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No.828 中学受験的『高畑勲展』の味わい方

 

 私はしばらくモニターの前から動けませんでした。圧倒的なものを前にすると人は思考がストップするのでしょう。しかし、再び思考が動き出した時、人はその圧倒的なものからの刺激を受容して成長しているのだと思います。幼少期からこういう成長プロセスを繰り返し経験していると、精神的な成長が早く中学受験には有利です。中学入試は受験生を大人として扱っているからです。特に国語はその傾向が顕著です。ぜひ、お子様を圧倒的なものに触れさせる機会を多く持ってください。
  そこでお薦めしたいのが、東京・竹橋の東京国立近代美術館で開催されている『高畑勲展 日本のアニメーションに遺したもの』です。昨年4月に亡くなられた高畑勲氏が日本のアニメーションに遺した功績だけでなく、日本のアニメーションが歩んできた歴史そのものが紹介されていますが、この展覧会こそが、まさに圧倒的なものと出会える機会になるのです。現在放映されているNHK連続テレビ小説『なつぞら』でアニメーションに興味を持ったお子様も多いかと思います。興味のある方々はぜひ見に行って頂きたい、素晴らしい展覧会です。

【高畑勲氏のアニメーション制作の原点】

 高畑氏がアニメーションの道を進むきっかけとなった作品は、フランスのアニメーション映画『やぶにらみの暴君(後に『王と鳥』として改作)』でした。展覧会でもその一部がモニター上映されていますが、ディズニー映画以外の海外アニメ映画を見たことがないお子様は、その美しい色彩、独特の画面構成などに魅了されることでしょう。高畑氏が本作について語った「アニメーションが社会や思想を語ることができる」という言葉は、まさにその後の高畑作品の根幹にもなっていると言えます。ドラマ『なつぞら』で中川一志が演じるイッキュウさんこと坂場一久は、高畑勲氏をモデルにしていると言われていますが、イッキュウさんが「アニメは子供が楽しむためだけのものでよいのか」と思い悩んでいた場面には、この高畑氏の言葉とのつながりが強く感じられます。

【日常生活を描くことへのこだわり】

 1970年代に高畑氏はテレビアニメ作品を手がけます。その代表作『アルプスの少女ハイジ』の絵コンテ、セル画など貴重な資料の数々も展示されています。この作品で高畑氏をはじめとする製作メンバーたちはドイツとスイスまで現地取材に出向きましたが、当時は海外への現地取材は極めて異例だったようです。それほどまでにして高畑氏がこだわったのは、作品で描く人物達の日常生活をいかにリアリティのあるものにするか、という点でした。ハイジの住む家の周りの風景のスケッチも展示されていますが、その精巧さには驚くばかりです。ハイジがパンにのせて食べるチーズは、アニメで登場する「食欲がそそられる料理」の代表格として語り継がれていますが、そのチーズの伸びや照りなども細部にわたって現地取材されたとのことです。見ている私たちはただ楽しく見ている作品でも、その製作にどれだけの労力がかかり、作り手の人々の熱い思いがどれだけ込められているか、それがこの展覧会では強く実感できます。 

【徹底して描かれる日本の原風景】

 その後、高畑氏は宮崎駿氏などが設立したスタジオジブリに所属し、そこで『火垂るの墓』(1988年公開)、『おもいでぽろぽろ』(1991年公開)などを監督として完成させます。どの作品にも高畑氏の社会を見つめる目が反映されていることが展覧会でも紹介されています。『平成狸合戦ぽんぽこ』(1994年公開)などは、つい狸たちのコミカルな動きに目が行ってしまいますが、人間による里山破壊に対する危機感が根底にあると言われています。まさに「アニメーションが社会や思想を語ることができる」という言葉が実践されているのです。そして、それらの作品に共通するのが日本の風土や庶民の生活が描かれていることです。フランスの作品に触発されてアニメーション製作を始めた高畑氏が、日本の原風景を対象として選んだことは大変興味深いですが、そこには加速度的に変わりゆく日本への高畑氏の強い危機感があったのかもしれません。

【『かぐや姫の物語』で見られる圧倒的な説明力】

 今回の展覧会の中で特に注目して頂きたいのが、高畑氏の遺作となった『かぐや姫の物語』の展示です。大変話題となった作品ですのでご覧になった方々も多いかと思いますが、この作品の最大の魅力は、これまでの長編アニメーションでは見られなかった、手書きの筆で描かれたような線が全編に渡って使われていることです。通常のアニメーションでは描く対象について輪郭で縁取りをするのですが、そうした輪郭線とは全く異なる、手書きの筆のような線は、私たちにこれまでに味わったことがないような映像体験を味あわせてくれます。例えばかぐや姫が十二単を脱ぎながら寝殿から疾走するシーンなどは、姫の表情が見えないほどに、まるで書きなぐったかのような筆致で描かれているのですが、荒々しい線が駆け巡ることで、激しい躍動感が生み出され、見る側には姫の心の葛藤が強く伝わってきます。まさに圧倒的な説明力に満ちた名シーンです。このかぐや姫が疾走するシーンは展覧会でも解説付きでモニターに映し出されています。映画をご覧になったことがないお子様も鑑賞することができますので、ぜひご覧頂いて、その迫力を味わってください。日本アニメーションの第一人者である高畑勲氏が、それでもなお新しい手法を取り入れようとしたその挑戦の崇高さに打ちのめされた私は、しばらくモニターの前から動けませんでした。

【『日曜美術館』で事前情報を】

 展覧会に行かれる前にぜひ見ておいて頂きたいテレビ番組があります。本日9月15日(日)20時より放映される『日曜美術館』(NHK Eテレ)です。9月8日に放映された分の再放送なのですが、この展覧会について詳しく紹介されています。ちなみにこの番組がアニメーションを特集するのは初めてだそうです。初公開となる高畑氏の自宅の書斎など貴重な映像の数々が紹介されていますが、特に注目して頂きたいのが、美術史家の辻惟雄(つじのぶお)氏が『かぐや姫の物語』の魅力について語る場面です。辻氏もやはりかぐや姫が疾走する場面での手書きのような線の効果に注目をして、特に背景を描いた荒々しい筆遣いが、かぐや姫の心情を的確に表していると賞賛しています。また、作品中の「空白」の使われ方が、かぐや姫の心に宿る影を表す効果にもなっていると解説しています。『かぐや姫の物語』が美術作品としても高い価値を有していることを知る貴重な時間になります。番組を見てから展覧会に行くことで、より多くの観点から展示が見られるでしょう。

 アニメーションがもはや日本文化史を語る上で欠くことのできない存在であることは間違いなく、その開拓者である高畑勲氏の功績を見るのは日本文化史の痕跡をたどると同じことであると言っても過言ではありません。そして今回の展覧会で絵コンテなどの滅多に見られない資料を目にして、アニメーション作品の制作に携わる人々の作品にかける想い、その仕事の尊さをぜひ知って頂きたいのです。それはお子様にとって間違いなく貴重な経験となるでしょう。展覧会は10月6日まで開催されていますので、ぜひ足を運ばれてはいかがでしょうか。

『高畑勲展 日本のアニメーションに遺したもの』

 
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