ムーミンの作者トーベ・ヤンソン生誕100年

親御さんの世代からすると、ムーミンと聞けば懐かしい思い出がいくつも蘇ってくるのではないでしょうか。アニメ番組の主題歌、独特のフォルムをしたムーミン一家の面々、そしてミイやスナフキン、ニョロニョロといった個性的なサブキャラクター達。
2014年は、その児童文学『ムーミン』シリーズを生み出したフィンランドの画家トーベ・ヤンソンの生誕100年にあたります。それを記念して世界各地でイベントが開かれ、日本でも展覧会や映画祭など、さまざまなイベントが目白押しです。

ムーミンや作者トーベ・ヤンソンを中学入試の題材とした場合、どのような問題が想定されるでしょうか。
実は後程ご紹介しますが、すでにムーミンを題材とした国語の問題が、東京男子難関校の桐朋中学で出題されたことがあります。サピックスの入試報告会で、その年の良問のひとつに選ばれるほどクオリティの高い問題です。ぜひ機会を作って見てみてください。桐朋中学が題材に選んだように、ムーミンの世界には深い含蓄があります。まして作者の生誕100年にあたる今年であれば、国語の題材となる可能性はより高まると言えるでしょう。

また、社会の面でも大事なポイントが含まれています。トーベ・ヤンソンが生まれたのが1914年、これは第一次世界大戦勃発の年です。そしてムーミンシリーズの第1作『小さなトロールと大きな洪水』が出版されたのは1945年、第二次世界大戦直後のことでした。ムーミンシリーズは二つの世界大戦の間に誕生したのです。この期間の日本ではどのような出来事があったのか。もとより出題対象となりやすい時期ですので、注意が必要です。
今回はムーミンを題材として取り上げてみたいと思います。

【社会の観点から】

トーベ・ヤンソンが幼少期から多感な青春期に戦争体験をしたことが、作品にも影響を与えているということは多く語られています。絵画史研究家でヤンソンの生涯に詳しいトゥーラ・カルヤライネンさんはインタビューにこう答えています。
「ヤンソンは厳しい戦争の現実の中で、自分自身の心の安らぎを求めて、ムーミンを生み出したのではないか」
ヤンソンが育ったフィンランドは第二次世界大戦が開戦してから旧ソ連の侵攻を受けるなど、大変厳しい状況にありました。世界規模で広がった2つの世界大戦。中学入試でも出題対象になる事件が多い、密度の濃い時代ですので徹底した理解が必要です。年表を傍らに置いて、時代の流れ、重要な事件をしっかり確認しておいてください。第一次世界大戦後の1920年に団体を結成して女性解放運動を展開した、平塚らいてうと市川房枝の名前もおさえておいた方がよいでしょう。年齢も活動の方法も異なりますが、世界大戦下にあって輝く女性の存在ということで、関連づけて出題されるかもしれません。

【国語の観点から】

まず桐朋中学2011年度の問題ですが、意地悪なおばさんの皮肉に耐えるうちに姿が見えなくなったニンニというキャラクターが顏を取り戻すまでの物語が題材となっています。ニンニはミイの荒っぽい激励や、ムーミンママの深い思いやりに触れて、少しずつ自我を芽生えさせ、ついに気持ちを強く持つことで自分の顔を取り戻します。この過程を読んで、自分の個性を確立させるためには自分の意志の発動が不可欠であることを考えさせるという、高度な読解力を求める問題です。

このように、一見すると子どもを読者対象とした物語でありながらそこに普遍的なテーマが隠されている、というパターンは、中学入試の問題作成者にとっては恰好の出題の材料になります。

4,5年生のお子さんであれば、親御さんと一緒にムーミンの物語を読んで、その意味するところを語り合ってもよいでしょう。なかなか時間がない6年生には、親御さんが物語を読んで、その一遍を紹介してあげてはいかがでしょう。そのための資料として一冊の本をご紹介します。講談社文庫より発売されています『ムーミン谷の名言集』です。数多くのムーミンの物語の中から、様々なキャラクターが発した言葉が掲載されています。まず親御さんが見て、言葉の裏に隠されたテーマを感じられたものについて、お子さんと話し合うという流れで進めてみてはいかがでしょうか。

例えば、『ムーミン谷の十一月』の中でスナフキンが、こんな言葉をつぶやきます。
「ぼく、ムーミンたちのことだって、わずらわしく思うこともある。おしゃべりもしたがるし、どこへ行っても、だれかしらいるし。だけど、ムーミン一家とくらしていると、いっしょでも、ひとりでいられるんだ。みんな、どんなふうにふるまってたんだろう…?不思議な仲間だなあ…。あんなに何年も何年も、長い夏を、ムーミン谷ですごしていたのに、ぼくは気づきさえしなかったんだなあ。ムーミンたちは、ぼくのこと、ひとりにしておいてくれたんだ…」

親御さんであればこのスナフキンが抱いた安心感、喪失感が身をもってわかるのではないでしょうか。本当の仲間意識というのは、余計な言葉も、もちろん干渉もなく、それぞれがあるべきままにいさせてくれること。またそんな大事な存在の有難さは、彼らが不在になって初めてわかるということ。お子さんにはなかなか理解できない感情ですので、ゆっくり説明をしてあげてください。
中学入試の重要なテキストになる『ムーミン』を、読み直してみてはいかがでしょうか。

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