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2019年の本屋大賞で2位に選ばれた『ひと』の著者、小野寺史宜氏による連作短編集です(この年の大賞は瀬尾まいこ氏の『そして、バトンは渡された』でした)。
家庭の事情によって家で食事ができない子供たちに食事を提供する「子ども食堂」を舞台に、食堂を訪れる様々な人々の人間模様を描いた本作品は、日常のほんのちょっとした会話や行動から、その人物の個性が浮かび上がってくるような表現に満ちており、来年度入試で注目を集めること必至です。
小野寺史宜氏の作品はこれまでにも、短編集『今日も町の隅で』から『カートおじさん』が今年度の桐朋中で、同短編集から『梅雨明けヤジオ』が2019年度の浦和明の星中で出題された他、『ホケツ!』が2020年度の浅野中で、『家族のシナリオ』が2017年度の城北埼玉中で出題されています。
※本作品は、『クロード子ども食堂』で起こる一日の出来事がつづられた連作短編小説です。ここでは、4つ目の短編『午後五時半 ごちそうさま 岡田千亜』を取り上げます。
≪主な登場人物≫
岡田千亜(おかだちあ・小学4年生の女子。父親との二人暮らし。)
森下牧斗(もりしたまきと・小学3年生の男子。母親との二人暮らし。)
松井波子(まついなみこ・『クロード子ども食堂』の店長。夫を事故で亡くしている。)
松井航大(まついこうだい・松井波子の息子。高校2年生。)
白岩鈴彦(しらいわすずひこ・『クロード子ども食堂』で働くボランティアの大学生。)
≪あらすじ≫
岡田千亜は両親が離婚し、父親と二人での生活を送っています。母親は仕事を辞め、昼間から酒を飲むようになってしまい、感情的になって千亜に手をあげてしまったことで、父親と別れて家を離れて行ってしまいました。
父親の勧めで『クロード子ども食堂』で食事をするようになった千亜は、そこで小学3年生の森下牧斗と出会います。牧斗は母親との二人暮らしですが、母親が恋人と会うために預けられた『クロード子ども食堂』で食事をすることになったのです。
千亜は牧斗と会話をする中で、普段は抱かないような素直な感情に身をゆだねるようになります。
本作品の中学受験的テーマは、「親子関係」です。様々な事情を抱えた人物が登場する本作品ですが、特に「子ども食堂」で食事をする子供たちの親子関係をつかむことが、物語の内容を把握するうえで重要なポイントになっています。
本作品で描かれる人物の言葉や行動は、一見すると当たり前で、大きな意味がないようでありながら、実はその人物の個性をつかむうえで欠かせない要素になっているものが多くあります。人物が発する言葉や、起こした行動から、その背景にある家庭の環境や人物関係を、いかに的確に読み取るかがポイントとなります。
母親が自分に暴力をふるったことが原因で両親が離婚した岡田千亜が、『クロード子ども食堂』で森下牧斗と会話を交わす場面が中心となる章です。
千亜が大人の考えに合わせて行動していることは、以下の箇所にも表されています。
いずれも大人の気持ちを尊重する千亜の考えを的確に表していますが、問題で求めているのは千亜が「父親に合わせた」考えであり、父親に限定せずに「大人全般」を対象としたこの3つともに不適切となります。
該当する一文を見つけるために、探す範囲を狭めてみましょう。P.122の8行目からP.129の14行目までは、千亜の両親が離婚に至るまでの経緯が書かれています。千亜が過去を回想している場面です。
ここで、以下の一文が解答のヒントになります。
直前の「どこかぎこちなくなってしまう。」という表現からも、千亜にとっては大人の気持ちに合わせて行動することは、大人に対する苦手意識の表れと考えられます。
苦手意識を持ち始めたのが両親が離婚したから、ということで、該当する一文は回想する場面の中でも、両親の離婚が決まってから後、と絞り込むことができるのです。
そこでP.127の9行目「離婚が決まったあと、」から後を見てみます。P.129の12行目までは父親の仕事について、施設に入っている祖母についての描写となりますので、その後のP.129の13行目から14行目に注目しましょう。
上記の後半にある一文が、答えに該当する一文となります。
このメルマガでも何度かお伝えしてきましたが、抜き出し問題は闇雲に答えを探そうとすると、時間がかかるだけでなく、正解できる可能性が減ってしまいます。人物の心情の流れや、今回のような時間の流れに注意して、場所を狭めて探すようにしましょう。
お父さんが~ら、行く。
P.118の1行目からP.122の1行目までに、千亜と牧斗の間で長く会話が交わされる場面があります。この会話の場面がもたらす効果について説明したものとして、最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。
ア.短く心がこもっていない言葉を返す千亜の姿を示すことで、千亜が大人よりも歳下の子供を苦手としていることが強調されている。
イ.自然な言葉のやりとりをしている千亜の姿を示すことで、大人の考えに合わせている時の千亜が無理をしていることが強調されている。
ウ.一方的に話す牧斗の言葉を受け止める千亜の姿を示すことで、大人か子供かを問わずに千亜が気遣いができることが強調されている。
エ.牧斗となにげない言葉を交わす千亜の姿を示すことで、千亜が同じような境遇にある牧斗に親近感を抱いていることが強調されている。
まず選択肢の文章をよく見てみましょう。4つの選択肢ともに「…千亜の姿を示すことで」と「…ことが強調されている。」の部分が共通しています。選択肢の内容を区別するには、それ以外の部分を比較すればよいことになります。
聖光学院中や豊島岡女子学園中などのような選択肢の文章が長い問題を出す学校では、こうした選択肢の共通部分を見つけられることは少ないですが、選択肢問題を解く際には、まず選択肢をよく見比べて、共通する部分がないかを探す意識を持っておくようにしましょう。
解答のポイントとなるのは、牧斗との会話を終えた千亜の心情を表した、以下の部分です。
この部分から、まずアが全く適していないことがわかります。
また選択肢のウにある「一方的に話す牧斗」という表現は、千亜が牧斗に短いながらも言葉を投げかけていることから不適切と判断できます。
選択肢のエの前半にある「なにげない言葉を交わす」は的確なのですが、千亜が牧斗に親近感を抱いているという表現について、その裏付けとなる説明が本文中にありませんので、このエも間違いとなります。よって、答えはイとなります。
このエのような、いかにも正しそうに見えて、本文中にその説明がないために不適切である選択肢は、説明文読解でもよく出されます。何が正しいかではなく、何が本文で書かれているか、を判断基準とすることを心がけましょう。
ここまでの予想問題2題を通じて、千亜の個性や、そうした個性がつくられる背景について、以下のようにまとめられます。
この点をふまえて、次の記述問題に挑戦してみましょう。少し難しい問題ですが、ぜひチャレンジしてみてください。
イ
この短編のタイトルにもなっている「ごちそうさま」という言葉についての問題です。
まずは問題該当部の近くから、解答のヒントを探して行きましょう。制限字数が多く、記述すべき内容もすぐにまとまりそうもない問題ですが、だからこそまずは読解の鉄則にしたがい、問題該当部の近くから解答の糸口を探してみます。
該当部の直後に以下の一文があります。
「言わなくなった」ということから、両親が離婚するまでは、ごちそうさまという言葉を千亜が言っていたことがわかります。P.123の13行目から15行目に、母親がつくったエビグラタンが好きであったと千亜が回想する場面からも、その頃は千亜がごちそうさまと母親に言っていたと推測できます。そこから、母親が仕事を辞め、酒におぼれてしまい、料理をしなくなってから言わなくなった「ごちそうさま」という言葉が、千亜にとって家族が仲良く暮らしていた頃を思い出させるものであると考えられます。
ただ、その内容だけでは制限字数を満たすことができません。「ごちそうさま」に、それ以外の意味がないか、考えてみます。
そこで、以下の一文に注目しましょう。
「ここ」とは『クロード子ども食堂』を指し、千亜はこの食堂で食事をすることで、好きな言葉である「ごちそうさま」を言えるようになったのです。ここで大事なのは「堂々と」という言葉。千亜が大人の考えに合うような言葉を選んでいることは、これまでの予想問題を通して把握できました。そんな千亜にとっての「堂々と言える」とは、大人の気落ちは気にせずに、本心から言えるという意味になると考えられます。
そこで問題該当部からだいぶ前になりますが、以下の部分に目を向けてみましょう。
この部分からも、千亜が『クロード子ども食堂』の食事を素直においしいと感じ、それを素直に言えていること、ありのままに本心を明かすことができる状態に安心感を抱いていることが読み取れます。
よって、千亜にとっての「ごちそうさま」は、楽しかった頃の家族の生活を思い出させる言葉であるだけでなく、本心を素直にさらけ出すことができる場を見つけたことを意味する言葉でもある、といった内容で解答をまとめられるのです。
千亜にとって、楽しかった頃の家族の生活を思い出させる言葉であり、大人の気持ちを意識せずに本心を素直に表現できる場所が見つけられたことを示す言葉でもある。(76字)
中学入試の物語文では、大きな事件や激しい感情のぶつかり合いなどは表されず、日常のどこでも交わされるような会話や、身の周りで起きた出来事を人物が淡々とした語り口で表現するような場面が、難関校を中心に出題の対象になるケースが多くあります。一見したところ何の特徴もないような言動から、その人物の性格や心情を読み取るには、人物が抱えている問題や、表面には見えない心の傷を描いた場面を見逃さずに拾い上げる力が必要になります。そうした、ありふれた表現から人物像をつかむ練習をするうえで、本作品は最適の教材と言えます。
また、連作短篇のうち最後に掲載された短編『午後八時 初めまして 松井波子』では、それまでの伏線を回収した鮮やかな「奇跡」が描かれていて、驚きと感動に包まれます。
全部で300ページ近くにもなる長い作品ですので、受験生の皆さんはなかなか読む時間はないかと思いますが、ぜひ時間ができた際にはすべてを読み通して頂きたいです。
物語文読解のテキストとしても秀逸であり、かつ読書の楽しみも存分に感じさせてくれる、なかなか出会うことのできない傑作です。
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