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著者の眞島めいり氏は、デビュー作の『みつきの雪』(第50回児童文芸新人賞を受賞)が学習院中等科(2021年度第1回)、吉祥女子中(2021年度第2回)、甲陽学院中(2021年度)などで、2作目の『夏のカルテット』が筑波大附属中(2022年度)、西大和学園中(2022年度県外入試)などで出題されており、まだ著作品が少ないながらも中学入試での注目度が非常に高く、今後間違いなく頻出作家の一人になって行くと考えられます。
本作品は親友と離れ離れになった寂しさ、進路を決められない悩みを抱えた中学3年生の女子が、親友とのすれ違いやわだかまりに苦しみながら心を成長させて行くという、中学受験頻出テーマ「友人関係」の王道とも言えるパターンを描き切った物語です。主人公や友人の揺れ動く心情が、その胸の鼓動までもが伝わってくるような細やかで丁寧な表現でつづられた本作品は、来年度入試で多くの学校が出題対象とする可能性が高く、男子校・女子校に関わらず上位難関校を中心とした出題が予想されます。
≪主な登場人物≫
能瀬ちさと(のせちさと:中学3年生の女子。親友だった貴緒が転校してしまったことの寂しさを強く抱いて過ごしながら、高校受験を控えているのに進路が定まらない悩みも抱えている。)
平貴緒(たいらきお:マイペースで自分の主張を曲げない強さを持つ。絵を描くことが好きで美術部に所属していたが、部の空気が合わず部活動には参加していなかった。ちさとにとって一番の友達であったが、中学2年生の終わりに転校してしまう。)
坂原依理(さかはらより:3年生になってちさとと同じクラスになり、クラスの座席が隣りどうしになった。調理部に所属している。)
福永睦月(ふくながむつき:通称むうこ。2年生のときにちさとと同じクラスだった。坂原依理と同じ調理部に所属している。)
≪あらすじ≫
ちさとと貴緒は中学に入学してから知り合い、やがて互いを親友として感じながら、同じ時間を過ごしてきました。二人の仲が近くなったのは、学校の風習に従わずに長い髪を束ねずにいた貴緒が担任の先生に注意された時に、ちさとが貴緒をかばって先生に反発したことがきっかけでした。ショートヘアのちさとと長い髪をなびかせる貴緒。外見は正反対でも互いに打ち解け合った二人でしたが、中学2年生の終わりに、急に貴緒が引っ越すことになり、別の学校に通うことになってしまいます。ショックを受けたちさとはラインでのやりとりを嫌う貴緒に、手紙を送ることを告げます。それからちさとと貴緒の文通が始まりました。絵を描くことが好きな貴緒は絵を描いた紙の裏にメッセージを記してちさとに送っていましたが、ある時、貴緒から届いた絵にメッセージがなかったことで、二人の関係が変わってしまったのではないかと、ちさとは強い不安にかられてしまいます。
この作品の中学受験的テーマは「友人関係」です。最頻出テーマのひとつである友人関係を扱った作品では、友人に対する誤解を抱いていた主人公が、やがてそれまで知らずいた友人の想いに触れ、友人関係をさらに深め、心の成長を果たして行く姿が描かれるケースが多いのですが、その点で本作品はまさにこのパターンが緻密に描かれた、王道とも言える物語なのです。中学受験生の皆さんにとって共感が得やすく、理解もしやすいテーマですが、本作品では女子中学生ならではの嫉妬や、相手とすれ違うことへの不安といった細やかな心情の揺れ動きが、時に痛々しさを感じるほどに鮮明に表されていて、読みやすい文体でありながら正確に人物たちの心情を読み取るには高度な読解力を必要とします。友人関係という頻出テーマで使われる高難度な表現の読み取り方を習得するうえで、格好の教材と言える作品です。
ちさとが貴緒の住む街を訪れる場面です。久しぶりに会った貴緒の変化に戸惑い、自分との心の距離が離れて行くのではないかと強い不安にかられたちさとが、感情がコントロールできなくなってしまうほどに悩むまでの心情の流れを、細やかな描写から正確に読み取ることがポイントです。
P.75の7行目から8行目に「さらりと明かされる。このごく短い時間に、ふたつめのニュース。まばたき一回で、それを受け止める。」とありますが、ここでのちさとの様子を説明したものとして、最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。
ア.貴緒に関する新しい情報があまりに簡単に告げられるため、驚きを隠せず、内容を理解しようと必死になっている。
イ.気にかけていた貴緒の近況があまりに淡々と明かされ、それが自分の想像していたものと違うことに戸惑っている。
ウ.自分が心配していたことを気にも留めず、勝手に近況を話す貴緒の態度に感じる憤りを、無理に抑えようとしている。
エ.想像していたよりも元気で新たな環境を楽しんでいる貴緒の様子に驚きながらも安心し、ほほえましく思っている。
貴緒に会ってからのちさとの心情の変化を整理してみましょう。
まず、久しぶりに会った貴緒の姿に、ちさとは驚きを隠せませんでした。その時のちさとの様子が、以下のように表現されています。
久しぶりに会う親友が髪型を大きく変えた時の驚きは、小学生のお子様方にも理解できるところでしょう。さらにちさとにとっては、貴緒の長い髪が二人の心の距離を縮めたきっかけであり、ショートカットの自分と正反対であるところが、見た目は異なっても心が通じ合っていることを象徴的に示すものでもあっただけに、その驚きはなおさらであったと言えます。
それでも会話を交わすうちに、以前に貴緒と話していた時の感覚がちさとの中によみがえってきた様子が、以下のように表現されています。
貴緒の様子を細かく示すことで、貴緒を自分にとって大切な存在と想うちさとの心情が如実に表現されています。
貴緒と話している実感をようやく持つことができたちさとでしたが、そこに貴緒が転校先の学校の美術部で活動しているという新たな情報が明かされます。ちさとと同じ学校に通っていたときには部活に参加していなかった貴緒、グループラインを苦手としていた貴緒が、部に入り活動をしているという情報もまた、ちさとにとっては想像もしていなかったものでした。
この直後が問題該当部になります。この時点で、貴緒の近況を聞いたちさとが戸惑っていることは読み取れていますが、選択肢をより正しく区別するために、問題該当部の先まで読み進めてみましょう。
貴緒の近況に驚きと戸惑いを感じながらも、他愛のない会話を交わし、貴緒に連れて行かれたカフェで昼食をとる際には、ちさとも「会話のリズムは完全に三か月前に戻っていた。」(P.79の2行目から3行目)と実感します。
カフェの庭に咲く花を、貴緒も同じく見ていたことを知ったちさとの様子が以下のように表されます。
「嬉しかった」ではなく「満足する」という言葉が使われているところに、貴緒と会って、以前と同じような感覚を味わうことを、ちさとがいかに欲していたか、渇望していたかが読み取れます。
そんな満足感にひたるちさとの気持ちを一変させる出来事が起こります。
携帯電話が鳴っても出ない貴緒にちさとが問いかけてから、二人がやりとりする様子が以下のように表されています。
「喉がざらりとした。」という表現に、今の貴緒にとって自分以上に親しい人物がいるのではないかというちさとの強い不安がにじみ出ています。
見えない相手に嫉妬する程に貴緒への想いが強いこともありますが、貴緒から届いた絵にメッセージがなかったこと、そして何より自分の想像を超えて貴緒の外見、学校生活に変化があったことが、ちさとの不安を一層強めていると読み取ることができます。
そして、貴緒が同じ部の生徒を家に招いていたことを知ったちさとは、ついに強い言葉を貴緒に向けてしまいます。その様子が以下です。
ちさと自身が語るように、新しい学校の同じ部の生徒を家に呼んだだけで強く反応してしまうことは幼稚な嫉妬にも見えますが、ちさとがここまで反応したのには、理由があったのです。
この場面でちさとの言葉遣いが貴緒に訴えかけるような語調に変化していることが、貴緒が自分以外の人間を家に招いたという事実が、ちさとにとって大きな衝撃だったことを物語っています。
そして、この直後に出てくる以下の表現が、ちさとの心情を読み取る上で大きなポイントとなります。
髪型を変え、美術部に入部するといった貴緒の大きな変化を、文通をしていたのに一切知らされていなかった事実に直面しても何とか気持ちが崩れないように保っていたちさとでしたが、自分が許されなかったことを他者にはあっさりとさせてしまうことは、さすがに耐えられないものであったと考えられます。
ここまで読み通したところで選択肢を見てみましょう。まず、貴緒の変化を肯定的に受け止めていることを表す選択肢のエは真っ先に消去しなければなりません。また、選択肢のウですが、貴緒が美術部の生徒を家に招いた後であれば、ちさとが憤りを感じると読み取れますが、問題該当部ではまだちさとは戸惑いこそすれ、憤るまでの強い感情を抱くまでには至っていません。心情の時間的な経過を見誤らないように注意しましょう。残る選択肢のうち、アに表される「驚き」は正しいのですが、驚きだけではこの時点のちさとの様子の説明としては不十分です。より心の揺れ動きを強く表す「戸惑い」にまで触れた選択肢のイが正解となります。
イ
「ぞっとした」という表現の意味するところをいかに説明するかがポイントになります。ちさとが自分の顔を見てぞっとしたのは、直前にある以下の部分がきっかけとなっています。
「いいよ、もう別に。」と明らかに投げやりになっているちさとが、新しくクラスメイトになった坂原さんや、2年生のときに同じクラスだったむうこの名前を挙げていることから、自分には貴緒以外にも友人と呼べる存在がいることを無理に自分に言い聞かせていると読み取ることできます。
そんな自分の顔に「ぞっとした」ということから、その考えが本意ではなかったことがわかります。
自分に嘘をつく程にちさとの心を傷めている想いとは何か。そのヒントとなるのが、問題該当部の直前の以下の表現です。
一方的に思いこんでいた相手はもちろん貴緒のことであり、その貴緒に裏切られたために投げやりになり、ちさとが心にもないことを考えてしまったのだとわかります。非常に重要な表現ですので、この部分を★として、≪予想問題1≫で確認したところから、この★の部分に至るまでのちさとの心情の流れを整理してみましょう。
ちさとの強い語気で放たれた言葉を受けた貴緒は謝罪をします。そこでのちさとの心情が以下のように表されています。
思わず口をついて出た言葉が貴緒を追い込んでしまったことに戸惑うちさとの様子が表されています。自分でもコントロールできない感情に振り回されて戸惑うという、物語文で頻出の人物の姿がここに見られます。
その後も二人は食事を続け、他愛のない会話を交わします。この様子をちさとは以下のように語ります。
「思わなくちゃいけなかった」というところに、まだ素直に相手に謝意を抱くことができず、わだかまりを感じているちさとの様子が見て取れます。
そしてちさとが帰る際に、駅まで貴緒が見送りにくるのですが、そこでちさとは自動改札にエラーが起こることを望みます。
その理由が以下のように語られます。
自分の力ではわだかまりを解消することができず、自動改札にそのきっかけを作って欲しいと妄想するちさとでしたが、実際には何も起こらず、貴緒の姿も見えなくなります。
ひとりホームに立つちさとは「自分が冷静なのか、めちゃくちゃに動揺しているのか、いまいちよくわからない」(P.84の10行目から12行目)と、強い疲れを感じますが、それでも心の内では以下のように貴緒のことを気遣っています。
まるでわが子をいたわる母親のような描写ですが、それほどまでにちさとにとって貴緒が大事な存在であることが表されています。
それでいながら、貴緒の変化を受け止められないちさとは、髪を切ったのも、家に招待した生徒に言われたからではないかと疑いを持ちます。
さらには、絵に添えるメッセージがなかったことについて、「手紙を入れ忘れた」とする貴緒の説明にも疑いの目を向けるちさとは、以下のように想いを吐露します。
貴緒の体を気遣った直後に、貴緒への疑いに支配された想いを吐露する、まるでジェットコースターのように激しく揺れるちさとの心情ですが、その底に深く根付いていたのは以下のような想いだったのです。
そんな想いを胸に、いざ貴緒に会ったところ、想像とは全く異なる貴緒の姿があった。そのことに驚き、戸惑ったちさとが抱いた想いが、★の部分の「裏切られた」だったのです。
自分の想いが一方的なもので、貴緒に裏切られたと感じたちさとは、貴緒にとって自分がもはや親友ではないように、自分にも貴緒以外に大事な存在がいると思いこもうとしますが、そう考える自分の顔を見てぞっとしたように、それが本心ではないこと、貴緒が自分にとってかけがえのない存在であることを思い知ったと考えられるのです。
解答をつくる際には、ちさとが「ぞっとした」ことを読み取れていることを示すためにも、貴緒の存在の大きさを知ったことがちさとにとって「喜び」であるとまで言い過ぎないように気をつけましょう。貴緒へのわだかまりが払拭できていないちさとが、この時点で喜びを感じてしまうのは違和感があり、「ぞっとした」という表現とも合致しません。ちさとの心が揺れ動いていることをしっかりと説明するように注意してください。
貴緒への想いが裏切られたと思い、貴緒が新たな人間関係を築くように、自分にも貴緒以外に大切な存在がいると考えようとしたものの、それが本心ではないことに気づき、貴緒を大切に思いながらその気持ちを無理に打ち消そうとした自分の姿に動揺している。(118字)
この場面では電車の窓が「鏡」となって、ちさとが自分の本心に気づくきっかけとして使われていますが、このように鏡が人物の本心を映し出す役割を果たすものとして使われるケースが入試問題の物語文で度々見られます。その代表格が、2008年度に麻布中が出題した『循環バス』(安東みきえ『夕暮れのマグノリア』に収録)を出典とした問題です。良問ぞろいと言われる麻布の物語文の中でも、ほれぼれするほどに問題構成が巧妙で美しい逸品ですので、機会がありましたらぜひご覧になってみてください。
【中学受験的テーマ】のコーナーでも記しました通り、「友人関係」をテーマとした作品では、主人公が友人に対して誤解を抱くなどといったかたちで関係が悪化し、その後に相手が抱える事情や真の姿を知ることでわだかまりが解消され、その過程を通してそれぞれが心を成長させるというパターンが多く見られます。本作品では、今回ご紹介しました第4章『雨の街で』が、ちさとと貴緒との間に生まれたわだかまりが一気に深まってしまう部分にあたります。その後、第8章『約束』で二人は再び直接会うのですが、ここでちさとは貴緒の隠されていた過去、ちさとに対する本当の想いを知らされます。そして続く第9章『わたしだから』の後半で、ちさとの心情は大きな変化を見せます(大学図書館の場面は涙腺が破壊してしまう屈指の名場面です)。この2つの章を通して描かれる、貴緒との関係の変化の中でもがきながら新たな一歩を踏み出して行くちさとの姿には、「友人関係」のテーマの定番パターンが克明に示されています。定番ではありますが、登場人物が中学3年生の女子という、子供ではなく大人にもなり切れない、自分でもコントロールできない心の揺れ動きに感情を支配されてしまいがちな年代にあるため、その心情の細やかな変化の読み取りは難度が高くなります。そんな高難度の心情の変化が、細やかで丁寧な筆致で描かれている本作品は、一冊を読み通すことで友人関係をじっくりと学ぶことができる極上のテキストと言えます。全190ページとボリュームも抑えめですので、6年生はもちろん5年生のお子様方にもぜひ読んで頂きたい作品です。
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