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amazon『「空気」を読んでも従わない』鴻上尚史(岩波ジュニア新書)
お子さんは、SNSのことや、友人のグループのことで悩んだことはありませんか?
中学に進学したら、お子さんには新しい友人関係が生まれます。6年間を一緒に過ごす仲間たちとうまくなじめるか、上級生とどう接したら良いのか、不安もあるでしょう。
また、「空気」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか?
しばらく前に「KY」という言葉が流行りました。
「KY=空気(K)を読めない(Y)人」のこと。「あの人、KYだよね」と言われたら困る。「なんとか周りの空気を読まなくては!」と言う流行語でした。SNSの普及によって、「空気」の存在はますます大きくなっています。
鴻上さんは、そんな「今」を生きるお子さんたちに、友人関係についての力強いメッセージを届けてくれます。
「ゆるいつながりをたくさん持てば、大丈夫!」、そして「今いる世界だけがすべてではないよ」、そんな温かい気持ちが伝わってくる本です。
この本は、文章が読みやすく、わかりやすい構成で書かれていますので、中学受験の説明文を読解する力を養成するのに格好の教材と言えます。また、「相対的」「典型的」など説明文ならではの語彙に触れることもできます。
そのためか今年度の栄東中(東大クラス選抜Ⅰ)や、四谷大塚の週テストでも、この本からの出題が見られました。
最近では例えば2019年度の慶應普通部や、2018年度の桜蔭中など、インターネットを題材とした文章が国語の入試で出題されるケースが増えています。また、今年度の渋谷教育学園渋谷中の社会では、参議院選挙についての問題で、「TwitterやYouTubeに代表される( )を利用し」の空欄に「SNS」を答えさせるといった出題も見られました。小学生でもSNSについて事前知識として知っておく必要があります。
今のお子さんたちが置かれた環境は、親御さんの時代からは、大きく変化しています。SNSで常につながっていることで、「いいね」をしなくてはいけない、ラインのメッセージが届いたら既読のままにしておくことができないなど、人間関係から24時間解放されないと言っても過言ではないでしょう。
そんな状況を生き抜くためにも自分の周りで作り出される「空気」の正体が何かを知っておくことが必要となります。この本は、そのための的確なヒントをお子さんたちに与えてくれます。
また、お子さんには、空気をある程度は読んで欲しい、けれど空気に従わなくてはいけない息苦しさは感じて欲しくない。そして、SNS時代を強く生き抜いて行って欲しい。そんな親御さんの気持ちにも応えてくれる一冊です。
それでは内容をひも解いて行きましょう。
「世間」とは、現在、または将来関係のある人たちのこと。「世間」の反対は「社会」。ただ、外国には「世間」はありません。
「みんな言ってるよ」と言う言葉、よく使われているものですが、この「みんな」とは、実は狭い友人の範囲のこと。でも、「みんな、あんたの悪口言ってるよ」と言われるとドキッとする。それは「世間」に生きているから。
鴻上さんは、できるだけ早く,海外に行きなさいと言います。
いろいろな文化や風景を見る。すると、自分の今の状況はたったひとつの正解ではない(p46)とわかり、息苦しさから解放されるのです。
知り合いからものを頼まれると断れないこと、ありませんか?
鴻上さんは,それは「あなたが弱い人間だからではない」と言います。世間に縛られているからなのです。
鴻上さんは、まず「敵(世間)」を知れと言います。
世間には、5つのルールがあります。
1.年上がえらい
英語では兄弟を紹介するとき「brother」「sister」としかいいません。「兄」「姉」と言う言葉がある日本では、「年上がえらい」と言う発想があるのです。でも、鴻上さんは、年齢を意識しすぎるなと言います。「年齢だけに頼らないつきあい方の練習」をするべきなのです。
2.「同じ時間を生きる」ことが大切
海外で演劇を学んでいたとき、舞台の最終日に「打ち上げ」というものはありませんでした。日本人は、同じ時間を過ごすことに重きを置きすぎてはいないか。行きたくない集まりには、行かなくても良いのです。
3.贈り物が大切
何かをもらうと,何かを返さなくてはいけないと思い、しばられる。こうした「世間」のありかたにも、鴻上さんは警鐘を鳴らします。
4.仲間外れを作る
いじめは世界中にありますが、クラスがひとつになって一人をいじめるというのは、日本だけのことだそうです。いじめられる生徒をかばったりすると,今度は自分がいじめられる。
これは,クラスが「世間」として、強力にまとまってしまっている状態です。(p101)
5.世間はミステリアス
世間にはその集団にしかにしか通用しない、不思議なルールがあります。鴻上さんは、それを「しょうがないよ」とあきらめてしまうのは良くないと言います。
日本は「同調圧力がとても強い国」です。
もちろん、良い方向に働くこともあります。東日本大震災の後、たった1週間で道路が復旧したとき、「日本の奇跡」と言われました。働く人が、自分の家の事情を後回しにして一致団結した成果だ、と鴻上さんは言います。
しかし、同調圧力が悪い方向に向かうこともあります。それに対抗するには「自尊感情」(p157)を持つこと。自分はかけがえのない存在であると考える。
そして、「仲間外れを恐れない」(p159)。さびしさにおそわれないためにも、気軽に知らない人と言葉を交わす。鴻上さんは、これを「世間話」ならぬ「社会話」と呼びます。
人は、ひとつの世間だけに属するから苦しくなる。「同時に他の弱い「世間」に所属すること」(p169)も重要です。習い事、塾、ネットで募集しているサークルなどの、ゆるいつながりを探す。つながりが見つかるまでは、「社会話」でまぎらわすのがよいのです。
たったひとつの「世間」だけでなく、複数の弱い「世間」にも所属すること。
スマホについては、スマホの目的は、あくまで社会とつながることだと言います。他人からの評価に振り回されてはいけないということです。
最後に、ここで、鴻上さんをご存知ない方々のために、プロフィールをご紹介しておきます。
鴻上尚史さんは、1958年生まれ、早稲田大学法学部を卒業後、1981年に劇団「第三舞台」を結成後、作家・演出家として活躍。最近ではネットで行っている『鴻上尚史のほがらか人生相談』が話題となり、2冊の単行本にもなりました。テレビにもよく出演されています。
学生時代から劇団の演出を始めて、今まで、劇団員の相談に山ほど乗ってきた鴻上さん。わかりやすく、そして温かく背中を押してくれるような文章は、そんなご苦労から生まれたのでしょう。
「同調圧力」などの難しい言葉もありますが、ぜひ親御さんからかみくだいて教えてあげると、お子さんも理解しやすいのではないでしょうか。
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