No.1290 春休みに本を1冊読み切ろう!おすすめ書籍10選

 経験上、国語読解力が読書量に比例するというのはほぼ確実だと思っています。中学受験生で本を読まないのはもったいないです。そこで今回は、読書習慣がないお子さんに向けて、春休みにぜひ読んで頂きたい物語文を学年別にご紹介します。どれも読み手をグッと物語に引き込んでいくような力のある本ですので、読み始めてくれさえすれば読み切れる可能性が高いです。設定した学年はあくまで目安ですので、対象学年が実際の学年よりも上でも、読んでみたい!という気持ちを第一にどんどんチャレンジして頂きたいです。

 手っ取り早く物語文読解が得意になりたい方は、反則級の裏ワザをご紹介します。こちらの無料音声教材『物語文がみるみる得意になる語彙600』を読書と併用してみてください。この教材を作る際に意識したのは、“物語文特有の言葉のシャワーを浴びせる”ということです。特に例文は、中学入試の物語文に出てくるような作りになっていますで、例文の情景を思い浮かべながら聞いてもらえれば、物語文を多読したような効果が得られ読解力が上がってきます。毎日少しずつ繰り返し繰り返し聴くのがポイントです!

《4年生向け》

『願いがかなうふしぎな日記』本田有明(PHP研究所)

amazon『願いがかなうふしぎな日記』本田有明(PHP研究所)

【文章の難しさ】

 ★★☆☆☆

【ここがオススメ!】

 亡くなったおばあちゃんが残した「願いがかなう日記」に自分の願いを書き込んで行く小学5年生・光平の姿を描いた物語です。ファンタジーの要素がある設定ですが、日記の持つ力が意味するところが明らかとなってからは、夢をかなえるために突き進む光平の姿がどんどん魅力的になって行き、感情移入しながら物語を楽しめるようになります。4年生のお子様にも読みやすい文体で書かれていて、物語が進行するペースもゆったりとしていますので、普段は読書に抵抗を感じるお子様でもじっくりと楽しめる作品です。
 物語の世界に入り込むことで、夢をかなえるために何が必要か、というメッセージを素直に受け止められるようにもなります。また、主人公の光平が幼なじみの石原さんに寄せるほのかな恋心がていねいなタッチで描かれており、心情の細やかな揺れ動きに触れることができます。
 本作品の続編に、光平の友人の竜也を主人公とした『望みがかなう魔法の日記』、光平がさらに高い目標に挑んで行く姿を描いた『願いがかなうふしぎな日記 光平の新たな挑戦』がありますので、まずは本作品をじっくりと楽しんでみて、気持ちが乗ってこられた際にはぜひ続編に進まれてください。

『生まれかわりのポオ』森絵都(金の星社)

amazon『生まれかわりのポオ』森絵都(金の星社)

【文章の難しさ】

 ★★☆☆☆

【ここがオススメ!】

 『クラスメイツ』『アーモンド入りチョコレートのワルツ』など、数多くの作品が中学入試で出題対象となってきた森絵都氏の作品です。いつも一緒にいた愛猫のポオが亡くなって悲しみにくれる主人公ぼくに、お母さんが「ポオの生まれかわりの物語」を作ってくれるという内容で、全部で約60ページとボリュームが少なく、1編の短編を読むような感覚で作品の世界観を楽しむことができます。
 転生と命の尊さという深いテーマが根底にありますが、やさしい文体で書かれていますので難しさを感じることはありません。すいすいと読み進められながら、森絵都ならではの細やかな心情表現に触れることができます。お母さんがつむぎ出す物語の数々は童話のようなタッチですが、それらを通して生きることの価値、そして悲しみとの向き合い方といった、物語を読むうえでの重要なエッセンスを感じ取ることができます。そして本作品の大きな魅力は、表紙を含めた挿絵の美しさです。あまりに美しい本作品の挿絵は、物語の世界観をよりイメージしやすくしてくれます。そして終盤に見開きで出てくる挿絵は、大人が見ると涙腺が崩壊してしまうほどのインパクトがあり、読み手の心は一気にわしづかみにされます。読みやすい文体と美しい心情表現、そして作品の世界観を浮き立たせてくれる挿絵。絵本を読むように物語の世界に入り込んで行くことができる作品です。

『十年屋 時の魔法はいかがでしょう?』廣嶋玲子(静山社)

amazon『十年屋 時の魔法はいかがでしょう?』廣嶋玲子(静山社)

【文章の難しさ】

 ★★★☆☆

【ここがオススメ!】

 大人気シリーズ『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』の著者・廣嶋玲子氏の作品で、『銭天堂』と同じように楽しく読み進められるファンタジー物語です。ひとつひとつが完結した物語で構成される短編集で、各短編がコンパクトな分量ですので、読書が苦手なお子様でも読み進めやすいでしょう。物語は、客の大事なものを一年の寿命の代わりに十年間預かってくれるという「十年屋」を舞台として、そこに訪れる客の物語がつづられています。ストーリー展開が面白いことはもちろんのこと、預けられた品々は十年の間そのままの状態で保管されながらも、預けた客の心情は長い時間と生活環境の変化で移り変わって行く、という設定の面白さが物語を読む醍醐味を感じさせてくれます。「十年屋」の店内の描写も細かいので、店の様子、そして登場人物たちの様子がイメージしやすく、視覚的に物語を読むという貴重な経験ができます。
 ひとつひとつの短編に出てくる人物たちの心の揺れ動きが丁寧に描かれている点も魅力的ですが、「十年屋」に預けられるものが、亡くなった母親が作ってくれたぬいぐるみや、ほんの出来心で盗んでしまった友達の指輪など、持ち主の悲しみや後悔といった心の傷を表すものである点が物語に深みを持たせています。楽しくファンタジー物語を読んでいるうちに自然と心情の変化を深く描き出した人間ドラマに触れられるという貴重な体験ができる1冊です。

《5年生向け》

『まっしょうめん!』あさだりん(偕成社)

amazon『まっしょうめん!』あさだりん(偕成社)

【文章の難しさ】

 ★★★☆☆

【ここがオススメ!】

 父親のほんの思いつきで剣道を始めることになった小学生女子の成美が心を成長させて行く物語です。初めは剣道に乗り気でなく、ちゃぶ台で食事をするなど生活の細かなところにまで指図をされて、激しく抵抗をしていた成美が、次第に剣道の魅力、試合で勝てないことの悔しさなどを体感するうちに、剣道への考え方を変化させて行くというストーリー展開は、まさにタイトルの通り、ど真ん中直球の青春物語です。主人公の成美が出会う人々の個性や彼らとの関係性には、読んでいてつらさを感じるような暗さが一切なく、明るく軽快な展開の中で物語の楽しさを味わうことができます。素直に物語の世界に入り込みながら主人公の成長を見届ける過程を、読書が苦手なお子様でも容易に進めることができるのです。
 この作品の魅力である読みやすさと感情移入のしやすさを促してくれるのが人物たちの会話です。物語全体に占める会話の割合がとても高く、どの会話も生き生きとしているため、その場にいるような感覚で会話を楽しみながら、人物たちの心情の移り変わりを読み取ることができます。読書が苦手なお子様に多く見られるケースのひとつに、会話が多くなると誰の言葉かがわからず混乱してしまうということがありますが、本作品はひとつひとつの場面に登場する人物もわかりやすく整理されていますので、混乱することなく会話を楽しむことができます。爽やかな読後感を存分に味わえる作品です。

『ぼくらのサイテーの夏』笹生陽子(講談社文庫)

amazon『ぼくらのサイテーの夏』笹生陽子(講談社文庫)

【文章の難しさ】

 ★★★☆☆

【ここがオススメ!】

 「友人関係」「兄弟関係」といった中学入試で多く出題されるテーマを読み取るうえでの入門書のような傑作です。文庫本で全170ページと読書が苦手なお子様にも負担にならない分量で、難しい表現も多くありませんので、読み疲れすることなく、それでいて人物たちの心情変化がしっかりと描かれていますので、完読した際には「文庫本を1冊読み切った!」という達成感を味わえます。
 小学6年生男子の主人公・桃井が学校で遊んでいた際にケガをしたうえに、罰として夏休みのプール掃除をすることになってしまうところから物語が始まります。同じくプール掃除をすることになった同学年の栗田という男子に初めは反発していた桃井ですが、栗田の家庭環境を知ることで考え方に変化が生まれます。そこに、引きこもりになってしまった兄との関係の変化も織り交ぜられており、友人関係、兄弟関係の変化を通じて心の成長がなされて行く、といったまさに中学入試物語文の王道的なストーリー展開になっています。
 本作品の大きな魅力は登場人物たちの個性を際立たせる表現の数々に触れられることです。小学6年生という等身大の設定であるうえに、短気だけれど心の底に優しさを持つ桃井のゴツゴツとした粗削りな個性はお子様化にとっても身近に感じることができるものです。彼の言葉や表情に込められた心情がストレートに伝わってくるからこそ、栗田や兄に対する考え方の変化が、スムーズに読み取れるのです。
 読み進めやすい文体で、「心の成長」が鮮やかに描かれた秀逸なストーリー展開を存分に楽しむことができる貴重な1冊です。

『そしてぼくらは仲間になった』小嶋陽太郎・高森美由紀他(ポプラ社)

amazon『そしてぼくらは仲間になった』小嶋陽太郎・高森美由紀他(ポプラ社)

【文章の難しさ】

 ★★★☆☆

【ここがオススメ!】

 多くのお子様方に愛読されている、那須正幹氏の『ズッコケ三人組』シリーズの誕生40周年を記念して発売された作品です。同シリーズを読んで育った5人の作家たちが「三人組」を題材として著した短編で構成されています。5つの短編の内容は定番の友情物語からゲームの中の世界で展開される冒険物語まで、バラエティに富んでいて、自分の好みに合う短編を選んで楽しむことができます。
 どの作品もそれぞれに魅力的ですが、特におすすめなのが、小嶋陽太郎氏の『夏のはぐれもの』と、高森美由紀氏の『ブリリアントなサルビア』です。どちらも共通して三人のうち一人の言動に二人が振り回されながら、気がつくと互いの距離感を縮めて行くという展開で物語が進行します。2編ともに設定がわかりやすく、人物の個性が読み取りやすく進められるような表現に満ちていますので、物語の展開を素直に楽しみながら読み進めることができます。そして、こちらも2編に共通していることですが、物語の最後に出てくる一文が、短いながらも人物の心情を凝縮していて、物語の締めくくりにふさわしい秀逸な文となっているのです。その一文の意味するところをまずはお子様がゆっくりと考えてみて、親御様とも話し合ってみる時間を持たれることも、読書習慣を身につける大事なきっかけになるでしょう。気楽に読み進めながら、人物たちの心情をわかりやすく、かつ美しく伝える表現に触れる機会が得られる稀有の1冊です。

《6年生向け》

『保健室経由、かねやま本館。』松素めぐり(講談社)

amazon『保健室経由、かねやま本館。』松素めぐり(講談社)

【文章の難しさ】

 ★★★☆☆

【ここがオススメ!】

 人気シリーズの第1作ですが、物語は完結していますので、本作品だけでも十分に楽しめます。それまで仲良くしていると思っていたクラスメイトから突然仲間はずれにされ、心に傷を負った中学生女子の「まえみ」は保健室から通じる謎の道に導かれて温泉宿「かねやま本館」にたどりつきます。そこの湯につかることで次第に心に安らぎを取り戻したまえみが他者とのつながり方を変化させて行く過程が描かれている物語です。ファンタジー要素の強い内容ですが、温泉宿の様子やそこで出会うキャラクターの描写が細やかで、無理なく自然に世界観を楽しむことができます。
 本作品では、主人公のまえみがクラスメイトから仲間はずれにされてしまう様子が克明に表され、読んでいてつらさを感じるところはありますが、だからこそ、そこから再生して行くまえみの姿に感情移入することができ、後半の人間関係が変化して行く場面では胸を熱くしながら、ページをめくるスピードが一気に加速して行く感覚を味わえます。「いじめ」を題材とする作品に多く見られる、いじめをしてしまう側の心の闇の部分が本作品でも丁寧に描かれています。謎の温泉宿といった非現実的な設定があることで、全体のトーンも重くなることはなく、安心して物語の展開を楽しむことができ、読み終わった際には爽快な気持ちを味わうことができます。
 不思議な世界の中で描かれる人物たちの心情の移ろいにはリアリティがあり、予想のできない物語展開の楽しさを味わいながら、主人公の成長を見届けられる作品です。

『おにのまつり』天川栄人(講談社)

amazon『おにのまつり』天川栄人(講談社)

【文章の難しさ】

 ★★★★☆

【ここがオススメ!】

 今年度の学習院中等科(第2回)で出題された作品です。入試問題に使われた作品であれば難しいのではないかと思われるかもしれませんが、本作品に関してはその心配は全く必要ありません。読みやすい文体で書かれているうえに、章によって主人公が変わる連作短編集の構成になっているので、ボリュームを感じることもありません。そのうえで、中学受験物語文の重要テーマである、友人関係を通しての心の成長が描かれていますので、読書の楽しみとテーマ学習を合わせて進められる作品なのです。
 主な登場人物は5人の中学生たちで、岡山県で実際に行われている踊りをメインとした伝統的な祭り「うらじゃ」に参加した彼らが、ぶつかり合いながらも互いへの理解を深めて行く青春群像劇です。5人が次第に心を通わせて行く中で、それぞれが抱える悩みや家族への想いを打ち明け、理解し合うことで絆を深めて行く様子が、ストレートな表現で描かれています。
 5人それぞれの個性の違いがきめ細かく描かれているので、彼らのうちの誰かに感情移入する楽しみも味わえます。彼らが自分の置かれた境遇の中で苦しみ悩みながらも、仲間たちの存在に助けられて自分を解放するきっかけをつかみ、そして自分もまた仲間を支えることができるようになる。そんな彼らの成長が、「うらじゃ」という踊りの技術の向上とシンクロして表されています。友人関係のお手本とも言えるストーリー展開を、高揚感と爽快感を抱きながら存分に楽しめる傑作です。

『黒紙の魔術師と白銀の龍』鳥美山貴子(講談社)

amazon『黒紙の魔術師と白銀の龍』鳥美山貴子(講談社)

【文章の難しさ】

 ★★★★★

【ここがオススメ!】

 2021年度の第62回講談社児童文学新人賞で大賞にあたる新人賞に選ばれた作品です。同賞にはこれまでも、水野瑠見氏の『14歳日和』(2018年度)やこまつあやこ氏の『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』(2017年度)、市川朔久子氏の『よるの美容院』(2011年度)といった、その後の中学入試で多く出題対象となった作品が選定されてきました。
 本作品は小学6年生の悠馬がある事件を解決すべくクラスメイトの啓図(けいと)と共に活躍する冒険物語です。物語の重要な役割を果たすのが「折り紙」で、命を持った折り紙が悠馬たちを謎の世界に引き込んで行くといったスペクタクル感満載のファンタジー作品です。物語の設定の説明が少し難しいことと、現代と古代の異なる時代の描写が交差しながら物語が展開する点で、今回ご紹介した作品の中では【文章の難しさ】を最も高くしましたが、ゆっくりと読み込んで作品の世界に入り込んでしまえば、自然と難しさは感じなくなります。
 とにかく本作品はそのストーリー展開の面白さが圧倒的です。先が全く読めない展開で、特に終盤にかけての悠馬たちの活躍する様子には、ページをめくる手がとまらなくなる程に魅了されます。読み手の心を話さない怒涛の展開に、折り紙というお子様方にとっても身近なアイテムが思わぬかたちで入り込んでくる驚きも、作品の面白さをより高めています。
 さらに、悠馬たちの姿を通して、自分の好きなことに打ち込むことの美しさ、自分の個性を生かすことの重要さがメッセージとして織り込まれています。この1冊を読み終えた達成感と充実感はなかなか味わえるものではありません。ぜひこの作品がつむぎ出す冒険の世界に身をゆだねてみてください。

 われわれ中学受験鉄人会のプロ家庭教師は、常に100%合格を胸に日々研鑽しております。ぜひ、大切なお子さんの合格の為にプロ家庭教師をご指名ください。

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