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今月は、“測位衛星「みちびき」”と“水星探査機「みお」90億kmの旅”そして“温室効果ガス観測衛星「いぶき2号」”の衛星特集となりました。
日本版GPS(全地球測位システム)となる測位衛星「みちびき」は去年10月までに24時間運用体制に必要な4機が打ち上げられていました。運用準備が整ったので、11月1日本格的なサービスを開始しました。専用の受信装置を使わなければならないのですが、今まで3~10m程度あった位置の誤差が、6cm以下になり、ビルや山の谷間などでも途切れることが無くなるので、色々な分野で活用が期待されています。
自分がどこにいるか教えてくれ、行きたい場所に道案内をしてくれる携帯電話やスマホ、車の運転を画期的に楽にしてくれたカーナビ。これらは全地球測位システムGPSのおかげなのです。
GPSは米国の軍隊が世界中どこにいても正確な位置(緯度、経度に加え高度も)を知るため米国が開発し運用しているシステムです。その後、米国大統領が民間活用を保証したため、GPSの活用が爆発的に世界中に広がりました。
GPS衛星は6つの軌道上に各4基の衛星が等間隔に並んだ、合計24基の衛星で構成されています。各々の衛星は約2万kmの高度から電波を出しながら12時間で地球を回っています。その内最小4基の衛星の電波を受信することで位置が分るシステムなのです。何もない野原なら水平線上に見える10機程度の衛星の電波を受信できるので位置精度が上がりますが、それでも誤差は約3~10m程度となります。当然ビルの谷間では衛星が見えなくなり誤差が大きくなり最悪は位置が分らなくなります。
赤道上空36,000kmを24時間で周回する気象衛星ひまわりなどの静止衛星は、南方上空約30~50度の位置に静止して見えます。ところが、南方に障害物があると衛星からの電波が遮(さえぎ)られてしまいます。そこで日本版GPSでは、衛星が日本上空に長時間居るように軌道を決めたのです。それは、赤道上空ではなく日本上空(準天頂)とオーストラリア上空を通るような楕円軌道とし、1周24時間で回っています。日本上空では40,000km、オーストラリア上空では32,000kmの楕円を描いて周回しています。日本上空に長時間居るので準天頂衛星と言われています。
その結果、世界地図であらわすと日本からオーストラリアの上空を8の字を描いて動いている様に見えます。
1つの衛星は日本上空(8の字の上の部分)に約8時間いるように周回しています。3基の衛星のどれか1基が日本上空にいるように調整されているので24時間途切れない運用ができるのです。もう1基は災害時などの情報通信にも使用する静止衛星で、昨年10月には4基体制となり運用準備をしてきましたが、やっと正式運用となったのです。
衛星が常に日本上空に有れば、高層ビルの谷間や山間部でも衛星からの電波を受信でき位置がわかるようになります。更に日本版GPSは、米国のGPSの誤差を修正する特殊な信号を出しているので、修正された位置情報の誤差はなんと「6㎝以内」の世界最高性能の位置情報が取得可能となり、飛躍的に精度が向上することになります。
産業への応用としては、最も期待されるのは車の自動運転です。車線を変更したり、対向車とすれ違ったりする際には数cm単位の精度で位置を把握する必要があり、3~10mの誤差のあるGPSだけでは困難でした。また、農作業用トラクターの耕作、種まき、田植え、刈取り、農薬散布などの農業用機器の自動運転、雪に埋もれたガードレールに接触せずに道路を除雪する自動運転除雪車、小型無人機ドローンによる宅急便など、画期的な応用が期待できます。更に東南アジア、オセアニア上空も通るので、様々な国際貢献にも期待されています。
皆さんだったらどの様な活用方法が考えられますか?
太陽に最も近い惑星、水星の謎を探るため、日本の宇宙航空研究開発機構JAXAの開発した衛星「みお」と欧州宇宙機関ESA開発した水星表面探査機「MPO」2つの探査機が10月20日、南米のフランス領ギアナから「アリアン5」ロケットで打ち上げられ、約90億kmの長旅に出発しました。
水星は地球より内側を公転しているので、地球、金星と水星の重力を利用して減速する“スイングバイ”を繰り返し、7年後の2025年12月に水星周回軌道に入る予定です。地球と水星の最短距離は約0.92億kmなので約100倍の距離を航行するため、到着まで時間が掛かるのです。
水星は太陽系の最小惑星で、直径は4880kmと地球の約38%で、月より少し大きい1.4倍程度。表面は月同様無数のクレーターで覆われています。公転周期は88日、1昼夜が176日と長いので、地表温度は427~-(マイナス)173℃と寒暖差が非常に激しく600度にもなります。
水星の最大の謎は地球型惑星(水星・金星・地球・火星)の中で地球以外唯一磁気を持っていることなのです。地球の磁力は内部の高温に溶けた鉄などの金属が対流することで電流が発生し、磁力が生じているのですが、水星は小さく内部の金属は既に冷えて対流しないので磁力は生じないと思われていたのです。ところが1974年、初の米国水星探査機が水星に磁力があることを発見し、2011年からの2度目の衛星で磁力の中心が地球と違って北側にかたよっていることが判りました。謎は一層深まったのです。
水星のもう一つ謎が大きさの割に非常に重いことなのです。地球の場合重い金属の割合は3割強なのに水星だけは7~8割なのだそうで、なぜ金属がこれほど多いのか46億年前の太陽系誕生時にさかのぼる謎なのだそうです。
さらに、ごく微量ながら望遠鏡による観測で分かっている大気の存在も謎の一つ。水星は重力が小さいので大気を引き付けておくことは不可能と思われてきたからです。
水星探査は日本初で、非常に過酷な環境に堪えなければならない技術的困難さから、世界でも過去に米国が2回しか実施していません。JAXAの「みお」は幅が180cm、八角形の柱の形で、強烈な太陽光線から機体を保護するため鏡を貼り付けています。水星付近の磁場とわずかに存在する大気を観測します。
欧州のMPOは地表の地形や鉱物などを観測します。日欧で作業分担をした共同惑星探査は初の試みで、この計画は約20年前にスタートし数々の困難を乗り越え予定より8年延期され打ち上げられました。
大気中の温室効果ガスを観測する全長5.8m重さ1.8トンの人工衛星「いぶき2号」が10月29日H2A 40号機により打ち上げられ、2009年運用された人工衛星「いぶき」の後継機として活躍が期待されています。
「いぶき2号」は地球温暖化による異常気象の原因となっている温室効果ガスの“二酸化炭素”や“メタンガス”などの濃度を現在の「いぶき」より7~8倍の精度で観測できます。また、主に火力発電所や工場から排出される一酸化炭素を観測する機能が増えたので、人間が原因となっている温室効果ガスの排出量が推定できます。さらに、粒子が極めて小さい大気汚染物質「PM2.5」の濃度を観測できます。
地上の観測点は数が限られますし、各観測機械の精度も異なっているため、世界中から送られたデータを積み上げても正確な数値を把握することができません。宇宙から地球全体を監視することで地上の排出量を検証することができるのです。これによって、温暖化対策の国際的枠組みである「パリ協定」で締約国が報告しなければならない排出量の数値の検証に貢献することが期待されています。
H2A40号機には「いぶき2号」の他にアラブ首長国連邦UAEの地球観測衛星「ハリーファサット」や4基の小型衛星が登載されています。複数の小型衛星の同時打上は最近の傾向ですね。
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