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amazon『思いはいのり、言葉はつばさ』まはら三桃(アリス館)
2020入試で出題される可能性も高く、読書感想文の題材としてもうってつけの児童文学です。
著者のまはら三桃は中学受験国語における最頻出作家の一人で、最近でも2018年度の栄光学園、明大中野(いずれも『奮闘するたすく』)、2017年度の桐朋中(『白をつなぐ』)など、主要校の多くでその作品が出典となってきました。研ぎ澄まされた表現で人物の細やかな心情がつづられる“まはら三桃ワールド”は本作でも堪能することができます。
10歳の少女チャオミンが、中国の女性だけが書く文字「ニュウシュ」を学びながら、様々な人物との出会いを通して成長していく姿が描かれた物語で、大人向けの表現や複雑な人間関係などは見られませんので、読書感想文の題材としてもおすすめできます。
ここでは中学受験的に注意すべきポイントと、読書感想文を書くためのアドバイスそれぞれについてお伝えします。
チャオミンをニュウシュの世界に誘ってくれたのは、近所に住むジュアヌという少女でした。物語の舞台となる村には様々な民族が暮らしています。チャオミンの母は少数民族のハル族で、ジュアヌの家族は多数民族の漢族。この2つの民族には交流があるのですが、ハル族に対して優位を保とうとする漢族のプライドのような感情が随所に表されます。
チャオミンがニュウシュの教室で美しい歌声を披露し、周りから喝采を浴びたところでのジュアヌの次の様子に、そうした背景による感情がにじみ出ています。
民族としてのプライドと、教室においては自分が先輩であるという思いが相まって、ジュアヌの嫉妬を生み出し、声が「とがった」ことを読み取れると良いでしょう。
P.201~P.212の「シューイン」の章にぜひ注目してください。章のタイトルとなるシューインは、チャオミンにニュウシュを教える先輩で、チャオミンが尊敬し憧れる存在です。そのシューインが望まない相手と結婚することになり、彼女を知る女性たちが幸せを願って手紙をつづります。旧知の友人からの手紙に続いて、チャオミンが思いのたけをそのままぶつけた長い手紙が、そして最後のチャオミンの母であるインシェンからの、たった2行の手紙が表されます。インシェンのつづった言葉は以下の通りです。
同じく辛い気持ちで結婚生活を送っていたインシェンだからこそ紡ぎだせる言葉であり、その言葉を受け取ったシューインの心に暖かな灯がともります。
ここで気をつけたいのが、直前に表されたチャオミンの手紙との対比です。純粋に思いのたけをぶつけたチャオミンの長い手紙、その直後に短い言葉ながらも深い思いが込められたインシェンの手紙。2つの対照的な手紙を対比させることで、それぞれの特徴、書き手の思いがより強く伝わってくる効果があるのです。チャオミンのシューインを尊敬し慕うまっすぐな気持ち、インシェンの人生の先輩としてシューインを励まし和ませる心遣い。2つは優劣を比べるために並べられたのではなく、違いは書き手の生き様であり、両者ともに相手に思いを伝えたいという気持ちが込められている点で共通していることに注意しましょう。ここでは、思いの伝え方はその人の生き様そのものを表し、人の心を突き動かすのは文章のうまい下手ではなく、その思いがどれだけ強いかということに尽きることが表されていると考えられます。
例えば以下のような切り口で感想文を書いてみてはいかがでしょうか。
本書の中で、手紙で思いを伝える場面がいくつも出てきます。メールやLINEでやりとりすることが主流となっている現代において、自分が書いた字をしたためた手紙がどれだけ思いを強く相手に伝えることができるか、これまでに手紙を書いた思い出、受け取った時の感情などを織り交ぜて書いてみるとよいでしょう。
作品の中に出てくる人物たちはお子様たちからすると、とても不自由に見えるでしょう。まず主人公のチャオミンが「てん足」をしていること。てん足は、かつて中国に実際に行われていた風習で、女性の足が大きくならないように小さな靴に足を押し込むものですが、てん足の負担がいかに大きいかが文章を通じて伝わってきます。そして先に述べた女性が望まない相手と結婚すること。これは日本でもある時代までは見られたことですし、現在でも世界の中にはこのような結婚のかたちがあるかもしれません。この作品に出てくる女性たちは様々な不自由の中にありながらも、明るく精一杯生きています。こうした様子を読み取って、自由に生きることができる自分たちだからこそ成すべきことは何か、などの視点で思いをつづるとよいでしょう。
チャオミンとジュアヌの関係は、友人関係のようであり、姉妹の関係のようにも見えます。またチャオミンはシューインを姉のように慕っています。こうした関係にスポットをあてて文章を書いてもよいでしょう。特にジュアヌの父親が起こした事件がきっかけで、チャオミンとジュアヌの関係がより深くなったこと(P.130~147)に注目して、何か出来事がきっかけとなり、友人関係が深まったエピソードなどを含められれば、より読み手を引き込む文章となります。
女性たちの様々な思い、不自由な中でもひたむきに明るく生きる姿が描かれた本書は、中学受験国語の読解力を大きく向上させる教材でもあり、読書感想文の題材にもなる心に残る名作です。
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