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中学校の図書室を舞台に自己肯定感を抱けないでいる生徒、クラスのいじめに心を傷つけている生徒など、6編ともに自分と向き合えないでいる生徒たちが、図書室の司書の先生の言葉、そして本との出会いを通じて成長していく様子がつづられています。
著者・相沢沙呼氏の作品は、短編集『雨の降る日は学校に行かない』から「ねぇ、卵の殻が付いている」が芝中の2019年度第1回入試で、『小説の神様』が浦和実業の2020年度第2回午後入試で出題されています。特に芝中で出題された短編集は、全6編から成り中学生の女子を主人公としている点で、本書とよく似ています。その作品が男子校の芝中で出題されたことからも、本書は男子校・女子校・共学の区別なく、来年度入試で多くの中学校が注目する作品となるでしょう。
今回は6編のうち最初に収録されている『その背に指を伸ばして』を取り上げます。
6編ともに女子生徒たちの心の成長を描いていますが、第一編では主人公の「相反する気持ちに悩まされ、本心とは裏腹な行動をとってしまう人物の心情」の読み取りがポイントとなります。中学入試では頻出の心情パターンです。
以下に主な登場人物と簡単なあらすじをご紹介します。
《主な登場人物》
佐竹(さたけ・読書好きの中学2年生の女子 ※しおり先生からは「あおちゃん」と呼ばれています。)
三崎(みさき・佐竹と違うクラスの女子)
間宮(まみや・佐竹と同じ図書委員の女子)
しおり先生(佐竹の中学の司書の先生)
《あらすじ》第1章『その背に指を伸ばして』
中学2年生の佐竹は読書好きですが、自分と趣味の合う生徒と出会うことがないままに日々を過ごし、図書室を自分の居場所としています。司書のしおり先生から、図書委員や司書の先生に薦めてもらいたい本を記す『おすすめおしえてノート』に書かれた、ある生徒からの依頼に答えるように言われます。佐竹はその依頼に合う本を選びますが、その依頼をした生徒は、自分とは全く合わないキャラクターと思っていた三崎だったのです。
自分と全く異なるキャラクターの三崎に本を推薦した佐竹が、その本を通して三崎との距離を縮めたいという気持ちがありながら、クラスでいじめられている三崎に近づくことへの怖さという壁があって、本心とは裏腹な行動をとってしまう場面です。
この裏腹な行動をとる佐竹の心情、そしてなぜそのような行動をとってしまうのか、という理由もしっかり読み取りましょう。
P.31の8行目「三崎さんが、なにかを言っている。わたしの意識は、それを耳から追い出した。」とありますが、この時のわたし(佐竹)の気持ちはどのようなものか。次の中から適当なものをひとつ選び、記号で答えなさい。
ア.自分とは趣味も性格も全く異なる三崎さんに話しかけられることが心の底から迷惑で、早く時間が過ぎて欲しいと思っているから。
イ.間宮さんが言う通り、三崎さんと関わりを持つことは皆に迷惑がかかることになり、自分が率先して三崎さんとの関係を絶たなくてはいけないと思っているから。
ウ.三崎さんと自分とが同じ趣味であることが知られてしまったら、自分もいじめにあってクラスでの居場所をなくしてしまうと思ったから。
エ.三崎さんと口を利くことは他の図書委員の反感を買い、自分の居場所である図書室から追い出されることが怖いと思ったから。
P.30の1行目から5行目に、「もし、あたしが三崎さんと少しでも口を利いたのなら、裏切り者と罵るだろう。その場合、この図書室から追い出されることになるのは、あたしなんだと思った。」P.31の7行目の「裏切り者になんてならないから、あたしからこの場所を、奪ったりしないで。」とあることから、佐竹が、三崎と近づくことで、自分が図書委員たちから疎外され、居場所を失うことへの怖さに支配されていることを読み取りましょう。
アは、佐竹が三崎さんのことを本心から嫌っているという内容が合いません。佐竹は自分の居場所がなくなることを恐れているので、イの「皆に迷惑がかかる」という点が適しません。佐竹にとっての居場所は図書室であり、「クラスでの居場所」のことを佐竹は考えていません。また、三崎さんと趣味が合うことが知られてしまうかどうか以前に、口を利くことすら避けたいと思っている点で正解にならないことにも注意が必要です。
エ
自分に言い聞かせた、ということから佐竹は本心で三崎を避けようとしているのではないことがわかります。問1で答えたように、自分の居場所を守りたいという気持ちに支配されている佐竹は、三崎さんに対する本心を何とか打ち消そうとしているのです。文章中から、佐竹が三崎を避けたいという気持ちと反対の内容にあたる気持ちを表した場所を選べばよいことになります。
P.24の11行目からP.26の17行目の佐竹と三崎さんが会話をする場面で、佐竹は三崎さんと自分の本についての趣味が合うかもしれないと気づきます。佐竹にとっては趣味の楽しみを分かち合える人物との出会いは大事なもので、その気持ちが最も端的に表されているのが、解答の一文となります。
※P.26の17行目です。
問題1と問題2①の解答を参考にすることで、答案を作ることができます。
問題1から、佐竹は、図書室という居場所をなくさないために、三崎にあえて近づかないようにしていることを、問題2①から、本心では自分が薦めた本を三崎がどう思ったのか、その感想を聞いて共感できる存在が得られればよいと思っていることをポイントとして、文章をまとめましょう。
「本心では」、「思おうとしている」という表現を使うことで、相反する気持ちの間で佐竹が苦しんでいることを表すことができます。
今回ご紹介したような、自分の身を守るために、本心とは裏腹な行動をとってしまうパターンは、中学入試の物語文読解では多く見られ、最近では2019年度入試の海城中の第1回入試の問題も同じような内容が見られました。出典は、『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』(こまつあやこ)で、この年度では海城中の他、栄光学園や桐朋中、鎌倉女学院などでも出題され、話題になった作品です。
海城中では、変わり者と呼ばれる先輩と親しいことを周りの生徒たちに知られたくないと思う一方で、先輩とは仲よくしていたい、という2つの気持ちの中で揺れ動いてしまう主人公の心情を読み取る問題が出されました。
オーソドックスとも言えるだけに、今後も上位校に限らず、幅広い偏差値層の学校でも出題される可能性の高い心情です。本書を通して、心情理解の練習をしてください。
ちなみに本書は、最終章にあっと驚くトリックが隠されています。その仕掛けに気づくと、また違ったストーリーが見えるという何とも絶妙なトリックです。
中学受験の心情理解のテキストとしてだけでなく、読書の楽しみも深く味わうことができる傑作です。
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