No.953 大逆転劇の裏テーマ「他者理解」を読み取る!『非オプティマス』(短編集『逆ソクラテス』より)伊坂幸太郎(集英社)

amazon『逆ソクラテス』伊坂幸太郎(集英社)

 4月に発売された伊坂幸太郎の短編集『逆ソクラテス』。全5編の短編で構成されますが、既に発表済みの2編のうち、本の表題にもなっている『逆ソクラテス』は2013年度の成蹊中、2014年度の城北埼玉中、法政大中、そして2015年度の穎明館中などで立て続けに出題されました。そして同じく既出の『スロウではない』は、2017年浦和明の星女子中学校第1回に出題されています。それだけに、今年の入試では新作の3編が要チェックとなります!
  本の帯には、「敵は、先入観。世界を ひっくり返せ!」「僕は、そうは、思わない」とあります。小学5年生の子どもたち、担任の先生、そして父親たちをはじめとした大人たちの、さまざまな「意外な一面」が描かれています。
 今回ご紹介する『非オプティマス』も、人間の持つ意外な一面、その一面に触れたことにより心が揺れ動く様子が描写された作品で、そうした心の揺れ動きを通して他者理解がいかに重要かを伝えてくれます。

 ここでは騎士人(ないと)と、福生(ふくお)という2人の少年に注目しましょう。
 本作品の主人公は将太という少年ですが、自己主張が少なく、どちらかというと物語を進行する役割を担っています。
 騎士人(ないと)はクラスの中で目立つ存在で、他人を傷つけるような行動を好んでしてしまうキャラクターとして描かれています。一方の福生(ふくお)は転校生で、騎士人に常にからかわれています。

【騎士人に見る、依存する人間の弱さ】

 『スロウではない』では、もといじめっ子の苦悩が描かれていました。しかし、この『非オプティマス』でいじめっ子の騎士人は、頭のよい知能犯。最後の最後までしぶとく嫌がらせを繰り広げます。ターゲットは、担任の若い男の先生、そして転校生の福生。
 騎士人が教室で強気に振る舞う背景に父親の存在があります。騎士人の父親は有名企業の偉い人。父親の会社のイベントをやるから、よかったら来いと騎士人が福生にチラシを渡す場面で、父親の存在に依存する騎士人の心が垣間見えます。

 「ちなみにイベントはタダだからさ、安心して。お金かからないから」と付け足した。
(P.120)

 父親の威厳に依存して自分をアピールする騎士人の姿は、お子様にとっては不快感のみを抱かせるかもしれません。そこからもう一歩、そうした人間には何か強いものに依存しなければ自分をアピールできない弱さ、そのアピールのために誰かを傷つけることを構わないと考える弱さがあることまで、くみ取っておきましょう。
 この騎士人が見せる意外な一面については、後程ご説明します。

 ここで問題です! 父親のステータスを自慢する騎士人のような人物の振る舞いを、次のようなことわざで出題されたらどう答えますか? 

問:騎士人のような性格の人物を、次のことわざで表します。空欄にふさわしい漢字を一字入れなさい。
 「虎の威を(  )る狐」

答え:借
 「権勢を持つ者の力に頼っていばる小人物」のことですね。入試の国語では、このように人物の様子や状況をことわざや慣用句で答えさせる問題がありますので、注意しておきましょう。

【福生に見る、自分を貫く強さ】

 福生は、いつも同じ服装をしています。ロゴが薄くなったシャツ、身体は細く、小柄。周りはみな、福生がてっきり貧しい家庭の子どもだと思い込んでいます。
 しかし、福生はたった一人、騎士人に、先生に対するいじめをやめろと言い続けます。彼の次々と話す言葉は、じつに鋭く真実をついています。

「親だって人間だ」(P.116)
(騎士人について)「あいつだって悩みはあると思うよ」(P.117)
「重要なのは(中略)弱みを握ること」(P.121)
(先生について)「優しいというより、無関心なんだよ」(P.128)

 こうした言葉から、福生が精神的に大人であり、他人の目を気にせずに自分の考えを表現できる強さがあることが感じられます。身体が細く、いつも同じ服を着ている福生のイメージからは想像できない、意外な一面を見ることができるのです。
 福生は、騎士人がしている担任の先生へのいじめを許すことができません。それでも上記のように、騎士人にも悩みがある、と自分をいじめる相手の状況にまで考えを至らせることができるのが福生なのです。

【最後の逆転劇】

 物語の最後に、騎士人と福生の立場が逆転する場面があります。
 授業参観の日、騎士人はまた先生を陰湿にいじめます。すると、今まで抵抗しなかった先生から、意外な話が飛びだすのです。ここでは詳しくはお伝えしませんが、「他人を傷つける行動」について、先生が長く語るセリフが、たいへん胸を打ちます。そうした行動にどう対応すべきかについての新しい考え方を提供していますので、P.157からP.162の先生の言葉について、親御さんとお子様で印象を話し合われてはいかがでしょうか。

 この先生の言葉を受けた後の、福生と騎士人にも変化が。騎士人の父親は、騎士人同様、先生やクラスメイトを見下した様子です。しかし、そこに福生の母親が登場。
 彼女は、実はキャリアウーマンで、騎士人の父親のクライアントでした。福生は貧しい家庭の子どもではなかったのです。 

「まさか保井さんのお子さん(福生)と、うちの子が同級生とは。おい、仲良くやってるんだろ?」騎士人の父親は少し強い言い方をした。
「お友達なのね?」母親が、福生に訊ねた。(P.168)

 ここで笑顔を見せる福生に対して、騎士人は、父親を気にしていつもの余裕をなくしてしまいます。そう、騎士人は父親が怖いのですね。ここに、これまで教室では一切見せなかった騎士人の意外な一面、真の心の内が表されるのです。

頼むぞ、と(騎士人が)念じてくるのが分かった。
福生はにやけたまま、答えるために、すうっと息を吸った。(P.168)

 お話はここで終わっています。

 さて、次のような問題が出たら、どのように解答しますか。

問:福生はこのあとどのように答えたと思いますか。会話の形で書きなさい。

 実は、これは厳密な正解がない記述問題です。自分の解釈を正確に伝えれば得点をすることはできますが、それだからと言って、何を書いてもよいというのではなく、物語の展開をしっかり踏まえることが大前提になります。また、会話の形、という指示に気づかずに「福生は友達だと答えた。」といった解答にしてしまうと得点になりませんので十分に注意しましょう。
 例えば、以下のような答えが考えられます。
「もちろん友達だよ。」
 この言葉によって、その場では騎士人は福生に助けられることになります。ただ、今後教室で福生をいじめることはできなくなるでしょう。
 次のような答えもあります。
「僕は友達だと思っているけど、騎士人はどう思っているのかな。」
 この言葉には、騎士人に「福生は友達だ」と答えさせるという、福生のちょっとした戦略も感じられます。
 いずれにしても2人の立場が大きく変わることになるでしょう。

 気をつけてほしいのは、「記述だから難しそう」と思わないこと。これは、学校が受験生に点をくれようとしているのです。物語の内容を踏まえたうえで、会話の形で文章を書けば、得点できるお得な問題といえるでしょう。記述で自由に考えを述べたり、体験を述べたりする問題は、どんどん増えています。臆することなく、ぜひ「書いて」点を取りに行って下さい。そのためにも、日頃から「自分だったらどうかな」と考える習慣を身につけることが大切です。

 伊坂幸太郎『逆ソクラテス』には、ほかにも4編の短編が載っています。「人には意外な一面があること」や「どんな逆境でも逆転すること」について、多くの気づきがあることでしょう。
ぜひ手に取って、親子で読んでいただければと思います。

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