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入試で出題された文章を統計してみると、面白いことがわかります。新作重視の傾向はたしかに続いているのですが、じつは7〜8月までに出版された本から、多く出題されているのです。2008年の入試においても、新作を使った問題の約3分の1が7〜8月に出版された本からの出題でした。逆に、8月以降に出版された本からはほとんど出題されません。これはあくまでも推測ですが、多くの中学校が、入試問題に使う文章を7〜8月に選定しているからではないかと思われます。
では、来年の入試にはどの本が狙われるのでしょうか?今年、注目される作品をいくつかご紹介します。
一つ目は、もはや受験の定番となった重松清です。去年は『小学五年生』が6校以上で出題された勢いは、今年も続きそうです。重松の今年の注目作は『季節風 夏 ぼくたちのミシシッピーリバー』(文芸春秋)短編集になっていますので、小学生を主人公とした「ぼくたちのミシシッピーリバー」や「虹色めがね」などが注目です。
2つ目は、理科的な説明文として、稲垣栄洋『キャベツにだって花が咲く』(光文社)をお勧めします。キャベツとレタスが同一種であるなど、野菜について理科的に説明されています。わかりやすい言葉遣いで説明されていますので、中堅校での出題も予想されます。
3つ目、論説文では、齋藤孝『なぜ日本人は学ばなくなったか』(講談社)が注目です。読書や向学心の必要性を、わかりやすく述べています。中学校の先生方も、近年の学力低下には関心を持っていらっしゃるでしょうから要注意です。
このほか、9月以降の三大模試で取り上げられた文章には注意したいものです。続きが気になった物語や、関心を持った説明文には、目を通しておくとよいでしょう。
入試本番では、ヤマが当たったときほど注意が必要です。私の経験からも、以前に読んだことがある文が出題されたのに、案外、結果が振るわなかった生徒が多くいました。それは、「たしか、こういう話だった」というあいまいな記憶や先入観を頼りに問題を解いてしまい、肝心の文章を集中して読まなかったことが原因です。これでは、せっかく出題される文章を事前に読むことができても、意味がありません。
自分で読書する場合、「これからどうなるんだろう」と、物語のあらすじを中心に読むことが多いはずです。特に、小学生の場合、「読書=あらすじを追う」ということになりがちです。しかし、入試問題は、多くの先生方が何時間もかけて一部分を読み、解釈していくことで作られています。また、学校の特色も織り込まれていくことでしょう。ですから、問題を解くには、傍線部に注目し、問題の手がかりを探すという作業を中心にしなければなりません。このように、自分ひとりで読書するのと、実際の問題を解くことは、全く異質な作業なのです。
ですから、事前に、注目作ばかりを読みあさるのは避けたほうがよいでしょう。あくまでも、自分の読んでいる本が「出たらラッキー」というぐらいの気持ちで読むべきです。
さきほど、「自分ひとりで読書するのと、実際の問題を解くことは、全く異質な作業」だと述べました。このことを実感するためにも、問題を解いてから、読書するのではなく、読書してから問題を解いてみることをお勧めします。そうすることで、自分が読書を通して持っていた印象と、問題で聞かれていることが、あまり一致するものではないことを実感することができるはずです。
2008年の麻布中学校でこのことを体験してみましょう。2008年は、安東みきえ「夕暮れのマグノリア」が出題されました。この過去問をやる際に、「夕暮れのマグノリア」を読んでから、麻布の問題に挑戦してみるとよいでしょう。一冊の本をすべて読むのは大変ですから、本のはじめからP120まで読んで、問題にチャレンジするかたちでも構いません。
物語は、友達をバイ菌扱いする「拒食症ごっこ」というイジメが行われていたけれど、主人公は稲妻で幻影を見たことをきっかけに、イジメの輪に加わるのをやめたというあらすじでした。この本を実際に読んでみると、稲妻でバスの窓が「鏡」のようになるという不思議な現象にばかり目が行きがちです。
しかし、問題は今述べた「あらすじ」だけでは、ほとんど解くことができません。人物の気持ちを深く掘り下げたり、比喩の意味を答えさせたりしています。このように、読書してから問題を解いてみると、自分の印象と問題の関心が、必ずしも一致しないことがよくわかります。しかし、そうだからといって、「本を読むな」と言っているわけではありません。もちろん、事前にその話に接する機会があれば、ライバルよりも有利なスタートラインにたつことができますから。ただし、事前に読んでいた作品が出題された場合でも、丁寧に本文を読むことを絶対に忘れないようにしてください!
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