サピックス国語の落とし穴

サピックス国語の『ウリ』は、何といっても記述。書かせることそのもので思考力を鍛えるということに尽きるのではないでしょうか。実際サピックス生は他塾の生徒に比べ、記述することに対する抵抗感がとても低く、普段から「書く」という行為が授業の中で当然のこととなっています。Bテキストの記述問題や「SAPIO添削教室」で多くの記述問題をこなす一方で、マンスリーテストや組分けテストでは本文全体の理解を試す長字記述が必ず出題されています。

書くという行為は、自分の考えをまとめたうえで、「文」という形にする過程を経るため、必然的に思考力が養成されるだけでなく他教科の土台づくりにも重要な役割を果たします。サピックスが御三家をはじめとした難関中に優れた合格実績を誇る理由はここにあるに違いありません。いまやサピックスは受験の王道を行っているのかもしれません。

しかしながら、かの「サピックス国語」には意外と知られていない『落とし穴』が存在しているのをご存知でしょうか? これは特にロー・ミドルコースの生徒さんや、ハイコースで女子学院・慶応普通部・早稲田・早実など(記号など、客観形式の出題が中心の学校)を第一志望とするご家庭では必ず押さえておかなければならないポイントです。

サピックスで国語が伸び悩んでいる生徒さんに多いケースとして、記号問題を中心とした客観形式で点数を落としがちでつまずいている。あるいはどのように学習してよいのかわからない。など、きっかけがつかめないというものです。

では、このようなケースが頻繁に見受けられるのはいったいなぜでしょうか?4〜5年のサピックスの年間カリキュラム・テキスト構成をひと通りご覧になれば理由は明白です。

サピックスでは他教科も含め、おおむね教材をAタイプ(記号などの客観問題が多く入っているもの)とBタイプ(記述中心のもの)に分けるシステムになっています。ここでは年間カリキュラムは省略させていただきますが、この点を踏まえながら国語「デイリーサピックス」のテキスト構成を見てみましょう。

■Aテキスト

  • [1]デイリーチェック(前回の確認テスト)
  • [2] 基礎力養成講座(語句・文法をはじめとする知識全般)
  • [3]読解演習講座(客観形式の読解問題<記号・空所補充・ぬき出し中心の問題>。20分程度で解ける短文が2〜4題)
  • [4]漢字練習欄([2]とともに次回のデイリーチェックに出るもの)

■Bテキスト

  • [1]テキスト本体(平均8ページの長文)
  • [2] 解答用紙(記述問題が平均10数題。記述の空欄がズラリと並んでいる。客観形式の問題はほとんど含まれない)
  • [3] SAPIO添削教室(1カ月に1〜4回、学年・授業にもよる)

注目すべき点はAテキスト[3]は一部ハイコースを除いてはすべて宿題に回され、授業では扱われないことにあります。

つまり5年生までのサピックスでの読解授業とは、あくまでもBテキストなのです。そのためテキストの性質上、記述メインの授業展開となり、客観問題に触れる機会が極端に減ることになります。御三家をはじめとした難関中はあくまで記述重視の学校が大半を占めるため、Bテキストがこの傾向を踏まえたものになっていることは知っておきたいサピックスの特徴です。もともとBテキストは麻布や武蔵をはじめとした、8000字にも上る「超長文」を読ませ、ひたすら書かせる学校の傾向に対応するために発案されたテキストなのです。余談ですが、サピックス小学部の開講以来20年近く使われているテキストもいまだ多く残っています。

以上からご理解いただけるように、サピックスでは土曜特訓(入試問題による演習授業)が始まる6年生になるまで、授業内で客観形式の問題(記号・ぬき出し・空所補充)に本格的に取り組む機会が他塾に比べ極端に少ない結果となるのです。裏を返せば、サピックスでは6年生に入ってから初めて読解の客観問題を詳細に扱うようになるのです。

さて、ここまでの内容を受け、入試でほぼ例外なく出題されている接続語を例にとって考えてみましょう。5年生では通年で見たときにコースや校舎によって若干の差はありますが、A授業で前期に1回・後期に1回程度扱われているにすぎません。しかし入試まで見据えていったとき、接続語の空所補充問題は漢字や語句同様に重要な分野となるため確実な得点源にしておきたいところです。

もちろん接続語に関して言えば、B授業で記述問題を解く過程で、部分的に取り上げられることはあるかもしれません。ですが、接続語に特化して各接続語の働きを確認しながらじっくり包括的に学習する機会は4年生から数えても前期・後期の各2回のわずか4回程度。ちなみに昨年度の5年生・年間カリキュラムでは、「指示語・接続語」と題したAテキストで、集中的に扱う授業が後期の初めに1回設定されており、その他品詞の授業で部分的に扱われていることが1回のみでした。(ただし、ハイコースでは、授業の展開が速いため、Aテキストの「読解演習講座」を授業中に演習しているクラスの場合、客観問題を扱う機会が増えることがあります。とはいえミドルコース以下では、「デイリーチェック」と「基礎力養成講座」のみで授業を行うため、やはり4年生から在籍していたとしても4回が関の山と言えます。授業時間に換算するとわずか5時間です!)。

接続語は、文章の論理を客観的かつ正確に把握して読んでいくためにとりわけ重要な部分です。接続語に強くなれば主観で文章を読むことが少なくなるため、成績も安定の方向へと向かいます。ところが小学生の場合、接続語は意外と定着が難しい分野なのです。ほとんどの生徒さんは一度や二度の授業ではすぐに内容を忘れてしまいます。目的意識を持った反復学習なしでは、いつまでも感覚的に処理する状況が続いてしまいます。特に国語が苦手な生徒さんの場合、接続語に対する意識が著しく低い傾向が見られます。接続語を意識した読み方ができないまま6年生を迎えると、一朝一夕には解決できない問題へと発展することになりかねません。

試しに、お子様の現状を把握するため、『「だから」と「すると」と「そして」はどのように違うのか』答えさせてみてください。『「あるいは」はどんな場合に使えるのか』などでも構いません。「ところが」と「ところで」の違いさえ言えなければ間違いなく赤信号です!

サピックス国語で「先送り」されているのはなにも接続語に限ったことではありません。内容一致の記号問題(たとえば——線部の理由や意味、心情などを記号で選ぶ問題)にも同様の傾向が見られます。これに関しても本格的に触れられるのは土曜特訓が始まる6年生以降になります。冒頭に挙げた女子学院・慶応普通部・早稲田・早実など、Aタイプの学校を第一志望とする生徒さんの場合、これら記号問題の選択肢を確実に絞り、正解にたどり着く力を養わないことには合格はおぼつきません。遅くとも5年生のうちから主体的に客観対策をしておくべきです。

それでは、今後どのような対策を講じていけばよいのでしょうか。今回は接続語と記号問題に的を絞って述べたいと思います。

まず接続語(「たとえば」「いわば」など副詞も含む)の場合、Aテキストの接続語の回(昨年度5年生の場合、52A−21)の巻頭の一覧表をコピーして机の前に貼っておくなど常時反復できる環境をつくってあげましょう。一覧表はかなり簡略化したものでは入試に対応できませんので、詳しめで例文も豊富に載っているものがよいでしょう。四谷大塚の予習シリーズでも構いません。Aテキストの「読解演習講座」やマンスリーテストの接続語で間違えた場合、この表に戻って働きを確認しましょう。その際、漠然とやるのではなく、特に空欄の前後の文を「精読」しながらきっちりと把握しましょう。「ところが」で間違ったとすれば『前のこの表現と後のこの部分が逆の内容になっている』というように理屈づけて復習しましょう。時には図解してみるのも効果的な方法です。

◆まとめ

  • [1]「一覧表」を常に目にとまる場所に貼っておく(A授業のノートの表紙裏でも可)
  • [2] 誤ったら[1]の表に返る
  • [3]論理的な直し方を心がける

次に、記号問題(前記の内容一致的なもの)に関してですが使用する教材はAテキストの「読解演習講座」でよいでしょう。繰り返しになりますが、サピックスでは6年生に上がるまで授業でほとんど触れられることはありません。そのため4・5年生の段階では、基本的なやり方さえ理解できていない生徒さんがあまりに多いに違いありません。

選択肢を絞るための方法として最も一般的なものは、誤っている選択肢から順番に消す、いわゆる【消去法】です。ところが早稲田(特に1回目)や早実が典型的な例になりますが、「正解」ならびに「ほぼ正解」の選択肢がひとつの設問に2つ以上含まれていることがよくあります。選択肢が本文中の表現を巧妙に書きかえたり、要約したりすることで作成されているのを踏まえると、積極的に本文と選択肢の表現の「対応」を見極める【積極法】の視点を養っておくことも必須と言えます。先の早稲田・早実の問題を最後の2つから絞り込む際、この視点で表現の対応箇所の多寡や、要約がより本質を突いているものを分析すれば見事に正解を導くことができます。攻略のポイントは両者の視点から選択肢をながめられる「眼」を早期のうちに養うことです。この訓練はマンスリーテストや組分けテストの対策にもつながります。

◆まとめ

  • [1]【積極法】と【消去法】のふたつの視点を持ちあわせる(設問ごとにどちらの視点がより有効かを検討する)
  • [2] 選択肢を綿密に分析する(特に間違った場合は、選択肢をブロックに分解し、一つひとつ本文と照らし合わせながら○×△などの印を入れていく。さらに『本文■ページ■行目からわかる』など、それらが判断できる文中の根拠を鉛筆で書くようにする)
  • [3]感覚的なアプローチを意識的に排除し、納得がいくまで考える。(自分で解決できない場合は質問教室を利用したり、家庭教師に質問したりする)

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