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絵本『アリになった数学者』(森田真生・文/脇阪克二・絵 福音館書店)は、タイトルの通り、アリになってしまった数学者が、数への愛を語り、アリの視点で数についての新たな考え方を展開していく、という物語です。絵本ではありますが、私たち大人が読んでも、深く考えさせられることを多く内包した素晴らしい作品です!どうしても算数が好きになれない、苦手意識が払拭できないというお子様にこそ、ぜひ読んで頂きたい作品なのです。以下にその3つの理由を記します。
この本のはじめに、アリになった数学者の数字に対する深い愛情が感じられる言葉が並びます。
数や図形について、「『このあいだほんものの3を見てきたけど、思ったよりも小ぶりで青かった!』なんて話は聞いたことがないはずだ。」(5ページ)と、数が無形のものであるとしたうえで、人間の喜びや悲しみといった感情も、それそのものは目に見えて存在するものではないことから「数」と「人間の感情」が共通しているとしているのです。であるからこそ、数というものが、人間の感情と同じく、それを近くに感じ、愛情を寄せられる対象であるとしています。
「数学者は、家族や友だちや、好きな人を思うのとおなじくらい、真剣に数や図形のことをかんがえているのだ。」(7ページ)という言葉にあふれる、数への愛情は、深く読む側の胸に染み透ってきます。まるで、小川洋子の『博士の愛した数式』を読んだ後のような印象を抱きます。
こうした「数」に対して愛情を抱くという感覚はお子様も、私たち大人も、なかなか持つことがないかもしれません。日々、算数の演習で数字と向き合っているお子様にこそ、こうした数への愛情というものがあることを、ぜひ認識して頂きたいのです。それが、数字を身近に感じることにつながれば、数を好きになり、算数の演習によい影響を及ぼすこともあるのではないかと考えます。
アリになった数学者は、アリの世界を生きる中で、数についてある考えを抱きます。人間の数学は人間の身体構造があってこそのものであり、アリであればどのような数学をつくりだすのであろう、そもそもアリに数という概念があるのか、という考えです。それを確かめるべくアリに問いかける数学者と、それに答えるアリの会話が展開されていくのですが、ここで示される著者の数に対する想いがまた深く、読んでいて胸が熱くなるとともに、これまで私たちが考えていた数とは一体何だったのか、と思わずにはいられなくなります。
このような、哲学的とも言える内容は小学生には難しすぎるのではないか、と思われるかもしれませんが、どうかその点は躊躇なく、お子様にこの本をお渡しください。小学生ならではの感受性、イメージ喚起力は、私たち大人が及ばないところがあります。親御様がお考えにならなかったような点にお子様が気づかれることもあるでしょう。「よくわからないけど、面白い。」「絵がすごく綺麗だった。」といった感想だけでも構わないのです。この本の面白さ、美しさを受け止められるだけでも素晴らしいことです。そうした、ちょっとした気づきや感想が、いつしかお子様の知的好奇心を喚起するきっかけになることは十分に起こり得ます。この本はお子様たちがお持ちの知的アンテナを、大いに刺激する一冊です。
親御様方は、子供の頃に読んだ絵本を大人になって読み返すと、全く違った感想を抱いたという経験をお持ちではないでしょうか。バージニア・リー・バートン作の『ちいさいおうち』や、シェル・シルヴァスタイン作の『おおきな木』など、名作とうたわれる絵本の多くが、読者に長く読み続けられ再認識されていると思われます。
この本も、お子様が長く持ち続け、時に読み返されることで新たな発見をされる名作になると強く感じます。大人になるのを待たずとも、中学生や高校生になって、数学という新たなステージで数と向き合ったお子様が、小学生の頃には気づかなかったこの本の魅力を感じ、数、そして数学への興味をより深くされることもあるでしょう。そうした再認識がきっかけとなり、将来、数学の研究など、数に携わる仕事をされたいと思われることがあるかもしれません。この本は、それだけの強い影響力を有しているのです。
数に対する深い愛情、数が有する無限の可能性を、美しい言葉と、見ているだけで幸福感を抱く絵の数々で存分に味わうことができる傑作です。ぜひお子様と一緒にご覧になってください。
以上、中学受験の現場から貝塚がお伝え致しました。
中学受験鉄人会 入試対策室
室長 貝塚正輝
(筑波大学附属駒場中高卒)
頑張っている中学受験生のみなさんが、志望中学に合格することだけを考えて、一通一通、魂を込めて書いています。ぜひご登録ください!メールアドレスの入力のみで無料でご登録頂けます!