No.1205 頻出テーマ「友人関係・心の成長」を真正面から描いた青春群像劇!『おにのまつり』天川栄人 予想問題付き!

amazon『おにのまつり』天川栄人(講談社)

 中学受験・物語文の最重要テーマ「友人関係」「心の成長」をストレートに描いた傑作です。岡山県で毎年の夏に行われる、踊りを中心とした祭り「うらじゃ」。このうらじゃに参加しすることを命じられた5人の中学生達が、時にぶつかり合いながら、自分の悩み、家族への想いを打ち明け、理解を深め合って成長して行く姿が、細やかにつづられています。各章が5人の生徒それぞれの目線で描かれる、連作短編のような構成になっています。書籍の帯には中学受験・物語文の重鎮、あさのあつこ氏の推薦の言葉も載せられています。登場人物達がそれぞれに置かれた境遇の中で苦しみ、悩みながらも、踊りの練習を通して成長して行く様子に、深い心情が込められた表現が織り込まれた本作品は、来年度入試で多くの学校が出題する可能性が高い一冊です。

【あらすじ】

≪主な登場人物≫
由良あさひ(ゆらあさひ:うらじゃプロジェクトのリーダー。目立つのが苦手なタイプで、プロジェクトに参加している他の個性的なメンバーの中にあって、つなぎ役となっている。うらじゃの踊り手であった兄を事故で亡くしている。)
犬飼タケル(いぬかいたける:あさひ達と同じ中学に通いながら、スピードスケートの選手としても活動している。あさひとは幼稚園の頃からの幼なじみで、兄を亡くしたあさひのことを常に気遣っている。)
森山楽々(もりやまらら:幼い頃に両親が家を出てしまったことから、祖母の家で弟と暮らしている。家でまともに食事をとることができないため、空腹に耐えられなくなる度に暴力に訴えてしまうことで、学校では問題児とされている。)
芹沢桃香(せりざわももか:東京生まれの東京育ち。女優である母親の仕事の関係で一時的に岡山の伯母の家に預けられている。派手な見た目で我が強く、周りに合わせようとしないため、学校では浮いた存在となっている。)
玉留絢子(たまどめけんこ:真面目で成績も学年トップクラスであったが、カンニング疑惑をかけられたことから教室に入ることが怖くなり、保健室登校を続けている。うらじゃについての情報や逸話を調べてメンバーに伝えている。)

≪あらすじ≫
 あさひが通う学校では、様々な理由で内申点が低い生徒を対象とした「うらじゃプロジェクト」が実施されています。参加した生徒の評価を上げる救済措置としてのプロジェクトだけに、メンバーとして集められた生徒たちは個性的な人物ばかりです。うらじゃを踊った経験があるあさひは参加者達の指導役を任さられます。活動開始当初はぶつかり合うことが多かった生徒達でしたが、それぞれが抱える家族関係の悩みを知ることで、次第に理解を深め合って行きます。

【中学受験的テーマ】

 この作品の中学受験的テーマは「友人関係」そして「心の成長」です。個性的な登場人物達が「うらじゃ」の踊りを成功させるという共通の目標のもと、友人関係をどのように深めて行き、そこで自分の世界を広めて行くか。そして、友人達との出会いがメンバー達の心の成長とどのようにつながって行くかを丁寧に読み取るようにしましょう。

【出題が予想される箇所】
P.47の1行目からP.56の2行目まで、P.67の3行目からP.91の7行目まで

 東京生まれの芹沢桃香の目線で描かれた章『甘い果実[桃香]』から、前半は岡山に馴染めず、「うらじゃプロジェクト」のメンバー達との間に距離を感じている桃香の様子が、後半は桃香が自分の境遇を語ることからメンバー達との関係を深めるきっかけをつかむ様子が描かれています。

≪予想問題1≫
P.47の7行目の「岡山なんか大嫌い。」と言った時から、P.78の11行目も「ああ、岡山だなと思う。」言った時までの桃香の心情の変化について、150字以内で説明しなさい。句読点も一字として数えます。
≪解答のポイント≫

 同じような言葉(この問題では「岡山」です)を含みながら異なる意味を持つ台詞について、その変化や違いを説明させる問題は中学受験の国語では頻出です。ポイントは、それぞれの台詞を言う人物の心情にどのような変化があったのか、またその変化の理由が何かを的確に把握することです。
 まず「岡山なんか大嫌い。」の台詞ですが、自分が岡山にいることに対する桃香の強い不満がにじみ出ています。以下の表現にもその不満が表されています。

岡山では、朝とにかくガーっと晴れる。厚かましいほどの強烈な朝日が、一日を強制的に
始めてしまう。あたしはそれが嫌い。(P.47の3行目から4行目)

 この岡山ならではの日差しに対する桃香の怒りにも近い不満が、「ああ、岡山だなと思う。」の台詞からは感じられません。むしろ居心地の良さを感じているとさえ言えます。この台詞が出る直前に以下の表現があります。

五月の明るい日差しを浴びて、きらきら、川の水面が輝く。空の青と、流れる川の青と。
視界いっぱい、まぶしい。(P.78の9行目から10行目)

 桃香が岡山の強い日差しに包まれていることの幸せを感じていると言えるほどに、優しく柔らかいトーンになっています。
 桃香の風景に対する印象がここまで大きく変わった理由、背景とは何か。そこに「うらじゃプロジェクト」のメンバー達との関係の変化があることを逃さないようにしましょう。
 「岡山なんか大嫌い。」と言っていた時はまだメンバーとの関係は薄く、例えば楽々に対しては「金髪ヤンキーの森山楽々(P.50の4行目)」と、絢子については「この子の『ザ・委員長』感が、苦手(P.51の11行目)」と、突き放すようなとらえ方をしています。
 それがうらじゃの踊りの練習を重ねるうちに、桃香の心情に少しずつ変化が見え始めます。ある日の練習後、女子3人で帰り支度をする場面で以下のような表現があります。

なんか、友達みたいだった。今のやり取り。
(中略)胸がくすぐったくなる。(P.67の12行目からP.68の1行目)

 まだ友達とは認めないながらも、あさひと絢子と過ごす時間に桃香が楽しさを感じ始めていることが「胸がくすぐったくなる。」という言葉から読み取れます。
 その直後、教室で自分に対する陰口を聞いてしまった桃香は、これまでになく動揺してしまいます。あえて孤独を選んでいた頃の桃香は、陰口にも動じることがありませんでした。そんな桃香が動揺する様子から、あさひ達メンバーと過ごすうちに、孤独から離れて誰かと共に過ごす時間に、自分の居場所を見つけ始めているという桃香の変化が読み取れます。孤独を貫いている時には押しとどめられていた「寂しさ」を、仲間ができたことで強く感じてしまうようになり、弱さを素直に表に出すようになる、という変化は物語文で表されることが多い現象のひとつです。
 動揺する桃香を救ってくれたのは、その場に居合わせたタケルと楽々でした。以下の言葉に桃香の素直な気持ちが表されています。

「でも、ありがとう」
情けないけど、二人が来てくれて、助かった。(P.70の13行目から14行目)

 明らかにメンバー達との触れ合いを通して、自分の中に変化が生まれていることを自覚している桃香ですが、この後に桃香の変化をより明確に示す表現が出てきます。
 タケルと楽々に救われた直後、桃香はメンバー全員の前で自分のこれまでの境遇を語り始めます。母親の仕事の関係で転校を繰り返し、見た目の美しさで寄り付いてくる者達を拒絶してきたために悪者扱いされたことを打ち明けたうえで、友達はいらない、と告げる桃香に対し、メンバー達はそれぞれの言葉を桃香にぶつけます。それを受け止めた以下の言葉が桃香の心情の変化を読み取るうえで重要になります。

こんなこと、誰かに話したの、初めてだから。
大きな荷物を下ろしたように、肩の力が抜けて、謎に気持ちが晴れ晴れしている。
心の奥に溜め込んでたガスが、ぷしゅーって抜けてったみたい。(P.74の6行目から9行目)

 孤独から解放されて、気持ちが軽くなって行く桃香の心情の変化がはっきりと表されています。この場面のすぐ後に、メンバー全員で自転車に乗って岡山の街並みを走った際に桃香が発したのが、「ああ、岡山だなと思う。」という言葉なのです。気持ちが軽くなった桃香が、それまではただ強烈に感じた太陽の光に、これまで気づくことのなかった美しさや鮮やかさがあると思えるようになったと言えるでしょう。
 物語文における風景の描写には、それを見る人物の心情が大きく関わってきます。例えば同じ夕陽でも、寂しさを表すこともあれば、穏やかな気持ちを表すこともあります。風景が持つ意味を読み取る際には、その風景を見る人物の心情まで考えることを徹底しましょう。
 問題の解答ですが、桃香の心情の変化がわかりやすく伝わるような構成になるように文章を組み立てましょう。そして変化の理由にあさひ達メンバーとの関係が変わったという内容を盛り込むことを忘れないようにしてください。

≪予想問題1の解答例≫

「岡山なんか大嫌い。」と言った時の桃香は孤独を選び、心を閉ざしていたため強い日差しがただまぶしいだけだったが、あさひ達メンバーと過ごすうちに孤独から解放されて心が軽くなり、「ああ、岡山だなと思う。」と言った時には、日差しの美しさを素直に受け止められるようになった。(132字)

≪予想問題2≫

 

P.90の7行目に「ここから世界の広さを知るなんてね。」とありますが、ここでの桃香の心情を説明したものとして、最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。

ア.長い間、自分勝手に振舞う母親の言いなりになっていたが、岡山の自然と触れ合うことで心が解放され、自分らしく生きようと思い始めている。
イ.都会のような刺激的な施設もない岡山での暮らしに息苦しさを感じ、開放的なアメリカでの生活への期待をつのらせている。
ウ.兄の死の悲しみを抱きながらも明るく振舞うあさひを見て、恵まれた環境にいる自分が抱える不満など小さいことであると感じてる。
エ.田舎だと思っていた岡山であったが、美しい自然や、その中で懸命に生きようとする人たちの強さは世界に誇れるものであると確信している。

 

≪解答のポイント≫

 あさひや他のメンバーの優しさに触れることで、岡山での生活に対する考え方を変えてきた桃香が、あさひが兄を事故で亡くしていること、それを知るタケルや楽々がさりげなくあさひを支えようしていることを初めて知った後の場面です。解答のポイントは、問題該当部の近くにあるヒントを見逃さず、問題で使われている言葉に自分の解釈を加えすぎて内容を取り違えないように気をつけることです。とても基本的な内容ではありますが、桃香のような心と裏腹な言葉を使う人物の心情を読み取る際には、特に注意して基本的な解法に立ち返る必要があります。
 問題該当部の7行後に以下のような表現があります。

甘い甘い。甘いんだよね、結局、あたしって。
温室育ちの世間知らずで、十分恵まれてるのに、不満たらたらでさ。(P.90の13行目から15行目)

 ここで桃香は恵まれていながら不満ばかりをつのらせる自分の甘さを感じ始めています。深い悲しみを表に出さないあさひ、それでも心の奥底にある悲しみを感じ取るタケルや楽々の姿が桃香の心を動かしたことは言うまでもありません。ここで桃香が言う「温室育ちで世間知らず」の反対の意味として使われているのが「世界の広さ」になります。「世界」という言葉が使われていますが、これは自分と同じように、またそれ以上に悩みや苦しみを抱えた人物が存在することを表した言葉であって、地理的な意味での世界と解釈してしまうと、正解に行き着けなくなります。
 そこで選択肢を見ると、イやエは桃香の言う「世界」とは異なる意味での世界が表現されているので不適切となります。アの選択肢の後半には桃香の心が成長して行く内容が表現されていて、その点は正しいのですが、そのきっかけが岡山の自然に限定されていて、あさひ達についての描写がありませんので選ぶことはできません。よって正解はウとなります。

≪予想問題2の解答≫

【最後に】

 本作品は章ごとに「うらじゃプロジェクト」参加メンバーそれぞれをメインに置いた物語が展開します。どの章も、メンバーが抱える問題と、それを乗り越えて彼らが成長して行く姿が描かれていますが、共通しているのが、その成長を見つめる「優しい目」があることです。今回ご紹介した『甘い果実[桃香]』では、友達は要らないと言う桃香に、メンバー達が不器用ながらもそれぞれの方法で救いの手を差し伸べます。兄を亡くしたあさひを支えるタケルや楽々の行動も優しさに満ちていました。他の章でも、メンバー同士はもちろん、家族やうらじゃに参加する大人達など、様々な立場の人物達が、悲しみや悩みにぶつかるメンバー達を優しく見守ります。深い優しさに包まれていることが本作品の大きな魅力になっています。
 連作短編のような構成で読み進めやすく、「うらじゃ」の成功に向けて突き進む登場人物達の姿は爽快感も抱かせてくれます。中学受験・物語文の良質な教材であるとともに、読書が苦手なお子さんにも物語を読む楽しみを味わせてくれる作品です。

 われわれ中学受験鉄人会のプロ家庭教師は、常に100%合格を胸に日々研鑽しております。ぜひ、大切なお子さんの合格の為にプロ家庭教師をご指名ください。

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