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コロナ禍で様々な活動が制限される中、いら立ちや憤りを感じながら日々を送る中学3年生が、友人たち、教師、親との心の触れ合いを通して自分を見つめ直して行く過程が生き生きとした描写でつづられた作品です。バレー部の部長で猪突猛進型の鈴音(すずね)と、美術部の部長で常に冷静な千暁(かずあき)。対照的な二人それぞれの視点で語られる章が交錯するかたちで物語が展開します。
コロナの影響で起こる様々な出来事を通して、登場人物たちが他者への想いを深めて行く様子は、中学受験生の皆さんにも共感できるところが多いでしょう。主人公のうちの一人、千暁が台風被害に遭った過去にどのように向き合うかという視点も含まれており、まさに今だからこそ伝えるべきメッセージが読み手の心をわしづかみにします。コロナ禍という設定でありながらその社会的テーマに偏り過ぎず、登場人物たちの心情の変化、心の触れ合いを描くことを徹底している本作品は、中堅校から最難関校まで幅広い学校での出題が予想されます。特に海城中、学習院女子、鷗友学園女子などが出題してきそうなイメージです。
≪主な登場人物≫
吉村千暁(よしむらかずあき・美術部の部長で成績優秀な中学3年生男子。小学4年生の時に生まれ育った町が台風による浸水被害に遭い、現在の居住地に転居してきた。)
岡田鈴音(おかだすずね・バレー部の部長で千暁の近所に住む中学3年生女子。思ったことをすぐに表に出す猪突猛進型。)
尾上健斗(おのうえけんと・校外の空手チームのメンバーであったが、体調不良が原因で美術部に属するようになった。)
文菜(ふみな(名字は不明)・鈴音と同じバレー部に所属する中学3年生女子。祖母が介護施設に入っているがコロナ禍で直接会えないでいる。)
泉仙(いずみせん・美術部の顧問の先生。)
≪あらすじ≫
美術部の部長を務める千暁は、コロナ禍の影響で市郡展覧会の審査や体育祭の看板提示が立て続けに中止となり動揺します。そんな中、制作途中だった大きなパネルの絵に、鈴音が不注意で墨を付けてしまいます。その絵を見た千暁は、パネル一面を黒で塗りつぶし、絵具が乾いたところで、黒を削って下地の絵を浮き上がらせる「スクラッチ技法」を取り入れ、絵の制作を再開します。それまで絵との向き合い方に迷いを抱えていた千暁でしたが、スクラッチ技法で新たな自分の可能性を見出して行きます。
この作品の中学受験的テーマは、「心の成長」で、今回ご紹介する箇所については「家族関係」がもうひとつの重要なテーマとなっています。新たな作風で絵を完成させた千暁は、家族3人でその絵を見たことをきっかけとして、過去に台風の被害を受けてから封印していた気持ちを家族で共有し、これまで知らなかった母親の想い、自分にとっての家族と共に生きることの価値の大きさを見出して行きます。そんな千暁の気持ちの揺れ動きを的確につかむことがポイントになります。自然災害に遭ってしまった人物の気持ちの描写もあり、それらに触れることは、被災者の心情に考えを及ばせるという社会的テーマに向き合う機会にもなります。
前半は、千暁が鈴音をモデルにした絵を県展覧会に出展することについて鈴音の家族に許可を得に行く場面、後半は県展覧会に入選した千暁の絵を両親と千暁の3人で身に行く場面です。スクラッチ技法によって描く絵を完成する前後で、千暁の家族に対する考え方、自分との向き合い方が変化して行く様子が表されています。
P.294の6行目に「核心を突かれた。」とありますが、この時の千暁の様子について説明したものとして、最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。
ア.黒を基調とした絵を描いたことに納得できない母親から絵への取り組み方について責められていると感じ、動揺している。
イ.母親のために明るい色調の絵を描き続けてきたことをこれまで隠してきたが、母親がそれに気づいていたと知り、驚いている。
ウ.自分が明るい色調で絵を描いていたことが母親を励ますためであったことを、母親が言い当ててくれたことに喜んでいる。
エ.自分でも明るい色調の絵を描いてきた確かな理由を自覚できなかったが、母親の言葉を聞いてその理由を確信できるようになった。
まずは「核心を突く」という言葉自体の意味を確認したうえで、それがこの場面での千暁にどのように当てはまるか、という流れで考えて行きましょう。
「核心を突く」の辞書での意味は、「物事の最も重要な部分をピンポイントに攻めること」です(weblio辞書より)。「攻める」とありますが、この場面で千暁と母親はケンカも対立もしていませんので、母親に重要なことを言い当てられた、と考えるべきでしょう。
ここで、問題該当部の直前にある、以下の千暁の言葉に注目します。
核心に思い当たるまで、千暁が段階を踏んでいる様子がうかがえます。この核心とは何を指すのか。そこで千暁の母親の言葉を見てみます。展覧会で千暁の絵を見た母親は喜びのあまり涙した後で、以下のような言葉を発します。
明るい絵を描く千暁が呪いをかけられているとはどういうことか、それを解く鍵は、問題文の前半部、千暁の以下の言葉にあります。
台風による大きな浸水被害に遭い、深くショックを受けた母親に、千暁が明るい色調の絵しか見せてこなかったことが「いつもみたいな」という言葉から読み取れます。「励ますつもりでもなんでもなかった」(P.294の2行目)としていることから、千暁が明るい色調の絵を描いてきたのは、母親を励まそうという気持ちからではなかったことがわかりますが、それでも母親に入選した黒を基調とした絵を見せることに抵抗を感じているのは、台風の日からどこまで心が回復しているのかがわからない母親に明るい色調以外を見せたくない、という想いからであったと考えられます。千暁が母親の心の状態に向き合うことを恐れていることは以下の部分からもうかがえます。
台風で受けた被害があまりに大きかったからこそ、母親とそのことを話す気持ちになれず、母親が何を考えているかまでは思いも寄らなかった。ただ、無意識のうちに明るい色調の絵ばかりを母親に見せてきたつもりだったが、母親の言葉でその理由が「母親を励ましたいから」というものであることに、千暁が改めて気づかされたと考えられます。
そこで選択肢を見てみましょう。まず選択肢のアは涙するまで喜んでいる母親の様子から全く当てはまらなくなります。ただ、核心を突かれたという言葉の意味を取り違えてしまうと消去すべきか迷いかねませんので、言葉の解釈には十分に気をつけましょう。選択肢のイについて、母親の言葉を聞いた直後の「僕はちょっとぎょっとした」(P.293の16行目)という部分に引きずられると正しいと考えてしまいそうですが、千暁が明るい絵を描いた理由を隠してきた、という事実はありませんので、不適切となります。選択肢のウも千暁が明るい絵を描いてきたことの理由を自覚していることが不適切で、また喜びという感情が当てはまらないことから選べなくなります。
よって正解はエです。
エ
ここでポイントとなるのが、「うん。本当に。」の部分です。ただ両親に感謝の言葉を伝えるだけでなく、それを念押ししているところに、千暁の両親への感謝の意が深いことが読み取れます。つまり、ただ展覧会に来てくれたことへの感謝とするのではなく、より深く千暁の心情に踏み込んだ解答が必要となるのです。
そこでまずは、≪予想問題1≫の問題該当部以降の、千暁の心情の変化を追ってみましょう。
自分が明るい絵を描いてきた理由が母親を励ますためであったと自覚した千暁でしたが、その直後に「―いや、でも」(P.294の7行目)と、それを打ち消しています。
この「でも」という言葉を重複させて、母親が以下のように話します。
この母親の言葉に対して、千暁が否定する表現が一切ないこと、そして千暁自身も自分の絵を見て以下のように語っていることから、この母親の言葉の内容を千暁も同じく感じていたことが読み取れます。
千暁が自分と向き合って絵を描き上げたことがこの言葉からも理解できます。それを母親にも認めてもらえて千暁が喜びを感じていることは、母親の言葉を聞いて涙をこらえられなくなった父親の姿を見て、「つられて涙が出てきて驚いた」(P.294の16行目からP.295の1行目)という千暁の様子からも読み取れます。
そして、千暁の心情を読み取るためには、親子3人で涙を流し合った後の以下の表現にも注目する必要があります。
千暁が、そして両親が話題にすることなく押し込めていた気持ちとは、その後に書かれている、台風の浸水被害を受けた日から、必死になってそれ以前の生活に戻ろうと家族全員で頑張ってきたと自負する気持ちのことです。
展覧会に来てくれて、これまで触れることのなかった気持ちを確かめ合う機会を両親が与えてくれたこと、それが千暁にとって前を向いて進む大事な一歩となったことは、以下の部分にも表されています。
以上をまとめて、千暁の両親への感謝の気持ちをまとめますが、内容が多くなりますので、ひとつひとつの要素が長くなり過ぎないように、制限字数とのバランスを考えて、言葉の書き換えなども使いこなしながら、解答を完成させてください。
展覧会に来てくれただけでなく、自分の成長を認めてくれ、台風の被害を受けてからの日々の中で普段の生活を取り戻そうという必死の想いを改めて家族で共有する機会を作ってくれた両親に、深く感謝している。(96字)
今回は千暁と家族の関係が変化して行く場面をご紹介しましたが、それ以外にも、千暁と同じ美術部の健斗が心の距離を縮めて行く場面や、千暁と顧問の仙先生が絵の制作について意見を交わす場面など、本作品に出てくる様々な人間関係が出題の対象となる可能性が高くあります。そうした中学受験の出典として注目すべき作品であるだけでなく、コロナ禍の今だからこそ読んでおきたい本として、少しでも多くの小学6年生、5年生のお子様方に(読書好きであれば4年生のお子様方にも)、手に取って頂きたい一冊です。作品に出てくる4人の中学3年生は、それぞれにコロナの影響を受け、それまでの生活を変えざるを得なくなります。そんな厳しい状況にあっても、彼らは強い意志を持って自分の生き方、進むべき道を見出して行きます。その姿に悲壮感はなく、むしろ溢れんばかりの力強さ、疾走感、そして時に読んでいて思わず笑ってしまうような明るさが感じられるのです。全333ページにもわたるボリュームのある一冊ですので、6年生の方々は時間のできた時にぜひ全編をじっくり読み通して頂きたいです。物語の展開のあまりの面白さに、長さを感じることなく気がつけば完読しているといった、まさに物語の醍醐味を感じられる貴重な作品です。
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