行目からP.27の13行目

 第1編『金曜日のやきそばフォカッチャ』の全文です。

 中学1年生の明華と同じボランティア部に所属する歩南(ほなみ)には、部活見学で知り合った雨音(あまね)という友人がいました。学校でも街中でも人目を引き付ける美しい容姿を持つ雨音と行動を共にしている間、明華は雨音と自分が「不釣り合い」であると自覚しながらも、美しい雨音と一緒にいられることの優越感も抱いていましたが、見知らぬ男の子からある言葉をかけられたことをきっかけとして、明華と歩南は、雨音と距離を置くようになります。

 明華が雨音に対して抱く感情がどのようなものなのか、明華が自分の心の揺れ動きをどのように自覚しているのかを、明華の行動、そして心の声を通じて丁寧に読み解いて行きましょう。

【ここがポイント】

 本短編『金曜日のやきそばフォカッチャ』では、ある言葉をきっかけとして変わってしまう友人関係の中で悩み、揺れ動く明華の姿が描かれていますが、明華自身がその関係の変化について、「わたしはこの状況を整理することができていないのだ。」(P.11の6行目)といった想いを抱いているように、その悩み、揺れ動きが、中学1年生だからこその心の不安定さに起因しているところが特徴的です。

 明華も友人の歩南も、雨音と激しく衝突などはしていないのですが、2人と雨音との間に深い心の溝が生まれてしまいます。きっかけとなったのは、街中ですれ違った見知らぬ男の子の言葉ではありましたが、そこに至るまでに、すでに3人の関係には少なからずいびつさがあったことに注意が必要です。

 明華にとって、そして歩南にとっても、誰もが目を奪われるような美しい容姿を持つ雨音は、「世界がちがう」(P.11の5行目)と思わされるような存在でした。

 そんな雨音と歩南でしたが、雨音から声をかけられ、同じ時間を過ごすようになって、その印象を大きく変えるようになります。以下にその様子が表されています。

話してみたら、やさしくてふつうにいい子だったので、わたしも歩南も、雨音のことが好きになった。クールで近寄りがたい感じがしたのは、見た目の印象だけだ。(P.16の1から2行目)

 ここには多くの物語文で見られるような友人関係の変化の典型的なパターンが見られますが、ここからの展開が本短編の大きな魅力となっているのです。

 雨音との心の距離を縮めたはずの2人でしたが、一方で、学校で自分たちに向けられる視線を意識することで、以下のような心情を抱くようになります。

雨音のことが自慢だった。それに、何人もいるクラスメイトの中から、雨音がわたしたちふたりを選んでくれたってことも、誇らしかった。(P.16の14行目からP.17の2行目)

 遠い存在と思っていた雨音と心の距離を縮められたことの喜びを感じる一方で、雨音に選ばれたことの優越感を抱いてしまう。この異なる2つの感情の中で揺れ動く明華の心の描写のリアリティが鮮明で、読んでいて共感ともどかしさを味わうことができるのです。

 男の子の一言がきっかけとなり、まるでオセロの駒がひっくり返るように状況が一変し、明華と歩南の心は引き裂かれ、それ以上傷つきたくないという想いに支配されたことで、図らずも雨音を傷つける行動をとってしまいます。

 仲が良かった友人と意見が合わずケンカになる、といったシンプルな構図ではなく、親近感と合わせて優越感をも抱くという関係のいびつさがあったからこそ、こうした悪循環とも言える変化が生まれたことをしっかりと読み取っておきましょう。

 明華は雨音との関係を変化させてしまったことについて、以下のような想いを抱いています。

あの男の子のひと言で、わたしたちの関係は変わってしまった。でも、その言葉を気にしない、強いわたしだったなら、ちがう「今」があったかも。(P.25の11から12行目)

 中学1年生という、まだ経験から培われる強さを持ち合わせていない時期だからこそ抱く悩み、もどかしさ、葛藤が丁寧に描き込まれているところが、本短編を極上の青春物語としている魅力であると言えます。

 本短編での明華のように、ほんの些細(ささい)な出来事(当人にとっては大きな事件ですが)がきっかけとなって変化する友人関係の中でもがき、悩む人物の心情は、中学受験物語文では多く出題対象となります。

 タイトルの通り、10分ほどで読み通せるボリュームですが、ぜひじっくり時間をかけて明華の心の変化を読み取ってみてください。それが「友人関係」という最頻出テーマを深く学びとる絶好の機会となります。

 本短編以外にも、漫画家を目指す女子の挫折と再生を描いた『言ってよ、栗ちゃん』(佐原ひかり)や、容姿にコンプレックスを持つ女子の苦悩をつづった『愛され顔になりたい』(安田夏菜)、そして美術部を舞台として、絵を描けなくなった女子と、協調性のなさから部内で孤立する女子の友人関係が描かれた『カノープス』(蒼沼洋人)など、本作品には様々な悩みの中から新たな一歩を踏み出そうとする中学生たちの姿を題材とした短編が収録されています。

 ボリュームもおさえめで、どの短編も読みやすく丁寧な文体ですので、5年生はもちろん、読書好きな4年生のお子さんにも読んで頂きたい珠玉の短編集です。

 われわれ中学受験鉄人会のプロ家庭教師は、常に100%合格を胸に日々研鑽しております。ぜひ、大切なお子さんの合格の為にプロ家庭教師をご指名ください。

 

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