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amazon『大人になるっておもしろい?』清水真砂子(岩波ジュニア新書)
清水真砂子さんは、児童文学者であり翻訳家です。主な訳書に『ゲド戦記』などがあります。
清水さんは、長いあいだ青山学院短期大学で教鞭を執ってきました。
そのためか、この本には、長い間学生を指導してきた清水さんならではの、包み込むようなやさしさや励ましがあふれています。
全編にわたり、共通するのは「先入観にとらわれない」ということ。縮こまることなく、自由に行動しなさい、というメッセージ。
本書は、平成29年の豊島岡女子学園中・第1回入試、平成28年には森村学園中等部・第1回入試で出題されました。昨年の四谷大塚の週テストでも出されています。
多少の部分的な違いはあるものの、驚いたことに全て同じ箇所が出されています。それは本書の第3信です(ある学生に当てたメッセージとして書かれているため、「章」ではなく「信」となっています)。
共通するのは、
「沈黙する時間をもち、自分と対話をしよう」
というメッセージ。
それでは内容を見ていきましょう。
清水さんは、知らない子どもから大声で挨拶されることに居心地の悪さを覚えたそうです。
なぜでしょうか。「当人が無理して自分を消しているような気がするからです。」
大人から言われても、無理に知らない人に大声で挨拶する必要は無い。むしろ
「黙すこと」こそ重要なのです。
近年は、沈黙することやひとりでいることには、プラスの価値が置かれない。朝からみんなでしゃべりまくり、コミュニケーションする時代。
清水さんが「ひとりでいたっていい」と講義で話したあと、ある短大生が清水さんにこう念を押したそうです。
「ほんとうにひとりでいてもいいんですよね」
清水さんは、ひとりでいることができにくくなっていることを、痛感しました。
「自分自身の内なる声を聞いてこそ、他者との対話もできる。」と清水さん。
豊島岡の記述問題は、「筆者の考えるコミュニケーション」はどのようにして成り立つのか、と聞いています。その答えが、まさにこのメッセージでした。
ひとりでいると、いろいろなことを自由に考えられる。
さらに、「本という扉」を開けば、「時間、空間をこえて語り合える人」がたくさんいる。みんなといて会話を合わせているよりも、多くの「対話」がある。
森村の記述問題でも、この「本」との対話についてたずねています。
清水さんは、ひとりでいることを恥ずかしがるな、とうったえます。
本書は13信からなります。
受験生の皆さんに、ぜひ呼んでほしいところをピックアップしましょう。
清水さんの自由で力強い言葉があふれています。
「怒りの底には、自分自身を大切にし、人間としての尊厳を手放すまいとする意思とともに、相手に対する期待なり信頼感がある」。
ただ、相手に「むかつく」などと言ってふてくされていてはいけない。よりよく生きたいなら、思いをぶつけ合うことが大切です。
「あるがままの自分を好きになってほしい」と清水さん。たとえ好きになれなくても、「こんな自分でも受け入れてやるか」で構わない。
自分の人生をまるごと引き受けてほしい。
例えば、就職試験で落ちたからと言って自信をなくす若者がいます。清水さんは
「あなた自身を放棄してしまっていいものでしょうか。」と問いかけます。
「身の丈を言い、ほどほどを大事にする人たち」は、「傷つくからやめなさい」と言う。しかし、時には間違えること、傷つくこと大切だと清水さんは言います。
短大で教えながら、若者が「何かにつけ臆病になっている」ことが気になっていました。一歩踏み出す勇気を持ってほしい、と願っているのです。
自分を壊してくれる本とは何か。
その意味は、以下の言葉に示されています。
「自分を限りなく小さく感じさせるもの。そうしたものこそが私を今日まで生かし続けてくれた」。
何もかも嫌になり、希望が持てなくなったとき、清水さんは無理をしてでも本を読んだり、美術館、映画館に行ったりしたそうです。
「するとどうでしょう。恥ずかしくなって、自分を叱らずにはいられなくなるのです。」
心が萎えたとき、立ち直らせてくれるのは「文化」だと言います。
「こわい」とは、「あなたに畏怖を抱かせる」と言う意味。
やさしい人、親切な人になびいてしまうのが人間。でも、本当に自分を成長させてくれるのは、そういうひとたちではないのです。
「こわい人、きびしい人、とっつきにくい人、わかりにくい人」にこそ、思い切って近づいてほしい。なぜならあなたには「傷つく権利」があるから。
居心地の良い場所だけにいては、成長はできないのです。
本書には、清水さんの影響を受けた本もたくさん紹介されています。
学生時代にひとりでいることが多かったと言う清水さん。でも、本を通じて豊かな内面を培ったことが良く伝わってきます。
学生時代は迷いが多い時代でもあります。
清水さんのメッセージ、「先入観にとらわれないで!」は、力強くお子さんの背中を押してくれることでしょう。
時間が無ければ、第3信だけでもぜひ読んでいただきたい本です。
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