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中学入試では「生命と死」に関する心情理解をも求められます。その対策として本での疑似体験が効果絶大です。
「生命と死」をテーマとした作品はこれまでに多く出題されてきました。特に祖父母と孫の関係をベースとしたものが頻出で、麻布中2005年度の重松清『タオル』(『小学五年生』所収)や桜蔭中2018年度の大久保雨咲『五月の庭で』(『うっかりの玉』所収)などでそのパターンが見られます。
それらの多くは祖父母の死に直面した孫がその悲しみを受け止めながら成長していく姿を描いていますが、今回ご紹介する『徳治郎とボク』は、祖父の余命を知った孫が抱く「不安や怖れ」を細やかに表現している点で、疑似体験にもってこいの名作です。
本作は主人公のケンイチが4歳から小学6年生になるまでの祖父・徳治郎との交流を描いており、徳治郎がまだ元気だった頃から次第に体が衰えていくまでを見守り続けるケンイチの思いがつづられています。
物語の前半は、幼いケンイチが徳治郎に翻弄されながらも憧れを抱くといったどこかぼんやりとした心情がゆっくりとしたペースで描かれますが、徳治郎が病に倒れてから物語は変容していきます。ケンイチ自身が成長していることもあり、大好きな祖父に死期が近づいていることへの不安や恐れが具体的な言葉として表現されるようになるのです。
特にP.199~215の『お月見』の章は、ケンイチの心情が色濃く表現されている点で必読です。いとこであるエリカとケンイチが、祖父が死を迎えることの「怖さ」について語り合うのですが、「怖さ」を受け入れないようにしていたケンイチに対して、エリカが投げかけた言葉に、ケンイチは以下のように語ります。
この言葉に、小学生だからこそ抱く、愛する者を失うことへの怖れが的確に表現されていると言えます。祖父の介護に追われる母たちは、その忙しさから不安や怖れすら抱く余裕がない。一方で自分は、大好きな祖父に対して何もできないでいる。
そんな思いに行き着いたケンイチの悲しみが的確に描かれているのです。
小学生の誰もが抱いた経験があるとは言えない心情かと思われますが、中学入試ではそうした心情でも理解を求めてきます。本書のような優れた作品を通して疑似体験することが、未知の心情を理解するには重要であることが改めて強く感じられます。
「生命と死」という重いテーマを含んでいますが、穏やかな文体で、どこかユーモラスな表現が散りばめられており、お子様にも読みやすい作品です。それでも、愛する者と別れることの悲しさ、その悲しみを抱く者を見守る視線の優しさはしっかりと表現されており、ぜひ手に取って頂きたい傑作なのです。
ケンイチを取り巻く人物の設定も素晴らしく、頑固で他人に指図されることを嫌悪する徳治郎はもちろんですが、辛辣ながらも的確な言葉を発し続けるいとこのエリカにぜひ注目して頂きたいです。ケンイチはエリカとのやりとりの中で気づきを得ることが多く、その意味でエリカは本作のキーパーソンであり、極めて魅力的なキャラクターなのです。こうしたキャラクターに触れておくことも、読解力向上のためには必要となります。
まずはぜひ本屋でご覧になってください。
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