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amazon『魔法竜(マジックドラゴン)の由来』川端裕人(『飛ぶ教室 第76号・2024年冬』収録)(光村図書)
亡き祖父が残した宝物の持つ由来を追うわたしの姿を通して、祖父・娘・孫と三世代にわたる愛情の深いつながりが描かれた短編物語です。著者の川端裕人氏は、『今ここにいるぼくらは』が慶應義塾湘南藤沢(2006年度)、早稲田中(2010年度第2回)、鷗友学園女子中(2010年度第1回)、暁星中(2007年度)、頴明館中(2018年度)など多くの学校で、『川の名前』が海城中(2005年度第2回)、栄東中(2013年度東大選抜)などで出題されました。さらに、物語文ではありませんが、『科学の最前線を切りひらく!』が湘南白百合学園中(2022年度)で出題されています。
また、本編を収録する雑誌『飛ぶ教室』に収録された短編は過去より何度も中学受験の物語文出典となって来ており、近年でも深緑野分「緑の子どもたち」(『第50号・2017年夏』収録)が麻布中(2018年度)で、石井睦美「連帯のメールをおくる」(『復刊特別号・2005年春』収録)が豊島岡女子中(2019年度第1回)で、戸森しるこ「ココロノナカノノノ」(『第67号・2021年秋』より連載)が洗足学園中(2023年度第1回)、香蘭女学校中(2023年度第1回)で出題されています。そして、川端裕人氏による「そらにむかう」(『第47号・2016年秋』収録)が横浜共立学園中(2018年度B方式)で出題されました。
『飛ぶ教室』に収録され、入試頻出の物語を著わしてきた作家による作品であるため、本短編も来年度入試で注目を集める可能性が高いです。劇的な出来事や、感情がぶつかり合う様子が描かれることがなく、淡々とした語り口で展開する物語の中で、象徴的に登場する物が表す意味を読み取り、そこから家族間の深い愛情をくみ取るといった高い読解力が求められるため、特に上位難関女子校での出題が予想されます。
≪あらすじ≫
亡くなった祖父の形見として、祖父が生前に集めた「宝物」をもらいうけた「わたし」は、その中に含まれていた、「竜の卵」と名付けられた石、「コード」という紐(ひも)、そして「ジョニー 魔法竜」と名付けられた、鳥を思わせる生き物の形をした樹脂で塗り固められた黒い塊の3つについて、その由来を調べ始めます。ひとつひとつの宝物の持つ意味を知ることで、わたしはそこに込められた祖父の思いを知って行くのです。
※テーマについては、メルマガ「中学受験の国語物語文が劇的にわかる7つのテーマ別読解のコツ」で詳しく説明していますので、ぜひご覧になりながら読み進めてください。
この短編の中学受験的テーマは「家族関係」です。特に本短編の祖父のように、主人公の祖父母が重要な役割を果たす物語では、複数の家族関係が混在しますので、しっかり整理しながら読み進めましょう。
同じ家族関係でも、「親子関係」では親に反発する子どもが、家族の思いを知り、自分が家族に支えられていることを認識して、心を成長させるといったパターンが典型的ですが、祖父母と孫の関係の場合、反発というよりも「接しづらさ」からスタートして関係が変化する過程が描かれることが多く、その典型例が、2009年に桜蔭中、駒場東邦中で出題された橋本紡『永代橋』(『橋をめぐる』に収録)です。また、祖父母が間に入って親子関係を修復させるといった影の立役者として祖父母が描かれるケースもあります。
本短編では、亡くなった祖父を深く愛するわたしの心情よりも、祖父と母の親子関係の変化を的確に読み取ることがポイントとなります。母の心境の変化を詳しく整理しながら読み進めましょう。
また、本年4月7日配信メルマガ『新重要テーマ「多文化共生」を含む、読解力を養成するエッセンス満載の一冊!『オランジェット・ダイアリー』黒川裕子 予想問題付き!』でもご説明しました「象徴的存在(一見関係がないと思われるが、実は登場人物の心情・人間関係などを象徴的に表しているもの)」が本短編でも登場します。主人公のわたしがそれらの存在の由来を明かすことが物語のメインとなっていますので、主人公の言葉を追いながら、象徴的存在の意味するところを確実に読み取って行きましょう。
短編『魔法竜(マジックドラゴン)の由来』の全編を出題対象とします。3つの宝物に込められた祖父の思いをわたしがどのように知って行くのか、そして全てが明らかになった時に母の心境の変化がわたしの目にどのように映ったのかを、正確に読み取ることがポイントです。
わたしがその由来を調べた3つの宝物のうちのひとつ、「竜の卵」が持つ意味について答える問題です。この存在に祖父のどのような思いが込められているのか、逃さず読み取って行きましょう。
「竜の卵」以外の2つ、「ジョニー 魔法竜」という黒い塊と、「コード」と名付けられた紐については、この後の≪予想問題2≫で触れますが、わたしの言葉を通して、説明がなされていますので、その意味が理解しやすくなっています。この「竜の卵」の意味だけがはっきりとした説明がありませんので、文中の表現から読み取って行かなければなりません。
この「竜の卵」ですが、わたしのクラスメイトで恐竜に詳しい「恐竜博士」によって、その正体が「ノジュール」という物質であると判明されます。恐竜博士によるノジュールにつての説明の中にある以下の表現が解答のポイントのひとつとなります。
さらに、恐竜博士の知り合いの石材屋さんが、「竜の卵」を切断した際に発した以下の言葉が、恐竜博士の言葉と連動します。
この2つの言葉からは、ノジュールが死んでしまった生き物を核として、また新たな生き物の形として成長するものであることが示されています。このことから、祖父が持っていた「竜の卵」には「時代を超えて受け継いで行くもの」という意味が込められていると読み取ることができます。
それでは、受け継がれて行くものとは、ここではどんな内容を指すのでしょうか。そのヒントとなるのが、わたしと母のやりとりです。祖父が残した物の価値を母に伝えようとするわたしは、以下の言葉を発します。
それに対して母が返した言葉が以下です。
開闢とは「天地のはじめ(Oxford Languageより)」という意味です。母がそっくりとする、わたしと祖父の言葉に共通する内容は、「形あるものにはすべて宇宙のはじまり以来の歴史、意味があるのだから、大切に引き継いで行くべきである」ということと考えられます。
母の言葉を聞いたわたしは、以下のような思いに至ります。
ここでわたしの言う「幼い頃」とは、祖父と過ごした時間、祖父から物語を聞かせてもらっていた時間を指します。こうして見てくると、「竜の卵」に託された意味とは、ただの「時代を超えて受け継いで行くもの」といった内容ではなく、「すべての形あるものには宇宙開闢以来の歴史がある」という考えを、自分が亡くなっても受け継いで行って欲しいという祖父の強い願いが込められていると考えることができるでしょう。「竜の卵」をもらいうけたわたしが、祖父と同じ意味合いの言葉を発したところに、その願いが確かに受け継がれたことが表されています。
おとぎ話のような設定の中で、ともすれば見逃してしまいそうな思いの伝承を見逃さないためには、恐竜博士と石材屋さんの言葉の共通点、そしてわたしと祖父の言葉の重なりによって強調される内容をしっかり読み取るようにしましょう。
すべての形あるものには宇宙開闢以来の歴史があるため、縁あるものは大切にするべきという考えを、時代を超えて受け継いで欲しいという祖父の願いが込められている。(77字)
P.34の上段23行目から24行目に「ちょっと遠くを見る目をして、顔をそらした。」とありますが、このときの母の様子について説明したものとして、最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。
ア.大事なへその緒を実家に置いたままであったことが判明して、気恥ずかしさからわたしと目を合わせられないでいる。
イ.一緒の時間を過ごそうとしない祖父に反抗的な態度をとり続け、祖父との関係を悪化させたことを深く後悔している。
ウ.祖父からの愛情を感じられなかったことに不満を抱いていたが、祖父の死に直面して深い悲しみに耐えられないでいる。
エ.家庭をかえりみないと思っていた祖父が自分にも深い愛情を注いでいたことに気づき、祖父の思いをかみしめている。
まず、問題該当部に至るまでの、母の祖父に対する思いを整理しましょう。母とわたしの会話の中で随所に、母の祖父に対する不満が見られます。祖父が残した「ジョニー 魔法竜」を見た時の母の反応は以下のようなものでした。
母がこうした態度をとる理由について、わたしは以下のように触れています。
わたしが「竜の卵」の由来を解き明かした際に、母はその美しさに「一瞬息を呑んだ」(P.29下段の23行目から24行目)ものの、すぐに以下のように言い放ちます。
祖父の残した「宝物」の由来を解き明かす目的として、以下のような思いを抱くわたしの姿が母と対照的に表されています。
母はなぜこれほどまでに祖父の残したものに無関心で、むしろ嫌悪感と言える感情を抱いているのか。その理由が以下の母の言葉からわかります。
「長い間、船に乗る仕事をしていて、世界中を旅してきた人」(P.26上段の14行目から15行目)であった祖父が家を留守にしていることが多く、また自分に愛情を注いできてくれなかったことに母が寂しさを感じ、不満を抱いていたことが読み取れます。
母がものに執着せず、余分なものを家に置かないようになった理由について、母自身が以下のように語っています。
反面教師とするほどに、祖父へ反発する気持ちを抱いていた母でしたが、その心境に変化が生まれたのは、「宝物」の中のひとつ、「コード」と名付けられた紐を見た時でした。そこで、母はこれまでとは異なる以下のような反応を示します。
「コード」の正体は、わたしのへその緒だったのです。自分が実家に置いたままにしておいたへその緒を、祖父が大事に持っていたことを母は知ります。
そしてわたしは、自分が切迫早産で小さく生まれ、黄疸も出ていたことから、生まれてしばらくは保育器に入っていたこと、それを心配した祖父が毎日病院に来ていたことを母から知らされ、それをきっかけとして「ジョニー 魔法竜」の由来に行き着きます。
祖父が日本にジョニーを連れて帰ったこと、そんな魔法竜ジョニーが、「保育器の中のわたしとまだ入院が続いていた母を守るために」、自分の最後の魔法の力を使ったことを思い浮かべたわたしは、ジョニーの由来を以下のように語ります。
このことをわたしが告げた後の、わたしの問いかけと母の反応を表した部分が、問題該当部を含む、以下となります。
それまでは、わたしが祖父の残したものを処分しないことをとがめていた母が、この場面では何も言葉を発さず「遠くを見る目」をしています。この「遠くを見る目」はその状況によって様々な意味を有する表現ですので、この部分だけで母の心情を読み取るのではなく、さらに先まで読み進めてみましょう。
その日の就寝前に、わたしは祖父が残した大量の写真をパソコンで見つめる母の姿を目にします。それらの中には、海や港町の写真に混じって、家族写真や、保育器に顔を寄せる母の姿を映した写真が含まれていたのです。写真を見る母の様子が、以下のように表されています。
この表現から、母が祖父との思い出を写真を通して振り返り、わたしの存在に気づかないほどに深い思いに入り込んでいることが読み取れます。その深い思いとはどのようなものなのか。それがこの問題を解くポイントとなります。
母は祖父がへその緒を大事に持っていたことから、祖父への感情に変化を見せます。へその緒とは、孫であるわたし、娘である母をつないでいたものであり、それを離さずにいた祖父の愛情は孫に対してだけではなく、母である自分にも向けられていたと母は考えたのでしょう。
そこで、わたしが語るジョニーの由来を聞いたことで、祖父が何とかして自分と娘を守りたいと願っていたことに気づかされます。そして、祖父の残した写真の中に、保育器に顔を寄せる自分の写真が含まれていたことから、祖父の深い愛情を感じとったと考えられます。
幼い頃から一緒に過ごす時間が少なく、家庭をかえりみないと思っていた祖父が、孫だけでなく、自分を含めた家族に対して深い愛情を抱いていたことを知り、祖父への思いをかみしめている母の姿が表されていると読み取ることができるのです。
ここで選択肢を見てみると、まずアについて、へその緒を見た直後の、「本人もちょっとバツが悪そうに、苦笑いした。」(P.34上段の3行目)という表現に引きずられると「気恥ずかしさ」を選んでしまいますが、それから時間が経って問題該当部で見せる母の姿とは一致しませんので、当てはまりません。選択肢イの「反抗的な態度をとり続けていた」について、祖父への不満を抱いていたことは明らかですが、それを反抗的な態度として見せていた記述は文章中には見られず、むしろ「毎日、一緒にごはんを食べられた方がよかったな。」という表現からも、母の寂しさの方が強く感じられるため、選択肢イも不適切となります。注意すべきは選択肢のウです。祖父の死を受けて、母が悲しみを感じていないとはもちろん言えませんが、問題該当部の場面で、母が「悲しみに耐えられないでいる」と言い切れるほどの材料が、文章中に見られないのです。身近な人物の死が描かれた際には、必ず悲しみが表現されるという先入観で臨んでしまうと間違った判断をしてしまいます。死に際しては、悲しみだけでなく、喪失感や悔恨、そして故人との思い出に身を委ねるといった様々な受け止め方が描かれることを念頭に置いておきましょう。ここでは、写真を見る母の姿から、悲しみよりも強く、祖父との思い出を振り返り、祖父からの愛情をかみしめていると考える方が妥当となり、選択肢エが正解となるのです。
この物語で描かれる祖父母と両親の関係は、中学受験の物語文で描かれる頻度が高く、その多くで今回のような祖父母に反発する親の姿がクローズアップされます。子どもから見ると、どちらも大人ですが、祖父母と親も親子関係にあり、そこには他の対人関係では見られない歴史と思いの深さが存在します。家族関係の中でも重要にして読み取りづらい、祖父母と親の関係について、今後も問題で接することがあった場合には、注意して臨んでください。
エ
本短編の魅力として、美しい言葉遣いの数々が見られる点が挙げられます。ただ美しいのではなく、中学受験の物語文で多く使われる言葉で、かつその意味を正確に把握することが必須とされる、いわば重要語が多く散見されるのです。例えば「あからさまに肩を落とした」(P.28の上段18行目)、「ふふん、というふうに鼻を鳴らした」(P.30の上段1行目)、「はっきりと形が見えないもどかしさ」(P.31の上段3行目)、などなど。慣用句を含め、数々の重要語が物語の大事なところで出てきます。これらの言葉は、テストでその意味を答えさせる問題の対象となるだけでなく、その意味がわからなければ、人物の心情や、その場面の状況が読み取れず、結果として正答率が下がってしまうという点でも重要なのです。語彙を豊富に持ち得ていれば、物語の展開、心情の変化といった出題対象となるポイントを圧倒的に理解しやすくなります。語彙を増やすには、テキストを使うことももちろん効果はありますが、やはり文章を読み、その意味を確かめながら覚えて行く方が、イメージがしやすく、記憶も定着します。その点で本短編は読みやすく、作品の世界にも没入しやすい内容であり、物語の世界観を味わいながら、語彙を増やすことができるという秀逸な教材です。ボリューム感もなく、謎解きのようなファンタジー的要素を含んだ読みやすい短編ですが、家族間の深い心情が表された、極めて重要な作品です。6年生はもちろん、5年生の皆さんにもぜひ読んで頂きたい傑作です。
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