2012-2013入試 国語で出題された震災に関する文章の特徴

未曾有の被害をもたらした東日本大震災から丸三年もの月日が経ちました。先の震災は人的・経済的に甚大な被害をもたらしただけでなく、私たちの内面にも大きな影響をもたらしたことは言うまでもありません。混乱のただ中にあるときにはとらえ難かった震災ですが、時間を経て次第に言葉によって位置づけられていき、2012年度以降になると中学入試の国語の出題文の中にも震災に関連する内容の出題文が数多く見受けられるようになりました。そして、これからも出題されると思われます。そこで今回は、実際の中学入試で出題された震災関連の文章を内容に着眼して紹介していきたいと思います。

■震災後の科学観や価値観の変化を述べた文章

今回の震災によって、私たちは原子力発電の安全神話、現代の消費生活やエネルギー、環境と人間などの考え方に根本的な問題を突きつけられたといっても過言ではありません。戦後日本社会は高度経済成長期以来の長きにわたって生産性の向上を第一目的とし、科学技術の革新とエネルギーの獲得にひた走ってきました。その過程で自然と人間の根本的な調和が崩れ失われたことへの気づきと反省を述べた文章が目立ちます。その多くが原発事故の汚染問題に言及しています。

震災の経験をきっかけに現在の私たちの暮らしをとらえ直し、よりよい社会や新しい価値観の再構築を試みるという内容は、これまでの震災関連の出題文の中では最も多くを占めており、典型的なものと言えるでしょう。

(関連する出題文の例)
  • 学習院中2012 東海林弘靖『日本の照明はまぶしすぎる—節電生活の賢い照明術』
  • 富士見 2013 池内了『科学の考え方・学び方』
  • 日大三中2013 今関信子『永遠に捨てない服が着たい』
  • 攻玉社 2013 内山節『文明の災禍』
  • 浅野  2013 姜尚中『続・悩む力』
  • 東京女学館2013 たくきよしみつ『3.11後を生きるきみたちへ 福島からのメッセージ』
  • 鴎友学園 2013 山内明美 『こども東北学』
  • 日本女子大2013 鷲田清一『特別授業 3.11 君たちどう生きるか』 

■震災時の行動の一様化をとらえ、個性の発現の重要性を述べた文章

このテーマに関連する出題文と考えられる二つの学校の出題文の要旨を紹介します。

立教新座2012 立花隆「ひこばえ」(『文芸春秋2011年6月号』所収)

幸田文の孫娘青木奈緒は、中越地震直後に山古志村で見た「ひこばえ」(樹木の切り株から新しく生えてくる若芽)が光がさす方に向かって伸びて求めていこうとする姿に若い世代の可能性を重ね、希望を見て、それをつづった文章は感動を誘うものがある。筆者は植物学者から、一見すると新しい個体の芽生えのように見えるひこばえが、実は元の木と同じDNAを持ち、元の木と同一の個体であるということを聞き、性のない生物の思いがけない弱さ(多様性の欠如)に思いをはせる。画一化の方向性は共倒れの危険をはらむ方向性である。国家的危機を乗り越えなければならない時代だからこそ「みんな一緒」を唱えるのではなく、ひとりひとりが「みんなちがう」ひこばえとなっていくことの大切さに気付かされた。

横浜雙葉2013 姜尚中『続・悩む力』

人間は、その人の人生が一度きりしかないという「一回性」と、その人がこの世にたった一人しかいないという「唯一性」のなかで生きているが、市場経済の中で人は代替可能な商品となり唯一性は喪失されている。これは、「直接アクセス型社会」—顔もなく名前もない不特定多数の個人が群衆(マス)の一人として生きる社会—の確立と無縁でない。直接アクセス型社会の中ではマスの均衡を乱すことはタブーであり、みなが同じでなければならないため、人間のかけがえのなさの自覚は困難になってしまう。その弊害は、「3・11」に象徴的に表れており、震災時に見られた横並び感覚の言葉や態度はまさに「唯一無二」の対極にある「マスの均質性」を示している。しかし本当に大切なのは、そのような名もなく顔もない点々のような存在ではなく、かけがえのない命をもち主張をもつ個人である。誰にも代わることのできないあなたにこそ価値があるのだ。

ここに挙げた二つの中学校の問題文には内容上の共通点が見られます。未曾有の災害という危機的状況の中でいっせいに同じスローガンが繰り返されたり、テレビCMの放送枠で同一の映像が流され続けたりするなど、震災時には社会全体に様々なレベルで一様化現象が生じていました。それぞれの筆者は、その一種異様とも感じられる社会の様相を見て、行き過ぎた集団化を懸念するとともに、ひとりひとりが自由にふるまえる社会、個が尊重されることの重要性をいま一度説いているということです。こうしたテーマは、前述の科学観や価値観の変化を述べる文章ほど出題数は多くありません。しかしながら、受験生の年頃の子供たちにとっては、各部の意味をよく考えて丁寧に展開を追わなければ理解されにくいテーマであり、確かな読解力を要するものとして注意が必要です。

■震災によって見えてきた人間の姿ついて述べた文章

災害という日常と大きく異なる状況の中で見えてきた人々の姿や人間存在の本質について述べた内容です。

(関連する出題文の例)

芝浦工大柏2012 毎日新聞2011年5月17日の記事より
女子学院2013  蜂飼耳「涙」(『本の時間 2011年5月号』所収)…津波を経験してなお海と向き合い続ける人間の姿を随想的につづった取材文。とめどなく流れる涙を「海」ととらえるという比喩表現に託し、自らの身体に太古の海を含みこむ人間、自然と一体不可分の存在である人間の本質を象徴的にとらえた文章でした。

以上、文章内容に着眼しながら震災に関連する文章の出題例を大きく三つに分けて見てきました。近年の中学受験生は10歳前後という多感な時期に震災を経験し、震災の記憶をひとつの原体験としながら大人に向け成長していく世代です。著者がそれぞれの眼で震災を見つめた文章に取り組み、自身の体験ともかかわらせながらそれを理解しようとすることで、受験生の皆さんは精神的にも成長を遂げていくことでしょう。言葉を通じて他の人の経験や考えを理解し痛みや癒しなどの感情を共有すること。社会の姿を注意深く見つめ、人間のよりよい生き方を模索しようとする姿勢を持つことは、国語という教科の本質にふれる部分でもあります。同時代的な出来事である震災をめぐる文章からの出題には、学校教育の現場から発される子供たちの未来と復興への願いが垣間見えるように思われます。

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