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現時点で判明している81校(テストにして115回)の2023年入試の国語で出題された物語文をもとに、昨年11月に配信したメルマガ「2023年度入試で出題される確率が高い物語のベストテンを発表します!」で予想した物語文の答え合わせをして行きたいと思います。★印が今年度入試で出題を確認できた作品です。
出題校:学習院中等科(第1回)、洗足学園中(第3回)
入試頻出作品の『キャプテンマークと銭湯と』の著者・佐藤いつ子氏による連作短編集で、合唱コンクールを舞台に、それぞれに悩みを抱える中学1年生5人が心の交流を通して成長して行くという中学受験で題材となりやすい内容からも、これこそ今年を代表する一冊!と予想しました。特に、何気ない言葉や行動といった繊細な表現からの出題が多い栄光学園中・慶應義塾普通部・品川女子学院などでの出題を予想しましたが、やはり細やかな表現を含む作品を多く出題する学習院中等科が出題しました。出題された箇所はメルマガで予想していた箇所とほぼ同じで、予想問題も実際の問題とかなり近いものでした!『キャプテンマークと銭湯と』と同じように、長く中学受験で出題されて行く可能性が高い作品です。
出題校:桐光学園中(第3回)
2020年度入試で開成中、海城中などが出題した『君たちは今が世界(すべて)』の著者・朝比奈あすか氏の作品で、児童養護施設で生活をする女子高校生の心の葛藤を描くという内容からも、豊島岡女子中・桐朋中・浅野中といった難関校をはじめ、多くの学校が出題対象にすると予想しましたが、意外にも出題校は少なかったです。逆に『君たちは今が世界(すべて)』があまりに大きな話題になったことで出題を避けた学校があったかもしれませんし、長編という点がネックになったかもしれません。ただ作品としては中学受験物語文の読解の重要エッセンスが満載ですので、来年度以降は出題される可能性が高いです。出題した桐光学園中ですが、第1回から第3回まですべてこのベストテンでご紹介した作品から出題されていました!
出題校:学習院女子(B入試)
コロナ禍で様々な活動が制限されて、いら立ちや憤りを感じながら日々を送る中学3年生の生徒たちが自分を見つめ直して行く姿を描いた全300ページ超の長編で、入試頻出の作家ではないことで予想では3位としましたが、今の時代ならではの悩みや苦しみを明るいタッチで描いたこの稀有の傑作をぜひ多くの学校が入試で出題して欲しい!との願いを込めて出題予想をした作品でした。特に頻出作家以外の作品からの出題実績があり、人物が時間をかけて心情を変化させる長編作品も題材とする海城中、学習院女子などで出題されるのではと予想したところ、学習院女子でズバリ的中しました!まだこの作品の存在に気づかれていない学校もあるかもしれず、来年度以降も要注意の一冊です。
出題校:桐朋中(第1回)、高輪中(A日程)
中学入試で大賞受賞作が多く出題されてきた「ちゅうでん児童文学賞」の大賞受賞作品で、「他者理解」という重要テーマを題材としている点で、同テーマからの出題が多い立教女学院中・学習院中等科・浦和明の星中での出題を予想しました。出題した桐朋中、高輪中は大人向けの作品からの出題も多い学校ですが、児童書でありながら作品の随所に見られる深いテーマが込められた言葉が、そうした学校の先生方にも響いたのでしょう。特に厳しい家庭環境で暮らす主人公のクラスメイトが父親に対する考えを込めた言葉は、深く読み手の心に刺さります。今後もこの作品からの出題が続くかもしれません。
出題校:学習院中等科(第2回)
岡山県の伝統祭り「うらじゃ」に参加する中学生たちが友人関係の変化を通して「心の成長」を果たして行く様子をストレートに描いた群像劇で、等身大の人物が他者との交流の中で成長して行く過程をじっくり描いた作品を多く出題する学習院中等科や浦和明の星中での出題を予想したところ、学習院中等科で出題!しかも出題を予想した場所はほぼ同じで、予想問題の内容もかなり近く、ピタリ的中でした。学習院中等科は第1回、第2回とも予想作品が出題、ダブル的中を達成しました!この作品も第3位の『スクラッチ』同様、まだ気づかれていない「隠れた名作」ですので、来年度以降も出題される可能性が高いでしょう。
出題校:海城中(第1回)、桐光学園(第1回)
2022年度上半期の直木賞受賞作品で、収録された5編の短編の中から小学四年生の男子を主人公にした『星の随(まにま)に』の出題を予想しました。主人公が年配の女性との出会いを通して心を成長させ、家族関係も変化させて行くという内容に、中学受験的読解ポイントが多く含まれていると考えての選定です。特に大人向けの文章を出題することの多い市川中、聖光学院中、渋谷教育渋谷中などでの出題を予想したところ、海城中、桐光学園中で『星の随(まにま)に』が出ました。海城中では出題された範囲の多くの部分が予想していたところと重なっていました!大人向けの短編集からの出題という今年度のトレンドに合致した作品と言えます。
出題校:豊島岡女子中(1回)、愛光中(首都圏)、逗子開成中(第2次)、桐光学園(第2回)
頻出作家、瀧羽麻子氏による連作短編集という「出典に選ばれる要素」がそろっているうえに、登場人物の何気ない表情や言葉に心情を絶妙に含ませ、言葉の反復や象徴的存在といった出題対象となりやすい表現技法が満載の、まさに出るべき一冊!として選定しました。細やかな表現が多いこともあり、豊島岡女子中・鷗友学園女子中・横浜雙葉中といった上位・最難関の女子校での出題を予想したところ、豊島岡女子中で的中しました!その他、愛光中の首都圏入試など4校でも出題され、今年度頻出作品のひとつとなりました。
出題校:確認できませんでした。
『屋上のウインドノーツ』『ヒトリコ』など数多くの著作が出題されてきた中学受験界の新女王、額賀澪氏による初の児童文学作品、となれば出ない選択肢はない!と発売前から思っていました。人間関係に悩む主人公が年齢層を超えた様々な人物との出会いを通して成長して行くといった中学受験の王道的内容に加えて、トランスジェンダーなどの社会的テーマまで含む傑作であると確認できた際には、ベストテンの上位に挙げたくなりましたが、9月8日というほとんどの中学校で出典の選定が終わっている時期の発売でしたので、出題するとすれば9月以降発売の作品も多く出題する桜蔭中と予測し、時期の枠を超えて出してくれる学校が1校でもあれば!という諦めきれない想いもあって選定しましたが、今年度の出題は確認できませんでした。来年度には多くの学校がこの稀有の一冊に注目すると思っています。
出題校:立教女学院中
タイトルや表紙のデザインを見ると、児童書らしさが強く感じられますし、4、5年生でも読みやすく感じるような文体で書かれていますが、他者理解の難しさや理解できた際の喜びが繊細な表現でつづられているうえに、「合理的な考え方を尊重する主人公」という中学受験の物語文に登場する人物としては独特の人物設定という、読んでみるとレベルの高さに直面する作品です。繊細なタッチで描かれていますので、洗足学園中、香蘭女学校といった上位難関の女子校での出題を予想したところ、立教女学院中で出題されました。「他者理解」をテーマとした作品を多く出す立教女学院中ですから、この作品の内容も出題意図に合致したと思われます。
出題校:確認できませんでした。
頻出作家の作品ではなく、8月25日発売という時期の遅さがありますが、それでも出題される、いや出題して欲しい!といった想いを抱いてしまう作品でした。2人の中学生男子が広島の尾道から京都まで時に激しくぶつかり合いながら互いの心の距離を縮めて行くロードムービー的な内容で、2人の乱暴とも言えるストレートな言葉の中に細やかな心情の移ろいが表されています。2人の旅のきっかけが難病に苦しむ従兄の希望を叶えるため、という設定も中学受験的と言えます。上位の男子校、共学校での出題を予想しましたが、出題は確認できませんでした。8月発売ですので来年度も残念ながら出題の可能性は高くありませんが、埋もれさせてはいけない作品です!
今年も3月から11月にかけて、出題確率の高い物語(新刊)をご紹介していきます。その際に、出題されそうな学校もなるべく具体的にご紹介していきますので、ぜひお見逃しなく対策にお役立てください。ご紹介する際には予想問題も作成します。作品を読んで問題を解くことで、その作品の中学受験的読解ポイントがわかるだけでなく、物語文の読解力養成もできますので、物語文読解の教材としてください。
1. 最も出題された3冊
最も多くの学校で出題されたのは、『夏の体温』(瀬尾まいこ)でした。それに続くのが『タイムマシンに乗れないぼくたち』(寺地はるな)と、『博士の長靴』(瀧羽麻子)です。これら3作品を出題した学校は以下の通りです。
・『夏の体温』(瀬尾まいこ)
開智中(先端A)、専修大松戸中(第1回)、鷗友学園女子(第1回)、明大中野(第2回)、暁星中(第
1回)
・『タイムマシンに乗れないぼくたち』(寺地はるな)
栄東中(B日程)、浦和明の星中(第1回)、麻布中、渋谷教育渋谷中(第2回)
・『博士の長靴』(瀧羽麻子)
豊島岡女子学園(1回)、愛光中(首都圏)、逗子開成中(第2次)、桐光学園(第2回)
これらに加えて城北中などで出題された『月曜日の抹茶カフェ』(青山美智子)、栄東中(東大特待Ⅰ)などで出題された『花屋さんが言うことには』(山本幸久)、そして『夜に星を放つ』(窪美澄)といった作品に共通しているのは、掲載された短編集が大人向けである点です。掲載された他の作品が大人の恋愛関係など、小学生には理解できない内容であっても、その中の1編に中学受験的読解ポイントが含まれていれば出典として選ばれるというケースが多くなっています。
また、入試頻出作家の作品が引き続き高い人気を集めています。『夏の体温』の瀬尾まいこ氏、『タイムマシンに乗れないぼくたち』の寺地はるな氏、また、『月曜日の抹茶カフェ』の青山美智子氏、そして『ソノリティ はじまりのうた』の佐藤いつ子氏は、いずれもその著作がこれまでも多くの学校で出典として使われてきました。
2.物語の設定の多様化
出題される作品の設定が年々多様化しています。テーマ自体は「心の成長」である作品がほとんどである点は変わっていないのですが、中学受験生にもイメージのしやすい世界の中で物語が展開するパターンは大きく減り、多様な設定の中で展開する物語が明らかに多くなっています。『タイムマシンに乗れないぼくたち』であれば、主人公が心を開くきっかけを与えるのは見ず知らずの人物で、その人物の素性が詳しくは明かされることなく物語が終わるという展開で、『夏の体温』も小学三年生にして長く入院生活を送っている主人公が抱えるいら立ちや憤りが物語の軸となっています。駒場東邦中が出題した川和田恵真氏の『マイスモールランド』は、埼玉県に暮らすクルド人の17歳の少女が、難民申請が不認定になったことで生活が激変してしまう中で、自分にとっての故郷への想い、故郷と家族を愛する父親への想いを深めて行くといった内容でした。
普段の生活だけでは体験できない設定に対しても戸惑うことなく文章を読み進め、心情を読み取る力が試されるテストが多くなっていると言えます。テキストの問題演習を通しての読解力の養成だけでなく、読書を通しての疑似体験を多く積むことの重要性が高くなっていると言えるでしょう。
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