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『ゼロからトースターを作ってみた結果』(トーマス・トウェイツ 著/村井理子 訳 新潮文庫)
本書は、イギリスのデザイナーである著者が、原材料をすべて自分で調達することから始めて、トースターを作るまでの過程を描いたドキュメンタリー作品です。この一冊を、中学受験生のお子様、特に理系を目指されているお子様に、以下の3つの理由からおすすめします!
著者はトースターを作るために必要な5つの素材として、「鉄・マイカ・プラスティック・銅・ニッケル」を取り上げ、それらを実際に自分で作り上げていきます。
どの製造過程にも共通しているのは、著者が入手方法から自分で考え、必要とあれば代案を挙げて、実践していることです。
例えばプラスティックを作るにあたり、本来プラスティックの原料となる石油や天然ガスの入手ができないとわかると、じゃがいものでんぷんからプラスティックを作るべく方向転換をします。それが失敗した際には、どこに原因があったのかを検証し、また別の手法を考えていくのです。
ニッケルを入手する際には、選択肢を3つ挙げて、それぞれの実現可能性を検証し、方針を決めていきます。
こうした、「自ら立案→実践→失敗→検証→代案を立てる→また実践」という過程こそ、理科の実験の本質的な意義に通じるのではないでしょうか。将来、理系を目指すお子様方は何度となく実験や研究をくり返されることになるでしょう。その際に、この著者がとった行動の意味するところを、ぜひ思い返して頂きたいと考えます。
また、これは理系を目指されるお子様に限らず、全受験生に受け止めて頂きたいのですが、上記の、「自ら立案し、実践する」という行動指針は、中学校の学校説明会で、多くの先生方が求める生徒像と通じるものです。ハチャメチャにも見える著者の行動ですが、その行動に高い価値があることを、ぜひ感じ取って頂きたいのです。
本書は理系の専門書ではありません。もちろん鉄や銅の性質について専門的に説明している部分が多くありますが、「あれ?もしかして詰んだ?」(74ページ)や「うーん、参ったな」(160ページ)など、著者の語り口が非常に軽妙なため、楽しみながら読み進めることができます。また製造過程の写真が豊富に掲載されており、小学生のお子様も苦なく読まれると思われます。
軽妙なのは語り口だけではなく、著者のスタンスがとにかく軽妙、というよりゆるいのです!自ら今回のプロジェクトにあたり、「1.店で売っているようなトースターであること。」「2.すべて原料から作ること。」「3.産業革命以前の手法で作ること。」という3つのルールを立てるのですが、作業の過程で散々に試行錯誤、悪戦苦闘した結果、自ら「あんなくだらないルールに拘泥する必要なんてない!」(79ページ)と言い放ち、あっさりルール違反を敢行するのです。特にプラスティックとニッケルの製造で最終的に著者がとった手法は痛快で、読んでいて大爆笑してしまうものです。電車の中でお読みになる際は注意してください。
とても楽しく読み進められることが本書の大きな魅力のひとつです。
著者は本書の終盤で、トースター作成のプロジェクトを振り返りながら、環境問題についてメッセージを残しています。第7章はこれまでの軽妙さから一転、環境問題に深く切り込む著者の視点が展開されます。
「経済と環境はまさに今、ド派手な衝突事故を起こそうとしている。(中略)そんなめちゃくちゃで血みどろの事故を、軽めの接触事故程度に変えるためにはどうすればいいのだろう。」(183ページ)としたうえで、自らがプロジェクトを経て得た一つの答えとして、将来、製品には、解体方法を説明した取扱説明書を別途作るべきとの提案をするなど、持論を展開しています。
本書の中で、著者が七転八倒していく様子を見てきただけに、こうしたメッセージがより深く突き刺さってきます。環境問題はいまだに中学受験国語の説明文で取り上げられる頻出テーマとなっています。ぜひ本書を読むことで、環境問題に対する新たな視点を培って頂きたいと考えます。
文庫サイズで持ち運びもしやすい本ですので、ちょっとの合間にも読み進めることができます。ぜひトースターをゼロから作る過程を楽しみながら、理科について環境問題について考える機会としてみてください。
以上、中学受験の現場から貝塚がお伝え致しました。
中学受験鉄人会 入試対策室
室長 貝塚正輝
(筑波大学附属駒場中高卒)
頑張っている中学受験生のみなさんが、志望中学に合格することだけを考えて、一通一通、魂を込めて書いています。ぜひご登録ください!メールアドレスの入力のみで無料でご登録頂けます!