No.1175 中学受験物語文の新たな定番作品!『ソノリティ はじまりのうた』佐藤いつ子 予想問題付き!

amazon『ソノリティ はじまりのうた』佐藤いつ子(KADOKAWA)

 これまで『駅伝ランナー』暁星中(2018年度)などで出題され、『キャプテンマークと銭湯と』が、鷗友学園女子中(2020年度)、横浜共立学園中(2020年度)、筑波大附属中(2020年度)、専修大松戸中(2022年度)など数多くの学校で出題された、中学受験でも注目を集める作家、佐藤いつ子氏による青春小説の傑作です。
 合唱コンクールを舞台として、同じクラスの中学1年生5人がそれぞれに友人・家族関係で悩み、もがきながらも、5人の間での心の交流を通して成長して行く過程が描かれた本作品は、4人を主人公にした章と、コンクール前後の様子をつづった最終章で構成される連作短編集になっています。
 友人や家族と上手くコミュニケーションがとれない自分、自信が持てない自分に対するいら立ちや、焦りといったまさに思春期ならではの心の動きが、小学生の皆さんにも読みやすい文体で表されています。5人の間で淡い恋心が交錯する様子が描かれていることも本作品の特徴のひとつとなっています。中学受験で問われることの多い心情の数々が散りばめられた本作品は、注目作家による連作短編集という要素も相まって、来年度入試で数多くの学校で出題される可能性が高い一冊です。
今回はこの連作短編集の中から、岳(がく)という男子を主人公とした『岳の場合-玉のしずく』を取り上げます。

★『岳の場合-玉のしずく』(P.94~138)

【あらすじ】

≪主な登場人物≫
武井岳(たけいがく・バスケ部に所属する男子。家族関係にストレスを抱えている。)
金田晴美(かねだはるみ・通称キンタ。岳の幼なじみで人前で歌うことに対してコンプレックスがある。)
山東涼万(さんとうりょうま・岳と同じバスケ部所属で、何事も器用にこなすが心から夢中になれるものが見つからない。)
水野早紀(みずのさき・合唱コンクールの指揮者。内気でクラスでも部活でも自分の本心を出せないでいる。)
井川音心(いがわそうる・合唱コンクールの伴奏者で早紀と同じ吹奏楽部所属。卓越した音楽的才能の持ち主で、常に冷静に物事を見ている。)

≪あらすじ≫
 岳のクラスでは指揮者の早紀と伴奏者の音心を中心に、合唱コンクールに向けてクラス全体がまとまり始めています。そんな中でもバスケに対して並々ならぬ思い入れがある岳は、コンクールの朝練に参加せず、バスケの練習に没頭します。父親を幼い頃に亡くし、母親が再婚した相手とその子供(隼人)とは、未だに息子として兄として打ち解けることができないでいる岳にとって、バスケは自分の居場所として何よりも大事なものなのです。ある時、岳は幼なじみの晴美が音痴であると何気なしに友人に話してしまい、それを聞いた晴美は深く傷ついてしまいます。

【中学受験的テーマ】

 この作品全体のテーマは、「心の成長」ですが、今回ご紹介する短編の中学受験的テーマは「心の葛藤の読み取り」です。本編の主人公の岳は、クラスの中で孤立することもいとわずバスケに打ち込んでいますが、同じバスケ部でも自分よりもバスケ歴の短い涼万が抜群のセンスを見せていることに激しく動揺し、さらに幼なじみの晴美を傷つけてしまったことを深く後悔しています。そんな岳の心の揺れ動きを的確につかむことがポイントとなります。素直で主張の強いキャラクターである岳の心の内は、文章中の表現から読み取りやすいですが、その根底に晴美への恋心、涼万への強いライバル心、嫉妬があることを読み逃さないように注意してください。

【出題が予想される箇所】
P.121の1行目からP.134の16行目

 岳が自分と涼万のバスケのセンスの違いを痛感し、さらには晴美を傷つけてしまったことを自覚する場面です。合唱コンクールの練習で自分以外のクラスメイトが一致団結し、ソロパートを歌うことになった晴美がクラスの皆から励まされる場面に遭遇するという、岳が多重の心の試練を一気に抱え込む状況が描かれています。

≪予想問題1≫

 

P.130の16行目に「握りつぶされたみたいに、胸がギュッと苦しくなった。」とありますが、この時の岳の心情について説明したものとして、最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。

ア.自分のせいで歌うことに自信を無くしている晴美の振舞いが、自分を責めているように聞こえ、その場から立ち去りたいと思っている。
イ.クラスの全員からソロパートを歌うように言われている晴美が、自分への当てつけのためにそれを拒んでいることに怒りを感じている。
ウ.自分の言葉のせいで晴美が傷つきソロパートを歌うことを避けていることがつらく、晴美に自信を取り戻してほしいと願っている。
エ.自分が好意を寄せる晴美が苦しんでいることが悲しく、どうすれば晴美に自信を持つように伝えられるのかと悩んでいる。

 

≪解答のポイント≫

 

 岳が晴美を傷つけてしまったことを後悔しているという状況は、以下の部分からも読み取れます。

 

あの晴美の涙が、何度も何度もフラッシュバックしてきて、どんなに払おうとしても、気づくと晴美のことを考えていた。(P.125の9行目から10行目)

 

 フラッシュバックとは、「過去に起きた出来事がはっきりと思い出されること」を指します。普段は勝気で自分にも遠慮なしに物を言う晴美の涙を見てしまったことは岳にとって衝撃的で、その原因が自分の不用意な一言にあったことが、岳の心に深い傷として刻み込まれています。岳にとって強烈な印象であったからこそフラッシュバックという鮮明に過去がよみがえる現象を表す言葉が用いられていると考えられます。
 岳が心の内を曇らせた背景に、晴美に対する恋心を抱き始めているという要素があることを見逃さないようにしましょう。直接的に好きという言葉こそ用いられていませんが、晴美の涙を見た直後の以下の言葉に、岳の晴美への恋心の芽生えが読み取れます。

 

頬を伝う涙は、玉の汗といっしょになって、差し込む夕日にきらきら光った。
……綺麗だ。
胸がつまって苦しくなった。鼓動が内側で響く。(P.122の16行目からP.126の2行目

 

 普段泣かないような相手の涙を見た際には、戸惑いが先に立つところですが、ここでの岳はそれ以上に涙の美しさに魅入られています。それが恋であるとは岳自身も気づいていないかもしれませんが、この表現からは岳が晴美に対して恋心を抱き始めていると読み取ることが妥当となります。
 この涙に対する印象はこの後も岳の心を支配し、問題該当部の直前にも以下のような表現があります。

 

宝石みたいに綺麗な涙が、玉の汗の中で光っている。(P.130の15行目)

 

 好意を寄せる晴美が自分の言葉のせいで苦しみ、自信を無くしてソロパートを歌うことを断っている。そのつらさが岳の心を覆っていることは確かですが、岳の心の中には晴美に自信を取り戻して欲しいという願いも込められていることが、問題該当部直後の以下の表現からも読み取れます。

 

キンタ、やれよ。
あの天才井川が、お前がいいって言ってるんだから、だいじょうぶだよ。
祈るような気持ちになった。(P.131の1行目から2行目)

 

 以上から選択肢を見てみると、選択肢のウが全ての要素を満たしていると考えられます。選択肢のアでは岳の心の苦しみは表されていますが、晴美を応援したいという気持ちまでが含まれていません。また、岳は自分の言葉に後悔こそすれ、晴美の言葉が自分を責めていると考えているまでの描写は本文中には見られません。選択肢のイの怒りは、この状況では全く当てはまりませんので、真っ先に消去すべきとなります。注意すべきは選択肢のエです。岳の晴美への恋心という選択肢の表現に引きずられてしまうと、岳が抱える、自分の言葉のせいで晴美が苦しんでいることへのつらさが含まれないことに気づかなくなってしまいがちです。恋心は大事な要素ですが、当てはまる全ての心情を網羅していなければ選択肢としては不適切になります。よって正解はウとなります。

≪予想問題1の解答≫

 

≪予想問題2≫
P.131の15行目から16行目に「涼万か……。岳はつま先を見つめた。」とありますが、ここでの岳の心情について、100字以内で説明しなさい。句読点も一字として数えます。
≪解答のポイント≫

 問題になっている表現は、岳が晴美に声をかけようと心に決めた直後に、音楽室の中から晴美を励ます涼万の言葉と、その言葉を受けてソロパートを歌うことを決心する晴美の声が聞こえて来た後にあるものです。ここでの「涼万か……。」のような言葉にならない状態を表す「……」があった際には、そこに強い心情が反映されていることが多くあります。ただその心情がどのような内容であるのかは、その部分だけでは判断できません。時に深い悲しみであり、時に心を晴れやかにする穏やかな喜びであったりしますので、前後の状況から判断する必要があります。ここでは直後に「つま先を見つめた」とありますので、岳が思わずうつむき、そのまま下を向いていることがわかります。
 うつむいたことがわかっても、まだ岳の心情の理解には至りません。人は悲しい時だけでなく、安心した際や、緊張から解き放たれた際にも下を向くことがあります。短絡的に判断せず、岳の涼万に対する心情をしっかり確認するようにしましょう。
 ポイントとなるのは、バスケの練習をしている最中の岳の心の内を表した以下の表現です。

認めたくはないが、涼万のことを羨ましいと思っている自分がいた。(P.126の10行目)

 抜き出し問題にも使われそうなくらいに、岳の涼万への心情が端的に表されています。小学生の頃から長い時間をバスケに費やしてきた自分に対し、中学に入ってからバスケを始めたばかりの涼万がセンス抜群のプレイを見せ、部員達にも認められている。そんな状況にあって岳が涼万に抱く想いは、この表現に表されているように、「羨ましさ」であり、また「コンプレックス(劣等感)」とも言えるでしょう。
 そこで問題該当部に戻ります。晴美を励ましたいと思っている自分以外の言葉で晴美が歌うことを決意しただけでなく、よりによってその言葉が、自分がバスケでかなわないと思っている涼万のものであったと、岳が知ることになります。単純な言葉で言えばショックを受けた、というところですが、より具体的な表現を見つけるために、この後にある以下の部分に着目してみましょう

俺、何やってんだろ。(P.126の10行目)

 それぞれのソロパートを晴美と早紀が歌い、音心が絶妙なピアノアレンジで支えるかたちで奏でられた美しい旋律に、参加していたクラスメイト全員が大きな歓声と拍手で応えたことを音楽室から離れた場所で耳にした時の、岳の心の声を表したものです。問題該当部からは少し離れた場所にありますが、その間に岳の心情は大きく変わっていませんので、そのまま解答の要素として使えます。
 バスケでも挫折し、合唱コンクールに向けて一致団結しているクラスの輪にも加わっていない。そんな自分の姿に岳が抱いた心情を表す言葉としては「無力感」が最も適当となるでしょう。孤立とも考えられそうですが、そもそも岳はバスケのためには孤立しても構わない心持ちでいましたので、無力の方がより記述答案に含めるには妥当となるでしょう。
 あとは晴美と涼万にそれぞれに対する気持ちをしっかりと含めて、字数を意識しながら解答を作って行きましょう。

≪予想問題2の解答例≫

 自分の言葉がきっかけで傷ついた晴美を励ましたいと思っていたが、自分ではなく、バスケでもかなわないと思っている涼万の言葉で晴美が前向きな気持ちになったことを知り、自分の無力さを強く感じている。(95字)

【最後に】

 今回ご紹介した短編の後、物語は進行し、合唱コンクール本番へと向かって行きます。その間に思いもよらない出来事が相次ぎ、岳達のクラスはコンクールに参加できるかどうかの窮地にも立たされます。そこでそれぞれの人物達がどのように振舞い、そしてどのように互いの関係を変化させて行くのか、ぜひとも最後まで見届けて欲しいと願います。物語の結末については触れませんが、きっと多くの方々がこの本を読んで良かったという感想を持たれることでしょう。
 連作短編という構成をとることで、登場人物達の個性がより深く描かれていて、冒頭にも触れました思春期ならではの揺れ動く心情を存分に味わうことができます。それは読書としての楽しみでもありますが、何より中学受験で頻出の心情を読み取る力を鍛える、恰好の機会となります。特に中学受験でも扱われることの多い「恋心」の読み取りが苦手なお子様にとっては、貴重な教材になるでしょう。
 来年度入試だけでなく、これからの中学受験物語文の新たな定番作品になると思える一冊です。

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