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amazon『給食アンサンブル2』如月かずさ(光村図書出版)
前作の『給食アンサンブル』が鴎友学園女子(2020年度)や学習院女子(2019年度)、香蘭女学校(2019年度)などで、また『さなぎの見る夢』が海城中(2010年度)、立教女学院(2010年度)、明治大学付属中野中(2010年度)など多くの学校で出題されてきた、如月かずさ氏による『給食アンサンブル』のシリーズ第2作が今回ご紹介する『給食アンサンブル2』です。シリーズ第2作ではありますが、前作の続編という内容ではありませんので、前作が未読でも十分に楽しめます。前作が6人の中学一年生それぞれを主人公とした連作短編集であったのに対し、本作品は1つ上の中学二年生6人を主人公とした連作短編集となっています。
各短編のタイトルが『ハヤシライス』『ミートボール』など給食のメニューにしている点も前作と同じです。これらのメニューがただ単にタイトルになっているだけでなく、主人公たちの心情の変化を象徴的に表している点が本作品の大きな魅力になっています。
それぞれに悩みを抱える主人公たちが、自分自身に向き合えずにいたところから、他者とのコミュニケーションを通して、相手の想いを知り、自分の本当の気持ちを理解することで心の成長を果たして行くまで過程が、細やかな表現でつづられています。
今回はこの連作短編集の中から、負傷が原因で部を辞めた主人公が自分の本心に気づき、新たな一歩を踏み出して行くまでの様子を描いた第一章の『アーモンドフィッシュ』を取り上げます。自分の本心がわからずに思い悩む主人公の心情の移り変わりが描かれた本編は、来年度入試で多くの学校が出題対象とする可能性が高いです。
≪主な登場人物≫
大久保慎吾(おおくぼしんんご:中学二年生の男子。脚の故障が原因でバスケットボール部(以下、本文に合わせて「バスケ部」とします)を辞めたが、退部した自分の本心がわからないでいる。)
雅人・バリー・もっさん・満(まさと・ばりー・もっさん・みつる:慎吾と同じ二年生のバスケ部員)
辻井先生(つじいせんせい:慎吾が一年生のときの担任の女性の先生。しかめっつらをしてぶっきらぼうな話し方をすることが多い。)
小宮山千秋(こみやまちあき・慎吾のクラスメイトの女子生徒。慎吾に吹奏楽部に入部するように勧めている。)
高城(たかぎ・慎吾のクラスメイトの男子生徒で吹奏楽部の部員)
≪あらすじ≫
中学二年生の慎吾は、脚の故障によりバスケ部を辞めています。無理な練習をくりかえしたことが原因と診察を受けますが、退部をした本当の理由が故障によるものではなく、部活動から逃げ出したかったことにあるのではないか、と自分の本心を疑いながら学校生活を送っています。そんな慎吾は、退部の話を聞いたクラスメイトの小宮山千秋から、吹奏楽部に入部するように誘われ、見学にも出向きますが、入部する意志を示さないでいます。
この短編は「友人関係」「挫折からの再生」をテーマとしています。自分の本心が何かをわからないでいた慎吾が、友人たちとの会話の中で自分の本心に気づいて行くといった、他者理解を通して自己理解を深めるパターンのテーマ構成になっています。クラスメイトや元担任の先生の働きかけを受けながら、バスケ部の仲間たちと向き合い、彼らの想いを知ることでようやく自分の本心の理解にたどり着くまでの慎吾の心情の流れを、慎吾の言葉や他者との会話から読み取ることがポイントです。
元担任の辻井先生の言葉を受けた慎吾が、それまで顔を合わすことを避けていたバスケ部の仲間たちのもとを訪れ、そこで互いの真の気持ちを告げ合う場面です。文章中にくり返し出てくる、慎吾の「うしろめたさ」とは具体的にどのようなものなのか、何がきっかけとなって慎吾が心を解放させて、自分の本心に向き合えるようになったのかを正確に読み取るようにしましょう。
P.20の8行目に「けれどいまのぼくにはもう、その勇気がなかった。」とありますが、このときの慎吾の様子について説明したものとして、最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。
ア.バスケ部を自信のなさから辞めた過去を思い出し、そのときと同じように吹奏楽部の部員たちに迷惑をかけることを恐れている。
イ.一度見学に行っただけで簡単に吹奏楽部への入部を決めてしまうと、バスケ部に入ったときと同じような後悔を味わうと感じている。
ウ.楽しそうという理由だけで吹奏楽部に入部してしまうと、バスケ部で感じたような人間関係の難しさに悩まされると思っている。
エ.吹奏楽部に入ってもバスケ部に在籍していたときと同じように、実力不足を感じて結局は辞めてしまう自分の姿を想像している。
バスケ部を退部した慎吾が感じる「うしろめたさ」とはどのようなものなのか。まずはその内容を確かめて行きます。脚の故障が原因で、医師や親に退部をすすめられた慎吾でしたが、そのときに強く抵抗していれば部活を続けることができたのではないか、退部したのは自分の意志によるものだったのではないかと考えています。そんな慎吾の心情が以下の部分に表されています。
最後の「自分の心を疑い続けていた」という表現に注意が必要です。脚の故障という自分の意志とは異なるきっかけがあっただけに、自分はバスケ部を辞めたいと思っていたのか、それとも続けたいと思っていたのか、慎吾はわからないでいるのです。故障という「辞めざるを得ない理由」のせいで自分の本心が見えづらくなっている、という慎吾の心情は、この後にある以下の部分にも表されています。
自分の本心がわからないからこそ、本当は辞めたくてバスケ部を辞めたのに、それを脚の故障のせいにしているのではないか、といった自分を疑う心情が、「うしろめたさ」として慎吾の心を支配していることが読み取れます。
では、慎吾が考える、バスケ部を辞めたいという意志は何がきっかけになっているのか。それが表されているのが以下の部分です。
バスケの実力が仲間たちのように上達しないことの苦しさから逃げ出すために退部をしたかったのが本心で、それを隠すために脚の故障を口実にしたのではないか、という疑いが「うしろめたさ」となって慎吾を苦しめていることが読み取れます。心に負担を抱えた慎吾は、普段の生活の中で様々な状況から逃げてしまっています。
バスケ部の仲間たちと会うことを避けたり、元担任の辻井先生から声をかけられても逃げるようにその場を立ち去るといった行動は、どれも心の痛みの強さから現実に背を向けていたいという慎吾の心情から発生したものです。そして問題該当部も、同じように目の前の事態に向き合おうとしない慎吾の様子を表しています。吹奏楽部員であるクラスメイトの高城から見学に来るように誘われても嘘をついて断り、吹奏楽部に入る勇気を持てないでいる慎吾の様子についての問題です。
選択肢のアは、前半の「自信のなさ」は適切ですが、慎吾を悩ませているのは部員たちに対する「うしろめたさ」であって、彼らに迷惑をかけたくないという心情ではありませんので不適切となります。同じく選択肢のウも後半にある「人間関係に悩まされる」といった様子は文章中に表されていませんので当てはまりません。選択肢のイの後悔とうしろめたさは全く異なる意味ですので、こちらも不適切となります。よって正解はエです。最後の「自分の姿を想像する」という部分に曖昧さを感じられるかもしれませんが、この時点では慎吾がバスケ部を辞めた理由が実力不足にあるかどうかは定かではなく、あくまで慎吾が考えたものですので、想像という表現が当てはまります。
エ
慎吾はバスケ部の仲間たちと再会をして、自分が悩まされているうしろめたさを告白し、それに対する仲間たちの言葉を受けて、自分の本心に気づきます。まずはその本心の内容を確かめましょう。
問題該当部の直前にある以下の慎吾の心の声がその内容と考えることができます。
これまで仲間たちとの実力の差を感じてバスケ部を辞めたいというのが退部をした本当の理由ではないかと思っていた慎吾は、自分が仲間たちとバスケをしていたかったという本心にたどり着きます。バスケ部を辞めたのは脚の故障が原因で、自分の意志によるものではなかったとようやく気づくことができたのです。自分の本心に気づかないという感覚は小学生のお子様方には実感がないところかと思われます。慎吾がバスケ部の仲間たちと自分を比べて劣等感を抱いていたことは確かで、そこに脚の故障が重なってしまったことで、退部の本当の理由が自分でもわからなくなってしまった。このような自分でもコントロールできない感情、自分の行動の理由がわからなくなるといった状態は、入試問題でも多く出題対象になります。まずは、こうした心情、感覚があることをしっかりおさえておきましょう。
文章の流れから慎吾の本心の内容自体は容易に理解できるでしょう。ポイントはその本心に慎吾が気づいたきっかけです。ここで解答を「バスケ部の仲間たちとの会話を通して」とだけにしてしまうと、「詳しい説明」という条件に合わず、字数も大きく不足してしまい、得点には至りません。仲間との会話がどのように慎吾の心に響いたのかといった部分まで詳しく説明するようにしましょう。
仲間たちから投げかけられた言葉に対する慎吾の反応に、そのヒントが含まれています。自分のうしろめたさを告白した慎吾に対して、仲間の一人、満が「慎吾はそういうことはしないだろう」(P.26の15行目)という言葉を発した際の表情について、慎吾は以下のように感じ取っています。
満の言葉が偽りのない本音であることをその表情から慎吾が感じ取った場面です。バスケ部員として一緒に過ごしてきた仲間であるから、その言葉、表情に嘘がないことが慎吾にはわかるのでしょう。仲間のことを疑っていた慎吾にとっては、満の反応は驚きを持って受け止められるものでした。仲間たちの心の内を知ることで、初めて自分の本心に気づくことができた、そんな慎吾の想いを凝縮したのが以下の表現です。
さらに、慎吾が仲間たちの心情を理解したことを説明するうえでは、この部分の直前にある以下の表現にも目を向けておきましょう。
脚の故障を理由に部活動から逃げたと思われていると、慎吾は仲間たちのことを疑っていました。それだけに自分の信じてくれた仲間の存在への感謝の気持ちは大きかったと読み取れます。
今までは逃げ出したくて部活を辞めたとバスケ部の仲間たちに思われていると疑っていたが、実は彼らが自分を信じ続けていてくれたことを知り、そんな仲間たちと一緒にバスケをしていたかったという本心にようやく気づくことができた、といった内容を字数に合わせて答案として完成させましょう。
この部分での慎吾と仲間たちとのやりとりは部活を題材とした物語文などでは多く見られる設定で、特に他者理解を通して自己理解を深めるといった2つの重要テーマが関連し合っているというケースは入試でも頻出で、どのように他者を理解したのか、そして自己理解はどのような内容なのか、といった点が出題対象になります。今回の作品を読み通すことで、内容理解の練習をしておきましょう。
自分が部活動から逃げたくて辞めたとバスケ部の仲間たちに思われていると疑っていたが、実は自分を信頼していてくれたことを知り、そんな仲間たちと一緒にバスケをしていたかったという本当の気持ちに気づいた。(98字)
今回ご紹介した短編『アーモンドフィッシュ』以外にも、吹奏楽部の高城を主人公とした『クリームシチュー』や、同じく吹奏楽部に所属する三熊(みくま)という生徒が主人公となる『くじらの竜田揚げ』など、本作品には来年度入試で出題対象となる可能性の高い短編が多く掲載されています。どの短編も『アーモンドフィッシュ』の慎吾のように、思い悩みながら日々を過ごし、他者を理解することをきっかけとして自分の気持ちや立場に気づき、心の成長を果たす人物たちの姿が描かれています。他者とのつながりの中で成長して行く人物たちの姿からは、コロナ禍で失われた身近な人々とのつながりが、いかに重要であるかというメッセージが強く伝わってきます。「給食」という、これもコロナ禍にあって制限されてきた時間を共通テーマとしていることも、読者となる学生たちにその時間の大切さを伝えたいという想い、そしていつかそれが戻ってくることへの願いが込められているように感じられます。前作の『給食アンサンブル』と同じく、とても読みやすい文体で書かれていますので、5、6年生だけでなく、読書好きな4年生の皆さんにもぜひ読んで頂きたい一冊です。
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