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駅伝小説が中学入試でよく出題されることをご存知でしょうか。なぜなら、駅伝には、走者同士の心のつながりのメタファーとしての「タスキをつなぐ」という行為、友情、ライバル、約束、挫折、誤解、後悔といった心情などなど、心の成長を描くにはもってこいの要素が満載で、入試問題を作るのに適しているからです。また、駅伝に参加する走者それぞれの物語が描かれるという構成は、中学入試で出題されやすい「連作短編集」のようで、作問する中学校の先生方にとっては格好の題材なのです。そこで今回は、新5年生、新6年生にこの冬休みにぜひ読んでもらいたい駅伝小説を中学受験頻出作家の作品を中心に9冊(駅伝7冊+陸上競技2冊)ご紹介します。
毎年1月2日・3日は箱根駅伝が行われます。その様子はテレビで放映され、もはや日本のお正月の風物詩になっていると言えるでしょう。ご家族で駅伝小説を読んでから、箱根駅伝をテレビ観戦すればお正月の楽しみも増えるのではないでしょうか。
なお、解説に出てくる「中学受験的テーマ」は、先日11月26日に配信しましたメルマガ「中学受験の国語物語文が劇的にわかる7つのテーマ別読解のコツ」で挙げたテーマとなります。
また、以前にメルマガでご紹介したことのある作品は、そのリンクもつけてありますので、ぜひ参考にご覧になってください。
新5年生以上
福岡の高校陸上部を舞台に、駅伝に打ち込む女子高校生たちの姿を描いた作品です。陸上未経験でありながら憧れの少女・瑞希(みずき)の走る姿に魅了された主人公・歩(あゆむ)が、優秀な選手たちが集まる陸上部の中で必死にもがきながら、選手としての実力、他者を想う心を成長させて行く過程が、細部にまでリアリティのある描写でつづられています。
中学受験的テーマは「友人関係」「挫折からの再生」「家族関係」です。歩がかつて憧れであった瑞希と同じ高校の陸上部で出会い、心に傷を負う彼女を助けながら自らも成長して行く姿を読み取ることで、部活ものならではの「友人関係」というテーマを攻略する力が養われます。また「挫折からの再生」の中に先輩後輩の関係の変化という、こちらも部活ものだからこその要素が含まれています。舞台となる北九州市の美しい自然が、登場人物たちの心の移ろいを的確に表している点も特徴的です。文庫版で400ページ強という長い物語ですが、主人公が友人や先輩との心の触れ合いを通して行く姿は、読み手をグイグイと惹きつける力にあふれ、終盤の感動必至の駅伝大会の場面まで一気に読み通すことができます。
品川女子学院中(2017年度)、筑波大附属中(2017年度)
新5年生以上
2012年の発刊以来、多くの学校で出題されてきた、中学入試で出題される駅伝小説の代表格と言える作品です。中学校の駅伝大会に参加するために集まった個性豊かな6人の男子中学生が、練習を重ねる中で互いへの理解を深め合い成長して行く姿が描かれています。区間ごとに走者を主人公とするかたちで章が分かれ、それぞれの章がつながりを持ちながら物語が展開するという連作短編集の構成になっており、主人公となる登場人物たちの心の揺れ動きが各章でじっくりと表されます。ストレートな気持ちが込められた台詞も読み手を惹きつけますが、心の葛藤や迷い、それらを経ての心の成長を表す地の文(会話以外の文)の細やかさが本作品の大きな魅力であり、そこに多くの学校が出題対象としてきた理由があると言えます。
「友人関係」「家族関係」「挫折からの再生」「苦境に向き合う」そして「恋心」と、多くの中学受験的テーマが含まれており、読み進めることで、それぞれのテーマを読み取る力を養成できる、読解の教材としても価値の高い一冊です。
品川女子学院中(2014年度)、淑徳与野中(2014年度)、専修大松戸中(2014年度)、三輪田学園中(2014年度)、市川中(2019年度)、春日部共栄中(2020年度)、昭和学院秀英中(2021年度)
新5年生以上
中学受験の新定番作品である『キャプテンマークと銭湯と』の著者・佐藤いつ子氏による全3巻のシリーズ作品で、各巻で物語が完結する構成になっています。今回ご紹介するシリーズ1作目の本作品では、主人公の走哉(そうや)が小学6年生の時に駅伝と出会ってから、中学校に進学して陸上部に入部するまでの日々が描かれています。駅伝に参加する走者それぞれにスポットを当てるといった内容ではなく、走哉の視点で物語が進行して行きます。特筆すべきは主人公・走哉の心のちょっとした揺れ動きをとらえた表現の数々です。テストで出題対象になる可能性が高く感じられる心情表現が満載で、一冊読み通すことで心情表現への対応力が鍛えられます。
中学受験的テーマは「友人関係」「家族関係」です。自分の感情をストレートに話すことが苦手な主人公・走哉だからこその、共に駅伝に参加する同級生や親友に対する言葉にできない想いが込められた表現を読み取ることがポイントになります。中学受験生の皆さんと同じ年頃の人物が主人公であり、本としてのボリュームも文庫本で200ページとコンパクトで人間関係も複雑ではありませんので、読書が苦手なお子さんにとっても読み進めやすい作品です。
暁星中(2018年度)
※シリーズ2巻目の『駅伝ランナー 2』が、明大中野八王子(2017年度)で出題されています。
新6年生
漫画化、テレビアニメ化、舞台化、そして実写映画化もされた駅伝小説の金字塔として人気を集めている本作品は、箱根駅伝に挑む大学生10名が「走る」ことを通して、時にぶつかり合い、励まし合いながら自分の未来を見据えて成長する姿を描いています。物語の前半で10名個々のキャラクターを浮彫にする描写を重ね、後半の駅伝の場面で、異なる個性が箱根駅伝のゴールというひとつの目標に向けて一気に結集するという構成で、読み手を駅伝の疾走感そのままに引き込んで行きます。三浦しをん氏の作品らしく、登場人物それぞれの個性が際立つ表現にあふれており、そうした表現に触れることで、文章を通して登場人物の個性を具体的にイメージしながら、心情の真意を把握する力が鍛えられます。
「友人関係」「家族関係」「挫折からの再生」「恋心」と、重要な中学受験的テーマが満載です。特にメインとなる登場人物2人(走とハイジ)が過去の挫折から再生して行く姿、その過程で抱く様々な想いを読み取ることが大きなポイントとなります。文庫本で約650ページにもなる長編で、読み取ることが難しい抽象的な心情表現も多くありますが、時間をかけてでもじっくりと読み進めることで、物語文読解で必須となる表現の読解力が養成できると共に、駅伝という競技の素晴らしさも満喫できる、一人でも多くの中学受験生に読んで頂きたい一冊です。
浦和明の星中(2009年度)、光塩女子中(2011年度)、頌栄女子中(2018年度)
新6年生
この作品も数ある駅伝小説の中でも、走ることに向き合う人物の揺れ動く心情表現の精緻さで群を抜く、稀有の傑作です。中学受験物語文の新女王、額賀澪氏が駅伝に臨む高校生たちの姿を描いた物語は、ただ走力を向上させ、仲間たちとの絆を深めるといったシンプルな展開ではなく、大けがを負ったことで駅伝に背を向けている早馬(そうま)という高校3年生の男子が、様々な人物との心の交流を通して、心の奥底にある真の想いに向き合うまでの過程が描かれています。走るのが好きという真っすぐな感情で走る人物ではなく、走ること、負けることの怖さの呪縛にとらわれる人物の揺れ動く心情の描写は、読み手の心に痛みを伴う深い感銘を与えます。
中学受験的テーマは「挫折からの再生」「家族関係」「友人関係」「苦境に向き合う」「恋心」と多岐に渡ります。早馬の大けがの原因が自分にあると悔いる弟の春馬(はるま)、早馬の復帰を心から願う親友の助川(すけがわ)、そして自らも厳しい境遇にある中で早馬に料理を教える都(みやこ)といった人物たちが早馬と気持ちをぶつけ合う場面を通して、それぞれの人間関係が変化して行く過程を読み取ることがポイントになります。額賀澪氏による表現は、ちょっとした表情の変化、細やかに移ろい行く心情を精緻に描き出して行きます。本作品を通して、そうした「表面的な解釈では正しく理解することのできない心情表現」に数多く触れることで、物語文をより一歩深く読み込む力が養われます。
本郷中(2017年度)
新6年生
『タスキメシ』には続編として『タスキメシ 箱根』『タスキメシ 五輪』の2作品があります。シリーズ2作目の本作品は、タイトルの通り箱根駅伝を題材としています。前作の『タスキメシ』にも箱根駅伝の場面は出てきますが、どちらかと言うと駅伝に背を向けた早馬の物語をメインとしている前作に対し、本作品では箱根駅伝そのものがじっくりと描かれています。
『タスキメシ 箱根』は、大学卒業後に管理栄養士として働いていた早馬が、ある大学の駅伝部のスタッフとして部員たちを支え、箱根駅伝に臨むまでの姿を描いた物語です。本作品のみを読んでも十分に楽しめますが、前作を踏まえた人間関係の描写がありますので、前作を読んでから本作品に進む方がより魅力を満喫できるでしょう。
中学受験的テーマは「挫折からの再生」「友人関係」「家族関係」です。メインとなるのは早馬と駅伝部の部長、千早(ちはや)の関係の変化です。練習中にけがをした千早を支える早馬と、それに反発する千早の関係は「親子関係」に近いものがあり、また2人が次第に相手の心情を理解して行く過程は「友人関係」の変化に近いものです。人物の細やかな心情描写に多く触れながら、複数のテーマを読み解く機会が得られます。
また、『風が強く吹いている』と同じく、箱根駅伝の場面がリアリティにあふれていて、まるでその場で走者たちの姿を見ているような感覚になります。本作品や『風が強く吹いている』を読んでから実際の箱根駅伝を見ると、既視感を持って駅伝を楽しめるでしょう。
新6年生
『たまごを持つように』、『鉄のしぶきがはねる』など中学受験でも最頻出作家の一人、まはら三桃氏が都道府県対抗駅伝に参加する7人の走者たちの物語を描いた作品です。設定が都道府県対抗の駅伝のため、7人は同じチームでありながら中学生から社会人までバラバラの経歴で、駅伝に参加するまでは接点がなく、走者同士の関係はほとんど描かれません。その分、各章がそれぞれの走者を主人公として物語を完結させる短編集のような構成になっています。
中学受験的テーマは「挫折からの再生」「家族関係」です。7人それぞれが走りながら自分の過去を振り返り、この駅伝をきっかけに再生して行く過程がつづられています。特に桐朋中で出題された『一区 沢田瞬太』の章で描かれる、目の不自由な母親の言動に不満を抱いていた主人公が母親への理解を深め、成長して行く過程は、家族関係というテーマを学習するうえでの貴重な教材となります。まはら三桃氏の作品ならではの、まるで登場人物が目の前にいるかのようなリアリティのある言動の描写は、時に笑いを誘うもので、楽しみながら心情理解を進められる一冊です。
桐朋中(2017年度)
新5年生以上
駅伝ではありませんが、同じく陸上の団体競技である100メートル×4リレーに挑む4人の男子高校生の姿を描いた作品で、4人それぞれが主役となる4編の作品からなる連作短編集の構成となっています。ライバルや兄に抱く劣等感や、過去の出来事で受けた心の傷を克服することができない焦りといった、中学受験の物語文で多く出題対象となる心情がストレートな表現でつづられています。また顧問の教師・サトセンの言葉が時間を置いて登場人物たちの心に響くといった、部活を題材にした作品ならではの描写も随所に見られます。
中学受験的テーマは「友人関係」「家族関係」「挫折からの再生」です。作品の中で多く出てくる「バトンパス」が登場人物たちの心のつながりが深まって行く過程を暗示しています。相手に対する反感、過去の出来事で受けた心の傷、競技者として優秀な兄に抱く劣等感といった、それぞれに抱える負の感情に押しつぶされそうになっていた4人の高校生たちが、そうした感情に向き合い、周囲の人々の助けを受けながら克服して行くことで、バトンの受け渡しをする相手の心の内にまで想いを寄せるようになる、といった成長の過程を読み取ることがポイントになります。リレーのメンバーそれぞれが成長するだけでなく、チームとしても成熟して行く過程が描かれており、団体陸上競技の醍醐味を味わうことができる作品です。
※2021年度第4回合不合判定テストで出題されました。
☆2021年6月26日配信メルマガ
リレーに挑む高校生たちの葛藤が鮮やかに描かれる青春群像劇!『ヨンケイ!!』天沢夏月(ポプラ社)予想問題付き!
新5年生以上
最後にご紹介する作品も駅伝小説ではありませんが、走ることを通して成長して行く人物たちを描いた、2021年度入試にて栄光学園中、ラ・サール中、浦和明の星中などで出題され大きな話題となった作品です。事故で視力を失った兄の朔(さく)と、その事故の原因が自分にあると責任を感じて、マラソンを辞めてしまった弟の新(あき)が、ブラインドマラソンに取り組む中で心の成長を果たして行く物語です。
中学受験的テーマは「家族関係」「挫折からの再生」「苦境に向き合う」です。兄の失明がきっかけで走ることに背を向けてきた弟の新が、兄への想いを変化させ、走ることの価値を見出して行く過程、事故をきっかけに対立を深めた新と母親の関係が次第に変化して行く過程をいかに正確に読み取るかがポイントになります。特に著者・いとうみく氏の作品は、登場人物たちが厳しい事態に直面する様子、そこで抱かれる負の感情を克明に描く特徴があり、本作品でも読んでいて心が痛む表現が多く見られます。そうした表現に向き合い、負の感情から抜け出して前へ進もうとする人物の心情をしっかりと読み解くことが、心情変化を読み解く力を大きく向上させるきっかけとなります。
ラ・サール中(2021年度)、浦和明の星中(2021年度)、栄光学園中(2021年度)、淑徳与野中(2021年度)
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