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現時点で判明している121校(テストにして209回)の2024年入試の国語で出題された物語文をもとに、昨年11月に配信したメルマガ「2024年度入試で出題される確率が高い物語のベストテンを発表します!」で予想した物語文の答え合わせをして行きたいと思います。★印が今年度入試で出題を確認できた作品です。今年度はベストテンに選出した全ての作品の出題が確認できました。
出題校:学習院女子(B入試)、芝浦工大附属中(第2回)、東京農大一高中(第3回)、品川女子学院中(第1回)、岡山中(B方式)、神戸女学院中、神奈川学園中(A日程午前)、日本大学中(B日程)
中学入試頻出作家の辻村深月氏が、「コロナ禍に向き合う」という新たな重要テーマに真向から取り組んだ作品で、「友人関係」や「家族関係」といった重要テーマもベースにしている点で、2023年を代表する作品として、数多くの学校での出題を予想しました。特に、大人を読者対象とした長編小説からの出題が多い鴎友学園女子、本郷、栄東(東大)での出題を予想したところ、学校はヒットしませんでしたが、確認できただけでも8校で出題されました。全480ページ超という分量の多さがどうしてもネックとなってか、予想を上回る結果とはなりませんでしたが、「コロナ禍に向き合う」というテーマは、来年度以降も出題対象にあると予想されますし、登場人物たちの心の移ろいが鮮明に浮かび上がってくる心情表現が満載の本作品は、長く中学入試で出題され続ける可能性が高いです!
出題校:栄東中(A日程②)、専修大松戸中(第2回)、海城中(第2回)、駒場東邦中、学習院中等科(第2回)、日本女子大附属中(第2回)、横浜雙葉中(第1回)、立教女学院中、大妻中(第2回)、昭和女子大学附属中(本科A)、佐久長聖中(本校①)、同志社女子中(前期)、東山中(後期)、帝塚山中(2次A)
中学受験国語の2大重要テーマ「他者理解」「自己理解」の両方を含んだ短編が多く収録された、この連作短編集を第2位に選出しましたが、確認できただけでも14校と、圧倒的な数の学校で出題されました。今年度の人気ナンバーワン作品です!特に海城中、浦和明の星中、東邦大東邦中で出題される可能性が高いと予想したところ、海城中(第2回)で出題的中となりました。本作品の最大の魅力は先にも触れました重要テーマを扱っていること、そして登場人物たちの心情の描写が、読解演習をしっかり積み上げてきた中学受験生にピッタリの難度で表されている点にあります。連作短編集という中学受験で出題されやすい構成である点、筆者の村上雅郁氏の作品がこれまでまだ多く出題されてこなかったという点も、新たな作家の作品を出題したい!という中学校の意向に合致したのだと考えられます。読解力養成の教材としても最適なだけに、来年度入試はもちろん、今後の塾内テストでも頻繁に出題されるでしょう。
出題校:市川中(第2回)、江戸川取手中(第2回)、明大中野八王子中(第1回)、洗足学園中(第2回)、同志社香里中(前期)
ここ4、5年で一気に頻出作家となった青山美智子氏による連作短編集を第3位としました。その中でも女子高校生を主人公に、「友人関係」「恋心」をメインのテーマとしながら、「苦境に向き合う」というテーマを描いた『ウミガメ』という短編について、同テーマの出題が多い、慶應普通部・渋谷教育渋谷中・海城中での出題を予想しました。『ウミガメ』の出題がまだ確認できていませんが、江戸川取手中(第2回)では『誰かの朔』、洗足学園中(第2回)では『針金の光』が出題されています。大人向けの短編集(連作短編集を含む)が多く出題される近年の傾向から上位に選出しましたが、予想よりも多く出題されることはありませんでした。実際に出題が確認された2編はいずれも主人公が中学受験生と等身大(小中学生)ではなく、いわば「大人の世界」が描かれています。2023年度の傾向として大人の世界が題材となるケースは多くありませんでしたが、今後も等身大ではない人物を主人公とした作品は要注意です。
出題校:学習院中等科(第1回)、法政第ニ中(第1回)
中学受験最重要作家の一人、重松清氏の作品は相変わらず人気が高く、今年度も『はるか、ブレーメン』(湘南白百合中、神奈川学園中)、『また次の春へ』(埼玉栄中)など、数々の作品が出題されました。その中で、コロナ禍の小学校を舞台に、小学6年生たちの心の揺れ動きを描いた本作品を第4位に選び、特に成城中、暁星中、江戸川取手中は要注意としました。「重松清氏+コロナ禍」となれば、多くの中学校が放っておくはずがない!と考えて上位にランクインさせましたが、出題校が2校にとどまっています。その要因として、あまりに出題されやすいために避けた学校もあったかもしれません。それでも、「重松清節」とも言える、一見何気なく見える言動の中に深い想いが込められた表現は本作品でも満載で、短編ということもあり、来年度以降の入試で引き続き出題される可能性が大いにあります。
出題校:桐朋中(第1回)、横浜共立中(B方式)、晃華学園中(第2回)
第24回ちゅうでん児童文学賞で大賞を受賞(2022年3月)した本作品を第5位に選出し、立教女学院中、筑波大附属中、鎌倉女学院中での出題可能性が特に高いと予想しました。実際に本作品を出題した学校のうち桐朋中は、2023年度の『シャンシャン、夏だより』(浅野竜)に引き続き、ちゅうでん児童文学賞大賞作品の出題となりました。桐朋中、晃華学園中ともに主人公の唯人が転校生のアズとの心の交流を通して自分の弱さに向き合う場面(桐朋中)、互いに孤独を抱える2人が心の距離を縮める場面(晃華学園中)と、「自己理解」「他者理解」という重要テーマを真っ向から描いています。本作品にはそれ以外にも、メルマガで紹介しました、消息不明になった父親と唯人の「親子関係」を描いた第6章など、出題必至の箇所が多数ありますので、ぜひ一読してみてください。
出題校:共立女子第二中(入試回は不明)、海陽中等教育(入試Ⅲ)
重要テーマ「挫折からの再生」をメインテーマに、「いじめ」や「SNSとの向き合い方」といった社会的テーマも含んだ本作品が、中堅校から難関校まで幅広く多くの学校で出題されると予想しましたが、確認できた範囲で共立女子第二中、海陽中等教育の2校での出題となりました。筆者の天川栄人氏の作品では2023年度に学習院中等科で『おにのまつり』が出題されていますが、同作品そして『セントエルモの光』ともに、他者との関係を変化させながら、自分のあるべき姿を見つめ直すといった、「他者理解」「自己理解」が共存し、加えて物語が中学受験生にとって心地よいスピードで展開するもので、楽しみながら教材として活用できるという逸品になっています。『セントエルモの光』は続編『アンドロメダの涙 久閑野高校天文部の、秋と冬』も2023年9月に発売されています。今年度は出題校が少なかったですが、今後も天川栄人氏の作品は注目必至です!
出題校:山脇学園中(国語1科入試)
第11回ポプラ社小説新人賞(2021年)を受賞した作品です(受賞時のタイトルは『つぎはぐ△』でした)。血の繋がらない三人の兄弟が悩みもがきながら絆を深めて行く過程を描いており、物語の設定は中学受験生にとって難度が高いものでしたが、頻出テーマ「家族関係」を題材としていることもあって、第7位に選出しました。特に大人向けの作品からの出題が多い早稲田中、渋谷教育渋谷中、高輪中で出題される可能性が高いと考えましたが、山脇学園(国語1科入試)で出題されました。複雑な人間関係が中学受験生にとって理解しづらいと考えられたことが要因となって、多くの学校で出題されるには至らなかったと推測しますが、渋谷教育渋谷中(第1回)で出題された「かお」(木皿泉『カゲロボ』に収録)の、「離婚した両親が娘そっくりのロボットをつくる」といった設定や、洗足学園中(第2回)で出題された「針金の光」(青山美智子『月の立つ林で』に収録)の、「普段の夫との生活に息苦しさを感じる主婦の姿」など、中学受験生にとって共感の得づらい作品が出されることは少なくありません。読んでいる側が心に痛みを感じるような登場人物たちの切実な心の動きが描写された本作品が、来年度以降の入試で出題される可能性は決して低くないでしょう。
出題校:栄東中(B日程)
中学入試頻出作品『朔と新』の筆者、いとうみく氏による作品で、過去に暴力事件を起こしてしまったことで自分の殻に閉じこもる主人公が、少しずつ心を解放させて再生して行く様子が描かれています。8月4日という、すでに出典の選定を終えた中学校が多い時期の発刊であり、暴力的な描写は一切ないものの、主人公の置かれた境遇が中学受験生にとって馴染み深いものではないという点はありますが、重要テーマ「挫折からの再生」を真正面から描き切った本作品が出題される可能性が高いと考え、第8位に選出しました(発刊時期が早ければ、より上位に挙げていました)。特に心に深い傷を負った人物を描いた作品を出題する傾向の強い、早稲田中、サレジオ学院中、中央大附属中は要注意と考えましたが、出題した学校は栄東中(B日程)でした。同校で出題された箇所は、メルマガでご紹介した箇所とほぼ一致し、問1はメルマガの予想問題と完全一致しました!来年度には多くの学校がこの作品に注目すると思っています。
出題校:青山学院中、春日部共栄中(第2回午前)、栄東中(東大Ⅱ)、本郷中(第1回)、清風中(前期)
前作の『給食アンサンブル』が鴎友学園女子中(2020年度)や学習院女子中(2019年度)、香蘭女学校中(2019年度)で出題された実績もあり、本作品が多くの中学校からの注目を集めること必至と考える一方で、続編ではないけれども、シリーズ第2作という点で、出題を避ける中学校もあるかと思い、第9位にとどめましたが、確認できる現状で6校もの中学校で出題される結果となりました。その要因は連作短編集という作問のしやすい構成であることに加え、2大重要テーマ「他者理解」と「自己理解」が共存する短編が多く含まれているところにあると考えられます。前作『給食アンサンブル』は今年度も吉祥女子中(第1回)、恵泉女学園(第3回)、高輪中(B日程)で出題されており、このシリーズが今後、『小学五年生』(重松清)や『クラスメイツ』(森絵都)のような定番作品になっていく可能性は高いです。
出題校:香蘭女学校中(第1回)
中学3年生の女子が親友とのすれ違いやわだかまりに苦しみながら心を成長させて行くという、頻出テーマ「友人関係」の王道とも言えるパターンを描いた物語であり、筆者の眞島めいり氏はデビュー作の『みつきの雪』、2作目の『夏のカルテット』ともに複数の学校で出題されており、本作品を今年度のベストテンから外すという選択肢はありませんでした。読みやすい文体で、女子中学生ならではの嫉妬や、相手とすれ違うことへの不安といった心情の揺れ動きが、痛々しさを感じるほどに鮮明に表されていて、心情の動きを丁寧に描く作品を多く出題する浦和明の星中、横浜雙葉中といった上位女子校、そして、男子校ながら女子の心の揺れ動きを容赦なく出してくる海城中、芝中を要注意としましたが、香蘭女学校(第1回)での出題となりました。眞島めいり氏の作品で本作品の前に発刊された『バスを降りたら』も、成城学園中(第2回)で出題されています。今後も眞島めいり作品は要チェックです!
今年も3月から11月にかけて、出題確率の高い物語(新刊)をご紹介していきます。出題されそうな学校名はメルマガ本文でのみご紹介いたしますので、ぜひこちらからメルマガに登録しておいてください。ご紹介する際には予想問題も作成します。作品を読んで問題を解くことで、その作品の中学受験的読解ポイントがわかるだけでなく、物語文の読解力養成もできますので、物語文読解の教材としてください。
1. 最も出題された3冊
今年度入試で最も多くの学校で出題されたのは、ベストテンで第2位に選出した『きみの話を聞かせてくれよ』(村上雅郁)で、確認できただけでも14校という圧倒的な学校数でした。それに続くのがベストテン第1位の『この夏の星を見る』(辻村深月)の8校、ベストテン第3位の『月の立つ林で』(青山美智子)、ベストテン第8位の『給食アンサンブル2』(如月かずさ)で、どちらも5校という結果でした。
その他の新作では、『水車小屋のネネ』(津村記久子)が豊島岡女子中(第2回)、高輪中(A日程)、国学院久我山中(第2回)、茗溪学園中(試験回は不明)の4校、『教室のゴルディロックスゾーン』(こざわたまこ)が栄東中(A日程①)、大妻中(第4回)、国学院久我山中(ST第3回)、滝川中(中期Ⅱ)の4校、そして『成瀬は天下を取りにいく』(宮島未奈)が、豊島岡女子中(第1回)栄東中(東大特待Ⅰ)、中央大附属中(第2回)の3校、『八月の御所グラウンド』(万城目学)が筑波大附属中、田園調布学園中(第2回)、西武文理中(第2回特待)の3校といった結果でした。
2.今年度の物語文出典の傾向について
2024年度入試の物語文出典の傾向として、2大最重要テーマ「他者理解」「自己理解」をどちらも盛り込み、その2つのテーマを真正面からストレートに描き切った作品が非常に多く見られたことが真っ先に挙げられます。「他者の気持ちを理解すること」、「人と人とのつながり」を考え直すといった「他者理解」を通じて「自分が本当に伝えたいこととは何なのか」、「本当の自分とは何なのか」といった「自己理解」を深めるという構図がとても多くの作品で見られたのです。
※テーマについては、メルマガ「中学受験の国語物語文が劇的にわかる7つのテーマ別読解のコツ」で詳しく説明していますので、ぜひご覧になりながら読み進めてください。
今年度、かつてないほどに出題が集中した連作短編集『きみの話を聞かせてくれよ』ですが、駒場東邦中、海城中、立教女学院中で出題された『タルトタタンの作り方』は、ケーキづくりを趣味とする男子生徒と女子らしいと思われたくない女子の先輩との交流を描いたもので、男子らしさ、女子らしさ、といった固定観念にとらわれまいとする人物たちが、逆に「らしさ」にとらわれていることを知る、といった内容でした。駒場東邦中、海城中ではほぼ同じ場所が出題されています。こうした内容を見ると、「らしさ」にとらわれないことが必要、といったメッセージが前面に出てきますが、それはジェンダーに対する理解を深めて欲しいという学校側の意向が反映されたもので、文章を読解するうえで必要となるのは、固定観念にとらわれた先輩の姿を見て、その心の内を自分に重ねて理解し、そこから自分が自分らしくありたいと思うに至る主人公の考え方の変化の読み取りです。この「他者理解」→「自己理解」の流れを読み取らせようという問題がとても多く見られました。
『この夏の星を見る』を出題した学習院女子中(B入試)では、コロナ禍で部活動が制限される中で友人の抱えるつらさを感じ取り、自分がどう行動すべきかを考え直す場面が題材となりました。
『給食アンサンブル2』の中で本郷中(第1回)、栄東中(東大Ⅱ)で出題された短編「クリームシチュー」は吹奏楽部を改善させたいと強く願いながらも、他者の気持ちを考えることなく自我を貫くために孤立した主人公が、全く異なるタイプの同級生の姿を見て、心を入れ替えて行く過程が描かれています。「…どうしておれは、おまえみたいになれないんだろうな」という主人公の言葉が象徴的です。
このように今年度の出典ベスト3の作品すべてに、「他者理解」「自己理解」というテーマの共存がストレートに、非常にわかりやすいかたちで表されていました。その他にも、『雪の日にライオンを見に行く』を出題した桐朋中(第1回)は、転校生が普段見せない姿に胸を打たれた主人公が、転校生をからかうクラスメイトを注意できない自分の弱さと向き合う場面を題材にしています。栄東中(A日程①)の『教室のゴルディロックスゾーン』は、友人と衝突した主人公が、友人と自分の関係を再認識する場面が題材に、同じく栄東中(B日程)の『夜空にひらく』では、心を閉ざしていた主人公が、自分の保護委託の受託者である煙火店の店長の言葉を受け入れることで、自分の花火への想いを確かめ、自分の進むべき道を意識し始める場面が描かれていました。
そして毎年、その出典が大きな話題となる麻布中の『やさしいのかき方』(真下みこと)では、学級委員に立候補した小学3年生の男子が、憧れを抱く同級生のやさしさと、自分のやさしさの違いを認識することで、自分らしく素直に表現することの価値に気づくといった、麻布ならではの心情の変化が描かれていました。
このように、麻布中、駒場東邦中、海城中、学習院女子中、桐朋中、栄東中といった物語文の出典選びに定評のある学校がそろって、「他者理解」から「自己理解」への流れがストレートに表現された作品を出題していました。この背景には、コロナ禍で人と人の距離が離れることで、心と心の距離までも離れてしまう不安を経験した受験生に向けて、改めて他者を理解することを通じて自己に向き合い、心の成長を果たすことの重要性を訴えたいという中学校の先生方の想いがあると考えられます。
中学受験の国語で扱われる物語文は難化し、多様化していると言われることが多いですが、「他者理解」「自己理解」というテーマが根底にしっかりとある点では、本質的に大きな変化はないと言えます。ぜひテーマを大事にしながら、読解演習を積み上げて、来年度以降の入試に臨んでください。
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