親御さんの趣味の雑誌も貴重な教材になります

すでにお父様・お母様が実感されているように、中学受験の国語で出題される文章のレベルは極めて高度なものが含まれます。高度と一言で言っても、例えば桜陰中のように大学受験で出題されるような「文化・文芸論」などをテーマに扱うものや、麻布中のように、読みやすい物語文でありながら、そこで交わされる人物達の心情の交流や変化を追うことが難しいもの、駒場東邦中のような超長文、など。学校ごとに様々なかたちでそのレベルの高さが表されています。また、最近では古典回帰の流れもあり、以前に、このメルマガで取り上げたように随筆文も多く出題される傾向にあります。そこで、塾の先生や、受験情報誌からは「大人向けの文章に触れることが大事」とよく言われます。

では「大人向けの文章」とは、どのように入手すればよいのでしょう。「大人向けの文章」の中にはお父様・お母様からご覧になって、お子さんの年齢では早すぎる、と判断されるものも多くあるかと思います。例えば『機関車先生』などの伊集院静氏の作品は、受験でも頻出ではありますが、作品によっては抜粋された箇所以外には、大人同士の恋愛などがかなりリアルに表現されていることもあります。そうした内容を生徒さんに無条件で見せることに、躊躇されることは当然でしょう。

より安全に、リスクなく大人向けの文章を入手する方法はないものでしょうか。

そこで今回お薦めする方法は、「親御さんが普段読んでいる雑誌の中から大人向けの文章を見つける」ことです。雑誌と聞くと、それこそ大人限定の内容が多くなるのではと思われるかもしれませんが、大量に発行されている雑誌の中には、生徒さんが大人の世界を垣間見る(大人の文章に触れる)ことができる格好の教材が隠れている逸品があります。私達もそうであったように、生徒さんにとっては「少しの背伸び」で見える世界というものは魅力に溢れています。そうした世界に対しては、普段の国語の教材や、課題図書となった文庫本を「読まなければならない」時に感じる壁を感じずに、文章の世界への扉を軽やかに開けることができるかもしれません。また、しっかりと選びさえすれば、先に触れました「見せたくない大人の世界」は回避できます。

ここではそうした雑誌のいくつかをご紹介します。まずは、ぜひお父様・お母様が読んでみて、お子さんにお薦めできる内容であれば、その文章をもとに、お子さんに色々とお話をしてあげて下さい。そうした会話の中で、お子さんは、私たちが思う以上に語彙を増やし、考え方を身につけ、世界を広げていくのです。

【お薦めの雑誌】

[1]『Number』

電車の中吊り広告でもよく目にする、言わずと知れたスポーツ専門誌です。スポーツでは…と思われるかもしれませんが、スポーツは多くの人間ドラマがはっきりとしたかたちで凝縮された世界です。あさのあつこ氏の『バッテリー』や佐藤多佳子氏の『一瞬の風になれ』などが、教材として受験生にも薦められていることがそれを象徴しています。競技に打ち込む姿の美しさ、挫折を乗り越える意志の強さなどは、現在志望校合格という目標に向かっているお子さん達にとっても励みや支えになるでしょう。特にNumberは、データを収集するだけの、ただ専門的なスポーツ誌ではなく、そこで活躍する人物達の様々な姿を、美しい写真を交えて紹介しています。文章は趣向を凝らしている分、少し読みづらいかもしれませんが、分からない言葉や表現があれば親御さんが説明してあげてください。隔週発行ですが、現在発売されている号は「オリンピック特集」、表紙はダルビッシュです。

[2]『dancyu』

料理専門雑誌です。本年度、慶應普通部の理科で「カレーの作り方」が出題されたこと、ちょうど現在発売されている号が「カレー特集」であること、といった理由で取り上げているのではありません。Numberがスポーツを舞台にした人間模様を扱っているように、dancyuは料理に取り組む様々な人々の活躍や苦悩がつづられている、やはり人間ドラマを豊富に含んだ内容になっています。例えば「日本のワイン」を特集した際には、数多の料理雑誌のように、カタログ的にワインを紹介するだけではなく、山梨や長野のぶどう園で働く若い世代を、数ページにわたる記事として取り上げています。文章としては紹介文のようではありますが、人物描写の表現などを覚えるきっかけにもなります。また、もちろん料理がメインですので、旬の野菜や魚なども扱われています。塾などが理科の指導で触れる「日常生活から様々なものに関心を持つ」ことが紙面で体験できるメリットもあります。それに、生徒さんが気になった料理があれば、夏休みの時間を利用して、ご家族で一緒に作られてはいかがでしょうか。料理というのは手順を大切にするところで、算数的な要素もありますし、素材を扱う中で、もちろん社会や理科の要素も含む、総合学習の側面を持っています。

[3]『Newton』

お子さんで理科好きな方であれば、もうすでに読まれているかもしれません。「graphic science magazine」と銘打っているように、科学専門雑誌です。月刊誌で毎号あるテーマを取り上げて、絵や写真を織り交ぜて、深い内容の解説が載せられています。専門用語も当然多くなることから、読みづらく感じることはあるかもしれませんが、すべてを読もうとはせず、好きなテーマの時に好きなコーナーだけ読む、といったかたちでも十分です。ちなみに今月(9月号)は「北京」が特集されています。オリンピックが開催されることからかと思われますが、普段のNewtonとは少し趣が異なり、社会的な内容が豊富に含まれています。例えば、万里の長城や黄砂といった中国ならではの風景や、中国に在る世界遺産などがダイナミックな写真で紹介されており、見ているだけで圧倒されます。それ以外にも中国の歴史を際立つ特徴を追いながら図説してあるコーナーは、そのまま歴史の資料としても活用できます。 今年がオリンピックイヤーであり、しかも舞台が中国となると、来年度入試で中国と日本の関係などが社会で出題される可能性もあるのでは、といった考えも頭をかすめますが、そうした動機ではなく、自然に薦められる方がよいでしょう。見やすさとお子さんにとって新鮮な驚きが持てる雑誌として、大いに活用できると思います。

以上のようにいくつかの雑誌を取り上げましたが、上記以外でも例えば釣りの専門誌であれば、そこに生態系についての文章が、建築・インテリアの専門誌であればLED照明といった新素材についての文章があるでしょう。映画雑誌でも、例えばそこに宮崎駿監督についての文章があれば、作品に込められた自然への想いなどが書かれているかもしれません。それらを通して、お子さんが様々なテーマをご自身の中に増やしていくのであれば、何でも構わないと思います。親御さんの「趣味の世界」の雑誌には、お子さんにとって魅力のいっぱいつまった、少し背伸びして見てみたい「大人の世界」が隠れています。そうした世界を通して、様々な文章に触れる機会をこの夏休みにぜひ共有してみて下さい。

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