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amazon prime video 『ALWAYS 三丁目の夕日』
国語の読解力、社会の思考力を養成させるエッセンスが満載です。お盆に家族で鑑賞されるのにうってつけの同作は、2005年に公開されるや大きな反響を呼び、数々の映画賞を受賞した話題作ですので、ご覧になった方々も多いでしょう。その後続編も制作されましたが、今回ご紹介するのはその第1作。ここでは4つのポイントについてお話していきます。
吉岡秀隆演じる茶川龍之介(ちゃがわりゅうのすけ)の元に居候している淳之介と、堤真一演じる鈴木則文の息子、一平。2人は消息不明であった淳之介(じゅんのすけ)の母を探しに遠出しますが、母に会うことは叶わず、帰りの電車賃もなくなり、途方に暮れます。そこでセーターに母が潜ませていたお金があることを知った一平が号泣する橋の上での場面に注目してください。
ここでの一平の涙は、悲しみでもなくまた喜びだけでもありません。強い緊張から解放された安心感、そして母に会いたいという気持ちから涙が止まらなくなってしまっているのです。こうしたシチュエーションは中学受験の物語文での頻出パターンのひとつです。安心したのになぜ泣くのだろう、という疑問を抱くお子様には、緊張が一気に緩んだ時にも涙が流れることを伝えてあげてください。
この場面でもうひとつ気をつけて頂きたいのが、号泣する一平にその訳を問う淳之介に対して、一平が何も答えずにただ泣き続けている理由です。ここからは、母に会うことができなかった淳之介のことを思い、母からの愛情を受けた自分の状況を伝えまいとする一平の優しさがあると読み取ることができます。一平という少年は他にも随所で優しさや気配りを見せてくれる、この映画における重要なキャラクターとなっています。
映画のクライマックスで、異なる場所、異なる時間での人物の「共通した言動」が描かれている場面があります。映画の終盤での茶川と、堀北真希が演じる六子(むつこ)の姿を描いた場面ですが、そこには中学受験の物語文読解のエッセンスが凝縮されています。以下のような図でそのポイントを表してみましょう。
まずは場所についてですが、ここでは「手紙」が異なる場所で見られる共通点となります。
淳之介を大企業の社長である実の父親の元へと渡した茶川、そして青森の実家に帰省することを頑なに拒む六子、この2人の様子が同時進行で描かれます。茶川は机の上に淳之介が書き残した手紙に気づき、手に取ります。同じく六子も、薬師丸ひろ子演じる鈴木則文の妻トモエが預かっていた、母からの手紙を受け取ります。手紙を読んだ2人は、手紙の書き手と自分とがどれだけ深く心でつながっていたかに気づき、相手の元へと一気に走り出します。2人にとって手紙が書き手との絆を気づかせるきっかけとなっている点で共通しているのです。この場面、手紙を読む茶川と六子は、異なる場所にいるのですが、どちらも窓際の文机の前にいて、体の向きも同じ右向きで映されています。まるで算数の相似な図形のようです。2人の姿まで共通させることによって、手紙が「心の絆」を象徴していることが強調されています。その点を見逃さないようにしましょう。
続いて異なる時間で見られる共通点ですが、ここでは茶川の言葉に注目してみます。淳之介を父親の元に向かわせようと激しく突き放す茶川。その時に彼は以下の言葉を放ちます。
実は映画の序盤、茶川が淳之介を引き取るまいとする場面で、全く同じ言葉が茶川から発せられます。過去と現在で全く同じ言葉を使う茶川ですが、その心情に大きな変化が生まれています。映画の序盤での言葉は、淳之介が邪魔な存在でしかない茶川の本心を表しているのに対し、終盤での言葉は、淳之介の未来を思っての優しい嘘であり、また自分に言い聞かせる言葉とも受け取ることができます。常識で考えて自分と一緒にいるよりも裕福な父親の元に行った方がよいと、そう自分に言い聞かせてはいても心は淳之介から離れられない、そんな茶川の葛藤が見て取れます。同じ言葉をあえて茶川に話させることで、時間の経過と共に茶川の淳之介への愛情が深まり、淳之介を本当の家族のように思う心を抱くようになった茶川の変化が克明に表されています。
時間と場所の違いを巧みに活かした演出から、何が共通していて、何が変化したのかを読み取ってみましょう。ここで共通しているのは、手紙を読んで2人が「心の絆」を知ったことで、変化したのは「茶川の淳之介に対する気持ち」であることを、ぜひお子様に伝えてあげてください。
1950年代後半から70年代前半までの日本の「高度経済成長期」は中学受験の社会でも問題となることが多くあります。例えば2018年度の開成中では、1960年代の日本に関する記述として、所得倍増計画を打ち出した池田隼人内閣の誕生(1960年)や、日本の国民総生産(GNP)がアメリカに次ぐ世界第2位となったこと(1968年)などが出題の対象となりました。
この映画の時代設定は昭和33年(1958年)とされており、まさに高度経済成長期真っただ中の東京が描かれています。この年の末に完成することになる東京タワーが徐々に高くなっていく様子が、映画の中の時間の経過を表す象徴として、随所で映し出されます。
そして戦後の経済復興の象徴とされる「三種の神器(白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫)」がこの映画の中でも登場します。テレビを購入した鈴木家に町中の人々が集まり、力道山のプロレス中継を観戦する場面は熱気に満ちた名シーンです。ネット配信で映画やスポーツが見られることが多くなり、テレビ離れが加速度的に進む現在からは信じられませんが、1台のテレビに多数の人々が群がる、そんなコミュニケーションが成立していた時代があったことを、小学生のお子様にはぜひ知っておいて頂きたいです。
また、鈴木家が電気冷蔵庫を購入し喜びに沸き立っている中、それまで使われていた旧式の冷蔵庫(氷をそのまま入れて冷却させるもの)が捨てられている様子が映し出される場面。それを見つめる氷屋の寂しげでやるせない表情にぜひ注目してください。技術の革新が人々の生活を便利にさせる一方で、商売のやり方を変容せざるを得なくなる人々が生み出されたことは、国語の読解力のみならず、社会を見る目を深くさせるためにも知っておきたいところです。
昭和33年ということは終戦後13年が過ぎていることになりますが、戦争が人々の生活に及ぼした影が未だ深く残っていることがいくつもの場面が伝わってきます。
まず、青森からの集団就職で上京した六子が、初めて鈴木オート(鈴木則文が経営する自動車修理工場)に訪れた夜、居間のラジオから戦後の混乱で行方不明になった人々の情報を伝える番組の音声がかすかに流れています。これは当時実際に放送されたNHKラジオ『尋ね人の時間』を再現したものと思われます。
また鈴木則文が出征し戦地に赴いていたことが、例えば茶川とのケンカの場面での「戦争に行かなかったくせに」など、彼のセリフの中で幾度か表されます。
そして極め付けは三浦友和が演じる医師・宅間先生が酒に酔う場面。宅間が空襲で妻と娘を失ったことが飲み屋の常連客の口から明かされるのですが、彼らがつぶやく次のセリフが強く印象に残ります。
「もはや戦後ではない」は1956年度の『経済白書』に記された言葉で、日本の戦後復興が終了したことを象徴した言葉として流行したものです。経済的には復興した当時の日本ですが、人々の心の中には戦争で大事な人々を亡くした喪失感が残っていること、そこから抜け出し、真の意味での戦後を迎えるにはまだまだ時間がかかるということが表された言葉となっています。
映画のラストで鈴木一家の三人(則文とトモエ、一平)が夕日を見つめる場面。以下のような言葉が交わされます。
様々な解釈が成り立つ場面ですが、戦争を知らない一平の無邪気な言葉に応える夫婦の言葉に、二度と戦争が起きない、平和な世の中が続くことへの願いが込められていると解することもできるでしょう。
今回ご紹介した場面以外でも、人物の心情表現を細やかに描いたシーンが数多く見られる傑作です。見た方々それぞれの楽しみが見つけられる作品ですので、ぜひお子様とご覧になって、色々な感想を話し合ってみてください。
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