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ホームメールマガジン宝箱合格に導く魔法の本棚No.1067 ラ・サール中2019入試でも出題、2022も出題可能性大!友人関係を描いた連作短編集『クレイジー・フォー・ラビット』奥田亜希子(朝日新聞出版)予想問題付き!

No.1067 ラ・サール中2019入試でも出題、2022も出題可能性大!友人関係を描いた連作短編集『クレイジー・フォー・ラビット』奥田亜希子(朝日新聞出版)予想問題付き!

amazon『クレイジー・フォー・ラビット』奥田亜希子(朝日新聞出版)

 2019年度にラ・サール中学で出題された作品を含む短編集です。書籍としては今年7月の発刊ですが、収録されている5つの短編のうち4編は『小説トリッパー』に2018年から2019年にかけて掲載されました。ラ・サール中学で出題された表題作『クレイジー・フォー・ラビット』も同誌に掲載で掲載されたものです。このように文芸誌などに初出で掲載された短編が入試の出典となり、数年後に書籍として発売されることは珍しくありません。代表的な例では『オール讀物』の2004年10月号に掲載された重松清氏の『タオル』が2005年度の麻布中学で出題され、その後2007年に『タオル』をはじめとした17編の短編を収録した作品として発刊されたのが、『小学五年生』(文藝春秋)です。この『小学五年生』に収録された短編の数々が、その後、慶應普通部や聖光学院など数えきれない程多くの学校で出題され、いわば中学受験物語文の定番の作品となったことをご存知の方も多いのではないでしょうか。
 ちなみに著者・奥田亜希子氏の作品では、『左目に映る星』が2015年度の慶應湘南藤沢中等部で出題されました。
 本作品の主人公・愛衣は、自分に相対する人物が隠しごとをすると、それを「匂い」として感じてしまうという特殊な体質の持ち主です。設定こそ独特ですが、描かれている内容は中学受験物語文の最頻出テーマのひとつの「友人関係」であり、来年度入試で出題可能性がとても高い作品です。

【あらすじ・『ブラックシープの手触り』の章】

※本作品は、主人公・愛衣が小学生・中学生・高校生・大学生・そして母親になってから、といった5つの年代ごとの人間関係を描いた連作短編小説です。ここでは、愛衣の高校生時代を描いた3つ目の短編『ブラックシープの手触り』を取り上げます。

≪主な登場人物≫
愛衣(あい・本作品の主人公。『ブラックシープの手触り』の章では高校三年生。)
エミ(愛衣の学校外の友人。愛衣とファミリーレストランで会い、時間をやり過ごすことが多い。)
律子、宏美、牧恵(りつこ、ひろみ、まきえ・愛衣の学校のクラスメイト)
タイシ(エミの恋人)

≪あらすじ≫

 高校三年生になった愛衣は、両親には嫌悪感を抱き、学校の友人関係にはどこか疎外感を覚えていました。愛衣にとっては、ショッピングセンターで偶然に出会ったエミと過ごす時間が、心のよりどころになっていたのです。

【中学受験的テーマ】

 本作品の中学受験的テーマは、「友人関係」です。特に、ほんのささいな一言がきっかけで友人関係が崩れてしまうことに直面し、悩む主人公の心情を把握できるかがポイントになります。

【出題が予想される箇所】
P.85からP.120の「ブラックシープの手触り」の以下の部分
・P.109の1行目からP.117の10行目

 誕生日を迎えた愛衣が学校のクラスメイトから祝福されたことに喜びを感じたものの、そのことがきっかけでエミとの友人関係を壊してしまう過程が描かれています。

≪予想問題1≫
P.111の14行目「固めた覚悟が的外れだった」とありますが、ここでの「覚悟」の内容を具体的に示した箇所を20字以内で抜き出しなさい。ただし、句読点は字数に含めないものとします。
≪解答のポイント≫

 誕生日を迎えて、愛衣が何を覚悟したのか、という問題ですが、まず、「覚悟」という言葉から、愛衣が自分にとってよくないことが起きるであろうと思っていたことは確実にとらえておきましょう。
 そこで着目すべき箇所は、P.109の1行目からP.110の7行目までの、愛衣が学校に着く前に抱いていた心情が表された部分です。ここには、学校のクラスメイトから誕生日を祝うメッセージが届かなかったことに不安を募らせる愛衣の様子が描かれています。以下の部分にその思いが端的に示されています。

このまま誰にも祝われなかったらどうしよう。(P.109の5行目)

 実はこの部分の句読点を除いた字数が20字ちょうどになるのですが、ここで表されているのは愛衣の「不安」であり、「覚悟」ではありません。字数が近いからといってすぐに答えにせずに、人物のどの心情を答えなければいけないのか、しっかり踏まえて問題を解くようにしましょう。
 その後まで読み進めると、問題となっている「覚悟」という言葉がそのまま使われている箇所があります。

愛衣は学校の駐輪場に自転車を停めると、覚悟を固めて教室に向かった。(P.110の4行目から5行目)

 覚悟を「固めた」という表現も問題と同じになりますので、この後に答えが見つけられる可能性がとても高くなります。次に続く文章の最後に以下の表現があります。

学校生活は今日からもっと苦いものになる。(P.110の5行目)

 字数も19字ですので、この部分が正解となります。
 今回の問題はとても簡単だったかと思われますが、抜き出し問題を解く際には注意が必要です。答えが必ず文章中にあることから、つい探す時間をかけ過ぎてしまい、それでも見つからない、また見つかったとしてもテスト全体の時間配分を狂わせてしまうケースがとても多いのです。
 闇雲に探すのではなく、ご紹介したような、
 問われている人物の心情が描かれている範囲を見つける。
→問題と共通する表現(今回であれば「覚悟を固める」)や、言葉は違っても同じような意味の表現(「戸惑い」と「どうすればよいのだろう」のような類似)を探す。
→それらをヒントに、最後は字数と照らし合わせる。
といった流れで解き進めてみてください。 
 それでも、抜き出し問題には難問が多いので、時間がかかり過ぎるようならば、すぐに抜かして別の問題で得点を重ねる方針としましょう。記述問題で部分点を重ねる方が、結果的に得点が高くなることもあります。抜き出し問題に時間をかけ過ぎないように十分に注意してください。

≪予想問題1の解答≫

学校生活は今日からもっと苦いものになる(19字) 

≪予想問題2≫

 

P.116の6行目「口角はかろうじて上がっているが、頬は引きつっている。」とありますが、このときのエミの様子を説明したものとして、最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。

ア.心の中では友達からプレゼントをもらった愛衣を祝福したいと思っているが、恥ずかしさから、それを隠そうとしている。
イ.愛衣が自分と同じように孤独を感じてはいないのだと知って傷ついた本心を、愛衣に気づかれないようにしている。
ウ.愛衣から思いもかけないことを言われた驚きで表情が固まり、何を愛衣に伝えればよいかが思いつかず戸惑っている。
エ.本心では愛衣に裏切られ、悲しい気持ちでいるが、それを表情に出すことは自分のプライドが許さないと思っている。

 

≪解答のポイント≫

 愛衣が学校の友達から誕生日プレゼントをもらったことをエミに話してしまったことでエミの表情が一変する場面です。まずは言葉の意味を確実におさえましょう。「口角を上げる」は、唇の両端を上げること、の意味で、主に喜びなど明るい表情を指します。「かろうじて」は「やっとのことで、どうにか」といった、容易ではないが何とか成し遂げる様子を表します。このことから、「口角はかろうじて上がっている」とは、エミが無理に明るい表情をとりつくろうとしていることがわかります。「かろうじて」という言葉、そして「頬は引きつっている」という表現からも、エミの本心はとりつくろった明るい表情とは逆の、暗くつらいものであると判断できます。
あとは、問題該当部に続く、以下の部分が大きなヒントになります。

エミはきっと、自分の家や学校に対して居心地の悪さを覚えている。(P.116の8行目から9行目)
彼女とのあいだに線を引くような発言をしてしまった。(P.116の8行目から9行目)

 愛衣も自分と同じように家庭や学校に居場所がないと思っていたエミにとって、愛衣が学校の友達と親しくしていると思い、傷つき、愛衣との間に距離を感じていると解釈することができるのです。
 選択肢のうち、「本心を隠そうとしている」ことが書かれていないウがまず消去できます。また、アの祝福したい気持ちは、暗くつらい気持ちとは合わないため、こちらもすぐに消去しましょう。残った2つのうち、エの「裏切られた」はやや強めの表現ですが、エミの心情としては間違っていません。ただし選択肢後半の「プライドが許さない」につながる表現が文章中に見られません。よって答えはイとなります。
 この問題のように、解答にあたってまず言葉の意味を正確に把握することが大事な一歩になります。語彙を増やすことは読解力を上げるためにはとても大事ですので、普段の演習からわからない言葉は、その都度確実に覚えるようにしましょう。

≪予想問題2の解答≫

≪予想問題3≫
P.111の16行目「あの匂いを漂わせたりするのは」とP.117の5行目「甘酸っぱい匂いも強く香り始めて」にある「匂い」は、どちらも愛衣に対した相手に隠しごとがあることが表されています。この2か所の隠しごとの違いを80字以内で説明しなさい。
≪解答のポイント≫

 この作品の中学受験的テーマは友人関係ですが、裏テーマとも言うべきポイントは「隠しごと」の内容の把握です。愛衣が相手の隠しごとを匂いで感じ取ってしまう場面が随所に表されています。何が隠されているのか、愛衣の周りの人物がどのような心情を隠しているのかを的確に把握することで、愛衣の友人関係についてより深く理解できます。特に愛衣が高校生になるまでを描いた初めの3つの短編に出てくる隠しごとは、中学受験の物語文ではよく見られるタイプのものです。そこに何が隠されているのか、に注意しながら読み進めてみてください。
 問題の対象となる2つの隠しごとのうち、P.111の方について、律子たちクラスメイトが愛衣に誕生日プレゼントを用意していたことを内緒にしていたという点は、彼女たちの「サプライズ、大成功」(P.112の1行目)という言葉からもわかりやすいでしょう。
 ポイントはP.117の方で、エミが愛衣に何を隠しているのか、の把握です。予想問題2で取り上げたように、この部分でのエミは、自分と同じような境遇に置かれていると思っていた愛衣が、友人達からプレゼントをもらえたことにショックを受けています。その本心を愛衣に知られたくない、さらには、釈明するであろう愛衣の言葉を一切さえぎりたいというエミの心情が、以下の表現からも読み取れます。

エミは愛衣と目を合わせることなく話し続ける。(P.117の5行目)

 律子たちの隠しごとが愛衣を喜ばせようとする目的であったのに対し、エミの隠しごとは愛衣との関係を絶とうとまで思ってのものであったという違いがあることを、しっかりつかんで解答にしましょう。
 全体の字数が80字以内ですので、律子たち、エミそれぞれの隠しごとを40字くらいずつで説明する方針で進めるとよいでしょう。

≪予想問題3の解答≫

律子たちが愛衣を喜ばすためにプレゼントを渡すことを隠していたのに対し、エミの隠しごとは、愛衣との関係を絶ちたいという本心を明かさないためのものであった。(76字) 

【ラ・サール中学2019年度入試の出題内容】

 最後に、ラ・サール中学で出題された問題についてご紹介しておきましょう。主人公・愛衣の小学生時代である、最初の短編からの出題となりました。

P.7からP.41の『クレイジー・フォー・ラビット』の以下の部分
・P.14の4行目からP.19の14行目

 小学校の友人2人との帰宅途中の場面で、2人の会話に入れない愛衣が抱く疎外感、愛衣に隠しごとをする友人の心情などの理解を問う内容でした。
 隠しごとを嗅覚で感じ取る愛衣の体質を理解したうえで、人物の心情表現の意味するところを読み取る力が求められる、難度の高い問題です。特に記述問題は、一見解答が作りやすそうで、正確な答案を作り上げるのが難しいタイプの問題で、記述力を鍛えるのに格好の教材にもなります。
 来年度入試で同じ問題は出ないとしても、同じ箇所から違った問題が出されることもあります。四谷大塚のHPにある過去問データベースからも入手が可能ですので、解いておくとよいでしょう。

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