No.1311 重要テーマ「挫折からの再生」を読み解く力を培う一冊!『セントエルモの光 久閑野高校天文部の、春と夏』天川栄人 予想問題付き!

amazon『セントエルモの光 久閑野高校天文部の、春と夏』天川栄人 予想問題付き!(講談社)

 2022年度入試で、学習院中等科などで出題された『おにのまつり』の著者・天川栄人氏、による、天文部に所属する高校生たちの心の成長が描かれた作品です。『おにのまつり』では、岡山県に住む中学生たちが、ぶつかり合いながら、自分の悩み、家族への想いを打ち明け、理解を深め合って成長して行く姿がつづられていましたが、本作品でも東京から訳あって地元に戻って来た主人公が心の傷をいやしながら成長して行く姿を軸に、登場人物たちがそれぞれの想いをぶつけ合い、刺激を与え合いながら、他者を理解し受け入れることでそれぞれに成長を遂げて行く過程が描かれています。天文部が舞台となることで、受験生の皆さんにとってなじみ深い星や宇宙に関する様々なエピソードが紹介されていますが、それらのエピソードが登場人物の想いと深いつながりを持つといった仕掛けがある点も、本作品の大きな魅力のひとつとなっています。
 「挫折からの再生」をテーマとしながら、「いじめ」「SNSとの向き合い方」といった社会的テーマも含む本作品は、来年度入試において男子校・女子校問わず、中堅校から難関校まで幅広く多くの学校での出題が予想されます。

【あらすじ】

≪主な登場人物≫
安斎えるも(あんざいえるも:高校1年生の女子。母親の仕事の都合で生まれ故郷の久閑野(くがの)を離れ、東京で中学生活を送っていたが、学校でいじめに遭い、久閑野に戻って来た。)
橋本嵐士(はしもとあらし:えるもと同じ高校の天文部に所属する2年生男子。父親はイラン系アメリカ人。常に一人で行動し、他人とほとんどコミュニケーションを取らないため、学校では変人と呼ばれている。)
宝生古雪(ほうしょうこゆき:高校1年生の女子。えるもの同い年のいとこで、同じ学校に通っている。)
小日向晴彦(こひなたはるひこ:高校1年生の男子。えるも、古雪の幼なじみ。サッカー部に所属している。)

≪あらすじ≫
 高校1年生のえるもは、中学時代を東京で過ごしましたが、いじめに遭い、生まれ故郷の久閑野に戻り、地元の学校に通っています。学校では愛嬌を振りまき、悪目立ちしないように努めていますが、自分がやりたいことが見つからず、部活にも入っていませんでした。ある日、ふいに思い立って学校の屋上に行ったえるもは、そこで天文部に所属する2年生の嵐士と出会います。不愛想な嵐士の態度に圧倒されたえるもでしたが、その日の夜に再び学校の屋上に訪れた際に、一人で望遠鏡を通して夜空を見つめる嵐士の姿に魅入られて、天文部に入ることを決めたのでした。

【中学受験的テーマ】

 この作品は「挫折からの再生」をメインテーマにしています。このテーマを読み解くポイントは、主人公がつらい過去や自分の失敗とどのように向き合い、何をきっかけとして新たな自分があるべき姿を考えて行くかを、主人公の言葉や表情から把握することにあります。主人公が前向きに変化する際に、他者からかけられた言葉や行動、そして自分自身が他者を理解することがきっかけとなることが多くあります。本作品でもいじめに苦しんだ主人公えるもが、自分とは全く異なる生き方をする天文部の嵐士先輩の姿、言葉に触発され、また幼なじみの古雪とぶつかり合い、その心の内を知ることで自分を縛り付けていた考え方から解放させて行く様子が描かれています。そうしたきっかけを確実に把握しながら読み進めて行きましょう。「いじめ」「SNSとの向き合い方」といった社会的なテーマも含みながら、「友人関係」、さらには「恋心」という特に男子の受験生の多くが苦手とするテーマも扱われています。いくつもの重要テーマに触れることができる作品です。

【出題が予想される箇所】
P.74の15行目からP.93の13行目

 えるもが嵐士先輩に、東京でいじめられていた過去を明かす場面です。えるもが当時の自分をどのように振り返り、また現在の自分に何が欠けていると考えているのかをしっかり読み取ったうえで、嵐士先輩がえるもにかけた言葉、そして嵐士先輩がとった驚きの行動が、えるもにどのように響いているのかを読み取ることがポイントとなります。嵐士先輩という人物がえるもの目にどのように映っているのか、その人物像を踏まえたうえで、その嵐士先輩の言動が意味するところに着目しましょう。

≪予想問題1≫

 

P.90の3行目に「闇の中で白々しく光る、のっぺりした板。なんか、すごい、滑稽。」とありますが、自分のスマホをこのように見るえるもの様子を説明したものとして、最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。

ア.孤独を引き受けて生きて行くためには害でしかないスマホに強い嫌悪感を抱き、その形状に不気味さまで感じるようになっている。
イ.自分がいじめられるきっかけを作ったSNSと縁が切れたことで、心が解放され、新たな未来へ進もうと前向きな気持ちになっている。
ウ.これまで自分の心を支配し、自分も手放すことができなかったスマホがただの機器にしか見えず、執着する気持ちが薄くなっている。
エ.自分の居場所としていたSNSの世界から解き放たれたことで気持ちが急に楽になり、これまでの自分の姿を情けなく思っている。

 

≪解答のポイント≫

 えるもが嵐士先輩によってSNSのアカウントを消されてしまった際の、スマホを見てのえるもの言葉が出題対象となっています、アカウントの消去とは、SNSを使えなくなることを意味しており、それまでSNSで常に他人とつながっていたえるもにとってその衝撃は大きく、アカウントを消去された瞬間、えるもは激しく動揺しました。
 えるもがSNSを通しての他人とのつながりに依存していたことは、嵐士先輩とえるもの以下のやりとりからも読み取れます。

「別にすぐに返信しなくても死にゃしないだろ」
「でも、不安だし…」(P.78の3行目から4行目)

 その後、東京の中学でいじめられていた過去を嵐士先輩に打ち明けたえるもは、改めて自分の過去を振り返り、以下の言葉を発します。

「…やっぱり、つながっていないと不安。もう一人になりたくないから」(P.84の13行目)

 つらかった過去を振り返るえるもの心の叫びのような言葉です。ただ、えるもは直後に以下のような想いを明かしています。

孤独に耐えかねて、常時接続の世界に逃げ込み、いいね!いいね!いいね!を押しまくる日々。(P.84の15行目からP.85の1行目)
本当は、そうすればするほど、孤独が増して行くって。気づいているのに。(P.85の3行目)

 SNSを通しての他人とのつながりは孤独をなくしてくれるものではなく、むしろSNSの世界に入り込むことでより不安を増してしまうものであることに、えるも自身が気づいていると読み取れます。それでもスマホを手放すことができない。そんなえるもに嵐士先輩は以下のような言葉を投げかけます。

「ずっとつながっていないと不安になるような関係って、友達って言えるの?」(P.85の4行目)
「人間なんかみんな一人だよ」(P.85の13行目)

 夜の屋上で一人、望遠鏡で夜空を見る時間を過ごしている嵐士先輩の言葉だけに、これらはえるもにとって強く響いたと考えられます。
 そんな嵐士先輩と自分を比べて、えるもは「自分だけの大切な何か」(P.86の11行目)がある嵐士先輩に憧れると語り、さらに以下のように語るのです。

「北極星みたいに、いつでもそこにあって、自分だけの道しるべになるもの」(P.86の15行目)
「私には、何もないから」
ぽつんと吐き出した言葉が、がらんどうの心に反響した。(P.87の2行目から3行目)

 自分には打ち込めるものがないと日々思っていたものの、実際にそれを口に出したことで、その事実がより強く胸に迫ってきた、というえるもの様子が「がらんどうの心に反響した」という言葉に表されています。
 何かに依存せずに一人で生きて行かなければならない、それなのに自分には、他人にはない自分だけが打ち込める何かがない、そんな状況に直面しているえるもに、嵐士先輩は、北極星は変わらないものではなく、いずれは別の星に変わることがある、という専門的な見解を述べた後に、以下のような言葉を放ちます。

「この宇宙に変わらないものなんかないよ」
そこでようやくこっちを振り返る。
「何もないと言うのは、まだ早いんじゃない」(P.88の4行目から6行目)

 焦らず自分が本当に打ち込めるような何かをゆっくり見つけて行けばよい。ぶっきらぼうな言い方ですが、えるもにそのようなメッセージを嵐士先輩が伝えたと読み取ることができます。
 その言葉を受けたえるもの様子が以下のように表されています。

よくわかんないけど胸がザワザワして、私は、ぐっと唇を巻き込んだ。(P.88の9行目)

 嵐士先輩に対して、えるもが恋心を抱き始めているとも受け取れますが、ここではそこまで飛躍せずに、自分の過去を知っても、自分に対して励ます言葉を投げかけてくれる存在に出会ったことをえるもが実感していると受け止めるとよいでしょう。
 問題該当部はこの直後に出てきます。アカウントの消去というあまりに唐突で乱暴に見える嵐士先輩の行動ですが、ここまでの流れを整理すると、嵐士先輩がそうした行動をとった理由も理解できますし、えるもにとって、SNSとの関係を絶つという行為が大きな意味を持つことであると考えられます。
 えるも自身も、「…ま、いっか」(P.90の5行目)とこぼした後に、以下のような想いを抱いています。

でもいつかは私だって、孤独を引き受ける覚悟をしなければならないのだ。たぶん。それが今だとは思いもしなかったけど。(P.90の8行目から9行目)

 あまりの唐突さに戸惑いはしたものの、自分を変えるきっかけになったと受け止めていることが読み取れます。
 以上のような流れを踏まえて、選択肢を見てみましょう。
 選択肢のアの嫌悪感という言葉は強過ぎますし、それだけの想いを抱く根拠が表されていません。不気味さという表現も、「すごい、滑稽」とは結び付きません。選択肢のイですが、前半部分は正しいものの、ここでのえるもは自分を変えるきっかけをつかもうとしている段階で、前向きな気持ちになっているとまでは言えません。選択肢のエも前半部分は正しいですが、自分が情けないという表現が言い過ぎです。ここでのえるもは自己嫌悪になっているのではなく、どこか冷めた気持ちになっていると考える方が妥当でしょう。よって正解はウとなります。
 この問題での選択肢イのように、一見正しそうですがまだその段階には至っていない、という判断は選択肢を消去するうえで重要になります。人物の心情を把握するうえでは、時間的なずれがないように注意しましょう。

≪予想問題1の解答≫

 

≪予想問題2≫
P.93の5行目から6行目に「それは、ほんのかすかな笑みだったけど。本物の笑顔は暗闇でも輝くんだって、私はそのとき、初めて知った。」とありますが、「本物の笑顔は暗闇でも輝く」と対照的な内容となる17字の表現をこれより前の部分から抜き出して、答えなさい。
≪解答のポイント≫

 ≪予想問題1≫の問題該当部の後、嵐士先輩は初めてえるもに望遠鏡から夜空を見ることを許可します。そこで見た銀河の美しさに興奮したえるもと、それを受け止める嵐士先輩の様子が以下のように描かれています。

「宝石箱みたい!」
顔を上げ、明るい声でそう言うと、嵐士先輩はちょっと驚いた顔をして、
「だろ」
唇の端を、クイッと持ち上げた。(P.93の1行目から4行目)

 問題該当部はこの直後となります。この物語全体を通じて、嵐士先輩が初めて笑顔を見せた場面です。問題は実際のテストでも手を焼くことの多い「抜き出し」です。答えを探せば見つかると考えて文章を闇雲に見直した結果、時間がかかったうえに解答が見つからないというケースが多く発生します。確実に得点できると思わせておいて、難度が非常に高いのが抜き出し問題なのです。テストではかける時間を決めておいて、見つからない場合にはすぐに抜かすという判断が必要になります。
 ここではまず、抜き出す箇所を見つけるためのポイントを整理しましょう。この問題では「対照的な内容」を探しますので、まず問題該当部そのものの内容を確認します。
 嵐士先輩が見せたかすかな笑みを、えるもは「本物の笑顔」とします。そしてそれが「暗闇の中でも輝く」としていますので、本物の笑顔は本物の輝きを放つ、とえるもが考えていると理解できます。すぐに解答を探すのではなく、この内容と対照的になる、つまりは反対の意味となるのはどのような内容かを考えてみましょう。本物を反対の意味の偽物(にせもの)に置き換えると、偽物の笑顔は偽物の輝きを放つ、となります。もちろんこのままの表現は文章中にはありませんが、これに近い内容を探せばよいことになります。
 笑顔については文章中でも何度か出てきます。その中でも、中学生時代のえるもは、SNSとの関係も断った問題該当部での状態とは真逆にあったことがわかっていますので、えるもが中学生の頃を振り返った場面に「偽物の笑顔」が出てくる可能性が高いと考えられます。
 そこでP.79の1行目からP.82の5行目までを見てみると、笑顔について以下のような表現が見つけられます。

へらへら笑ってやり過ごせばよかった(P.80の5行目)
結局あの笑顔は、キラキラの日々は、フィルターがかかった加工済みの幻想でしかなかった。(P.81の14行目から15行目)

 このうち、後者の方を見ると、「フィルターがかかった」「加工済み」「幻想」といった、まさに偽物を表す言葉が立て続けに出てきます。ちなみに「フィルターがかかった」という表現は、物事をそのままに見るのではなく、自分の意志などを交えて事実とは違った見方をすることを指します。「色眼鏡がかかった」とも同じ意味になります。難しい表現ですが、この機会にぜひ覚えておいてください。
 さらに、後者の一文には「キラキラの日々」とあります。えるもにとってはこのキラキラも偽物の輝きであったと考えられますので、この後者の一文を候補と考えることができます。
 もう少し先まで見てみると、えるもが中学生時代について嵐士先輩に語った後に、「いつもの癖で、笑って流そうとする私」(P.82の9行目)、「作り笑い」(P.82の12行目)という表現があり、前者はまさに字数が17字ちょうどですが、「いつもの癖」が入ることで問題該当部との対照性が弱くなり、また輝きと対照的な意味合いが含まれていません。
 よって、先に選んだ後者の一文から、「フィルターがかかった加工済みの幻想」が正解となります。
 同じ笑顔でもかつての自分が作っていた偽物の笑顔ではなく、嵐士先輩が心からにじませる本物の笑顔に出会えたことで、えるもは新たな一歩を踏み出すきっかけをつかんだのでした。
 抜き出し問題を解く際には、今回のようにまず内容を整理して、場所を絞って探し出すという作業をぜひ実践してください。まるで探偵や刑事がデータなどを調べ上げたうえで犯人の居場所を突き止めるような作業と思って臨めば、お子様も取り組みやすくなるでしょう。

≪予想問題2の解答≫

 フィルターがかかった加工済みの幻想

【最後に】

 今回は主人公えるもが再生するきっかけをつかんだ箇所をご紹介しましたが、この部分を含む第三章『ナビガトリア』の後、えるもは幼なじみの古雪や晴彦、そして嵐士先輩との心の交流を経て、自分が打ち込むべき何かを見出し、心を成長させて行きます。中学受験の重要テーマ「自己理解」「他者理解」のどちらもが含まれており、ご紹介しました箇所以外にも来年度入試で出題可能性の高い名場面が、この後にいくつも見られます。特に第四章『一人になる練習』で晴彦との会話を通じてえるもが自己理解を深めて行く場面や、第五章『対岸のふたり』でえるもと古雪がぶつかり合う場面での、交差し合う人物たちの心情は、ぜひじっくりと読み取って頂きたいところです。その中でも、『対岸のふたり』で百人一首に載せられた和歌がいくつか出てくるのですが、この和歌が登場人物の心の内を反映させているといった何とも美しい仕掛けが施されています。和歌の意味までは文章中で説明されていませんので、ぜひネットなどで調べてみてください。和歌の意味を踏まえて読むと、より深く人物の心情を理解することができます。物語の終盤では、えるもが成長するきっかけを与えてくれた嵐士先輩の過去が明かされ、それを知ったえるもがある行動を起こすといった展開が見られます。心を大きく成長させたえるもの姿が見られるクライマックスは読み手の心に深く温かい感動を与えてくれます。そして最後に出てくる嵐士先輩の言葉。作品のタイトルが意味するところと深く結びついたこの言葉に触れた瞬間に、この物語を読んできて良かったと大声で叫びたくなってしまうほどの多幸感を抱くことができます。個性的な登場人物たち、ページをめくる速度がどんどん上がって行くストーリー展開、そして最後に与えられる深い余韻と、物語としてのいくつもの魅力を持った一冊です。読みやすい文体で書かれていますので、6年生はもちろん5年生のお子様方にもぜひ読んで頂きたいです。

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