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知名度こそ高くはありませんが、親子関係、友人関係の変化といった中学受験の物語文読解で頻出のテーマが込められた隠れた傑作です!様々な困難に打ち勝っていく高校生たちの成長が鮮やかに描かれており、最後には見ている側の心に希望の灯りを与える至極のラストシーンが待ち受けています。物語が展開するテンポもゆっくりしているので小学生のお子様達も楽しめるでしょう。
ちなみに本作品は「PG12(親または保護者の助言があれば12歳未満でも鑑賞できる)」に指定されています。暴力的な場面や刺激が強い場面は一切なく、なぜPG12に指定されているのか不明ですが、ロケット作りの過程で、材木を資材置き場から盗んでしまう場面があり、そこが指定の原因になったのかもしれません。ただ、アメリカでは高校一年生(日本で言う中学校三年生)の教科書にも掲載されているそうです。ぜひ親子で鑑賞されてみてください!
舞台は1957年のアメリカ、ウェストヴァージニアの炭坑の町。ソ連から打ち上げられた人類初の人工衛星スプートニクが夜空を飛行する軌道を見た高校生4人が、自分たちでロケットを作る夢に挑む姿が描かれた物語で、実話に基づいています。日本映画の『フラガール』を彷彿とさせる内容ですね。
まずは主人公の高校生ホーマーがなぜロケット作りを目指すようになったのか、そのきっかけをしっかりつかむようにしましょう。「人工衛星スプートニクが夜空を流れ星のように横切る光景に感動したから」だけでは答えとして足りません。ロケット作りに向かう気持ちをより強くしている要因に、ホーマーの置かれた環境にまで考えを及ばせてみましょう。
ホーマーが住む街は石炭採掘が主要産業で、学校を卒業すれば炭坑で働くことがほぼ決められています。そうした運命に流されず、自分の意志で人生を歩みたいというホーマーの気持ちが根底にあることを映画の中の彼の言葉からくみ取りたいところです。
ホーマーが炭坑の溶接工のビコフスキーの元を訪れた際の言葉に注目してください。
最後の言葉がポイントです。自分が住む町でも、世界の他の人々と同じくスプートニクを見ることができる。当たり前のことを言っているようですが、この言葉の裏に、ホーマーが自分の住む町が世界の中であまりに価値の低いところであると捉えていることがうかがえます。
さらに映画の終盤でホーマーは父に以下のような言葉を放ちます。
これらの言葉から、ホーマーは町を出て自分の足で生きる自由を手にしたいと思っていることがわかります。その気持ちがスプートニクを見たことで、抑え切れないものとなり、ホーマーをロケット作りに向かわせたと言えるのです。
この映画では、親子の深い絆が重要なテーマになっています。ホーマーと厳しい父親とのぶつかり合い、そして次第に理解を深め合う二人の心情の変化をぜひ読み取って頂きたいのです。
国語の物語文でも親子をテーマとした作品は数多く出されます。小学生のお子様は子供の視点から内容を読み進めるでしょう。一番身近にいる大人である親の想いは、近すぎるが故に子供にはなかなか理解できないものです。この作品で父親の言葉や行動を追ってみてください。親だからこその心情が小学生のお子様にも読み取れるようになります。
家族だけでなく炭坑で働く人々に対しても厳しい父親ですが、炭坑で危険な目に遭う者がいれば、我が身に降りかかる危機も顧みずにその救出に向かいます。また、ホーマーの友人が父親から暴力を受けている場面では、友人を救い出すだけでなく、彼を励ます言葉を投げかけます。そうした優しさを父親が持っていることはホーマー自身もわかってはいるのですが、炭坑で働くことが当然と決めつける父親につい強く反抗してしまうのです。
母親が映画の随所で言う通り、父親は炭坑の本社と現場の中間にいる立場で、言わば板挟みの状態にあります。さらには命の危険を伴う現場ではいつ事故が起きるかわからない。父親が厳しい現場で働いていることもしっかりおさえておきたいところです。
そんな父親は終始厳しい表情をしているのですが、映画の中で満面の笑顔を見せる唯一の場面があります。ある出来事がきっかけでホーマーが炭坑で働くことになった際、同僚にホーマーの仕事ぶりを聞きます。その答えである「さすが、おやじの息子」という言葉を聞いた時の父親の嬉しそうな笑顔を見逃さないでください。炭坑の仕事を愛し、もちろん息子を深く愛する父親にとって、ホーマーが炭坑で働くことがこの上ない喜びであるということが理解できます。そうした父親の仕事に対する想い、息子への愛情を踏まえてみると、ホーマーが最後のロケット打ち上げを見に来てほしいと父親に頼みに来る場面での、二人の会話に込められた親子の心情の内容をより鮮明につかむことができるのです。この感動的な場面、キーワードは「英雄」です。
この映画ではホーマーとロケットを共に作る友人たちとのやり取りが多く描かれています。その中でもクエンティンという同級生との関係の変化は友人関係に対する考え方を広げる格好のサンプルとなります。
クラスでも変わり者として疎外されているクエンティンですが、ロケットに関する知識が豊富なことから、ホーマーがロケット作りに誘い、そこから二人の友人関係が始まります。あまり表情がないクエンティンですが、ホーマーのロケット作りに打ち込む姿に触れて徐々に心を開き、笑顔を見せるようになっていくのです。この変化が何とも微笑ましく、胸が熱くなります。
ホーマーとクエンティンの関係が深化したことを最も顕著に表した場面があります。クエンティンの自宅を訪れたホーマーに対し、クエンティンは自分が貧しい境遇にあることを秘密にしておいて欲しいと頼みます。それに対してホーマーが笑顔で返した言葉が以下です。
どんな境遇にあろうと自分たちの関係が変わらないことを伝えた何とも美しい言葉に、涙腺が崩壊してしまいそうになる名場面です。ここで、なぜホーマーが「友人」ではなく「変人」という言葉を選んだのかをお子様とぜひ話し合ってみてください。
「友人という言葉を使うのが恥ずかしかったから」という答え、決して間違いではありません。ただそれ以外にも、以下のような要素があることもぜひおさえておいて頂きたいのです。
・友人であることはあえて言葉にして確認するまでもないとクエンティンに伝えるため。
・クエンティンの気持ちを少しでも軽くするために、互いに笑い合える言葉を選んだ。
親友だからこそ「私たちは親友だ」という言葉をあえて使わないことは、経験を積んで来られた親御様からすれば当たり前に思われるでしょう。ただ、小学生のお子様には心とは裏腹に使われた言葉の把握は難しいもので、そこを中学校側も容赦なく入試問題で突いてきます。ぜひホーマーの言葉の選択の真意を話し合われてください。
この映画では、炭坑で働く人々が使う地下に潜るエレベーターが効果的に使われています。
ホーマーがロケット作りから離れ、炭坑で働き始めた場面。エレベーターに乗り込んだホーマーが空を見上げると、そこに光を放ち夜空を飛行するスプートニクの軌道が映ります。それを見つめるホーマーを乗せたエレベーターが下降していく様子を映し出すことで、ロケット作りの夢が遠ざかっていくことが暗示されています。
また映画の終盤で、自分の想いを告げて去っていくホーマーの姿を、エレベーターの中から父親が見つめる場面。ここでもエレベーターが下降することで、ホーマーの姿が次第に遠ざかって見える演出がなされています。ここには成長を遂げて自分の元から離れていく息子の姿を見つめる父親の心情が託されています。ホーマーの後ろ姿が次第に上昇して見えるところには、彼が宇宙へ旅立って行くことが暗に示されているとも言えます。
下降するエレベーターの動きが、人物たちの心情を細やかに表していることにぜひ着目してください。映画ならではの表現ですが、人物の心情への想像力を培う機会になるでしょう。
父親とぶつかり合い、友人達との絆を深めながら夢に向かって突き進む高校生たちの姿を描いた本作は、中学受験生のお子様達の心に優しく希望の灯りをともしてくれます。映画自体が中学受験で出題対象になることはありませんが、親子や友人の間で交わされる心情を深く理解するための恰好の教材となる作品ですので、ぜひご覧になってください。
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