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この作品は、灯子(とうこ)と遥都(はると)という二人の人物を中心に物語が展開していきます。二人はともに美術の才能が突出しているのですが、独自の世界観を強く持つが故に、人間関係では様々な軋轢を生むことがあります。そんな彼らに魅入られた人物達の視点それぞれに、一つの物語が4部構成で描かれていますので、短編小説のようにも感じられます。
文章を通じて灯子や遥都の作品が、まるで目の前にあるかのように感じられるほどに、美術に打ち込む二人の姿が美しく、時に残酷なまでに鮮やかに描かれています。
書籍の帯に「愛の物語」「恋愛小説の名手」との言葉がありますが、大人向けに恋愛的な要素はありません。むしろその「愛」の意味が、表層的なものでないことがこの作品の魅力でもあります。
中学受験の視点からぜひ注目して頂きたいのが、187ページから201ページまでの、『第三部 高垣恵介の不合理で不名誉な冒険』の章の一部です。恵介は中学で厳しいいじめに遭ってしまいます。そんな恵介の唯一の心の支えが漫画家になる夢であり、絵画の技術を習うためにアトリエに通うのですが、そのアトリエで灯子と遥都という二人の天才に出会ってしまいます。そんな恵介が、決してかなわない才能を前にした時の心の葛藤が描かれている場面です。
「喉の奥から絞り出した声が、微かに震えていた。」(191ページ)や、「ずっと騙し騙し生きてきたのに、積み重なった感情が飽和したその日、俺はついに自分に見切りをつけることになった。」(201ページ)などの表現からにじみ出る恵介の心情をしっかり受け止めて、そこに至るまでの彼の心の声を追うことで、どのような経緯をもって恵介の心情が形成されていったのかを確かめておきましょう。
200ページの「瀧本灯子は過去に囚われない。南條遥都は他人に縛られない。」という対句表現が、199ページにある灯子の「これじゃあコンクールに出せないから、また描いても良いよね?新しいカンヴァスちょうだい」という言葉、200ページの冒頭3行の遥都についての描写を受けたものであることにも注意しておきたいです。
中学受験の物語文では、怒りや悲しみ、後悔といったマイナスの感情が描かれることが多くあります。そうした感情を抱く人物の言動が、プラスの感情よりも複雑で、より強く表現されることがあるからだと思われます。上記にご説明した場面は「嫉妬」がテーマとなっています。強く相手を妬む気持ちを理解することは苦しいことでもありますが、この作品は、そこに至るまでの心情が丁寧に、美しい表現で描かれていますので、心情理解の恰好の教材になります。まずはぜひ本屋でご覧になってみてください!
入試対策室 室長 筑駒 貝塚正輝
頑張っている中学受験生のみなさんが、志望中学に合格することだけを考えて、一通一通、魂を込めて書いています。ぜひご登録ください!メールアドレスの入力のみで無料でご登録頂けます!